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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三章 二つの世界の間で

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勝利の宴 ある人物の視点から その2

酒が入ると必ずでる話題がある。

それは愚痴や上司の悪口や品評だ。

あの上司はいいとか悪いだけではない。

上司の細かな査定までして楽しむ輩もいるらしい。

まぁ、私らも飲みに行く時、あの指揮官駄目だとか、点数つけたりしたなぁ…と思い出しながら彼らの話を聞いてたりする。

これがなかなか面白い。

彼らは陸戦隊だから、艦隊勤務の人とは違う悩みや愚痴があるので実に多彩だ。

うんうん。参加してよかったーっ。

そんな事を思って横を向くと、話を聞きつつ独り黙々と飲む的場大尉の姿があった。

もともとパーッと騒がないタイプのようで、なんか独り居酒屋や焼き鳥屋で渋く飲んでいるイメージが重なる。

もっとも、見た目がスマートというか渋いというかそういう部類に入らないので、残念ではあるが…。

そして彼らの愚痴や上司品評は、ついに最高司令長官の事になっていた。

「しかし、なんだよなぁ…。あの司令官は…。軍人らしくないというか…なんといったらいい?」

「うーん、お役所の人間とも違うし、商売やってる商人って感じもしないし…そうだな…あえていうなら一般人?」

「はははははっ。それは言える。なんかボーっとしている感じだよな。昼行灯っていう感じか?」

「まぁ、見てくれは良くもなく悪くもないって感じか…。だがなぁ…」

「そうだよなぁ…。やってる事がなぁ…」

そこで的場大尉以外の人たちがため息を吐き出す。

ちなみに、杵島大尉妹と杵島大尉のお母さんは厨房でツマミを作ったり料理やお酒を運んだりとさっきから忙しそうに働いていて話に入ってきていない。

すると今まで黙って聞いていた的場大意が始めて口を挟む。

「やってる事が駄目ってことか?」

「おう。そうよ。確かに海軍を地区から国家組織に拡大させた手腕は認めるさ。しかしなぁ…」

「実はな、各地区の防衛軍の育成の為に、第三旅団、第二旅団を解散し、教育隊として各地区に派遣するって言う話が出てんだよ」

「今ある戦力を減らしてまでやる必要があるのかそれ、って感じてんだよ、俺達は…」

「そうそう。南と北に地方基地が新しくできるってことは、そこにも兵を派遣しなきゃ駄目って事だろう?なのに、こっちには何の利益にもならない新しい組織の為に、現状の戦力を削ってやる事か?」

「きちんと地区基地を維持できればいいんだから、北と南にそれぞれ一旅団派遣すれば、陸軍なんて必要ねぇよ」

「そうだぜ。対抗組織を育ててどうするよ?」

みんな思い思いの事を喋っているが、長官の方針に賛成の人は誰もいない。

うーーん。生みの親である長官の事を弁護すべきだとは思うが、何を言っていいのかわからない。

なんかすごく悔しい…。

私がそう思っていると、みんなの言葉を頷いて聞いていた的場大尉が「あくまでも俺の考えだけどいいか?」と口を開いた。

そして、全員が頷くのを確認すると言葉を続ける。

「今回の防衛隊…まぁ、陸専用の別組織を作ることに関しては、長い目で見ればプラスの方が多いと思ったんだと思う」

「ほほう…。面白そうな酒のツマミだな。いいぜ、話してくれよ」

杵島大尉が楽しそうに相槌を打ってくる。

他のメンバーも興味津々だ。

「プラスの面としては、海軍のみが強い力を持つ事を恐れる連中の追求を逃れる為。また、その地区の志願兵で編成された部隊の方が、自分の故郷を守るという思いが強い分、士気が高い状態を維持しやすいという点だ」

「確かに、それは間違いなくあるな。俺らだって、マシナガ地区を守るためだったら、必死になるからな」

頷きながら杵島大尉の部下の一人である江戸川が肯定する。

「あとは軍事関係の予算の一部を地区に任せる事ができるってことかな。軍事力ってのは金食い虫だ。特に人の維持ってのはべらぼうに金がかかる」

「そうだな。それはあるな…。無償で防衛なんてのは無理だな」

第一旅団長の羽場が納得したように頷く。

「しかしよ、将来的には海軍とは違う組織になってしまうんだろう?対立関係とかになってしまったら、どうしょうもないんじゃないのか?協力できない味方は、ある意味、邪魔以上のめんどうな存在になっちまうぞ」

しかし、この問いに的場大尉は笑いつつ答える。

「その為に、今ある部隊の一部を一旦解散させてでも教育隊を派遣するんじゃないか」

「それって…」

「自立するまではこっちが主導権を握れるんだ。その間に徹底的に教育しておけばいいじゃないか。そんな事を考えないようにさ…。そして、それが出来ると思ったから、いったん部隊を解散してでもやろうとしてんじゃないか?」

全員が黙り込み、しばしの沈黙の後で杵島大尉が笑う。

「なるほど、なるほど。弟子を鍛える時、師匠は師匠に勝てないと思い込ませるために徹底的に弟子をしごいて反骨精神を潰すって話があるが、それと同じって事か」

杵島大尉の極端な言葉に、的場大尉は苦笑する。

「いや、そこまで極端じゃないんだが…。あくまでも友好的な関係を継続できるような指導をしていけば、そのリスクはかなり軽減されるって事で…」

「よせやい。似たようなもんだろうが」

杵島大尉の言葉に、その場にいた全員が爆笑する。

「さすがは隊長だっ。ぶれねぇ…」

「ますます惚れましたよ、隊長」

「お前が教育隊に呼ばれない意味がよくわかったよ」

そして、止めは、料理を運んできた杵島大尉妹の言葉。

「やっぱり、お兄ちゃんは、脳筋よねぇ…」

ため息を吐き出し、苦笑気味にそう言われて杵島大尉が慌てて言う。

「な、何言ってやがるっ。男は筋肉だろうがっ」

「あのね…お兄ちゃん。女性の全員が全員、男の人は筋肉って思っているわけじゃないの。どっちかというと筋肉よりも見た目重視の人が多いかな…」

「なら、お前の好みはなんなんだよっ。俺が認めて紹介した男全員振りやがって」

どうやら杵島大尉は妹を紹介してくれと結構言われているようで、その中でも杵島大尉のお眼鏡にかなった人を紹介していたらしい。

「だって…私の好みじゃないもん。筋肉ムキムキは…」

その言葉に、その場にいた杵島大尉の部下である江戸川と能登ががっくりと力尽きる。

どうやら、彼女に気があったようだが、無理だという現実を本人の口から告げられたショックで心が折れたようだ。

うーん。人の心って強いようで、脆いよなぁ…。

「じゃあ、どんなのがいいんだよ」

「そうねぇ…」

そう言いつつ、少し考え込む杵島大尉妹。

そして、ぽつりぽつりと話し始める。

その様子は、誰かを想像しているような感じだ

「やっぱり頭が切れる人がいいかな…。いろんな知識を持ってて、それをうまく活用できる。普段はのんびりしているんだけど、いざとなったらびしっとやる人かな」

「ほほう。で、見た目はどうよ?」

「そうだねぇ…。いい方がいいとは思うけど、私の事をきちんと好いてくれるなら、そこまでこだわらないかな…」

「なるほどなるほど…」

みんなが興味心身で聞いている中、、的場大尉もさっきからこの会話を聞いてない振りをしながらもじっくり聞いている様子だ。

うんうん。そういう態度とりたくなるのはわかる、わかるよ、大尉。

思わず心の中で応援してしまう。

そんな事を思っている私に関係なく会話は続く。

「じゃあよ、仕事はどうだ?同じ軍属でもいいのか?」

「うん。それは問題ないかな。軍属でも一般人でも問題ないよ」

そう言った後、思い出したかように杵島大尉妹は言葉を追加した。

「そうそう。出来れば、料理うまい人がいい。私、料理得意じゃないんだよね」

『料理うまい人がいい』と言う言葉が出た瞬間、小さくガッツポーズをとる的場大尉。

あ…料理得意なんだ…。

今度、話振って作ってもらおうかな…。

そんな事を思っていたら、「ならいいやつがいる」と杵島大尉が口を開いた。

「いいやつ?」

杵島大尉妹が聞き返す。

「そうだ。今の条件にぴったりのやつを一人知ってるぞ」

その言葉に興味を持ったのだろう。

「お兄ちゃんがお勧めの人って、好みじゃない人ばっかりなのよね…」

「いや。今度は自信があるぞ」

「そうなんだ…。じゃあ、会ってみてもいいかな」

その瞬間、杵島大尉がニタリと笑みを浮かべた。

「聞いたぞ、今の言葉…」

「な、何よ?」

少し怖くなったのか、杵島大尉妹が少し動揺する。

だが、それでも言う。

「誰よ、その人…。私の知ってる人?」

「ああ。知ってるやつだ」

「誰よ?」

杵島大尉が、待ったましたとばかりに口を開いた。

「そこにいる的場とかどうだ?」

「へ?」

まるで時間が止まったかのように驚いたままの顔で杵島大尉妹を見て固まる的場大尉…。

そして、その人物名が予想外だったのか、驚いたまま的場大尉を見ている杵島大尉妹…。

その様子は、まるで相対する鏡のように私には見えたのだった。

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