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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十四章 ルル・イファン人民共和国の誕生

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日誌 第三百七十三日目

連盟の一植民地であるルル・イファンの独立宣言。

それと連盟の討伐艦隊派遣の情報を聞いたのは、フソウ連合の定例会議中であった。

「ついにか……」

一揆勃発後、本国は討伐隊を派遣するでしょう。

そう情報を送ってきたのは、リットーミン商会の代表であるポランド・リットーミンからである。

彼にとって、連盟は祖国ではあるがかなり愛想が尽きていたんだろう。

その報告にはボロクソに文句も追加されていた。

その報告書を読みながら思わず苦笑が漏れてしまったほどだ。

おかげで東郷大尉に「報告書で笑っているのを始めてみました」とか言われてしまった。

まぁ、報告書っていうのは笑いを取ったり愚痴を書いたりするものではないのだから、予想外のいきなりの愚痴のオンパレードには誰だって笑ってしまうだろう。

ともかく、事前にそういった情報は手にはいっていたし、事の流れ的にも、独立宣言や討伐艦隊派遣は起こるだろうなとは思っていた。

だから、漏れた言葉が「ついにか……」という訳である。

まぁ、僕の予想よりは両方とも動きは遅いと思っていたが……。

恐らく、討伐艦隊は連盟の中枢が利益を求める大商人の集まりである以上、利権や駆け引きで遅くなったのであろう事はすぐ想像ができた。

しかし、独立宣言が一週間以上経ってというのは予想外だった。

僕としては一揆が起こって三日後の連盟勢力を追い出してから行なうと思っていたのだ。

しかし、宣言されたのは十月に入ってから……。

その上、出された宣言の文面も連盟の時のような突込みどころ満載のものではなく、実にきちんと民衆の為であるという事を強くアピールするのと同時に連盟の非道さを訴える事で自分達の独立に至った行動の正しさを宣言するものであった。

そして、その宣言にはなんとか国際的な同情を引き、独立の為の後ろ盾を欲しているのが見え隠れしているし、一揆後の地域一帯の掌握のうまさや軍や市民に混乱も起きずにまとまる辺り、かなりの準備をしてきたのがわかる。

つまり、一揆の勢いで宣言したといったものではない、今回の独立はかなり本気であるという事だ。

そういったことからも代表となっているアヴドーチヤ・フョードロウィチ・ラスコーリニコフはカリスマもありかなりしたたかな男といった印象を受ける。

だがな……。

そう思って頭をかいたときだった。

ふと気がつくと会議に出席していた全員の視線が僕に集まっていたのに気がつく。

要は、僕がどんな反応を示し、話をするのか待っているといったところだろう。

「おっと、何かな?」

笑いつつそう聞くと、実働部隊の長である艦隊司令の山本大将が実に楽しそうに口を開く。

「いや何、長官のお考えを聞いておきたいなと思いましてな」

「僕の考えなんて聞いても面白くはないよ」

そう笑って言い返すも、興味津々な全員の視線は相変わらず僕の方に向いている。

仕方ないか……。

そう判断すると、テーブルに用意されていたコーヒーで少し口を湿らせて口を開いた。

「そうだね。今回の独立宣言については、よく出来た文章だと思う。それに自分達の独立の正当性をうまく言い表しているね。連邦の時とは大違いだよ」

僕のその言葉に、連邦の時の独立宣言を思い出したのだろう数名が苦笑を浮かべた。

「それで長官としては今回の独立宣言と連盟の艦隊派遣はどう対応されるのでしょう?」

そう聞いてきたのは、外交部補佐官の中田中佐だ。

彼にしてみれば、他国から問われた時、フソウ連合としての立場を表明しなければならないこともあるだろうからきちんとしたいだろうな。

そんな事を思いつつ答える。

「相手にしないよ」

僕の言葉に、山本大将は実に楽しそうに、海軍参謀本部本部長の新見中将は頷きつつ納得した顔をしていたし、会議に出ていた者もほとんどが似たような反応だった。

そんな中、中田中佐と秘書官の東郷大尉だけが驚いたよう顔をしている。

「なぜでしょうか?」

中田中佐が聞き返す。

まぁ、彼の仕事柄、理由は説明しておいた方がいいだろう。

そう判断して、僕は説明をすることにした。

「理由は三つある。一つ目は距離が離れすぎていること。距離が離れているということは、何をするにおいても時間差が生まれ、そして費用がかかるってことだからね。そして二つ目は、関係性が薄いことだ。これが貿易をしていたり、取引があれば少しは動くかもしれない。しかし、ルル・イファンとの取引はほとんどない上に、正式な国交を持っていない連盟の植民地だ。これでどう関わろうというのか。もし関わった場合、どんなトラブルに巻き込まれるかわかったものじゃない。つまり、他所の家庭内トラブルにまったくの他人が理由も知らずに首を突っ込むとろくな事にしかならないということだ。そして三つ目。それは我が国に利益がないことだ。手を出すのも、口を突っ込むのもタダじゃない。費用がかかるものだ。そして、その費用分は返ってくるかというと、そうはならないとしか今のところは予想できないしね。まぁ、理由としてはこんなところかな……。恐らく、今回のことだけでは王国も共和国も動かないだろうね」

「つまり、すばらしい独立宣言だけでは、他国は動かないってことですか」

「そういうことさ。人は利がなければどうしても動かないからね。それこそ、利を超えたものがあれば別だけど……」

「利を超えたもの……ですか?」

思わず気になったのだろう。

東郷大尉がきょとんとした顔で聞き返す。

「ああ、利を超えたもの。情や恩といったものかな……。それらは係わり合いがなければ生まれないってことだよ」

その答に納得したのだろう。

東郷大尉はこくこくと頷いている。

そんな東郷大尉の仕草を微笑ましく見ていたが、周りの視線を感じて咳を一回すると話を続けることにした。

「あと、連盟の艦隊派遣は、まぁ当たり前ではあると思うよ。独立された場合、間違いなくルル・イファンは反連盟の政策を取るだろうからね。それは今まで得られていた利益を失うことになる。そして連盟は商人の国だ。だから、利益を失う事には特に敏感だと思うからね。ただ、僕が気になるのは艦隊派遣の件じゃないんだ。ここ最近、噂になっている『フソウ連合と海賊国家は裏で繫がっている』とか『フソウ連合は海賊国家の後ろ盾をするために色々手を回している』とかいうことの方が気になるね」

「しかし、海賊国家と交渉しているのは、一部の王国や共和国の関係者の知っていますからそこから漏れたとしてもおかしなことではないでしょう」

諜報部の川見大佐が聞き返してくる。

情報を管理するものとしては気になるのだろう。

「確かにね。でも、あまりにも時期がおかしいと思ってね。噂になり始めたのは九月の下旬ぐらいからだろう?確か……」

「はい。そうですね。それくらいです」

「でも実際に海賊国家と交渉することを王国や共和国の関係者が知ったのは一ヶ月も前の八月下旬だ。噂で広まるなら一ヶ月も間が開くのはおかしいし、実際に交渉を開始したという事実があるからそれに尾ひれがついてそんな噂が立ったんだと思ってしまいがちだが、それでも交渉を始めたばかりだというのに裏で繫がっているとか後ろ盾とか具体的な事まで噂になっている。だから、僕としてはこれは誰かが何かを誤魔化す為か、或いは意図的に流した情報ではないかと思っているんだ」

そう言われて川見大佐も思い立ったのだろう。

「確かに……。言われてみれば……。それで今回の情報工作の狙いは何と思われますか?」

そう聞かれて、僕は苦笑しつつ両手を軽く上げてお手上げのポーズをとる。

「いやさすがにそこまでは思いつかないよ。ただ、この噂をそのままにしておいてはまずい事になりかねないかなと思ってね」

「わかりました。すぐに対応いたします」

「ああ、頼むよ。将来的に海賊国家と繋がりができた時にケチが付いても困るからね」

そういった後、僕は周りを見回した。

「今のところは、ルル・イファンの対応は以上のように様子見という事で進めたいけど、他に意見はないかな?」

暫く待ってみても何もないようだ。

「どうやら何もないようですな」

新見中将が周りを見回してそう言う。

「ああ、それじゃこの件はここまでとしょう。諜報部と外交部は引き続き情報収集を。事態に大きな変化があればすぐに知らせてくれ」

「「はっ」」

「それでは、次の議題に移りたいと思います。流通運輸関係者からの提案の国内流通及び島々間の行き来きの為の機関の設立に関してですが……」

進行役をしている東郷大尉が止まっていた会議を進行させる。

現在、フソウ連合の地区どうしや島々の移動は小型、中型船、或いは飛行艇となっている。

ただ、これまで以上に物資や人の動きが大きくなると見られており、今までの方法だけでは回らなくなってしまう恐れがあるという報告があったのだ。

その回答として、一万トン級の貨物、客船を数隻運航しそれに対応すればどうかという意見が出てきたのである。

「ふむ。それは名案だとは思うが、船や人員や組織をどうするかが問題だな。ただでさえ艦隊の規模が大きくなって人員が不足気味である以上、そこにまわせるほどは確保できないのではないか?」

山本大将が渋い顔でそう発言する。

確かに軍部としては、急な戦力拡大で人手不足になりがちなのにさらにこれ以上は勘弁してくれというのが本音だろう。

「それはわかっております。しかし、本国の流通が滞れば、国力の低下を招きかねません」

一人の男性が厳しい表情でそう言い返す。

年は五十代になるくらいだろうか。

渋い感じのエリート官僚といった感じの人物で、通信運輸部から出向している三ヶ嶋雄太という。

彼は現場からの叩き上げでここまで昇ってきた人物らしく、山本大将に対しても堂々と反論する神経の図太さを持っていた。

しかも、通信運輸部の代表として責任感も強く、なかなか頼もしい。

そんな事を思いつつ僕が見ていると、山本大将が負けじと言い返す。

「確かにそちらの言われる事もあるだろう。しかしだ、これだけ世界が激しく動いているのだ。それに対応し、フソウ連合及び、我々の国益を守る為にも軍の力は必要ではないかと思うのだが、それはどう考えられるのか?」

「確かに、そちらのいう事も一理ある。実際に世界中で混乱と争いが起こっているのはわかっているし、実際、まだ帝国との戦いは終わっていない。しかしだ、外ばかり見ていてもどうしょうもない事もある。中がしっかりしなければ、内側から崩れ落ちてしまう恐れだってあるのだぞ」

互いに相手の言い分はわかるものの、それでもどっちも引かないのは、恐らく意地の張り合いみたいな感じになってしまっているのだろう。

そろそろ止めるべきか……。

そう思って口を開こうとした時だった。

「互いに言われる事はもっともですが、意地の張り合いのような言い合ってばかりでは解決しないのではありませんか?」

そう言ったのは、東部方面部司令の的場大佐だ。

淡々とした口様ではあったが、核心をずばり突いており、二人は何もいえなくなって黙り込んでしまう。

その二人の反応を新見中将は実に面白そうに見た後、視線を的場大佐に向けて聞く。

「なら大佐にはいい意見があるのですかな?」

そう聞かれ、的場大佐は少し考えた後、口を開いた。

「そうですね……」

そう前置きした後、「こういうのはどうでしょうか」と言って言葉を続けた。

「まずは大きな路線から実験的に開始しますから、それほど人員や船が一気に必要とはならないでしょう。そこで、最初は民間から乗組員を募集し、それ以降は、船員育成の学校卒業生から優先的に求めていく形にすればいいのではないかと……。それに国の機関という事ですから、軍部の方がきちんと人員養育などの指導教育を行なって運用や規格などを共通化しておけば、いざというときは臨機応変に対応できるのではないかと思います。また、使用する船舶も軍で使用する艦船をベースにしたもので対応しておければ、それらはよりやりやすくなるのではないでしょうか?」

その意見に、山本大将も三ヶ嶋の二人も納得したのだろう。

反論を上げる事はしないで頷いている。

僕としても中々いい案だと思う。

なら援護射撃でもしておこうかな。

そう判断し、僕は口を挟むことにした。

「その方法でいくのならこっちで平安丸をベースにしたものを二隻ほど回してもいいと思っているよ」

確か買い込んでいたキットに平安丸が二隻あった事を思い出し提案する。

元々、平安丸は民間で使用されていた客船で、それを軍が徴用し、特設潜水母艦とした経緯がある。

だから、武装などを解除すれば、十分今回の件では問題なく使えるはずだし、キットも価格は安く手に入りやすいし、何より難易度が高いものではない。

だから何隻か作ってもそれほど労力はかからないだろう。

それに、別の艦船での実験だが、別の船名をつけて実体化させれば付喪神が憑く事もなくただのその形式の船として実体化する事も確認済みだ。

まぁ、魔力は消費するし、ドックに空きがなければ出来ない事だが、今のところ、余裕はあるはずだ。

「ふむ。どうやらその方法で進めたほうがよさそうですな」

新見中将がそう言うと、言い合っていた二人は頷きあう。

もっとも相手を見ないでだが……。

そして、そんな二人の様子に苦笑しつつ僕は思う。

やはり馬が合わないっていうのはあるんだと……。

そしてすぐに現実に引き戻された。

「それでは次の議題にはいります」

その東郷大尉の言葉に……。

そして、次の議題の内容を見るためにテーブル上に置かれている資料に視線を落としうんざりする。

そこには、まだ多くの議題が残っている事を示す文字の羅列が並んでいた。

その量は普段の定例会議の倍近くある。

今の進行状況からから考えるに……。

こりゃ、今日はずっと会議だな。

そう予想し、僕は小さくため息を吐き出したのであった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >それに、別の艦船での実験だが、別の船名をつけて実体化させれば付喪神が憑く事もなくただのその形式の船として実体化する事も確認スミだ。 確認済みと表記しないのですか?
[一言] >まぁ、報告書っていうのは笑いを取ったりク愚痴を書いたりするものではないのだから、
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