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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十四章 ルル・イファン人民共和国の誕生

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ルル・イファン独立戦争  その3

上陸部隊が敵の攻撃を受けている。

その報は、第九艦隊のケンカシア艦隊司令にすぐに届けられた。

「な、なんだと?!もう一度言ってみろっ」

怒鳴るように言われて通信兵が肩を竦める。

そして、腹辺りに手を当てて顔をしかめていた。

しかし、それでも彼は職務に忠実だった。

「敵の砲撃を受け、上陸部隊にかなりの被害が出ているようです。また、先行していた傭兵部隊は敵地に孤立したと言っています」

その言葉に、ケンカシア艦隊司令は声を張り上げる。

「なんじゃそりゃっ。予定と違うではないかっ!!」

そう言って海図が載ったテーブルを蹴り上げる。

その様を見つつそこにいた艦隊司令以外の者達は思っただろう。

何でもかんでも予定通りになるわけないだろうが……。

ましてや、これは戦いだぞ。

何を考えてやがるんだ、この馬鹿野郎はっ。

だが誰も黙り込んでいる。

上陸部隊には悪いが、いくら言ってもこの男には無駄とわかっていたし、余計な事を言っていろいろもめたくはなかったからだ。

「ええいっ。くそったれめ。砲撃中止っ。艦隊はこれより上陸部隊の援護に向かう。急げぇぇっ」

命令が下され、艦隊は砲撃を中止し、隊列を外れてその場を離脱しようとする。

しかし、それは出来なかった。

なぜなら、島影から戦艦一隻、装甲巡洋艦四隻が姿を現すと離脱しようとしている第九艦隊に攻撃を開始したからだ。

その艦隊は決して大きくはないが、ルル・イファンが保有する海上戦力の唯一の主力で、海岸上陸を始めた際、撹乱の為に後方から第九艦隊に攻撃を仕掛けるように指示を受けて待機していたのだ。

そして、艦隊指揮を任せられたリッランパ・ペタンドラン大尉は、第九艦隊のその動きを見て今だと独自判断して攻撃を仕掛けたのである。

警戒していなかった第九艦隊のそれぞれの艦艇は、予想外の攻撃に混乱し対応が遅れた。

そんな中、ルル・イファン艦隊は砲撃する艦艇から離れて比較的沖合いに待機していた支援艦に攻撃を集中させていく。

「いいかっ。戦闘艦には目もくれるな。支援艦だ。一隻でも多く支援艦を沈めろっ。連中を飢えさせてやれ」

旧型の艦船しかないルル・イファン艦隊にとって、まともな戦闘艦同士の戦いでは質も量も圧倒的に不利であり、大きな被害を与えれる相手は限られている事をペタンドラン大尉はわかっていたのである。

また、この戦いでルル・イファン唯一の艦隊戦力を失うわけにはいかないとも考えていた。

だからこその命令であった。

そして、この奇襲は大成功となる。

第九艦隊の戦闘艦が態勢を整えて砲撃を開始して動き始める間に、実に三隻が撃沈、二隻が大破、一隻が炎上という状況になっており、支援艦の総数は八隻という事を考えれば、その75%にあたる六隻に被害を与えたというのはまさに大戦果と言っていいだろう。

その成果に満足したペタンドラン大尉はすぐに命令を下す。

「よしっ。各艦に伝達っ。さっさと逃げるぞ」

本当なら、撤退とか後退とか言えばいいのだろうが、ペタンドラン大尉はそんな着飾った言葉は好きではないようだった。

第九艦隊から砲撃が始まり、装甲巡洋艦が支援艦を守るように動き出すと、ルル・イファン艦隊は深追いはせずさっさと戦線を離脱し始める。

その鮮やかな撤退に、第九艦隊のケンカシア艦隊司令は地団駄を踏み、怒鳴り声を上げ、物や部下に当り散らす。

その様子は、まさに自分の思い通りにならない事に腹を立てて暴れる我侭な子供のようであった。

もっとも、見た目は子供の様にかわいいものではなかったが……。

それでも副官であるポラルファ大尉が艦隊をまとめさせ、被害を確認させる。

弾薬などの艦艇の消耗品を積んでいた補給艦二隻と給油艦一隻が沈没。

大破した二隻の給油艦はなんとか動けるものの、その速力は十ノット以下で艦隊と共に動ける有り様ではなく、炎上している一隻の補給艦はもう手が付けられない有り様で、自沈処理するしかなかった。

その結果、艦隊と共に行動できるのは給油艦一隻と補給艦一隻の二隻のみであり、特に弾薬などの消耗品を載せている補給艦三隻を失ったのはかなりの痛手であった。

なぜなら、港に対しての威嚇砲撃で戦闘艦の多くが大量の弾薬を消費していた為である。

「まいったな……」

ただ怒鳴り散らして暴れるだけのケンカシア艦隊司令を横目で見ながらポラルファ大尉は呟く。

燃料がなければ、戦艦もタダの鉄の塊であり、弾がなければどんな砲も張子の虎だ。

本国に補給支援を頼んだとしても、議会の駆け引きなどもありすぐにとはならないだろう。

各港に回した戦力を呼び戻すという手もあるが、それは恐らく無理だろう。

もし引き上げた場合、その事を逆手にとって港の責任者たちは第九艦隊だけでなく、ケンカシア商会に対しても非難を浴びせる事になる。

そうなれば、これから以降のことに大きなマイナスとなるだろう。

そう言えば、父から、商人にとって信頼は財産よりも大切なものだと教え込まれていたっけな……。

そんな事を思い出しつつポラルファ大尉は苦笑する。

やはり自分にも商人の血が流れているとわかって……。

だが、このままここで留まっていてもどうしようもない。

荒れる艦隊司令になんとか上陸部隊と合流する為の艦隊移動の許可を取り、指示を出しながらポラルファ大尉はこれからの事を考えると気が重くなっていった。



砲撃を受けて被害を出しつつもなんとか上陸部隊は砲撃の届かない沖合いに撤退することに成功した。

しかし、その被害は甚大である。

特に、最初に上陸部隊の主力である正規軍五千を任されているギャラリン・リフトラサ大佐が戦死した事により、指揮系統がパラパラとなってしまったのが痛かった。

好きなように打ち込まれ、被害が拡大する中、それでも砲撃の届かない沖合いになんとか逃げ出した事がで来たのは、上陸部隊の旗艦を務めるハンパラーナ号の船長の指示があったからだ。

彼の指示がなければ、被害はもっと拡大したであろう。

その被害だが、上陸主力五千のうち、実に八百六十五名が死亡及び行方不明となり、八百名以上が負傷、また輸送船二十四隻のうち、撃沈一隻、大破・及び座礁六隻、小破二隻となり、損害は九隻にも及ぶ。

その上、先鋒の傭兵部隊六百は敵地で孤立という有り様。

事実上、戦力の約半分が失われたといっていいだろう。

これは輸送船が浅瀬で動きがとりにくいという事と上陸の為に動きを完全に止めていたという事が大きかった。

砲撃する側にとっては、大きな輸送船はまさにいい的であった。

また、上陸地点の海岸は、あまりにも見通しが良すぎた。

「いいかっ。あれだけでかい目標に、砲撃し易い地形だ。お前達の今までの恨みを思いっきりぶつけてみろ!!」

砲撃を任せられた傭兵団『飢えた狼達の巣』の幹部は煽るように砲手達にこう叫び、砲手達はそれに答えたのである。

その結果、ルル・イファン軍の士気はうなぎのぼりに上がったのは言うまでもない。

そして、敵が後方に引き下がったのを確認すると、海岸に残った敵の残党の処理と、傭兵団を村に封じる事を行いつつ、それ以外の兵士達で火砲の移動の準備を始める。

甚大な被害を受け、もう今日は攻撃してこないと判断しての行動である。

まずは弾薬や砲弾が運び出され、最後に火砲となる。

そして木などで作られたダミーの火砲がずらりと並べられ、また、運び出されたものは、準備が終わって火砲を運び込むだけとなっていた次の陣へと移されていく。

こうして、上陸部隊がそのあまりにも大きな被害の把握と収拾に手間取る中、ルル・イファン軍は明日のための準備を進めていたのであった。



十八時過ぎ……。

第九艦隊と上陸部隊はなんとか合流を果たした。

そして互いの被害に驚く事となる。

第九艦隊は、戦闘艦こそ無傷であったが多くの物資と支援艦を失い、上陸部隊は指揮艦を初めとする戦力の約半分を失ったのである。

その被害は、艦隊上層部にとっては悪夢であり、それほど高くない艦隊の士気は一気に落ち、暗澹とした雰囲気が兵達の間に広がっていく。

そして、この結果を踏まえ明日以降の作戦の見直しが図られることとなったのは言うまでもない。

だが、この日の戦いはこれで終わりではなかったのである。

その日の深夜に近い時間帯、天候の悪化で雲によって月が隠れる闇の中、八隻のボートと変わらないレベルの大きさの船が静かに沖合いで停泊している艦隊に接近する。

そんな明かりも音もなく静かに接近するそれらに第九艦隊の見張りの兵達は気がつかない。

中には居眠りをしているものさえいた。

そんな緩んだ警戒の中、八隻の船はそれぞれ目標にしていた艦船に取り付く。

そして、船に乗っていた黒ずくめの男達が艦船の中に乗り込んでいく。

それから十分後、男達の乗り込んだ艦船で騒動が起こった。

ルル・イファン軍の夜襲である。

ある船は火災が……。

ある艦艇は爆発が……。

ある戦闘艦は銃撃戦が……。

その騒動に、静まり返った第九艦隊の艦艇は蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。

そんな中、侵入していた黒ずくめの男達はそのままうまく海に飛び込み逃走したが、それでも被害は出る。

参加した五十一名のうち、八名が射殺され、一人が自決、一人が行方不明となった。

しかし、それ以上に第九艦隊に与えた被害と精神的衝撃は大きかった。

装甲巡洋艦レンターナーラが爆発の後、その火が弾薬庫に引火して轟沈。

輸送船ツールベラリル号では火災により上陸部隊の兵、二十二名が死傷した。

また、それ以外にもそれぞれ乗り込んだ艦船に被害を与えたが、何より大きかったのは、沖合いにいても夜でも安全ではないということだ。

兵士達は、いつ襲われるかも知れないという不安と気を緩めれば死んでしまうという恐怖にこれから蝕まれていくこととなるのである。

そして、それは下がった士気がますます落ちていく事を示していた。

こうして、ルル・イファン人民共和国と連盟の戦いの一日目が終了したが、それは誰の目から見ても連盟の惨敗であった。

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