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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十三章 暗躍、そして……

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陰謀は進められていく……

わずかに揺れる蝋燭の炎の明かりが照らす場所以外はほぼ暗闇と言っていい一室の中で一人の老人が椅子に座って酒を飲んでいた。

その様子から陽気な酒でないのは一目瞭然である。

ぶつぶつと何か小言を言いながら、顔をしかめて手を握り締めながら飲んでいるのだから。

酒の種類はわからない。

薄暗い為にそれがワインなのか、ブランデーなのか、ウィスキーなのかも……。

もちろん、雰囲気から高級なのはわかるが、飲み方があまりにも優雅さにかけていた。

ただただ、親の敵でもあるかのように酒を飲んでいるのである。

そして、感極まったのだろう。

飲みかけた手を止まりグラスを強く握り締める。

「あの男がっ!!」

そう叫ぶとまだ中身の入ったグラスを壁に叩きつけた。

静まり返っている静寂の中で、グラスの割れる音だけが甲高く響く。

そして、はあはあという老人の荒い息も……。

それはより老人の怒りと焦りを感じさせる。

おそらくここまで思い通りにはならなかった事はないのだろう。

普段とは真逆の醜態であった。

そして再び静寂が訪れる中、凛とした声が響く。

「大荒れでございますな……」

老人の後ろにあるテラスからそんな声が聞こえたかと思うと、影の中からむくりと人影が浮き上がってくると、その影はゆっくりと歩いて老人の近くまで来ると恭しく頭を下げた。

蝋燭の光に照らされ人影の姿かはっきりと見える。

年は四十前後で丁寧に整えられた口ひげを生やしたオールバックに固めた黒髪が印象的な男性、老人から『卿』と呼ばれる彼の側近中の側近だ。

老人は、「ふう……」と息を吐き出し、険しい表情を緩めると椅子に身体を任せた。

そして視線をゆっくりと男に向ける。

「実にみっともないところを見せてしもうたのう」

「いえいえ。老師も人であると思い、うれしく思いました」

「そうか……」

そう言ったものの、老人としては面白くないといった表情であったが、そんなことは関係ないのか、男は笑みを浮かべたまま口を開く。

「お怒りの原因は……例の失敗の件でしょうか?」

「わかるか……」

「ええ。私も聞いております」

ここ最近、指示した策が全てうまくいっていないのだ。

特に食糧を餌にして王国、共和国の植民地での信者を増やす計画は、完全に頓挫してしまった。

スリラード商会を脅迫して食糧を買い漁ったところまではうまく言ったのだが、その後が不味かった。

フソウ連合が提唱した国際食糧及び技術支援機構が王国と共和国を全面的に支援したため、割り込む事ができずに失敗してしまったのだ。

しかし、考えてみればそうなって仕方ないといったところだろうか。

きちんと食糧が配給され支援されるというのに、どう考えても訳ありの食糧をだれが欲しがるだろうか。

また、それ以外にも多くのことで、策がことごとく裏目に出てしまっている。

その結果、教国は植民地だけでなく、本国の内部にさえ分裂の兆しが見え始めており、今までの中央政府の強引なやり方に地方が反発し始めていた。

それは最初こそたいしたことはないと思われていたが、植民地の独立運動及び暴動が増えるにつれ、勢力を拡大していったのである。

まさに内憂外患といったところだろう。

そして八方手詰まりとなり大きな手が打てない状況に追いやられ、さすがに酒に逃げてしまいたくなってしまったのだ。

もっとも、それで全て収まるならいいのだが、それは逃避にしかならない。

だが、少しでも気が治まればと思って飲み始めたものの、結局は意味がなかった。

「はあ……。なんと進む道の困難な事よ……」

老人の口から愚痴が漏れる。

「では、そんな老師によい報告をいたしましょう」

そう言われ、沈んでいた老師の顔が驚きに彩られた。

「よい報告とな?」

「はい、気にかけていた海賊国家とフソウ連合の件ですが、種の仕込みに成功いたしました。近々芽を出すでしょうな」

「近々というと……」

「はい。予定としては、十月から十一月といったところでしょうか……」

その報告に、老人の顔に以前のような活気が戻ってくる。

「そうか、そうか。よくやってくれた。さすがは貴公だな。他の者達に比べ、実に頼もしい」

「それともう一つ……」

「ほほう、またあるのか?」

「はい。合衆国の方もかなり工作が進みつつあります。来年には間違いなく……」

その言葉に思い立ったのか老人が呟く。

「大統領の中間選挙か?しかし、来年ではないな」

「はい。まだ先でございますな」

「ふむ……」

しばし考えるも思いつかなかったのだろう。

降参というような感じで両手を軽く上げながら言う。

「わからんな。何を狙っておる?」

その老人の様子に、男は実に楽しそうに笑った。

「クーデーターでございます」

その言葉に、老人は驚く。

「合衆国でクーデーターじゃと?!」

「はい。すでに一部の高官と軍部の上層部を押さえております。予定としては、テロリストによって現大統領とその側近は爆死。その後の混乱を我々の手の者達で収拾して、一気に合衆国の中枢を押さえる所存です」

そこまで聞いて、老人は白い髭を大きく揺らしながら楽しそうに笑った。

「そして、そのテロリストはフソウ連合の手のものとするのじゃな?」

「その通りでございます。さすがは老師」

「ふふふ。それぐらい察しはつくわ。しかし、なるほどのう。そうすることで、自然と合衆国とフソウ連合との距離を開けて一気に戦争へと進めるわけか」

「おっしゃる通りでございます。また、テロ国家として悪名を世界に広げ、フソウ連合を孤立させようという狙いもございます。それと同時に許可さえいただければ他の国も離反させたいと思っております」

「ふむふむ。しかし、今の王国、共和国は、親フソウ連合の派閥が幅を利かせておるぞ」

「もちろん。抜かりはございません。宗教制限を受けている王国はさすがに難しいのですが、我々の多くの信者がいる共和国ならまだ手は打てます。今の親フソウ連合派の足元をひっくり返し、共和国を離反させたいと思っております。また、連盟もフソウ連合には苦汁をなめさせられておりますから、将来的には、教国を中心に、合衆国、連盟、共和国の四ヶ国連合を作り、フソウ連合包囲網を完成させたいと考えています」

老人は、その発言に驚くものの、しかしすぐに渋い顔になった。

「しかし、フソウ連合海軍の力は強大じゃ。それに王国の協力もあろう。それでも互角か若干有利程度にしかならぬのではないか?」

「ですから、手始めに、フソウ連合と海賊国家を争わせるのですよ。そうすることで双方が疲弊し、大きく戦力を失う事になるでしょう。そして、その疲弊しきった戦力が回復する前に、共和国の離反と合衆国のクーデターで一気に流れをこっちに持ってくるわけです」

「なるほどのう。実に面白い。がっちりハマれば一気に決まるといってもいい策じゃな。じゃが難しくはないか?」

そう言われ、男は笑った。

「今は準備という事で、色々と手をまわしている状態ですから確かに現時点では成功率は限りなく低い机上の空論でしょう。ですが、今後じっくりやれば、より成功率も高くなりましょう」

そこまで言われ、老人は目を閉じて考え込む。

そしてしばし沈黙があたりを包み込んだ。

しかし、その沈黙の間、男は只待っている。

老人の言葉を。

そして、老人は口を開いた。

「いいだろう。今のところ最上の手のようじゃな。進めよ。そして成功させるのじゃ」

その老人の言葉に、男は深々と頭を下げる。

「もちろんでございます。許可がいただけたのですから全力で成功へ導く所存です」

「ふむ。実に頼もしいのぅ……」

そう答えつつ、老人は別の事を考えている。

完全に策が成功とならなくても、海賊国家とフソウ連合の衝突などで遅れている召喚儀式が整うまでの時間は稼げるかと……。

そして、そんな事を考えてしまったのは、老人にとって、あの召喚した艦隊をフソウ連合海軍にぶつけ、被害を与えたのは痛快であったためだ。

確かに、準備不足で思い通りには艦隊は動かせなかったが、うまい方向に進みフソウ連合海軍と敵対してくれた。

そして重要なのは、負けたとはいえ互角以上の戦いをしたというところである。

今まで、あそこまでフソウ連合海軍と互角に戦えたものがいるだろうか。

フソウ連合海軍は、稀代の天才軍師アラン・スィーラ・エッセルブルドが用意した作戦で動く共和国と帝国の新鋭艦隊を楽々と撃退したのだ。

その連中が召喚した艦隊にはかなり苦戦したと聞く。

つまり、この手はかなり有効という事だ。

そして考えてしまうのである。

もし、あれよりも大規模な艦隊だったら……。

こちらの思い通りに動かせる事がで来たら……と。

そうなれば、戦いに勝てる確率もより上がっただろうし、もし勝てなくともフソウ連合により大きな被害をもたらしただろう。

そうすれば、やつらの力を削ぎ落とし、一気に弱体化させるところまでできるかもしれない。

或いは、一気に逆転できるかもしれないのだ。

その思考は、実に甘美な味わいだった。

「それでは、老師、私はそろそろ……」

男がそう言って頭を下げる。

「ふむ。ご苦労じゃった。期待しておるぞ」

「ははっ」

深々と頭を下げた男の姿が消える。

そして、後には老人だけが残され、その顔には蝋燭の薄暗い揺れる光によって照らされる不気味な笑みが浮かび上がっていたのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何か色々と無理がある事を企んでるねぇ… 合衆国相手にフソウがテロを仕掛ける理由を如何こじ付けするんだろう?軍艦売ってる相手なのに。
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