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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十四章 ルル・イファン人民共和国の誕生

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ルル・イファン封鎖艦隊にて……

「あの船は、間違いなく今度は突破を狙うでしょう。ですから見せしめとして発見しだい即沈めるべきです」

そう言って力説してテーブルを強く叩いたのは、リネット・パンドグラ少佐だ。

流れ弾の被弾の可能性を恐れず雑草号に最後まで食いついた装甲巡洋艦リッチンパド・リンハーナの艦長だ。

士官学校を主席で卒業後は順調に階級を上げて、この春、装甲巡洋艦の艦長に就任したばかりで彼はやる気に満ち溢れていた。

それ故に所属していた艦隊で持て余されたのだろう。

今回の作戦に派遣されたのである。

もっとも、本人はチャンスであり、今回のことで手柄を立ててやろうと狙っていた。

だからこそ、熱く語ったのだ。

確かに雑草号の砲撃は旗艦の艦橋に命中し、艦隊司令を始め多くの艦隊上層部の死傷者を出すほどの被害を出し壊滅に近い損害を受けてしまった以上、パンドグラ少佐の言葉に賛同するべきだろうがその熱い言葉と熱意に対して周りの反応は冷ややかでしかなかった。

元々やる気がない連中や艦隊で持て余した問題児が多い上に、本来ならまとめるべき者が不在なのだ。

また、連盟海軍の海上封鎖作戦司令部も近いうちに代理を送るまで余計なことはするなというお達しまで来てしまっている。

下手に壊滅や撃沈という事をしてしまって余計な問題を起こすよりも、封鎖することに専念してもらったほうがよいと判断したのだ。

それに、現場としても下手に攻撃を仕掛けることで、自分たちだけ被害が出たりするのは馬鹿らしいという考えもあったから、それ故になんとか集まって話し合われた今回の会議でも実にしらけきったムードになってしまっていた。

「確かに味方の艦艇が攻撃を受け、艦隊司令部が壊滅的な被害を受けたのは遺憾だが、あの船は国籍不明の船だ。やはり拿捕して取り調べる必要があるのではないのかね?」

戦艦ハンリッパ・ミノマムの艦長が白い髭をなでつつバンドグラ少佐を宥めようとそう言ったものの、その言葉の端々には、下手に巻き込まれたくはないという心境が見え見えだった。

「どいつもこいつも……」

つぶやくように言うバンドグラ少佐。

彼にしてみれば腸が煮えくり返るような思いではあったが、自分はここでは装甲巡洋艦の一艦長でしかないと言い聞かせる。

しかし、その事なかれ主義に以前からムカムカしていたパンドグラ少佐は「それでは、貴官が負傷されたときも今回のように静観しておけばいいのですかな?」とついつい余計なことを口にしてしまう。

元々気に食わないと思っていたのだろう。

戦艦ハンリッパ・ミノマムの艦長の額に青筋が浮き上がり、怒鳴りつけるために立ち上がろうとする。

しかし、それは押しとどめられた。

この中では最年長であり、艦隊指令も一目置いている人物が声を上げたからだ。

ランドルス・リントランシア大佐。

戦艦ロームランナ・リンパークの艦長であり、今回の会議を招集した本人である。

「いい加減にしておきたまえ、二人とも……」

物静かにそう言うと、二人の方を交互に見る。

その目は鋭く力を感じられた。

「喧嘩をさせるために集めたんじゃない。われわれの今後の方針を決めるために呼んだのだ。それを理解してほしいものだ」

その言葉に、ハンリッパ・ミノマムの艦長とパンドグラ少佐の二人は頭を下げる。

「すみませんでした」

「申し訳ありません」

「ふむ。わかればよろしい。それでだ、今回集まったのは、我々の任務があくまでも封じ込めが目的だということを再確認するためだ」

その言葉にパンドグラ少佐が悔しそうな顔をしており、その様子をちらりと見た後、リントランシア大佐は言葉を続けた。

「我々は、連盟の軍人である。連盟の命令に従い、遂行する義務がある。どんな手段を使っても封じ込めを成功させるよう各自の奮戦を期待する」

「「「はっ」」」

全員が立ち上がり敬礼する。

こうして、会議は終わったのであった。


各自が普段と変わらない表情でそれぞれの艦に戻る中、一人だけイライラした表情の者がいた。

パンドグラ少佐だ。

彼は不機嫌さを隠そうともせずただ歩いていく。

そんな彼に声をかけるものがいた。

彼の同期であり、同じく装甲巡洋艦の艦長として会議に参加していたイガルナ・エンバッハ少佐である。

「おいおい、そんなにカッカするなよ」

その声に振り向かずにパンドグラ少佐は言い返す。

その物言いは怒りに満ちていた。

「これがカッカしないですむ問題かっ」

その噛み付くような物言いに、怖気づくどころか楽しそうにエンバッハ少佐は笑う。

「相変わらずだな、お前さんは……。そんなんじゃ、配属された艦隊でもかなり煙たがられただろうな」

その言葉に、パンドグラ少佐の足が止まった。

そしてぐるりとエンバッハ少佐の方に身体の向きを変えて睨みつける。

「大きなお世話だっ」

「そんな事言うなよ。せっかく許可もらったんだからさ」

その意外な言葉に、文句を言うのを続けようとしていたパンドグラ少佐の口が止まった。

そして、文句ではない言葉が口かに漏れる。

「あ、どういう意味だ?」

その言葉に、やっぱりかーっという感じのジェスチャーを大げさにするエンバッハ少佐。

その様子に訳がわからないといった顔するパンドグラ少佐に、エンバッハ少佐は笑いつつ言う。

「やっぱりカッカしてわかってなかったか……」

そう言った後、あきれ顔で言葉を続ける。

「リントランシアの親父さんは『どんな手段を使っても封じ込めろ』って言ってたんだぜ?」

「何が言いたい?」

「つまりだ。封じ込めろとはいったが、沈めるなとは言っていないということだよ」

そう言われて、エンバッハ少佐の言いたいことがわかったのだろう。

パンドグラ少佐がハッとした顔になった。

「まさか……」

「そのまさかさ。大佐はある意味容認してくれたって事だよ。もっとも、最初から沈める気満々って訳にはいかないだろうけどな」

そう言われてパンドグラ少佐はニタリと笑う。

「なら、逃がさないためにって言い訳使えば、堂々と沈めていいって事だよな」

「おい……。何考えている?」

「ふふふっ。そういうことならいい手がある」

そう呟くように言うとパンドグラ少佐はエンバッハ少佐に耳打ちした。

その内容にエンバッハ少佐は驚いた顔をする。

「おいおい、警戒範囲ギリギリで待ち伏せして沈めるって……」

「馬鹿野郎っ、誰かに聞かれたらどうするんだっ」

「あ、ああすまん……。しかし、それは確実に出来ることだろうな……。待ってて結局来ませんでしたじゃ、逃走されたときの責任押し付けられるぞ」

「わかっている。だがな、これは確実だと思うぞ」

そう言いきった後、パンドグラ少佐は聞き返した。

「ところで、あの船の形と大きさ、それに性能。知っている限りで該当する船はあるか?」

いきなりの事に少し驚くものの、エンバッハ少佐は少し考えた後、口を開いた。

「いや、該当する船は知らないな。大体あの大きさの貨物船なんてそうそうあるわけないだろう?サイズだけなら戦艦クラスだぞ」

「そう。初めて見る船だ。そしてあんな船を製造できる国はどこだと思う?」

しばらく考えた後、エンバッハ少佐は驚愕の表情になった。

「おいおい、あれって……」

「恐らく、フソウ連合のものと思っていいだろう。そうでなければ、あの大きさであの速力、それに小回りの良さと小口径ながらあの破壊力のある砲、それらを説明できない」

「確かに、フソウ連合製の船や艦の性能の高さは有名だし、その予想は当たっていると思う。しかしそれだけでフソウ連合が関わっていると決め付けるのは……」

だが、パンドグラ少佐は間違いないといった表情を浮かべた。

「確かに、その通りだ。確かにフソウ連合が直接関わっている線は薄いだろう。国と国の間の距離があるからな。だが、フソウ連合と繋がりの強い国が関わっているのは間違いないはずだ。そうでなければ、あんな強力な船を手に入れたり出来ないはずだろう?」

「確かに……。つまり、共和国か王国が関わっているということか……」

「ああ。恐らくだが、俺は王国だと睨んでいる」

「なぜ言い切れる?」

「今回の災害での食料不足で、連盟に恨みがあるからな」

そう言われてエンバッハ少佐はうなづく。

「確かに……。連盟(うち)が余計なことをしたからな……」

「そういうこった。だから俺は王国だと思うんだ。そして、この海域から王国に向かう航路は限られている」

「だが、確実にそこに行くか?遠回りを選択されたら……」

「おいおい。連中にとって、後は逃げるだけなんだぜ。それなのに、わざわざ警戒の艦隊がうろうろしている海域に長居はしたくないだろう?。なんせ、長くいればいるほど海上封鎖を目的とする艦隊に遭遇する可能性は上がるんだからな」

「なるほど。確かに……」

「だから、ギリギリのラインで待ち伏せをする。それにな、近くに姿を隠すにはいい島があるんだよ」

得意満面といった顔で説明するパンドグラ少佐にエンバッハ少佐は怪訝そうに聞き返す。

「しかし、いいのか?」

「何がだ?」

「それって、他の艦艇を出し抜いてって事だよな?」

その言葉に、パンドグラ少佐は呆れ返った表情になった。

「かまうものか、あんな連中……」

その言葉には相手を馬鹿にしきったものであった。

だから、エンバッハ少佐は最初は困ったような顔をしたが、すぐに仕方ないといった表情になる。

「わかった。わかった。お前さんに付き合おう」

「ああ。すまないな。それで……」

「担当海域のパトロールって名目でここを離れる許可を大佐からもらっておこう」

「助かるよ」

そう言うと「じゃあ、また後でな……」と言い残してパンドグラ少佐は自艦に戻っていく。

さっきまでのイライラした表情が嘘のようにご機嫌な表情で……。

その後姿を見つつ、エンバッハ少佐はため息を吐き出す。

「大佐の言うとおりだったな。お目付けとして付き合うしかないか……」

そう呟くとエンバッハ少佐はパンドグラ少佐とは反対方向に歩き出す。

大佐にすべてを報告し、現場を離れる許可をもらう為に……。

そして、何かあった場合は、自分はお目付けのためについて行ったという事をきちんと伝える為に……。

大佐の命令で付き合うことになったとはいえ、あの出世馬鹿の巻き添えはごめんだ。

エンバッハ少佐の頭の中でそんな思考が働いている。

エンバッハ少佐はパンドグラ少佐が大嫌いだった。

自分の邪魔ばかりをする目の上のたんこぶと思っている。

士官学校からずっと……。

だから、一度として友人とも、仲間とも思ったことはない。

ただ、利用できそうだから付き合っている。

それだけだ。

だからこそ、今回も命令ということもあって渋々付き合っているのだ。

早くくたばれ……。

足を止めるとパンドグラ少佐が歩き去った方角を睨み付ける。

それが彼の本音であった。


こうしてパンドグラ少佐とエンバッハ少佐の指揮する装甲巡洋艦二隻は艦隊から離れていく。

それぞれの思惑を乗せて……。

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