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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十四章 ルル・イファン人民共和国の誕生

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ルル・イファンへの道  その2

「無線による無人航行装置?」

フソウ連合海軍の技術部門から出された提案に鍋島長官は思わず聞き返す。

現代ならいざ知らず、世界は1890~1900年の技術レベルであり、ジオラマによっての歴史改竄や新しく第二次世界大戦後期の艦艇を実体化することで技術を会得してきたフソウ連合でさえ1940年後半から1950年前半程度の技術レベルなのだ。

それゆえに標的艦で使ったのは事前にそう動くようにプログラムしたものであり、その技術でさえもこの世界ではほとんどないに等しい。

確かに旧日本海軍は1928年に無線操縦装置を完成させていたという話もあるから出来ない事はないだろうが、そういった話が自分ではなくこの世界の人から『無線による無人航行装置の開発の許可をいただきたい』と言われて驚いてしまったのだ。

そんな鍋島長官の驚きに気がつかないまま、提案してきた技術研究部門の者は返事を返す。

「はい。前回の実弾砲撃訓練の際に技術的に関わった者から無線による遠隔操作をする事で実弾演習での練度向上に貢献できるのではないかと提案を受けたもので……」

つまり、前回の事前行動機構作製に関わった者が思いついたようだ。

面白いな……。

かなり研究を重ねなければミサイルや誘導兵器なんかはとても無理だろうが、将来的なことを考えると研究するに値するだろう。

「わかった。予算を回そう。それと今ある標的艦ではなく、今回の研究用に新たに数隻艦艇をまわすように手配する。だから、書類の方は今日中になんとか用意してくれ。すぐにでも承認し、研究に移れるようにしておこう」

まぁ、部品取りや改造で余った艦体なんかもあるし問題ないだろう。

そう思って鍋島長官は言ったのだが、提案をしてきた者は自分らの話をきちんと聞いて即断即決してくれた事に感動したのだろう。

「ありがとうございます。すぐにでも書類を作成し、班を編成して長官のご恩に報いれるように速やかな技術構築に移りたいと思います」

長官の両手を握り締め、潤んだ瞳で長官を見つめてその熱い思いを伝えるものの、鍋島長官はその熱意に圧倒されて「あ、ああ……頼むぞ」という事しかできないでいる。

だが、提案してきた者は相変わらずそんなことに気がつかず、すぐに立ち上がるとうれしそうな笑顔のまま敬礼して退室していった。

「ふう……」

退室した瞬間、鍋島長官は深くを吐き出して身体の力を抜くとソファに身を任せる。

少し熱気に当てられたような気がしたから、少し休みたいと思ったが、その願いは届けられなかったようだ。

恐る恐るではあったがドアを開けて東郷大尉が声をかけてくる。

「すみません、長官。外交部補佐官の中田中佐から緊急でご報告したい事がという連絡が来ております」

その言葉に、鍋島長官は脱力した身体に活を入れると背筋を伸ばして東郷大尉の方に視線を向けた。

「わかった。すぐに会うと伝えてくれ。それとこの後の予定は?」

「本日は、会議や面談の予定はありません」

「そうか、もし入った場合は、調整をお願いするよ」

「了解しました。中田中佐にすぐにこちらに来るように伝えます」

「ああ、頼む」

東郷大尉はうなづくとドアを閉める。

おそらくすぐに連絡を取るだろうから、すぐにでも中田中佐は来室することになるだろう。

しかし、彼が緊急で知らせたいということはおそらく外交的なものだろうが、なんだろうか。

あまりにもありえそうな事ばかりで予想がつかない。

仕方ない。

彼が来たらすぐにわかるのだ。

彼が来るまで、いろいろ考えるのは止めておこう。

そう判断すると鍋島長官は深く深呼吸をしたのだった。



「以上が、共和国のアリシア・エマーソン様から大使館宛で伝えられた極秘情報であります」

中田中佐の報告に、鍋島長官は困ったなという顔で顎をなでている。

「まさかこっちに来るとはなぁ……。まぁ、確かに消去法だと他に手がないのはわかっていたが……」

そう言ってため息を吐き出した後、呟く様に言葉を続けた。

「巻き込まないで欲しいなぁ」

今のところ、リットーミン商会の代表であるポランド・リットーミンとはいろいろあるものの、それ以外の連盟関係者や国としてもまったくと言っていいほど繫がりも何もない状態なのだ。

それどころか集めた情報では、目の敵にされている様子だ。

まぁ、自分達の利益がフソウ連合によって削られていく現状に納得いかないのだろう。

だが、それだからと言ってわざわざ敵対する必要性はない。

嫌いなら嫌いで構わないし、距離を置けば早々問題になることはない。

なんせ、連盟とは距離が離れているのだから……。

だが、ここでルル・イファンに関わる事は間違いなく彼らに対して敵対行為にしかならないことは間違いない。

さて、どうしたものか……。

腕を組んで考え込む鍋島長官だったが、ふと目の前の中田中佐に声をかける。

「君ならどうするかな?」

「い、いや……自分は……」

そう言いかけたものの、鍋島長官の視線を受けると言葉を止めて考え込む。

常に考えて自分の意見を持つことを長官は求めている。

それを思い出したからだ。

実際、ここ最近の会議では、以前のような長官が会議を主導するといった感じではなく、各自の意見を出しあって話し合う形になりつつある。

『自分の意見に縛られるのは良くないが、自分の考えを持つのはいい事だと思う。そしてその上で、他者の意見を取り入れ、国にとっても国民にとってもより良い結果になればいい。僕はそれを皆に求める』

長官が以前言われていた言葉だ。

名言だと思う。

実際、その話以降の会議は、かなり雰囲気が代わった。

特に、若手の発言が活発化し、会議に活気がもたらされたように感じる。

「そうですね……」

まずそう言った後、中田中佐は考えつつ言葉を続けた。

「現状では、会って話を聞いたくらいでは特に問題にならないでしょう。ですから、話を聞き、曖昧にしておくというのが無難でしょうが、それでは意味がないと思います」

中田中佐の言葉に、鍋島長官はうれしそうに微笑む。

「なぜそう思ったんだい?」

「恐らくですが、共和国がこの情報を我々に秘密理に伝えたのは、我々にどうするかを決断させる為にあるのではないかと思うのです。一応、我々は独立擁護を彼らには話していますから、実際になったらどうするのか、それが問われているのだと思います。だから無難な対応では駄目だと思います」

「確かに……。ではどうすればいいと思うかな?」

その問いに、中田中佐は考え込む。

そして決したように口を開いた。

「現状では何とも……。やはり情報が少なすぎます。ルル・イファンや連盟の状態、それに各国のこの独立戦争に関する対応の情報集め、そしてルル・イファン側の話を聞いてから判断するとしか……」

最後は段々と声が小さくなったものの、その意見に鍋島長官は頷く。

「いいと思うよ。確かに正確な情報がまだ足りないし、何より、本当にルル・イファンが我々に接触してくるかも不明だからね。ただ、どういう事態になっても対応できるように準備だけはしっかりやっておく必要はあるかな」

「はい。了解しました」

そう言って頭を下げる中田中佐だが、その顔にはほっとしたような笑顔があった。

それは安心感といったらいいだろうか。

尊敬すべき、そして偉大な人物。

彼らにとって、鍋島長官はまさにそう言った人物であった。

そんな、この一年近くフソウ連合を牽引し、自国を強国に育ててきた中心人物に認められたという思いがあるからだろう。

だが、今のままで満足してもらっては困る。

もしかしたら、自分がいない場合に判断を迫られる事もあるかもしれない。

そう判断したのだろう。

「外交に関しては、いざとなったら君が責任を持って決断しなければならないことが今後あるだろう。だから、もっと自分に自信を持ち、より責任を果たすよう今後も努力して欲しい」

それは鍋島長官から中田中佐に対してのエールだ。

その言葉に、「はっ。精進いたします」と返礼し中田中佐は表情を引き締める。

この方にもっと認めてもらえるようになりたいと思いつつ……。

こうして、ゆっくりとだがフソウ連合海軍は鍋島貞道という一人の人物が主導する今までの形式から少しずつ形を変えつつあった。




出港してから問題なく航海を続ける雑草号。

しかし、まもなくルル・イファンにさしかかるであろうアーミンチ海峡にて問題は発生した。

「船長、夜分遅くすみません……」

船長室のドアが遠慮気味にノックされる。

「あ、ああ。どうした?」

「実は、見張りのやつが警戒しているらしき艦影を見つけたんで……」

隣で寝ているミランダを気遣ってだろう。

船長はベッドから起き上がるとドアを開けて船長室から出ると伝令に来た船員に声をかけた。

「よくわかったな」

「ええ。派手に探照灯を灯していまして……」

その言葉に、船長は苦笑する。

あまりにも警戒しているアピールが強すぎる為に……。

要は警戒しているから近づくなという事を示したいのだろう。

そうすることで、警戒任務を全うしつつ面倒ごとに巻き込まれないようにしているといったところだろうか。

逆に本当にやる気のある連中なら、灯す明かりは最小にして警戒に当たるだろう。

つまり、やる気はないが、やっている振りだけは見せたいといったところか

連盟の軍の士気は低いとは聞いていたが、こうもあからさまに思考が透けて見えるのはもう笑うしかない。

「こっちは?」

「ほぼ、無灯で、さらに新月ですから発見されていないかと……」

「そうか。なら警戒をしつつ進むように伝えろ。また、発見されたと思ったときはすぐに知らせるんだ。もっとも、このまま進んでもおそらく入国はそれほど難しくないだろうがな……」

そう指示を出しつつ、船長は考え込む。

連中の士気ややる気の低さ、それに警戒する範囲の広さを考えれば、確かに入国はそれほど難しくはない。

しかし、問題は出国だ。

恐らく、港近海は警戒されているだろう。

さて……どうするか……。

何か手を打っておく必要があるな。

そう思いつつ、いつまでたっても待っている船員に気がついた。

「ん?!どうした?」

「い、いえ。まだ指示があるかと思いまして……」

恐る恐るといった感じでそう聞いてくる船員に、船長は合点がいく。

確か、この船員は今回新しく入ったやつだったな。

だから、考え込んだ船長にまだ指示があるのかもしれないと判断し待っていたのだ。

一緒に航海して慣れてきたとはいえ、やはりその辺はまだまだといったところだろうか。

古株の連中なら、すぐに「了解しました」と言って伝令に走っただろう。

「ああ。すまんな。追加の指示はない。今の指示を伝えておいてくれ」

「了解しました」

そう返事をして伝令の船員は艦橋に向かって走り出す。

その後姿を見つつ、再び船長はどうやって出国するかを考えながら船長室に戻ったのだった。

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