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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十四章 ルル・イファン人民共和国の誕生

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日誌 第三百七十六日目

定例会議から三日後、小会議室で艦隊編成と人事の件で山本大将、新見中将と話し合いが終わって長官室に戻ると、部屋の入口で東郷大尉から来客が部屋で待っている事が告げられた。

「えっと……誰かな?」

「外交部補佐官の中田中佐です」

「どれくらい待ってるんだい?」

「はい。二十分程度かと……」

「そうか……」

短くそう返事を返して考える。

話し合いはほぼ時間通りに終わっている。

つまり、二十分程度なら待つという選択が出来る事から、それほど緊急ではないということだ。

それに本当に緊急ならば、小会議室にすぐに連絡がきただろう。

ならばなぜ待っているのか……。

要は僕の指示か意見を聞きたいといったところだろうか。

そう推測すると、東郷大尉に声をかける。

「すまないけど、僕の分の紅茶と中田中佐の紅茶のお代わりを用意しておいてくれるかな?」

「はい。お任せください」

うれしそうに笑ってそう言う東郷さんに微笑を返しつつ、僕はドアを開けた。

「失礼かとは思いましたが、待たせていただきました」

ソファに座って待っていた中田中佐は、僕が入ってくるとそう言いつつ立ち上がって敬礼する。

「気にしなくていいよ。何か聞きたいことか指示を受けたい事があったんだろう?」

僕が返礼しつつそう言うと、中田中佐は少し驚いた表情の後、苦笑いを浮かべた。

「わかりますか……」

「なんとなくだけどね」

そう答えつつ、僕はソファを薦めて座ると中田中佐もソファに座った。

そして、中田中佐が取り出したのは一つの報告書だった。

『現在の各国植民地対策』とタイトルが付けられている。

「これは……」

「はい。以前、今回の独立運動の活発化に対して情報を集めるように言われていたものです」

「そうか。読ませてもらうよ」

僕はそう言って報告書に目を通し始める。

そこには、主要な各国の植民地の現状とそれに対する宗主国の対策、それによってどう変化したのか、それらが書き記されている。

かなりの量ではあるが、うまくまとめられているためか読みやすい。

これを書いた人は、かなりこういった文章を書きなれているようだ。

そんな事を思いつつ、将来的には僕の変わりに外交の判断を下さなければならなくなる事が予想される外交部補佐の彼が、この報告書をどう思ったのかそれを聞いておきたくなった。

だから、報告書を読みつつ、僕は中田中佐に声をかける。

「君はこの報告を見て、各国の対応をどう思ったかな?」

まさか聞かれるとは思っていなかったのだろう。

中田中佐は東郷大尉が新しく用意した紅茶を飲もうとしていたが、慌ててカップを揺らしてこぼしてしまいそうになる。

「あ、すまん……」

慌ててそう言うと、「いや大丈夫ですよ」と言って中田中佐は少し困った顔をした。

その様子からは、言っていいのか迷っている様子が見受けられた。

だから僕は笑いつつ言う。

「何、とって食おうとか言うものではない。君がこの報告書から感じたものを知りたいと思っただけだよ。素直に意見をお願いしたい」

そう言うと、中田中佐は少しほっとしたような表情を浮かべて、「そうですね……」と口を動かす。

「あくまで個人的な意見ですが、王国、共和国は実にうまくやったと思います。それはあれだけ起こっていた暴動や独立運動が一気に下火になっただけでなく、それどころか独立しなくていいと思う者達が出て来たことからも窺えます」

「うんうん。確かにその通りだ」

「ただ、それは植民地政策がこのまま続けていいという事ではないともいえますが……」

その言葉に、僕は報告書から視線を中田中佐に向けて聞く。

「ほう……。なぜそう思ったんだい?」

恐らく僕は笑っていたと思う。

そんな僕の様子に、中田中佐は笑い返して言う。

「長官は以前言われていましたよね。確か……『確かに今回は援助を受ける事で一旦は収まるかもしれない。しかし、一度火のついた独立への思いは消し去ることはできないだろうし、何より大きくなる事はあっても小さくなることはほとんどありえないと思っている』と……。その意見に私も同意だからです」

確か、三者会談の時に、アッシュやアリシアに言った言葉で、そう言えば中田中佐も参加していたな。

「よく覚えていたな」

「ええ。長官の言葉は、勉強になりますからね。それに納得できることも多いですし……」

「そうか。では、それ以外の国に関してはどうだい?」

「そうですね。連盟に関しては、あくまでも一部の者のみが利権を求めて動いている印象で、あれでは反発も起こるでしょう。暫くはごたごたが続きそうな感じですね。そして教国ですが……あれは最悪の選択だと思います。あれだけ弾圧をやってしまえば、反発しか生まないでしょう。そうなると血みどろの戦いとなり、どちらかが根を上げるまでの持久戦となりますし、もし独立した場合、間違いなく反教国の方針となるでしょう。そうなると教国は一気に力を失う事になりかねません」

「ふむ。僕の思っていることとほとんど同じだな。それで連盟や教国の今回の件で打開策はあると思うかな?」

僕がそう聞くと、中田中佐は考え込んだがよい案が浮かばなかったのだろう。

「自分では思いつきません」

「そうか、実は僕もなんだ。ここまでいってしまった場合、事実上、教国の場合は修復は不可能だと思っている。だから、もしかしたら我々も同じような事態になった時、ここまで行き詰らないように常に注意しなくてはいけないと思っているんだ」

「確かに、そのとおりです。ですが、教国は無理ですが連盟はまだ手があるんですか?」

「ああ。連盟はまだ手があると思っている」

僕の言葉に、中田中佐は驚いたような顔になった。

「それは……一体……」

「独立を素直に認め、投資し、国作りを手伝う事だ。そうすれば、まぁ、一気には無理でも、時間が経てば怒りや不満よりも恩が大きくなるだろうし……」

僕はそこまで言って、ふとある事を思い出した。

そう言えば、そうならなかった国が日本の近くにあったなと……。

恩を仇で返し、無理難題を迫る国が……。

だから、苦笑して言葉を付け加える。

「まぁ、必ずそうなるかどうかはわからないけどね……。常識や文化は国々によって違うものだしなぁ」

その僕の言葉に、「なるほど……。確かに……」と中田中佐は納得したように頷く。

今の言葉によほど真実味があったようだ。

そんな中田中佐を見て、思わず僕は苦笑いを浮かべるしかない。

「それで、報告は以上かな?」

「いえ。実はもう一点あります」

「ふむ。聞こう」

僕がそう言って身体を前に乗り出すと中田中佐は口を開いた。

「アカンスト合衆国の駐在大使であるアーサー・E・アンブレラ特使が本日の午後、本国に戻るそうです」

その報告に僕は少し考える。

駐在大使の帰国は、外交ルートを通じた抗議伝達より強い意味を持つ場合もあるからだ。

合衆国とフソウ連合の間では、合衆国大使が帰国するような問題は起こってはいないはずだが、もしかしたら海賊国家との交渉を始めた事に対する抗議だろうか。

そんな事を考えつつ聞く。

「原因は何かな?」

どうやら僕の表情はかなり真剣なものだったのだろう。

そう聞かれて、慌てて中田中佐が答えた。

「あ、抗議とかいった意味ではないそうです」

それを聞き、僕は顔の筋肉を緩める。

「そうか。それならいいんだけどね」

「はい。私も不審に思い、特使から報告を受けたときに聞き返しました。彼が言うには『本国でゴタゴタがあってね。その尻拭いに戻るだけだから。フソウ連合との関係が問題になって抗議とかの意味ではありませんよ』と言われていました」

「そうか……。ゴタゴタか……」

呟く様に僕が言うと、中田中佐が少し声を潜めていう。

「恐らくですが、なにやらもめているという話を聞いております」

「それは大使館からか?」

「はい。合衆国の駐在大使からの報告です」

「そうか……」

そう言って僕は立ち上がるとデスクのインターホンのボタンを押した。

「東郷大尉、すまないが諜報部の川見大佐は本部にいるかな?」

「はい。本日は、居られる予定ですが……」

「なら呼んで貰えないかな。合衆国の件でと伝えてね」

「了解しました」

東郷大尉の返事を聞いて、僕はボタンから手を離す。

そして、中田中佐の方に視線を向けた。

「すまんが、そういうわけなんで少し待ってくれるかな?」

「それは構わないのですが……」

「何、川見大佐からの情報を君も知っておいたほうがいいと思ったからね」

「それって……」

「ああ。一週間ほど前に合衆国の動きに関して諜報部から報告書が来ていてね。それ以降進展があったかも聞きたいし……」

「なるほど……。わかりました」

そして、三十分もしないうちに、長官室に川見大佐がやってきた。

部屋にはいってきた川見大佐はすぐに敬礼し、中田中佐がいる事で呼ばれた理由がわかったのだろう。

薦められるままソファに座る。

そして東郷大尉は川見大佐の紅茶と僕らの二つの分も新しいものに取り替えて退室しようとする。

「ありがとう」

僕が退室してドアを閉めようとする東郷大尉にそう言うと、東郷大尉はニコリと微笑むと少し頭を下げてドアを閉めた。

視線を東郷大尉から川見大佐に移し、僕は口を開く。

「それで合衆国の件だが、本日午後からアーサー・E・アンブレラ特使が本国に帰還するらしい」

その僕の言葉に、川見大佐は少し驚いた顔になった。

「それは初耳ですね」

「僕も今聞いたからね。つまり、諜報部も知らなかったという事は、かなり緊急という事か……」

「でしょうね」

「ここまで慌てての特使の緊急帰国という事は……」

「おそらく、報告以上に合衆国内の反フソウ連合派が勢いを盛り返しているんでしょう」

僕らの会話に中田中佐が入る。

「反フソウ連合派ですか?」

「ああ。フソウ連合脅威論を元に、フソウ連合に敵対する勢力らしいぞ」

僕がそう言うと、中田中佐は驚いた顔で聞いてくる。

「なんですか、そのフソウ連合脅威論って……」

「名の通り、フソウ連合の存在が合衆国を圧倒し、脅威となるだろうと推測されるという論文だ。合衆国の著名な経済学者が出したらしい。そして、それが合衆国内に広まって信じられ始めているといったところか……」

川見大佐の説明に、中田中佐が信じられないといった表情になる。

「何ですか、それは……」

そんな中田中佐を見つつ、僕が補足する。

「まぁ、合衆国は世界の中立国としていろいろな国々のトラブルを治めてきたという図式が今まであった。しかし、そこにフソウ連合という国が現れ、合衆国に取って代わろうとしていると思っているようだね」

「そんな馬鹿な……」

「僕だってそう思いたいけど、今やフソウ連合は強力な軍事力を持ち、自国よりも優秀な工業製品を輸出し始め、さらに国際的な機関を作り、色々な事を実施して存在感が増している。もし僕が合衆国側なら、脅威と思ってもおかしくないよ」

「ですが、王国や共和国ではそういった動きはありません」

「それはそうさ。親フソウ連合派のアッシュやアリシアが主導権を握っているからね。それに今回の援助の件なんかでかなり親フソウ連合派を増やしたんじゃないかな」

その僕の言葉を引き継ぎ、川見大佐が言葉を続ける。

「しかし、合衆国の今の政権は中立派であり、合衆国全体もあくまで中立派が主流です。そして、親フソウ連合派は今のところ少数といったところです。なお、アーサー・E・アンブレラ特使は向こうでは親フソウ連合派と認識されているようですね」

そこまでの話で思いついた事があったのだろう。

中田中佐が口を開く。

「つまり、特使が呼ばれたということは……」

「ええ。おそらく、親フソウ連合派の特使が必要な厄介ごと、この場合、間違いなく反フソウ連合派を抑えるためだとは思いますが、確定ではありません……」

川見大佐の言葉に、僕は聞き返す。

「今の時点ではそこまでが限界ってことか……」

その言葉に、川見大佐は申し訳なさそうに頭を下げる。

「すみません。今の時点では……まだ……」

「ああ、責めるつもりでいったわけじゃないんだ。ただ、現時点での限界を確認する為に聞いただけだから。しかし、よくやっていると思うよ。現時点でここまで情報が集められるようになっているとはね。引き続き、情報収集を頼むぞ。かなりきな臭い感じだからな」

そう言うと川見大佐は「勿論です。より情報収集に努めます」といって頭を下げた。

そして、僕はそんな川見大佐から中田中佐に視線を移す。

「つまりはそういうことだ。外交部としても合衆国の動向に注意を割いて欲しい」

僕の言葉に、中田中佐も頭を下げる。

「了解しました。こちらも手を尽くします」

「ああ。二人とも頼むぞ。いかにに早く正確な情報を手に出来るかは君達が頼りだからな」

僕の言葉に、二人は立ち上がり敬礼した。

「「了解しました」」

その二人を僕は頼もしく思いつつ返礼を返したのだった。

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