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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十四章 ルル・イファン人民共和国の誕生

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ルル・イファンからの離脱……  その3

ルル・イファン艦隊の協力により無事離脱に成功した雑草号は、副長達の乗る動力付き小型船と落ち合う場所に急いでいた。

「みんな無事だといいんだがな……」

それが無理な願いというのは船長自身もわかっていた。

わかってはいたが、自国の為という理由があるとはいえ、それでも自分達の為に戦った彼らの無事を願わないではいられなかった。

そんな船長の呟きに、「そうね。みんな無事だといいわね」と言葉を返したのは、ミランダだ。

彼女にとって今までそんなことを感じたことはなかったが、船長と共に生活していくことで自分の今までの異常さを感じると共に人と人との繋がりや相手に託す思いを余計に感じるようになっていた。

だからこそ、船長の願いが適ってほしいと心から願ったのだ。

そんな二人に感化されたのだろうか。

船橋の中も何となくだが湿っぽい感じになる。

それを変えるためだろう。

操舵手が声を上げる。

「そういや、副長達うまくやってますかね?例の新人、共和国の監視員だったんでしょう?」

その声に、船長はニタリと笑った。

「うまくやってるに決まってんだろう、あいつだぞ」

その言葉に思い出したのだろう。

操舵手も苦笑して頷きつつ言う。

「そうでしたね」

その二人にとってはまるで当たり前のような会話に、ミランダは全くと言っていいほどわからなかったのだろう。

少し困ったような顔をした。

その様子に気が付いた船長が「ああ、言ってなかったな。あいつは昔、裏家業のトラブル仲介人みたいなことをやっててな。かなりの凄腕だったんだが、嫉妬深いやつに追われてな。うちに逃げ込んできたのさ。だから人を見る目は、この船の中じゃ一番なんだぜ」と説明してくれる。

「へぇ、そうなんだ。そんな感じには見えないんだけどねぇ」

そう言って、ふと疑問が頭に浮かぶ。

そんな彼に私はどんな風に見えていたのだろうかと……。

だからついつい聞いてしまう。

「ねぇ。なら、私はどんな風に見えていたのかな?」

その問いに、操舵手は慌てて前方に視線を動かすし、船長も困ったような顔になった。

その対応に、ますます気になったのだろう。

船長の方に顔を向けるとじーっと見つめる。

なんとか知らないふりをしようとしていた船長だったが、惚れた弱みという奴だろうか。顔を真っ赤にすると頭をかいて仕方ねぇといった感じで口を開いた。

「わかった。わかったよ。言うよ、言うからそんなに見つめないでくれ。あいつが言うにはお前さんはすごく寂しがり屋だってさ」

「さみしがり屋って……」

「だから、あの人を本当に大切に思うなら、一人にしちゃ駄目です。しっかり愛してあげなきゃって釘を刺された」

「えっと……」

どう言っていいのかわからず、ミランダは真っ赤になりながらおろおろしてしまう。

ある意味、べたべたしておいてくださいって言われたようなものだ。

「だーーーっ。だから言いたくなかったんだっ。すげー恥ずかしいっっ」

船長も真っ赤になって頭をガシガシかく。

操舵手がくすくす笑って口を開く。

「ある意味、惚気ておいてくださいって言われたようなものですからねぇ……」

そう言った後、少し間を置くと、ニタリと笑った。

「もっとも、俺らとしちゃ、船長と姉御がイチャイチャしてくれた方が見ててほっとするんで、まぁ限度ってもんはありますが、気兼ねなくイチャイチャしておいてくださいな」

その口調はからかうものであったが、「おいっ……」とか「もう……」なんて感じで抗議みたいな声は上げたものの船長もミランダもまんざらでもないといった感じたろうか。

だが、そんな甘々な雰囲気が船橋の中を満たしてはいたが、そんなに長くは続かなかった。

無線手が真剣な表情で近づくと報告を始めたからだ。。

その報告は、副長からであり、短く『艦影発見す』とだけだ。

だが、それだけで連盟の艦船の待ち伏せがあると判断したのだろう。

船長はすぐに海図の広げられたテーブルに移動する。

「確か合流地点はここだったな……」

船長の視線の先をちらりと見た後、無線手は頷きつつ言う。

「はい。最初の打ち合わせではそうなっています。そうなるとそちらに向かっている途中で発見したのでしょうか?」

「ああ。そうなるだろうな……」

そう言って船長は黙り込む。

そしてある考えにたどり着いたのだろう。

深々とため息を吐き出した。

「あいつ、やる気だぞ」

「まさか……」

船長の言葉に、無線手は信じられないといった顔をしたが、すぐに諦め顔になった。

そうは言ったものの、副長ならやりそうだと思ってしまったのだろう。

「確かに、やりそうですよね」

操舵手も呆れ顔で前方を見つつ口を開く。

「お前たちもそう思うか……」

ただ一人、ミランダだけは意味が分からずきょとんとしているのみであった。



「畜生めっ。どこのどいつだ、こんな手の込んだことをしゃがったのは……」

調査の結果、ただの時間式で発火する発煙筒という報告を受けたリネット・パンドグラ少佐は、イライラを隠そうともせずそう吐き捨てると海図ののっているテーブルを蹴りつけた。

ガンっという結構いい音がしてバンドグラ少佐が顔をしかめる。

どうやらかなり痛かったようだ。

まぁ、自業自得という事だが、それで八つ当たりでもされたらたまったものではない。

誰もが見てみない振りをする。

しかし、当の本人はそんな周りの様子に気が付かず、何気なく頭の中で浮かんだことを口にした。

「しかし、なんでことをする必要がある……」

そんな時、通信兵から報告の声が上がった。

「大変です。包囲を突破されたそうです。相手は、例の船です」

その報告に、バンドグラ少佐の中で疑問と報告が繋がったのだろう。

「まさか……奴らが……」

そして、反復するように再び言葉を口にする。

「確かに、奴らなら……やりかねんか……」

そしてニタリと笑った。

実に楽しそうに……

「いいぞ。それでこそ、沈め甲斐があるというものだ。あの船を……、包囲を突破したやつを俺が沈めて艦隊の連中を出し抜いてやるとするか……」

まるでそうなるのが当たり前のように言い切ると、バンドグラ少佐は命令を発する。

「リンバット・ハンハーレにも伝えろ。『最初にいた場所に戻ってやつを待ち伏せる』と」

「了解しました。艦を戻せっ」

副長の声に合わせて艦がゆっくりと大きく向きを変えた。

その後を追うようにもう一隻の装甲巡洋艦が追随する。

そして、彼らは気が付かなかったが、二隻の遥か後方に小型の船が距離を確保しつつ追尾していくのであった。



「突破成功しました」

その報告に、アーチャはほっと胸をなでおろした。

もちろん、乗っている義兄や親友のこともあったが、それ以上にルル・イファンの未来があの船にはかかっているのだ。

だから出だしから躓くわけにはいかなかった。

それ故に出来る限りのことをしてくれとパットラに頼み込んだ。

その言葉に、見事パットラと軍部は答えてくれたことになる。

実に頼もしい限りだ。

だが、聞いておかなければならないことがある。

「被害はどうだ?」

「はっ。特務水雷艇が三隻撃沈、二隻大破。戦艦と装甲巡洋艦は、損傷軽微といったところでしょうか。後、死傷者は百五十名程度と聞いております。なお、敵の被害はほとんどないという事です」

つまり、こっちが一方的に被害を出したという事だが、こっちの目的は雑草号の包囲突破であるため、目的は達成できている。

旧式な装備と圧倒的な戦力差を考えれば、かなり善戦したといえよう。

「そうか。皆、頑張ってくれたな。皆を労い、死傷者にはできる限りのことをしてくれ。それと敵の動きはどうだ?」

「敵は深追いを避けるためでしょうか。追撃戦は行わず、包囲を続けております」

「そうか……」

暫くは持久戦が続くという事だ。

深く息を吐き出すと、アーチャは今後の方針を確認するため、パットラとトバイの二人に部屋に来るように報告してきた兵に連絡を頼んだのであった。

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