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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十三章 暗躍、そして……

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初交渉

「連中、本当にこっちの指示にあわせて一隻で来たみたいですね。信用されているのか、それても相手の肝が据わっているんだか……」

そうぼやくように呟くのは装甲巡洋艦リンパークラの艦長ルンド・パッキンネ大尉で、双眼鏡で接近してくるフソウ連合海軍駆逐艦 島風を見つめている。

「そうね。でも、保険は用意してあるんでしょう……」

そう答えたのは、艦長の横で同じように双眼鏡で接近してくる島風を観察している海賊国家サネホーンの交渉官であるリンダ・エンターブラだ。

「保険……ですか?」

「ええ。恐らくは……ね」

そう言うとリンダは双眼鏡から目を離し、後ろにいるレーダー員に声をかけた。

「どうかしら……」

「ええ。ギリギリですがレーダーに機影が映ります」

その言葉にやっぱりといった顔をするリンダ。

「要は,ここまでやるって事は、いつでもやれるという意思表示であり、我々にプレッシャーをかけるつもりなんでしょうね」

少しだけ双眼鏡からリンダの方に視線を向けると艦長は呆れた顔で聞いてくる。

「そこまでしますか?」

「今までのフソウ連合海軍の動きからなら、奥の手をいくつか用意しているのは間違いないでしょうね。だから、どんな事態でも対応し、勝ってきた」

そのリンダの言葉に、艦長はため息を吐き出すと視線を双眼鏡に戻して困ったような顔をした。

「上も上なら、下も下ですな……」

「どういう意味かしら?」

「いやね、どうも向こうの艦の艦員もかなりの手練のようでね。甲板で動いている艦員が実に手際よく、見ていて気持ちいいくらいですよ」

その言葉に、リンダは苦笑する。

「それは困ったわね。交渉相手が盆暗だといいんだけど……」

「そう言いつつ、楽しそうですね」

そう声をかけたのは、リンダの後ろで忠犬のように待機しているパンドット・リチカーラル少尉だ。

今の彼には、リンダが口では色々言いながらもわくわくしている様子がわかった。

リンダにとって交渉は、駆け引きを楽しむゲームに近い感覚なのだ。

失敗してしまえば、取り返しがつかなくなる。

その背筋をゾクゾクさせるほどのスリルが彼女を虜にしていた。

だが、それだからこそ彼女は輝いて見えるのだ。

そして、その輝きにリチカーラル少尉も引き付けられてしまった一人であった。

「そう?……そうかもね。ここまで準備万端の相手ですもの、どういった手を打ってくるか、実に楽しみだわ」

そう言ってふふふと笑うリンダ。

そして、視線を艦長に向ける。

「それじゃ、私達は上陸の準備に入ります」

「ああ。わかった。こっちは敵側の艦艇の情報収集をやりながら待ってるぜ。うまくいくといいな」

「うまくいくんじゃないの。うまくいかせるのよ、私の口でね」

そう言って楽しげに笑うリンダ。

その様子には微塵も緊張や気負いは感じられず、ただただ楽しもうという感じのみであった。

艦橋から退室するリンダとリチカーラル少尉の後ろ姿を見送りつつ、艦長は苦笑を浮かべた。

「やっぱりとんでもない女だな……」

その言葉には、呆れと同時に信頼を感じさせるニュアンスが含まれていたのだった。



「なかなか興味深い艦だな」

その言葉が、双眼鏡で海賊国家サネホーン装甲巡洋艦リンパークラをみて青島大尉の発した第一声だった。

となりで島風の付喪神も同意を示すかのように頷き口を開く。

「外見は他の王国や共和国製の装甲巡洋艦に近い形ですが、あのマストや艦橋周りにあるアンテナ関係はほぼ間違いなく電探関係でしようねぇ」

「そうなると電力を得る為に、機関関係も手を入れているとみるべきか……」

「ええ。それに全体的にスリムな艦体です。どちらかというとこちら側寄りのデザインといったところでしょうか」

「兵装は、既存の装甲巡洋艦とほとんど変わらない感じだな」

「ええ。もっと近づかないとわかりませんが、恐らく大型連装砲塔二つといったところですか……」

そこまで会話をした後、青島大尉は双眼鏡から目を離して後ろを振り向く。

「どうだ、該当する艦種はあるか?」

「残念ながら……」

そう答えるのは、さっきから双眼鏡と艦種識別の資料をにらめっこして唸っている数名の内の一人だ。

「ならば、すぐに情報収集を急げ」

「はっ。了解しました」

そして視線を前に戻すと青島大尉は思考する。

水上機を運用しているという事から、電探がある恐れが高いと長官には言われたが、あそこまで大きな電探を装備しているとなるとかなりの範囲を探知できるに違いない。

そうなると、こっちが牽制で飛ばしている水上機の動きも把握しているか……。

水上機を飛ばして牽制をする。

それはこの海域の詳細な情報収集と相手に電探があるかどうかの確認を含めて行なわれており、実際、近海には水上機母艦 千早を中心とした艦艇八隻からなる第一特別警戒艦隊と二式大艇六機、重巡洋艦 古鷹、加古、特設水上機母艦 相良丸、讃岐丸の四隻を中核とする艦艇十二隻の第二特別警戒艦隊と零式水上偵察機十二機が展開している。

もちろん、それとは別に伊-400を中心とする三隻の潜水艦が別に活動していた。

また、アルンカス王国にある外洋艦隊もいざというときには動けるように準備をしているし、アルンカス王国に展開する航空警戒部隊の動きは活発化している。

それは島風や青島大尉の安否を気遣うだけでなく、決裂となった場合は一気に海賊国家艦隊に仕掛けるつもりのように青島大尉には感じられた。

まずは初手で痛い目をあわせる。

そうすれば、まず相手は怯み、対抗する為の動きが遅くなるだろう。

もしかしたら、守りに入るかもしれない。

そうすればこっちは時間が稼げる。

主戦場となる海域から、フソウ連合まではかなりの距離がある。

だから、敵が怯めばその不利な時間差を十分カバーできるだろう。

また、アルンカス王国への戦力の移動も進み、王国や共和国の増援も期待できるだろう。

何せ、あの海賊国家を叩き潰すチャンスなのだ。

両国だけでなく、合衆国や他の国も参戦するかもしれない。

そうなれば一気に形勢は傾くだろう。

つまり、そこまで考えて相手の出方を窺えと言われたのだ。

本当に抜け目ない方だ。

青島大尉はそこまで考えての鍋島長官の指示に驚くしかない。

そして、そんな方に全権を任せられた以上、出来る限りのことを行ない責務を全うするしかない。

そう再度青島大尉は決意する。

そんな青島大尉に声がかけられた。

「ではそろそろお願いします」

彼の補佐を務める吾妻中尉だ。

「ああ。わかった。では行って来る」

そう言って島風に敬礼する青島大尉。

その敬礼を受け、返礼を返す島風。

「こっちの方お任せください」


こうして、二隻の艦艇はそれぞれ一定の距離をとりながらカッターを下ろす。

ムチカトーナミ島の会合場所に向かうために……。


ムチカトーナ島。

わずか直径二キロ程度の島で、切り立った崖のような他の島と違って砂による海岸があって人が住めそうな感じの島だ。

ここムバナール群島では、こういった感じの人が住めそうな島はほんの一握りしかない。

その一握りの中でも特に条件がいいのがここムチカトーナ島で、今回、交渉の会場として、海岸から入ったところに南国風の簡易な建物が建てられている。

だが、建物と言っても、別にがっちりした建物があるわけではない。

壁があるわけではなく、ただ柱と屋根があるだけのものだ。

もっとも、建物の周りは綺麗に植物が刈り取り柵もつくられ、まるでリゾート地にありそうな自然を感じられる吹き抜けの建物といったらいいだろうか。

その上、すでにいくつかの椅子とテーブルなどの家具なども用意してあり、ほんの数日前までは何もない無人島だと思えない感じさえする。

ほぼ同時に少し離れ離れに海岸に着いた二ヶ国の代表者と護衛は、まるでタイミングをあわせたかのように建物の前で合流した。

互いに護衛が前に出て緊張して警戒する中、まずその警戒を解いたのはフソウ連合側だった。

青島大尉が護衛の間を抜けて前に出ると微笑みながら手を差し出す

「始めまして。私はフソウ連合海軍の今回の交渉団の責任者である青島勝であります」

そのあまりにも警戒のない様子に毒気を抜かれたのか、海賊国家側も警戒を解く。

リンダが前に出ると微笑んで握手を返す。

「こちらこそ。海賊国家サネホーンの交渉官であるリンダ・エンターブラです。今回は我々の声に答えていただきありがとうございます」

二人はにこやかに笑ってはいたが、その表情は硬かった。

互いに相手に対してこれは一筋縄ではいかないと認識した様子だった。

そして部屋に入ると互いに椅子に座る。

一応、代表がそれぞれ一名がテーブルにつき、その少し後ろの椅子に補佐がつく。

そして周りを護衛が固める。

その様子に、リンダは心の中で苦笑した。

まるで非合法組織の取引みたいね。

そう考えて、ふと思い出す。

世間から見れば、海賊国家自体が非合法組織みたいなものかと……。

そう考えるとますますおかしくなってしまう。

それでもなんとか笑いを抑えると、リンダは口を開いた。

「今回は、我々の要請にこたえていただきありがとうございます。我々としては、フソウ連合という国家に対して正式に交流を行ない、親しい関係を築きたいと思っております」

「それは素晴らしいですな。我々フソウ連合としてもより世界に窓を開き、世界の国々との交流を深めていきたいと思っておりますから。ですが一つ聞いてもよろしいでしょうか?」

「ええ。構いません。なんでしょう?」

そのリンダの言葉に、青島大尉はニコリと笑って口を開いた。

「我々は、あなた方を国として認識していいのでしょうか?」

要は、国なのか、ただの非合法組織なのか、立場をはっきりさせろと言ってきたのだ。

まさに鋭い一刀といったところだろう。

だが、そんな言葉をリンダは涼しい顔で聞き流す。

「フソウ連合としては、どう認識しているのでしょうか?」

「ふむ。そうですね。我々としては国として扱いたい。だが、我々は貴方方の事を知らなさ過ぎる。それ故にどちらとも取れないでいるのです。我々としては、国ならば国としての……」

そこで一旦言葉を切ると、青島大尉は相手を窺うような素振りで言葉を続けた。

「非合法組織なら非合法組織としての対応を行いたいと思っています」

その言葉に、海賊国家側の護衛が殺気立ち、それに対応するかのようにフソウ連合側の護衛の警戒を強める。

まさに一触触発といった雰囲気の中、リンダは痛いところを突かれたといった顔で笑い出す。

その笑いに、双方の動きが止まり、一気に緊張が緩くなる。

「いやはや、痛いところを突かれました。確かに、その通りですわ。相手に合わせた対応をとる。それは当たり前の事です。ですから、それをはっきりさせろと?」

「ええ。そのとおりです」

ニコリと微笑んでそう答える青島大尉。

「つまり、我々が国だと認識させた場合は……」

「それにあわせて、国交も交流も検討はしたいと思います」

検討……ねぇ。

リンダは青島大尉の言葉に、心の中でニタリと笑う。

中々手強いわね。

「そうですか。その言葉、実にありがたい事ですわ」

そう言った後、ニコリと笑いつつリンダは宣言するかのように言う。

「我々、海賊国家サネホーンは国として形を成しており、これからは国として扱って欲しいと思っております」

「なるほど。では、我々も国として認識して対応していきたいと思います。ですが……条件があります」

「条件?」

「ええ。その条件が満たされるのでしたら、フソウ連合は海賊国家サネホーンとして認めましょう。いくら宣言しても、他の国が認めなければ、国として扱われないままですからね」

「ええ。言うだけだったら、簡単です。本当に大変なのはそれを周りに認めさせることですから。今まではそれが出来ていなかった。だけど……」

リンダがそこで言葉を切ると、その後を青島大尉が続けた。

「わかりますよ。フソウ連合が国として認めたなら、他の国も蔑ろにはできなくなる。そして、実績を重ねていけば、いつしか国として扱わなければならなくなる」

「その通りです。我々としては、国として認めて欲しいのです」

「なるほどわかりました。そういったことなら、我々フソウ連合としては、協力を惜しまないつもりです」

「ありがとうございます。それで条件は?」

そう言いつつもリンダは心の中で身構える。

恐らく、かなり厳しい条件をぶつけてくるだろう。

そう予想できたからだ。

しかし、武装解除や賠償などを予想していたリンダにとって出された条件はまさに予想外のものであった。

青島大尉が上げた条件、それは鍋島長官が上げた三つの条件『海賊行為の完全禁止』『国境と領海の設定』『情報の開示と公開』である。

その条件に、リンダの思考が一気に走る。

まず、『海賊行為の完全禁止』については、他国の船舶を襲っているのは海賊国家と関係ない本当の海賊連中であり、海賊国家としてはそういった海賊達を取り締まる側になりつつある。

まぁ、もっとも、それでもたまに密輸船を襲ったり、そういった海賊を取り締まるついでに手に入れたものを戦利品としてはいたりするが……。

現在、あまり海賊行為は行われてはいない以上、この条件を満たすのはそれほど難しいことではない。

次に『国境と領海の設定』であるが、これは別に出来ない訳ではない。

いや、どちらかと言うと、国として認識してもらう以上きちんとした方がやりやすくなる事を考えれば大歓迎だ。

もっとも、ごっそり削られないように注意は必要だが、これもクリアできるだろう。

だが最後の『情報の開示と公開』はどうだろうか。

情報の開示とは、つまり海賊国家の国としての情報を公開しなければならないということだ。

それはある意味、海賊国家の不利にならないだろうか。

それにどんな情報の開示を迫られるのかわからない以上、簡単に了解することではない。

何より私一人で決めれる事を逸脱している。

これではフソウ連合は我々との交渉を切りたがっているようにしか思えない。

そう思いつつ何気なくリンダが青島大尉を見る。

そしてわかった。

フソウ連合はこっちの本気度を試しているのだと……。

だから言う答はこれだ。

そう判断したリンダは、微笑むと口を開いた。

「中々厳しい条件ですね。ですが、できない条件ではありません。最初の二つに関しては、何回かの話し合いは必要ですが間違いなくクリアできるでしょう。ですが、最後の一つに関しては、私一人では決められる内容ではありません。ですから、本国と話し合い、二週間後にまた交渉を行なって答えるというのはどうでしょうか?」

つまりは、前向きに検討するということだ。

それは否定でも肯定でもない。

しかし、その答に青島大尉は頷く。

要は、海賊国家の本気度を確認できたという事だろう。

「わかりました。確かに急なことですからね。では二週間後、交渉再会でよろしいでしょうか?」

「ええ。お願いします」


こうして、フソウ連合と海賊国家サネホーンの初めての交渉は、わずか二十分程度で終了した。

しかし、この交渉は両国にとって何も成果がなかったわけではない。

フソウ連合は海賊国家サネホーンが本気で国交を持ち、国として認められたいと考えている事、また海賊国家サネホーンもフソウ連合が海賊国家サネホーンに対して真摯な態度で対応しているという事を知ったのである。

これは次回の交渉に続く為の大きな収穫であった。

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[一言] >「兵装は、既存の装甲巡洋艦とほとんど変わらない感じだな」 電探装備を更新可能でもフネ自体は設計建造出来ない程度、と言う所か? 砲塔載せ替えはフネそのものを新造出来る技術がないと無理筋だか…
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