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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三章 二つの世界の間で

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勝利の宴 ある人物の視点から その1

「おっ、こっちだ、こっちだ」

バスから降りると声をかけてくる人がいる。

杵島大尉だ。

もちろんこの前の戦いで一緒に戦った第三特別強襲大隊の隊長の方だ。

見かけた事は何度もあるけど個人的繋がりは広報部の杵島大尉とはない。

もっとも、的場大尉は違うみたいだけど…。

「よく来たな、的場大尉。それに最上も…」

機嫌良さそうに笑う杵島大尉に、的場大尉が苦笑して言う。

「今は休みをもらって軍務から離れているのですから、大尉は止めましょうよ」

しかし、そう言いつつも悪い気はしないのか、的場大尉もなかなかに機嫌がいいようだ。

「じゃあ、的場って呼ぶぞ」

「ええ、構いませんよ。俺も杵島さんって呼ばせてもらいます」

「なんでさん付けなんだよ?」

「いや、年上だからさ…一応ね」

そう言ってニヤニヤ笑う的場大尉。

「年の事は言うなよ。これでもまだ十代の気持ちなんだぜ」

その言葉に、私が思わず突っ込む。

「なんか、あれですね。杵島さんは、ガキ大将ってイメージですよね」

私の言葉に、一瞬きょとんとした杵島大尉だったが、がははははっと機嫌よく笑う。

「なるほどなるほど。いいなそれはっ」

そう言ってバンバンと背中を叩かれる。

「い、痛いって」

私がそう言うと、きょとんとした後、「おっかしいなぁ…。俺の隊では誰もそんな事言わなかったけどなぁ」とか呟いている。

まぁ、親しみを込めてっていう事はわかるんだけど、痛いものは痛いのです。

「だって、私は貴方の部隊の隊員のように鍛え上げられてませんからっ」

「ああ…そういうものなのか?」

少し考え込んだ後、杵島大尉は的場大尉に話を振る。

「いや、こっちに話を振られても…ねぇ…」

そう返事をした後、思い出したように言葉を続ける。

「まぁ、俺も最上のように鍛え上げられてませんから、手加減をお願いしたいというのはありますがね…」

「ずるいです。私ばかりっ。貴方も叩かれるべきです。それが公平と言うものではないですかっ」

私がそう言うと、「確かにな…。公平に友情を表現しなくてはっ」とか言って杵島大尉が笑いつつ的場大尉の背中を叩く。

「いってぇーーーっ」

バス停に的場大尉の悲鳴が響くのだった。


「ところで、今日はどこで飲むんです?」

杵島大尉の後を歩きながら的場大尉が聞いてくる。

すると少し苦笑しつつ、杵島大尉が歩きながら口を開いた。

「実はな、俺の部下や友人もお前さんに会いたいって言うやつがいてな。それでどうせなら気兼ねなく飲める場所って事で、俺の家が選ばれちまったんだ…」

「杵島さんの家?」

「ああ。俺の実家はちょっとした食堂をしててな。それで夕方からは居酒屋を兼ねてるんだが、そこになっちまった」

そして、足を止めると杵島大尉は頭を下げた。

「すまんな。事後連絡で…。本当はもっと早く知らせる予定だったんだが…」

「頭を上げてくださいよ」

そう言うと的場大尉は慌てたようにあたふたと言葉を続ける。

ちなみに、横で見ててその変化が楽しいと思ったのは的場大尉の名誉の為に秘密にしておこう。

「あの後場所は杵島さんに任せるって伝えたんだから、謝る必要はないんですよ」

「そうですよ、そうですよ。私も問題ありませんから」

二人してそう言うと、杵島大尉は顔を上げた。

その顔にはしてやったりという表情が浮かんでいる。

それはつまり…最初から杵島大尉の実家で飲むつもりだったという事だ。

ただ、的場大尉にいきなりそれを伝えると断られるかもと思ってこういう風にしたようだ。

的場大尉もそれに気が付いたのだろう。

「杵島さんっ、謀りましたねっ」

そんな声を上げる。

もちろん、私もだ。

「ずるいですっ。そういうのはっ」

「ふっふっふ…。今、場所は任せるとか問題はないって言ったよな…」

的場大尉が悔しそうにしている。

しかし、それは心底からではなく、してやられたという感じが強い。

「まぁ、騙したのは悪かったけどよ、自分で言うのもなんだが、うちの実家、なかなかいい店なんだぜ」

そう言ってなだめにまわる杵島大尉。

「くっ…今回は素直に負けを認めますよ。最上もそれでいいよな…」

そう言って的場大尉は苦笑した。

「ええ。それでいいです。仕方ない…」

私も苦笑して答える。

「じゃあ、お二人様、ご案内だ」

そう言って杵島大尉が斜め前のお店を指差した。

そこには大衆食堂「うまかもん」という看板の店があった。

見た目は完全によく見かける食堂とか定食屋といった感じで、お約束として入口近くのショーウィンドウには見本料理が並んでいて食欲をそそる。

店の中は質素で派手さはないものの、清潔で気持ちのいい感じの店だ。

そして、店内は、テーブルが三つと椅子が十二脚、それにカウンターに四脚。

後は、お座敷があるという話だったが、今日はそっちではなく、テーブルやカウンターを使うらしい。

すでに六人の先客が待っており、私達が入ってくると視線がこっちに集まった。

「よう連れて来たぞ」

杵島大尉はそう言って手を上げると、そこにいる六人をまず紹介してくれた。

「こいつは俺の副官の東芝。で、こいつらは俺の隊の隊長連中で、右から江戸川、緑川、能登だ」

杵島大尉の言葉に合わせて、それぞれが頭を下げる。

それにあわせて、的場大尉と私も頭を下げた。

「そんでもってだ。こっちの性悪みたいな顔をしてんのが第一特別強襲大隊の隊長をしている真柴。ひょろっとしてんのが第一旅団で今は旅団長してる同期の羽場だ。みんな俺の信頼できる友人達だ。お前さん達と飲むっていったら休み合わせて参加するっていってきやがったんだぜ」

「はぁ。ありがとうございます。的場といいます。よろしくお願いします」

なんかお礼言って頭を下げている的場大尉。

なんか、かなり驚いて動揺しているようだ。

まぁ、話の限りだと人付き合いをほとんど断っていたみたいだから、いきなりこういう濃い面子では面食らうんじゃないかと思う。

だって、みんな筋肉ムキムキだもんなぁ。

違和感感じるのも無理はないような気がする。

おっと、次は私の番か…。

「最上です。第二水雷戦隊旗艦をやってます。今の仕事は的場大尉の相棒ですね」

なんかそう言うと、おおーーっと盛り上がっていた。

いや別におかしくないんじゃないか。旗艦なんだからと思ったが、まぁ、盛り上がるのは悪い事ではないのでスルーする事にした。

「さて、挨拶も済んだし、まずは乾杯といくかっ」

その杵島大尉の声に、奥の厨房から二人の女性がお盆にたぶん日本酒が入っているコップを載せてでてきた。

独りはかなりの年配で、間違いなく、杵島大尉のお母様だろう。

なかなかの肝っ玉かーちゃんって感じだ。

この親にしてこの子ありっていうと納得してしまうレベルだ。

そして、一人の女性は…。

「あ…杵島大尉?」

的場大尉が驚いた表情でそう呟く。

「ふふっ。驚いた?的場大尉」

茶目っ気のある笑顔でそう答えたのは、広報部で長官の幕僚として働く杵島マリ大尉だ。

「え、ええ…」

何とかそう答える的場大尉。

こころなしか少し顔が紅いのは気のせいではないだろう。

その返事を自分が杵島大尉と兄弟だということに驚いたと取ったのだろう。

「ふふっ。よく兄弟に見えないって言われるんだよねぇ…」

とか言ってるが、多分、的場大尉が驚いたのは、ここに貴方がいる事に対してだと思いますよと言ってあげたい。

だって、兄弟ってこのまえばらしてますもん、私が…。

「そうそう。美女と野獣兄弟ってね」

羽場旅団長が茶化すように言うと、まわりもやんやといいたい事を言い始める。

「お前らなぁ…」

杵島大尉もそう言いつつも、自覚あるのか苦笑いを浮かべている。

「ともかくだ。まずは乾杯だっ。そらっ、コップを持てっ」

全員にコップが配られ、杵島大尉が掲げて言う。

「任務の達成と祖国の勝利、それに新しい友人とその友人の前途を祝してっ」

「「「乾杯っ!!」」」

乾杯の音頭と共にコップが掲げられ、そして飲み会は始まったのだった。

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