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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十四章 ルル・イファン人民共和国の誕生

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リーガンハット諸島での戦い  その2

「カッターを降ろして救出作業急げ」

リネット・パンドグラ少佐の命令に副長が答える。

「はっ。了解しました。各自作業急げ」

「それと敵の位置確認はどうなっている?」

「すぐに確認させます」

数分もしないうちに見張りの兵から報告が届く。

「残念ながら……。恐らく砲撃が止まっていることから島影に隠れたんでしょう」

そう報告があった後、続けて別の見張りの兵から報告が入る。

「停泊していた島の裏側の10キロ先の島影から船の排煙らしき煙が確認できます」

その報告に、少佐はニタリと笑う。

「連中はそこだな。動きがないか監視続けろ」

そう言いかけた瞬間、また報告があった。

「北部の島影からも排煙らしき煙を発見しました」

「な、何?!」

「大変です。南方の島影からも……」

一度に三方からの排煙発見の報告に、副長が青い顔で聞き返す。

「連中、もしかして増援を……」

その言葉に、少佐ははっとして言い返す。

「そんなバカなことがあるか。もし、増援が入り込んでいるのなら、発見していたはずだ。だから増援はありえない……」

それは自分に言い聞かせるかのような物言いであった。

それは少佐自身も一瞬増援かと思ったことを意味していた。

だが、もし増援なら我々に気づかれずに、この海域に潜伏は無理だ。

それに、今まであったことを思い出す。

包囲網を牽制するかのような自動発煙装置の設置や砲撃目印になるような発煙筒の使い方を考えれば、これは陽動だろうと推測できた。

時間稼ぎをしているのか?

では何故?

敵の砲撃は徐々に修正されている感じだった。

それも微妙な修正だ。

そんな修正は長距離になればなるほど弾着観測でもしなければ無理だ。

つまり、味方の弾着観測を行っていた連中を回収するための時間稼ぎという事か。

或いは、のこのこと煙の上がった場所を調査に向かわせて、その隙に一気にここを通り抜けようとしているのか……。

だが、それはこっちが味方を救出しないと考えた場合だ。

船乗りとして、それは考えられない。

やはり、味方回収と考えた方が納得がいく。

ともかく、どちらにしても連中には時間稼ぎする必要があるという事だ。

それはこっちもありがたい。

味方を救助する時間があるという事でもある。

どうやら、救助で連中を逃がすことはなさそうだな……。

少佐はふーと息を吐き出すと口を開いた。

「敵の陽動に惑わされるな。今は味方の救援と監視を密にして敵の些細な動きも見逃すな」

「はっ」

普段からは考えられない程のピリピリとした緊張感の籠った返事が返ってくる。

どうやら味方が攻撃されて、それによってもたらされた危機感がいい仕事をしてくれたようだ。

少佐は心の中でほくそ笑む。

「いいかっ。味方の無念を晴らすぞ。これは弔い合戦だ」

その言葉に、乗組員たちの気合と士気が上がったのは言うまでもない。



「連中、動きませんね」

見張りの報告を受け、操舵手が呟くように言う。

「ああ、少し発煙装置が動くのが早かったな。まぁ、時限式だからな。どうしてもうまくいかないことはあるってもんだ」

船長はそう言い返して双眼鏡で煙の上がっている三つの島を見回していく。

「そうですね。こっちでコントロールできるとよかったんですが……。まぁ、牽制になったと思っておきましょう」

「ああ。それと回収作業はどうなっている?」

その言葉に、作業の様子を見ていた通信手が口を開いた。

「今のところは順調です。あと十分もあれば固定までいけるでしょう」

「よし。回収が終わったら、報告してくれ」

船長はそういうと、海図ののっているテーブルに向かう。

「さて……。どうするか……」

呟くようにそう言うと海図を確認する。

別にこの海峡を向ける必要性はない。

遠回りをすれば、共和国に戻れるルートはあるにはある。

だが、その場合、他の警戒している艦隊や他国の警備艦隊に引っ掛かる可能性が高いし、増援を呼ばれる恐れすらある。

また、今のルル・イファンの現状ではあまり時間をかけられない。

食料は暇らないだろうが、それ以外は輸入に頼らざるえない国の状態である。

そんな状態が長く続ければ、国として成り立たなくなる恐れすらあった。

人は、食べ物さえあれば生きていけるが、それだけで生活していけるわけではないのだ。

それに、海上封鎖をしている連盟が攻めに転じることも考えられた。

だから、できる限り早く共和国に向かわねばならないだろう。

そうなるとここを突っ切るしかない。

唯一の救いは、点在する島影に隠れつつ進めるといったところだろうか。

或いは一気に速力に任せて突っ切るという手もある。

しかし、機関長はいい顔はしないだろう。

まだ勝手がわからないものをフルパワーで使って故障でもされたら目も当てられない事態になりかねない。

だから、速力を使って一気に離脱は最後の手だな……。

船長はそう判断すると、命令を下す。

「いいかっ。回収が終わり次第島影をうまく使いつつ抜けるぞ。敵の動きに注意しておけ。それと機関長に連絡だ。『できる限り無理はしないようにしますが、いざとなったらお願いします』ってな」

「了解しました」

船員の一人が走り出す。

海図から視線を動かしてその後姿をちらりと見た後、船長は再び海図に視線を戻す。

どうすればより安全にここを突破できるかを考えつつ……。



装甲巡洋艦リッチンパド・リンハーナが救助作業を終えたのは開始してから一時間後であった。

現在の時間は午前九時を過ぎたくらいである。

余りにも早い救助作業の終了は、生存者が少ないという事を意味していた。

沈没までの時間が短かったこと。

爆発がいくつも起こったこと。

そして何より、沈む際に近くの海面に振り落とされていた水兵たちを巻き込んでしまったことがその原因となっていた。

もちろん、まだ艦内には生きている者もいると推測されたが、深さがそれほどないとはいえ、沈んだ船の救助が出来る装備などを救助艦ならいざ知らず装甲巡洋艦に積んでいる訳がなく、こればかりはどうしょうもない。

だから海面に漂うなんとか助かった者達だけを回収することしかできなかった。

その為、それほど時間がかからなかったのである。

「救助感謝します」

そう言って少佐に敬礼したのは、装甲巡洋艦リンバット・ハンハーレの生き残りの中で最上級の階級であり、艦橋にいた唯一の生存者であるアカリギ・スペンサーム軍曹である。

彼は伝令として甲板を移動中だったために、最初の爆発で揺れた艦から投げ出されて助かったのだ。

「エンバッハ少佐は助からなかったか……」

「はっ。恐らく、艦橋近くでも爆発がありましたから……」

「そうか……」

少ししんみりとした表情をするパンドグラ少佐。

彼にしてみれば、まぁ友人と呼べる程度の付き合いはしていたつもりなのだ。

だからこそ、今回一緒に戦えるというのは心強いと感じてもいた。

だが、もうそれも叶わぬ事となった。

「仇はとるぞ」

「はっ。お願いします」

「ともかく、貴官らはまずは休みたまえ」

そう言った後、思い出したのだろう。

副長に指示を出す。

「暫くは敵の動きを警戒しつつ動くことになる持久戦になるだろう。今のうちに交代で食事を済ませておけ」

「はっ。了解しました」

副長はそう返事をすると軍曹をつれて艦橋から退室する。

「さて……。ここまでやってくれたんだ。落とし前はつけさせてもらわないとな」

パンドグラ少佐はそう呟くと双眼鏡を掲げて周りの海を警戒し始めたのであった。



午前十時……。

雑草号はゆっくりと島影から移動を始めた。

その速力は十ノット前後といったところだ。

最大速力が二十六ノットの雑草号としては、巡行速力程度ではあるが、他の国の一般的貨物船の最大速力が十二ノット程度と考えれば、貨物船一般では最大速力に近いといってもいいのかもしれない。

「連中の動きはどうだ?」

船長の問いに答えたのは、副長だ。

『少し休め』という船長の言葉に、『疲れていませんし、どうせ休むなら落ち着いて休みたいので』と言って笑って拒否し、船長の傍らにいる。

さすがに無理にとは思ったのだろう。

船長も苦笑しつつもそれ以上何も言わなかった。

そんな副長が双眼鏡で確認しつつ返事を返す。

「まだ連中気がついていないようですね」

「よし。少し距離をとるぞ」

「しかし、それでは砲撃が届かなくなりますが……」

思わず出た副長の言葉に、船長は苦笑した。

「おいおい、砲撃戦をしに来たわけじゃないんだぞ」

そう言われて副長も苦笑を漏らす。

「そうでした。そうでした。余りにも鮮やかに敵を撃沈したんで勘違いしてしまいそうになっていました」

「おいおい。しっかりしてくれよ。俺らは密輸を家業にしている民間人だ。軍人じゃねぇからな」

「まぁ、もっとも、軍艦沈める火力を持つ密輸業者っていうのもおかしなものではありますが……。下手したら海賊船じゃありませんか……」

そう言われて船長は困った顔をする。

「俺らは海賊じゃねぇ。ただのちんけな密輸業者だ。そこんところを間違われたら困っちまうな」

「では、共和国との成功報酬の交渉の際は、その辺もはっきりさせておかないと不味いですね」

「ああ。そうだな。その際は手を貸せよ?」

「もちろんです。そういったのは得意なので……」

そんな言葉を交わし笑いつつも、副長は双眼鏡から視線を外すことはない。

もちろん、副長だけでなく、何人もの船員たちが警戒に当たっている。

そして、そんな中、船橋の上に備え付けられている大型望遠鏡で監視していた船員が叫ぶ。

「敵艦の主砲が動いています!!」

その言葉に船長はすぐに反応した。

「回避行動を始めろ。それと速力上げっ。こっちは装甲なんてないに等しいからな。当たったら負けだ。気合を入れろ!!」

船長の声に、船橋の船員たちから声が上がる。

「お任せくだせぇ」

「合点ださぁ」

「了解です」

こうして、戦いは、雑草号を装甲巡洋艦リッチンパド・リンハーナが追尾する追撃戦という形で第二ラウンドが始まったのである。

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