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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十四章 ルル・イファン人民共和国の誕生

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ルル・イファンへの道  その3

月のない暗闇の海を雑草号は進んでいく。

その速度はそれほど速いものではないものの、暗闇の中を進む様は船体の黒っぽい灰色と波打ち際の白っぽい灰色が波打つように描かれている部分の為に、実際にそれほど波が立たない速度と相まって海面に溶け込んでいるかのようだ。

一旦は船長室に戻った船長ではあったが、ミランダが気持ち良さそうにベッドで寝ている様子を確認すると着替えて船橋に向かい、すぐに対応できるように警戒に加わった。

「すみません、船長」

申し訳なさそうにそう言う副長に、船長は笑いつつ答える。

「なぁに、気にするな。十分休ませてもらったから問題ないぞ。それにだ。雑草号(こいつ)の命名後初の航海だからな。問題なく済ませたいじゃねぇか」

そういった後、少し間をおいて「機関長にドヤされたくはないしな」と付け加える。

その冗談じみた口調に副長も笑った。

「そうですね。やはり最初が肝心と言いますから……」

「そうだろう?それはそうと、どうだ?」

「先ほどの艦艇は発見されることなく突破しました。まぁ、あれは見つける気がほとんど感じられませんでしたけどね」

「まぁ、聞いただけでそんな感じだったな。だが……」

「油断してませんよ。何があるかわかりませんからね」

「そう言うこった。それでその後は?」

「今のところは問題ないですね」

そう言った後、副長は困ったというか呆れたような表情になる。

「しかし、連盟の海上封鎖って実はザルじゃないんですか?もっと大変かと思いましたよ」

だが、その言葉に船長は気難しい表情になった。

「恐らくだが、封鎖範囲が広すぎるからな。入るのを見逃すのはある程度は仕方ないと思っている部分はあると思うぞ。それよりもだ。俺が連中なら徹底的に出るほうを抑えるだろうな。その方が少ない戦力でも確実に対応できるし、それにだ、ルル・イファンは農業以外はほとんど産業がないからな。作物を輸出して、それ以外を輸入しなきゃ成り立たない」

「なら、出るだけでなく、入る分しっかり抑える必要があるんじゃないんですか?」

「だからだ。ある程度最初はなんとかなったにしても、輸出を抑えられてしまって外貨を手に入れられなかったら、輸入もできなくなる。そして、その封鎖を突破して輸出するにはある程度の海軍力が必要だが、今のルル・イファンにはそんな海軍力はないし、それだけそろえる金もない。だから連盟としては出るほうをしっかり抑えてしまえば、後はじわじわと真綿で首を締め付けていけばいいだけだ」

「ですが海軍力のある国が後ろ盾になれば……」

「お前なぁ、どこが連盟と喧嘩上等で後ろ盾になるかよ。どうのこうの言いつつも、連盟の商人の力は無視できねぇ」

その言葉に、副長は考え込む。

確かにその通りだ。

だが、ある国の名前が頭に浮かんだ。

「なら、今話題になっているフソウ連合はどうなんです?あの国は強力な海軍力もありますし、連盟との関係もほとんどありませんし」

「ふむ。確かになぁ。でもよ、海軍ってのは金食い虫だ。それほど利益にならない遠くにある植民地の為に、連盟を敵に回して損を覚悟で動くと思うか?おりゃ、動かない方に賭けるが、お前さんはどうよ?」

そう言われてうなるものの、結局は何も浮かばなかったのだろう。

降参といった感じのジェスチャーをしつつ、副長が口を開いた。

「船長の言う通りですね。私も動かない方に賭けます」

「そういうこった。大体賭けにもならねぇだろうよ」

「ええ。その通りですね」

「だが、そんな事は、俺等が考える事じゃねぇ。今の俺等が考えなきゃならんことは……」

「どうやってルル・イファンから出るかってことですかね?」

「そういうこった」

「で、そうなると……」

副長の顔つきが困ったようなものになる。

「ああ、港の近海はかなり警戒する必要があるって事だ。まぁ、入るときは港の近くまでは進めば連中も手は出してこないとは思うが、問題は出るときだな」

「それで対策は考えているんですか?」

「それなんだよなぁ。いい案が浮かばねぇ。何かねぇか?」

「うーん……。いい案ねぇ……。いっそのことこの船の速力を生かして一気に突っ切るというのは?」

その答に、船長は呆れ返った顔になる。

「馬鹿野郎っ。そりゃ最後の最後に使う手だ。それに恐らくだが帝国脱出の時のように連携を取って回り込まれたり、待ち伏せされたりするぞ。そうなっちまったら、速力が速くても恐らく無理だぞ」

以前、公国の艦船に待ち伏せされ袋の鼠になった事を思い出したのだろう。

副長がぶるりと身体を震わせた。

「あんなのはごめんですよ。本当に……」

「そりゃ、俺の台詞だ」

二人してため息を吐き出すと、その二人の会話を耳にしていたのだろうか、警戒に参加していた船員が恐る恐るといった感じで声をかけた。

さっき、伝令で船長室にきた船員だ。

「あの……。余計な事かもしれませんが……こういうのはどうでしょう?」

その言葉に、船長と副長は互いに顔を見合わせた後、「話してみろ」と船長が言う。

「えっとですね。敵の警戒が港や港の近海に集中しているのなら、その警戒を散らせばいいんじゃないかと……」

「確かにその通りだが、どうやって散らすんだ?」

副長が尋ねると、船員は「そうですねぇ……」と言った後、言葉を続けた。

「別のところで騒ぎを起して相手の警戒をそっちに向けるってのはどうでしょうか……」

「面白い案だが、どうやってその騒ぎを起すんだ?」

さすがにそこまでは考えていなかったのだろう。

「あ……、すみません。そこまでは……」

船員が慌てて頭を下げる。

副長が「やっばりか……」と言ってふーとため息を吐き出すが、船長は考え込んでいる。

それに気がついたのだろう。

副長が船長に視線を向けた。

「どうしたんです?」

しかし、その問いに答えずに船長は目を瞑って考え込んでいる。

そして、何か思いついたのだろう。

目を開き、副長の顔を見て船長の口が動いた。

「たしか、ファンカーリル港に向かう間に船を隠すのに向いている島がいくつかあったな」

「え?ああ、ありましたね。無人島ですが……」

そこで何か思いついたのだろう。

副長が声を上げた。

「まさか、そこに本船を隠して、小型の船で港に向かうんですか?」

「それも考えたが、距離がありすぎるし、それに商会に頼まれた荷物があるからな。何回も往復する羽目になるだろうよ」

ルル・イファンに向かう事になって、マックスタリアン商会から案内人兼交渉人一人が付き、それと結構な荷物の輸送も頼まれていたのだ。

荷物の内容は詳しく聞かなかったが、ルル・イファン辺りで冬に流行る病気の予防や治療薬という事であった。

代金はすでに頂いているという話だったが、それは嘘だろうなと船長は思っていた。

恐らく、ルル・イファンがうまく独立した際に、有利になるように先行投資といったところだろうか。

そう考えかけたものの、思考を切り替える。

まぁ、そんな事はどうでもいいか……。

今は思いついた事を説明する事が優先だ。

「確か、この船には小型の発動機付き船が三隻載せてあったよな?」

「ええ。かなり速力が出るやつです」

「それらを使って、それらの島々に事前にいくつか仕掛けを用意しておくんだ。そうだな、船の煙みたいなヤツを発生させるやつとかを……」

そこまで言われて船長が考えている事がわかったのだろう。

「ああ、なるほど……。確か、逃走時の煙幕を用意していますからそれを使えば……」

副長が納得したように頷く。

「だが。問題がある。出港にあわせて騒ぎを起さないと駄目だってことだ。荷物の件や、相手の意向もある。装置の時間設定どおりに出港できるかどうかは……」

無理にあわせることも考えたが、早々うまくいかない場合も多い。

特に、国や大きな組織になればなるほど融通や臨機応変さが失われていく。

だから、常にできない事も考えなければならない。

「わかりませんねぇ……。こればっかりは……」

それは副長も思ったのだろう。

彼の口からもそう言った言葉が漏れた。

「なら、無線を積んだ小型船を残して、その小型船に指示を出せばいいんじゃないんですか?」

「だが、回収はどうする?」

「ある程度、引き付ける装置の時間調節が出来るようにしておいてくれれば、無線で連絡を早めにいれておけば、その船で設定して周り、最後に離れた場所を合流地点として回収してもらえばいいんじゃないですかね」

「ふむ……」

その言葉に船長は考え込む。

確かにそれなら……。

だが、回収できなかった場合はどうする……。

それが頭を過ぎるのだろう。

船長にとって雑草号の船員は家族なのだ。

家族を置き去りにしてしまうかもしれない。

それは決してできない事である。

だから、決断ができないでいた。

それがわかったのだろう。

副長が笑って言う。

「それ、私が志願しますよ」

その言葉に、船長の顔が唖然としたものになった。

まさか志願するとは思っていなかったのだろう。

「おい……。下手したら……」

「なぁに、大丈夫ですよ。成功しますって……」

「しかしだな……」

心配そうな顔でそう言う船長に対して副長は笑って言う。

「小型船と別に燃料と食糧を積んだボートを残しておいて下さい。回収に失敗したと判断したら、その燃料と食糧を小型船に移してルル・イファンに向かいます」

要は、ルル・イファンで保護してもらうから、後で迎えに来いということらしい。

確かにそれなら回収に失敗してもなんとかなるだろう。

「しかし、またルル・イファンに来る羽目になっちまう。どう考えても二度手間になっちまうじゃねぇか」

船長が呆れ顔でそう言うと、副長は楽しそうに言い返す。

「なぁに、なんとかなりますって」

「だといいんだけどよぉ……」

それでも船長の言葉は歯切れが悪い。

やはり心配なのだろう。

それはそれだけ船長が家族思いでもあるからだ。

そんな中、案を出した船員が口を挟んだ。

「あ、自分も志願します」

「あ、何だ?別に言いだしっぺだからって言わなくてもいいぞ」

副長がそう言ったものの、船員は少し驚いた表情をした後、笑った。

「あ、それもありますけど、副長だけだと大変だろうなって……」

だが、その言葉に、怪訝そうな顔をする二人。

さすがに誤魔化せれそうにないと思ったのだろう。

苦笑して頭をかきつつ口を開いた。

「いやね、そんな面白そうな話にのらない手はないかなと思いまして……」

面白そうだから……。

まさかそんな言葉が出てくるとは思っていなかったのだろう。

船長も副長も互いの顔を見合わせた後、笑い出した。

「そうか、そうか。面白そうかっ」

「いいんじゃねぇか。面白いってことは大切だぞ」

それぞれそう言って笑いながら、二人は船員の背中を叩いた。

悲鳴を上げつつも、船員もうれしそうに笑う。

「気に入ったっ。いいぞ。お前の志願を受理するぞ。そういや、お前、確かナーバンって言ったか?」

「ええ。ナーバン・アンバーナっていいます」

「そうか。そうか。副長を頼むぞ」

「もちろんでさぁ」

そう言って敬礼するナーバン。

「ち、ちょっと船長、そりゃ普通は反対じゃありませんか?」

副長が不満だったらしく文句を言う。

「ああ。すまん。なんかこっちの方がしっかりしているような気がしてついな……」

船長のその言葉に副長はあきれ返ったような表情になる。

しかし、文句を言っても仕方ないと判断したのだろう。

ため息を吐き出すと、視線を船長からナーバンの方に向ける。

「まぁ、よろしく頼む」

「いえ。こちらこそ、指示をお願いします、副長」

二人は固く握手を交わす。

そしてその様子をうれしそうに見ていた船長だが、すぐに指示を出す。

「それじゃ、すぐに準備を始めてくれ。それと次の警戒要員にシフト変更の指示を伝えておいてくれ」

「「了解しました」」

二人は敬礼すると駆け出す。

こうして、ルル・イファンに入国前ではあったがファンカーリル港脱出の準備が始まった。

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