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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十四章 ルル・イファン人民共和国の誕生

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リーガンハット諸島での戦い  その3

「思った通りだ……」

先行する雑草号の動きを見てリネット・パンドグラ少佐はほくそ笑む。

確かに一般の貨物船よりも速力はあるものの、脅威と呼べる程度ではない。

実際、装甲巡洋艦リッチンパド・リンハーナでも十分に余裕で追撃できる速力だ。

多分、一気に距離を詰めることも可能なのではないだろうか。

それに舵の効きもそれほどでもないようだ。

あのゆったりした動きを見ればわかるし、何より貨物船にそれほど鋭敏な動きは求められていない。

確かにルル・イファンのファンカーリル港に入港された事は事実だ。

だが、それはあの船の船長と乗組員の熟練度のおかげであり、船の性能とは考えにくかった。

恐らく一気に距離を詰めても前の時のようにうまくいなされてしまうに違いない。

それに、連中の火力は侮れない。

僚艦が一撃で撃沈されているのだから……。

後、こちら側の砲撃の命中率が低いのも問題だ。

練度が低いのも問題だが、砲塔の回転速度や砲身の動きが遅いのもそれに拍車をかけている。

やはり訓練を増やす必要があるか……。

そんなことを思いつつ、少佐は海図を見てある作戦を思いつく。

これならば、いくら命中率が低かろうが、当たるだろう。

「いいかっ、敵をリーガンハット諸島の北部の一番大きな島辺りまで追い立てるぞ。当たらなくても文句は言わんがうまくやれよ」

「何をされるので?」

副長が怪訝そうな顔で聞いてくる。

その言葉に、少佐は得意顔でニタリと笑った。

海図を指さしつつ口を開く。

「この北側の大きな島の左側に敵を追い込み、我々は島影に入り最大戦力で右側に回り込んで島影から出てきた敵と並走、あるいは頭を抑え込んで一気に砲撃を仕掛ける」

「ふむふむ……。そうすれば前後の主砲だけでなく、左側面の副砲も使えますな」

感心したように頷きつつそう答える副官に、少佐は説明を続ける。

「そういうことだ。確かに敵の火力は驚異的だが、それだけだ。島影から出て一気にたたみかければ、所詮は貨物船だ。その装甲はたかが知れているから反撃する暇も与えず一方的に蹂躙出来るだろう」

「なるほど……。なら……」

「おう。当面は敵を油断させる為、このまま付かず離れずで一定の距離を保ちつつ砲撃で目的の場所まで誘導するぞ」

「目的の場所までなら、この速力だと二時間といったところでしょうか」

少佐は副長の言葉に頷く。

「ああ、各自気を許すなよ。二時間後に一気に仕掛けるからな」

その少佐の言葉に艦橋の乗組員達は一斉に返事を返す。

練度はともかく、装甲巡洋艦リッチンパド・リンハーナの士気は今までになく高くなっていた。



「連中、距離を詰めてきませんね」

副長の言葉に、雑草号船長は腕を組んで考え込んでいるような表情を浮かべて返事を返す。

「ああ。あの装甲巡洋艦の型ならもっと速力が出るはずだ。それに砲撃も散漫で、当てる気がないように見える」

「ええ。それは私も思いました。何か狙っているのではないでしょうか」

実際、今の雑草号の砲撃回避は観測員の報告を聞き、操舵手が自分の判断で回避行動を行っていた。

「敵艦、発砲」

「軸線ずらせーーっ」

船長と副長の会話の間もそれらのやり取りが船橋の中に響いている。

その動きはゆったりとしたもので、雑草号の本来の動きをする必要性はない程度で十分的確に回避できるものであった。

そんな中、副長と会話をしながら思考していた船長であったが、目の前にあるテーブルに固定されている海図に視線を落とす。

「ふむ……」

数分の思考の後、船長は呟くように言う。

「仕掛けてくるならば、このあたりか……」

右手の人差し指の先でトントンと海図のある場所を叩く。

「どのあたりですか?」

副長がそう言いつつ海図をのぞき込む。

その示す先にあるのは、リーガンハット諸島の北部の一番大きな島辺りだ。

人が住んでいないため、島の名前と言ったものは記載されていない。

「俺なら、この島の左側に相手を追い込んだ後、最大戦力で反対側に回り込んで頭を押さえるな」

「なるほど……。それに頭を押さえられなくても並走できれば、最大火力で攻撃を仕掛けられますな」

「ああ、それに追いかけられる側は、後方ばかりに気がいっているだろうから反応に遅れる。その間に叩き込めば一気に勝負がつくだろう」

「確かに……。それなら今の現状がこんなのもわかりますな。連中、こっちを油断させたいんでしょう。これぐらいしか速力は出ないと……」

「ああ、恐らくはそう言った狙いもあるんだろうな。油断させておいて、一気にがぶりってな」

その船長の物言いに副長は苦笑した。

「おお、怖い、怖いっ」

そうおどけて言い返した後、真剣な表情で聞き返す。

「それでもしそう仕掛けてきたらどうやって対処するんです?」

「ふふふ。手はある」

船長はそういうと副長にニタリと笑い返したのであった。



追いかけっこが始まって実に二時間以上が経とうとしていた。

「間もなく仕掛ける場所に入ります」

副長の言葉に、少佐はニタリと笑った。

今のところは順調だ。

敵の貨物船は下手な動きもせず、ただ逃げている。

時折、若干速力を上げたり、島影に入って撒こうとしたりといった動きはあったが……。

「よし。左側面の副砲と後方主砲を左側に向けつつ準備を始めろ。島影から出たら一気に畳みかけるからな。故障や不調は許さんっ」

「了解しました」

今の命令を受け、左側面の副砲の辺りが騒がしくなる。

そして、後方主砲も左を向くために旋回を開始しゆっくりと動き始めた。

「さぁ、これで追いかけっこは終わりだ」

宣言するかのように少佐はそう言うと前方の雑草号を見て顔を歪めた。

実に楽しくて仕方ない。

そんな表情を顔で描きながら……。

そしてついに目の前に目的の島影が見える。

かなり細長い島だ。

その島の左側にはまた別の島影があり、大きく左側に進むことは出来ない。

つまり、島と島の間を直進して突破するしかないのだ。

「よしっ。島の左側に追い込めっ」

砲撃が始まり、雑草号は狙った場所に回避していく。

そして、島影に入り、雑草号数見えなくなった瞬間に、少佐は命令を下した。

「今だ。島の右側に入り込めっ。そして最大戦力だ」

「おもぉぉかぁじっ。速力、最大戦速っっ」

装甲巡洋艦リッチンパド・リンハーナはまるで跳ねるかのように大きく艦首を浮き上げるとそのまま海面を切り裂くかのように沈み込むと白波を立てて突き進みその速力で一気に島の右側を回り込んでいく。

艦体が何度も大きく縦に揺れたが、少佐には艦が躍動し、これから敵を葬ることに興奮しているかのように感じられた。

「さぁ、出てこいっ。たっぷりと砲弾をごちそうしてやるからな」

だが、いつまでたっても島影から雑草号は現れない。

思ったよりもこっちの速力の方が早かったのか?

ならば頭を抑え込み、一気に攻撃するのみだ。

そう考えて艦を進めるもそれでも船影は見えない。

何かがおかしい……。

そう思った瞬間だった。

風切り音が響き、艦の周りに水柱がいくつも立つ。

「ど、どうしたっ」

少佐の声に、監視員の一人が叫ぶ。

「本艦後方に……目標がっ……」

「なんだと?!そんな馬鹿なっ……」

少佐は信じられないといった顔で叫ぶ。

しかし、それにこたえるかのように、艦の周りに新しい水柱が立った。

「くそっ」

舌打ちすると少佐は走って艦橋の後方のドアを開けた。

艦の後方を見るために……。

そして見えた視線の先には、側面を見せるように突き進む雑草号の姿があり、前後に搭載されている砲がこちらを向き、砲撃をしていたのである。

それはまるで少佐が頭を押さえて砲撃するために考えていたTの字を、くるりとひっくり返したかのような位置関係になっていた。

「ど、どうなっているんだ?!」

「わ、わかりませんっ」

「と、ともかく、は、反撃だっ。後部砲塔を回せっ」

「り、了解しましたっ」

少佐の命令を受けて左側を向いていた後部砲塔がゆっくりと旋回していく。

だが、その間にも雑草号の砲撃は続き、命中こそないものの至近弾で出来た水柱の海水が装甲巡洋艦リッチンパド・リンハーナに降り注ぐ。

艦内でいくつもの悲鳴や叫びが響き、至近弾よってより混乱に拍車をかけていく。

それはまさに追い込むはずの狩人が、獲物に反撃されて反対に追い込まれてしまったといった構図にほかならなかった。

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