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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十四章 ルル・イファン人民共和国の誕生

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再会と密書


パットラとトバイが敵艦隊に対しての話し合いをしている頃、別の部屋では三人の人物が顔を合わせていた。

アーチャことアヴドーチヤ・フョードロウィチ・ラスコーリニコフと、リプことリプニツキー・ロマノヴァ・リプニツカヤ、それにリプの護衛として同行していたエヴゲニーヤ・セミョーノヴィチ・リターデン少尉の三人である。

アーチャは今や一国の代表となったため、互いの身分は大きく違ってしまったがそれでも互いに苦労して培ってきた友情はそんなことでは微塵も動かなかったのだろう。

部屋に入って来たすぐは互いに言葉にならない様子だったが、いつの間にか二人は近づくと抱き合っていた。

「よく来たな……、相棒……。しかし、長いことあっていない感じだよ」

アーチャがそう言うと、リプは「ああ、そんなに時間がたったとは思えないんだけどな……」と言い返す。

そして離れたあとも互いにそんな感じて話をし始める。

それは二人だけの世界といったところだろう。

まぁ、あくまでも友情としてではあるが。

そんな二人の様子を、少しはなれていたところで居心地悪そうに見ていたエヴゲニーヤではあったが、そんな彼女にアーチャは気がついて苦笑を浮かべると視線を彼女の方に向けて自己紹介をした。

「すまなかった。つい感極まってしまってね。私は、アヴドーチヤ・フョードロウィチ・ラスコーリニコフ。言いにくい時は、アーチャと呼んでくれ。こっちの同志達は、そっちの方が言いやすいみたいでね。今やそっちが本名なんじゃないかと思ってしまいそうになるよ。あと、今はルル・イファン人民共和国の代表をやっているが、ほんの少し前までは、リプと一緒にプリチャフルニア様に使えていた者同士だ」

そう自己紹介をされて、エヴゲニーヤは微笑を浮かべる。

「兄からアーチャ様のことはうかがっていますわ。私は、エヴゲニーヤ・セミョーノヴィチ・リターデンといいます」

「兄?それに……リターデン?」

それらからある考えに至ったのだろう。

「そうか、君はプリチャフルニア様の身内という事だな」

「ええ。妹になります」

「そうか。妹さんか。しかし、知らなかったな。プリチャフルニア様にこんな妹さんがいたとは……」

そんな二人の会話にリプが入り込む。

「そうなんだ。しかもかなり有能で道中何度も助けられたよ」

「そうか。それは私の親友が世話になった。ありがとう」

アーチャにそう言われて、エヴゲニーヤは「任務ですから……」と言おうと口を開きかけるが、何を思いついたのかニコリと微笑んで違う言葉を口にした。

「いえ、旦那様を陰日向関係なく支えるのが妻の役目ですから……」

その言葉に、リプは固まり、アーチャは言葉を失った。

どれだけ時間が経ったのだろうか。

まさに時間停止されているのではと思えるような間が過ぎ、アーチャはぎごこちなくリプの方を見ると口を開いた。

「おいっ。いつ結婚したんだ?知らなかったぞ……」

「い、いや、待てっ。ちょっと待てっ。彼女とはそんな関係では……」

そう言いかけるも、周りを誤魔化す為と言い寄られて何回かベッドを共にした事を思い出してしまい、何も言えなくなる。

そりゃ、極上の美人ではないものの、そこそこ綺麗な女性から理由があるとはいえ、言い寄られて断るほどリプは出来た人間でもないし朴念仁でもない。

その上、仕方ないと思いつつも楽しんだのは事実だ。

その沈黙をどうとったのだろうか。

アーチャはニタリと笑うとばんっとリプの背中を思いっきり叩いた。

「でかしたっ。お前もついに所帯持ちかっ。俺みたいに奥さん泣かすなよっ」

その言葉にはからかうような口調ではあったものの、自分の様になってほしくないという思いが込められている。

そして、その思いを感じ取ったのだろうか。

エヴゲニーヤはニコリと微笑んで言う。

「大丈夫です。私が逃がしませんから……」

聞き様によっては怖い台詞を笑いつつ放つエヴゲニーヤに、アーチャは苦笑を漏らす。

こんな彼女なら、私の時のようにはならないなと思って……。

そして、呆然としているリプに向かって、エヴゲニーヤは微笑んだ。

「そういうことなので、これからもよろしくお願いしますね、旦那様っ」

その言葉に、リプは自分がとんでもない事をしでかしたと今更になって思うのだった。

まぁ、こういう場合、誘惑に負けた側が悪いという事ですかね。



そういった近況報告や話が終わったあと、アーチャはデスクに一旦置いた密書に視線を落す。

渡された時、ちらりと二人を見たら、リプはいたって普通だったが、エヴゲニーヤが少し眉を顰めたのでいい知らせではないという事がなんとなくだがわかる。

だから開けたくないという気持ちが強いが、そうもいってられないのが現状である。

ふーっと息を吐き出して覚悟を決めると密書に目を通し始める。

そして読み進んでいく事でそれが当たりである事が確定した。

読み終えるとアーチャはため息を吐き出し、本当かどうか確認するかのように何度か目を通す。

そして、視線をリプの方に向けた。

「リプはまだ中身を知らないんだな?」

そう聞かれて、何を言っているんだといった表情で答える。

「ああ。君以外には見せるなとプリチャフルニア様に何度も念を押されたからな」

多分、読んでいたら、今ここに彼はいないだろう。

そんな事を思いつつ、アーチャは密書をリプに手渡した。

それを受け取り、リプは怪訝そうな顔で聞く。

「え?読んでいいのか?」

「ああ。目を通すといいよ」

そのやり取りを見てエヴゲニーヤの表情が険しいものになった。

その密書に書かれていた内容は、連邦はルル・イファンを植民地として利用することしか考えておらず、連邦は当てにならない上に、今連邦政府内部はかなりの速度で腐敗が進んでおり、自分も危ない立場にいる為、それらを踏まえて連邦とは手を切り、独自路線で進む事を進めて欲しい事が記されていた。

そして最後に、親愛なる友人に伝えて欲しいという言葉から始まり、二人はその地でアーチャと協力し、ルル・イファン建国に協力していく様にしてくれるとうれしいとなって締めくくられていた。

その内容を目に通してリプは驚いた表情で暫く呆然としていたが、密書をぐしゃりと握り締めると唖然とした声を上げる。

「嘘だろう!?そんな……」

だが、そんなリプを、冷静な表情で見つめていたエヴゲニーヤは冷たく言い放つ。

「嘘ではありません」

「そんな……。君は知っていたというのかっ、この内容をっ」

リプはそう言いつつエヴゲニーヤに詰め寄る。

その顔に浮かんでいたのは、信じたくない思いと嘘であって欲しいという願いだ。

だが、エヴゲニーヤは悲しそうな表情でリブを見つめた後、諭すように言う。

「知っていました。もし密書を紛失した場合は、私が口頭で伝えるように言われていましたから……」

「なぜ言ってくれなかった……。わかっていたら……」

「任務を拒否し、兄の傍に残ったでしょうね、貴方なら……」

淡々とそう言うエヴゲニーヤにリプが叫ぶ。

「当たり前だっ。祖国がそんな事態の上に、プリチャフルニア様にも危険が及ぶ恐れがあるのならなおさらだ。そんな時にお側を離れるわけがないだろうがっ!!」

怒鳴るような声だが、しかしエヴゲニーヤは一歩も引かなかった。

表情を引き締めるとリプを真正面から見据えて言い返す。

「だからっ、そんな貴方だから、兄は何も言わなかったのです」

その言葉に、リプは何も言えなくなっていた。

目の前の訴えている彼女の目が潤んでおり、今にも泣きそうだったから……。

理不尽だと思うのは、自分だけではない。

それがわかったから……。

「すまない……。感情的になってしまった。君の方がもっと苦しくて身を切るような決断をしているというのに……。不甲斐ないな……私は……。本当に情けない……」

なんとかそう言って苦笑を浮かべたまま俯くリプをエヴゲニーヤは優しく抱きしめる。

それは愛情を確かめるかのような激しいものではなく、包み込むような優しい抱擁であった。

そして耳元で囁く。

「ふふっ。大丈夫です。私はそんな貴方の事が大好きですもん……」

その言葉に、リプは驚いた表情でエヴゲニーヤを見る。

その目には、エヴゲニーヤの顔が慈愛に満ちた聖母の様に見えていた。

しばし見つめあう二人……。

そんな二人の様子をアーチャは困ったような顔で見ていたが、さすがに我慢できなくなったのだろう。

「あー、盛り上がっているところすまないが……、出来れば別室でお願いできるかな?」

そう言われて、二人は慌てて離れる。

「あ、ああ。すまないっ」

「あははは……。すみません」

さっきまでどちらかというとあまり感情を出さなかったエヴゲニーヤでさえも顔が真っ赤になっており、リプに関しては言わずもがなといったところだ。

「まぁ、どうするかは二人で考えておいてくれ。返事は早めに頼むぞ。それと任務ご苦労でした。部屋を用意させるからまずは疲れを癒して欲しい」

アーチャが笑ってそう言うと、リプは苦笑し頷く。

エヴゲニーヤは黙ってリプを見ているだけだが、リプと同意という事だろう。

旦那を立てるいい奥さんになりそうだな。

そんなことを思いつつ、アーチャは部下を呼び、二人の部屋を用意するように命令するのであった。

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