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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十四章 ルル・イファン人民共和国の誕生

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ルル・イファン人民共和国の誕生  その1

九月二十二日から起こったルル・イファン一揆が蜂起し、この周辺地域を巻き込む『ルル・イファン九月革命』へと拡大。

三日後にはこの地域一帯からは完全に連盟の勢力は追い出され、今や独立運動を推進した勢力がこの地を統べていた。

そして一揆が起こってから一週間以上が過ぎ、十月に入り、遂に独立勢力はルル・イファンを首都として周辺地域を含めた独立国家宣言を行なった。

後に言う『ルル・イファン人民共和国の誕生』である。

のちに、続けとばかりに多くの植民地が独立運動により独立を宣言したが、その最初の国となったのである。

だが、その宣言に世界や他の国々や地域の人々の反応は冷ややかだった。

それは仕方ないのかもしれない。

国として独立する。

それは宣言だけではどうしょうもないことなのだ。

現にそんなことで独立できるなら、今みたいな植民地ばかりにはなっていないのである。

独立国家として成立する為には、独立を維持できる力と各国との繫がり、そして他国の承認がなければ意味がない。

つまり、それらが整っていない独立宣言など、只の寝言、独り言と変わらないのである。

なら、なぜ同じように独立宣言したアルンカス王国は皆に認められたのか。

それはそれらの条件を全て満たしていた為であり、最初からそれらを満たしていたアルンカス王国は実に恵まれていたといえよう。

宗主国に当たるフソウ連合から独立を提案され、さらに王国、共和国からの支援と承認もある。

つまり、六強の内の二ヶ国と六強と遜色のない海軍力を持つフソウ連合のその三国がアルンカス王国の独立を国として認め、後ろ盾となったという事になる。

だから、ある意味、祝福されて独立したという事になるだろうか。

だからこそ、一部の独立国という名の植民地と考えている人々以外は、ほとんどの人々がアルンカス王国を独立国と認めているのである。

それらの点がアルンカス王国の場合とは決定的に違っていた為、無視されているようなこういった反応を示されても仕方ないといった方がいいだろう。

さらに、支持することで連盟と敵対したくないといった考えや損得勘定で支持しない或いは興味がないといった感じの考えの人も多く、また植民地を持つ国々にとっては迂闊に支持できない状況でもあった。

そして、その独立宣言にあわせるかのように連盟はルル・イファンの反乱を潰す為に艦隊を派遣すると発表。

それにより、ますます誰もが事態の様子を窺う形になっていったのである。



「予想していたとはいえ、ここまで反応がないのは……」

アーチャがデスクに肘を立てて、まるで祈るかのように座りながら困惑した表情で口を開いた。

ここは、ルル・イファンの行政府として使われているホテルの会議室である。

そこには、四人の男達が、それぞれの姿勢でテーブルを囲み椅子に座っていた。

「もう少し反応があるかと思ったんだがなぁ……」

そう言ったのは、アーチャの右側に座っているトバイだ。

彼はどちらかというと不機嫌そうな表情で、どうも反応のないことにイライラしている様子であった。

「今や王国や共和国の独立運動は支援によって下火になり、復興の方に大きく舵を切ってしまっている。その上、民衆の間では宗主国の敏速な支援によって独立しなくてもいいという風潮まで出始めている様子だしな。教国の植民地では弾圧が始まっているし、おまけに連盟は艦隊を派遣すると発表しやがった。そうなっちまったら下手に支持は出来ないというのはわかるんだが……もう少しだな、反応があっても……」

そう言ってため息を吐いて頭をガシガシとかいているのは軍部の統括を行なうレンカバッラ大佐だ。

正確に言うとレンカバッラ総司令官となるのだが、まだ軍の改革まで進んでおらず、その為階級は大佐のままである。

そしてこれらの会話が示すとおり、独立したばかりのルル・イファン人民共和国の現状はまさに八方塞という状況となってしまっている。

それ故に誰もが不機嫌そうに、或いは困惑している表情の中、一人腕を組み目を閉じて無表情で発言を控えて考え込んでいる人物がいた。

傭兵団『飢えた狼達の巣』の団長であり、ルル・イファン人民共和国軍事アドバイザーとして協力することになったパットラ・ファンスーバルである。

しばらく誰もが言葉もなく黙り込んでしまう中、パットラは目を開くとやっと口を開けた。

「お願いした噂の方はどうなっていますか?」

そう聞かれ、トバイが答える。

「ああ、ツテのある共和国や合衆国の商人、それに近隣の地域の人々に広げるように動いてはいるが、まだまだといった状態だな」

「そうですか……。それとダミーの砲台なんかの準備はどうです?」

今度は、レンカバッラ大佐が答える。

「ああ、主要な港には配備が終わっている。もちろん、指示通りいくつか本物を混ぜているが、もし戦ったとしたらすぐばれるんじゃないのか?」

「連中としては、施設をなるべく潰したくはないと考えるでしょうし、かなりの砲台が用意してあると見たら攻撃を控えるでしょう。それに連盟の軍編成の場合、先鋒は傭兵部隊が主力になりますから、連中としては被害を出来る限り押さえたいでしょうしね」

そういった後、パットラはテーブルに広げてある地図の一点を指差す。

「そういったことから、恐らくですが上陸地点はここになると思います」

「ヒルカフントム海岸か……」

「ええ。ここほど上陸作戦に向いている海岸はありません。他は崖や岩があったりで中々接近、接岸するのが難しい地形ですからね。少数の部隊ならともかく、ある程度の規模の軍勢を上陸させるなら、ここが最適です。だから、ここを拠点として、少し海岸線から離れたところに火砲部隊を配備し陣を構築します。またその後ろにも念のために同じような陣を設置しておきましょう。突破された時は、ここが最終防衛ラインとなります」

「しかし、その火砲の位置では、海上の敵艦を攻撃できないのではないか?」

「海上戦力も、火砲の射程距離も敵艦隊に適わない以上、海岸線に上陸する敵部隊を集中的に叩く戦法に重点を置いたほうがいいでしょう。また、海上にいる敵艦隊には小型艦艇による嫌がらせを行ない、敵艦隊に上陸作戦に集中できない状況を作り出します」

「ああ、なるほど。連邦が帝国艦隊と戦ったようなことか」

「ええ。戦果を上げる必要はありません。あくまでも敵を混乱に貶めればいいだけですから、足の速い民間船を徴用してダミーの魚雷でも装備させてうろちょろさせてやればいい。もちろん、本物を装備したヤツを混ぜながらですが……」

その説明に、しかめっ面だったレンカバッラ大佐は楽しそうに笑う。

「実に面白い。要は、あらゆる手を使って敵の上陸を阻止することに専念するということだな」

「そういう事です。まともに戦う必要性はない。海上戦力ではまともに戦っても適わない以上、色々言ってられませんしね」

「わかった。他にもアイデアがあるならドンドン言ってくれ。出来る限り準備しておこう」

「ああ、お願いする。準備してあるからこそ戦い方に幅が出るんで……」

そこまで話した時だった。

トントン。

ドアが叩かれ、ノックの音が響いた。

一瞬沈黙があったあと、トバイが声をかける。

「何か?」

「緊急報告であります」

「よし、入りたまえ」

その場にいた全員の視線がドアに向かう。

ドアが遠慮がちに開かれ、全員の視線がこっちに向いているのに少し驚いたものの、すぐに伝令の兵が敬礼する。

「只今、共和国の商船に乗って連邦の使者の方が港に到着されたとのことです」

その言葉に、只一人を除いた三人は驚くと同時に喜びに浮かれた表情になる。

それはそうだろう。

独立宣言後に、初めて反応した国があったのだ。

うれしくならない方がおかしいといったところだろう。

「ついに連邦が動いたか……」

「これで少しは好転するかもしれんな」

「ああ。実に心強い限りだ」

そんな事を口々にする三人に対して、只一人浮かない顔をしているパットラは、伝令の兵に聞き返した。

「それは正式の使者殿かな?」

「いえ。秘密理にアヴドーチヤ様にお会いしたいと……。それ以外はまったく何も言われていません」

それを聞き、三人の表情が曇る。

どうやら思っていた使者ではないと気がついたようだった。

よく考えたら、反応が早すぎるのだ。

何より独立宣言をしてから、それほど時間が経っていないのに使者がこんなに早く来るはずもないのだから。

そんな三人を他所に、パットラは落ち着いた口調で聞き返す。

「ふむ。それで使者のお名前は聞いているか?」

「はい。アヴドーチヤ様に『リプが顔を見に来たと伝えてくれ』と言われまして……。それでわかると……」

『リプ』という単語に、話を聞いていた怪訝そうな表情のアーチャの顔が見る見る喜びのものに変わる。

「あいつか。あいつなのかっ。くくくっ。あいつが使者としてきたのか。それならば、恐らくプリチャフルニア様の指示に違いあるまい。すぐに、すぐにこちらにお連れしろ。急げっ」

興奮してそうまくし立てるアーチャに伝令の兵は圧倒され、「は、はいっ。急がせますっ」と敬礼して慌てて動こうとしたが、すぐにアーチャに止められた。

「ちょっと待てっ。いいか、急げとはいったが、丁寧になっ。いいかっ。丁寧に対応するんだぞ」

「り、了解しました。丁寧に急いで対応いたします」

勢いに飲み込まれるかのように命令を復唱し、駆け出していく伝令。

その様子をただぽかんとしてみている三人だったが、パットラが恐る恐る質問する。

「えっと……知り合いですか……ね?」

その問いを待っていましたとばかりにアーチャは笑いつつ答える。

「私の友人であり、ライバルであり、ともに切磋琢磨してきた親友と言ってもいい人物だよ。そして、彼と私は以前は連邦のナンバー2であるプリチャフルニア・ストランドフ・リターデン様に仕えていた。そんな間柄だ」

トバイにしてもレンカバッラ大佐にしてもここまでテンションが高いアーチャは今まで見た事がなかった。

だから、アーチャがここまでいうのならばすごい人物に違いないという事だけは想像できたようだった。

だが、そんな中、パットラだけは浮かない顔をしている。

「どうした?」

その表情に気がつき、レンカバッラ大佐が聞く。

「いや。どうも嫌な予感しかしないんでね」

「それは……どういう……」

そう聞き返すアーチャに、パットラは説明を始める。

「共和国の商船に便乗して秘密理にというのは、あまりいい事を伝えにきたという感じには思えなくてね」

その言葉に、浮かれていたはずのアーチャも少し考え込んだ表情になった。

そんなアーチャを見つつ、余計なことかもしれませんがと言ってからパットラは言葉を続けた。

「親友という事ですが、もしかしたら連邦の方で何かあったのかもしれません。気をつけたほうがいいかと……」

そのパットラの言葉に、反論しょうと口を開きかけたアーチャだったが、すぐに口を閉じた。

そして少し考えた後、再度口を開く。

「うむ。パットラ殿の言う通りだな。十分注意して対応しょう」

「すみません……」

そう言って謝るパットラに、アーチャは苦笑を浮かべる。

「かまわんよ。少し浮かれすぎていたようだ。今の様に私はまだ未熟だ。皆の助言をこれからも頼むぞ」

その言葉に、三人はそれぞれ同意の返事を返すのだった。

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