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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十三章 暗躍、そして……

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接触……

ムバナール群島。

アルンカス王国の南側に位置するほとんど人が住めないような大きさの小さな島群のことである。

その為、ムバナール群島付近は無人なっており、どの六強も支配下においていない。

人がいない事は、定期的な需要と供給を生み出さず、価値がないと思われていたためであった。

その為、今まではこの海域はある種の各国が干渉しない無法海域となっており、麻薬や奴隷の取引などの違法取引や密輸品の取引などが行なわれていたのである。

しかし、最近は海賊国家の勢力が姿を見せるようになり、そういった取引は海賊国家の艦艇によって襲撃させる為、下火になりつつあった。

そしてそれを示すかのように、その日は空が晴れていた。

まさに晴天である。

のどかで透き通るかのような蒼い空。

エメラルドグリーンのような色合いの海が実に美しい。

そして、照りつける日差しは九月に入ったとしても衰えることなくまだまだ強く、その海域を通る船を照り付けている。

「ふーー、相変わらず暑いわねぇ……」

そう言いつつ、日陰でサマーチェアの上に寝そべって背伸びをするのは、海賊国家サネホーンの交渉官であるリンダ・エンターブラだ。

もちろん来ているのは水着である。

刺激的な赤い水着と小麦色に焼けた肌が実に魅力的だ。

しかし、反対に、横で立っている男性は夏服らしい軍服をきっちりと着ており、その場面を見たものはそのギャップに一瞬「えっ?!」と言ってしまいそうになるだろう。

「まぁ、まだ九月の初めですから……」

そう答えた立っている男、リンダの護衛を務めるパンドット・リチカーラル少尉は、視線を遠くの海に向けてリンダの方に向けようとはしない。

「まぁ、そうなんだけどねぇ……。こうやる事がないとだらけちゃうわよねぇ……」

「そうですね。もっとも、リンダ様は十分楽しんでおられるようですが……」

そのリチカーラル少尉の言葉に、リンダが不平不満の表情で文句を言う。

「だってぇ、一ヶ月よ、一ヶ月。九月末までここに滞在する事になるんだから、少しぐらいは楽しまないともったいないじゃない?」

「まぁ、そうですが、だからって仕事もしないで日焼けしてくつろいだり、バーベーキューしたりして楽しみすぎではないかと思うんですが……。我々の任務は……」

そう言われてリンダが口を尖らせて言う。

「わかっているわよ。フソウ連合の返事を待ち、フソウ連合が今後どう動くのかの情報も集めよってことでしょう?」

わかっているならきちんとやってください。

そんな事を言いたそうな表情を浮かべるリチカーラル少尉。

だが、そんな顔を見てリンダはニタリと笑った。

「でも暑いんだもーーーんっ。暑いからしたくないんだもーーん」

からかうような口調で言われ、さすがにカチンときたんだろう。

今まで見向きもしなかったリンダの方に視線を向けるリチカーラル少尉。

その口から文句の一つも言ってやろうと動きかけたものの、すぐに金魚のようにパクパクと動かすだけとなっていた。

彼の視線の先には、胸元を強調するかのような姿勢で誘うように微笑むリンダの姿があった。

それが目に入った瞬間、真っ赤になって視線をそらすリチカーラル少尉。

その反応が面白かったのか、ケタケタと笑うリンダ。

その二人の様子を、休憩中の乗組員達が煙草をふかしつつ見て笑っている。

二人のやり取りは、今や海賊国家サネホーン所属の装甲巡洋艦リンパークラでは日常になってしまい、二人の掛け合いは乗組員達にとって長い航海の間のある種の娯楽の一つとなってしまっていたのである。

だから、乗組員達が見守る中、いつもならこれから恒例の言い合いが始まるのであるが、今日は残念ながら邪魔が入った。

「残念だが、そこまでにしていただきたい」

苦笑しつつそう声をかけたのは、リンパークラの艦長、ルンド・パッキンネ大尉だ。

「なによぉ……、いいところだったのに……」

そう言いつつふくれっ面をするリンダ。

反対にリチカーラル少尉は慌てて姿勢を正して敬礼をする。

「も、申し訳ありませんでした、艦長」

その生真面目な様子に、ますます苦笑いを強くするとパッキンネ艦長は、楽にするようにとジェスチャーをして、視線をリンダに向けた。

「どうやらお客さんが見えたようだ。ケンミルト島の監視から連絡が来たぞ」

その言葉を聞いた瞬間、リンダの表情ががらりと変わった。

今までの年相応の女性という表情が消えて、完全に無表情の顔へと変貌したのだ。

それはまるで無表情という仮面をつけたかのように切り替わっている。

「そう。それなら準備しないとね」

そう言って立ち上がったリンダは、リチカーラル少尉の方をちらりと見た後、「片付けておいてね」と言って艦内に入るための扉の方に歩いていく。

「あっ、は、はいっ」

リチカーラル少尉は慌ててそう返事をするとサマーチェアーなどを片付けていく。

リンダとリチカーラル少尉をそれぞれ見た後、パッキンネ艦長は息を吐き出した。

「仕事になると表情も動きも何もかも変わりやがる。相変わらず怖い女だ」

それは意識して言った言葉ではない。

ある意味、呟きみたいなものだ。

だが、その言葉はすぐに否定された。

「そうでしょうか?自分はそう思ういません。もっとも、すごい人であることに変わりはありませんが……」

片付けながらそう言ったリチカーラル少尉に、パッキンネ艦長は相変わらずだなと思う。

『リンダ女史の忠犬』

裏でパンドット・リチカーラル少尉に付けられた二つ名だ。

常にリンダの傍に仕え、彼女を陰日向関係なく支える忠臣と呼ぶに相応しい人物からついたものだ。

もっとも、それなら懐刀とか右腕とか言われそうだが、その優男風の顔と優しそうな物腰、そして彼女の後をついて回る姿はまさに母親について回る子犬のようであったから、いつしかそう呼ばれるようになっていた。

また、本人は知らなかったが、その二つ名はかなり広まってしまっている。

そして、リンダにもその話は届いていたが、その話を聞くなり彼女は面白がり何も文句は言わなかった。

だから半ば公認という形になってしまっていた。

「俺としては、そんなお前さんの方がすごいと思うがね」

パッキンネ艦長はそう言って笑うと艦橋に向かって歩き始める。

その後姿を片付けの手を止めてきょとんとした顔で見送るリチカーラル少尉。

その様子は、ちょうど一服休憩していた乗組員にはまさに犬が対処に困った様子に見えたという。



青い海を切り裂くように進む艦艇があった。

その細長い艦体と五連装魚雷を三基装備する駆逐艦では最大の雷撃能力。

そして何より、フソウ連合で最速を誇るその艦艇の名は島風という。

だが、他の駆逐艦よりもはるかに超える速力と雷撃能力が島風の足枷となってしまっていた。

他の駆逐艦と行動するためには、他の駆逐艦に合わせねばならず、それが島風の長所を潰してしまっていたといってもいいだろう。

よって、島風はフソウ連合では高速駆逐艦として分類され、単艦で行動する任務が多い。

だが、島風はその任務を楽しんでいた。

自分しか出来ないという自負を持って。

そして、艦橋には双眼鏡で周りを警戒する付喪神の島風の姿がある。

「間もなく指定された場所ですね」

島風は双眼鏡から目を離さずに隣の人物にそう言った。

「ああ。そのようだ。しかし、緊張してしまうな。まさか自分が抜擢されるとは思いもしなかったし……」

そう言って苦笑するのは、フソウ連合海軍南方方面艦隊所属第二警備隊の青島少尉だ。

もっとも、今はフソウ連合海軍司令部直属となっており、階級も大尉となっている。

これは今までの功績と、今回階級が低いままで交渉に当たった場合、相手側に余計な事を勘ぐられるのを防ぐ為に行なわれた処置であった。

その為、、一気に二階級特進となっている。

「本当に柄じゃないんだけどなぁ。国の命運なんて重過ぎるよ」

そう愚痴る青島大尉に、島風がパーンと背中をはたく。

「しっかりしてくださいよ、大尉。鍋島長官が認めたんですから、大尉にはその素質があるってことですよ。自信を持ってやってください」

「そうか……」

そしてキッと表情を引き締める。

「そうだな。鍋島長官の信頼に答える。それだけが今自分にできることだからな」

「そう言う事です」

双眼鏡から目を離すと島風が楽しそうに笑う。

彼にしてみれば、この青島大尉という人物は、今まで知り合った人物の中でも特に好印象を持つ人物だった。

別に対応が特別だとか、そういったものではない。

気が合うと言ったらいいだろうか。

なんとなくだが、馬が合う、そういった感じだ。

そして、これから長く組んで仕事をしそうな予感さえしている。

「しかし、わからないことばかりだからなぁ。ここまで情報がないと……。まさに行き当たりばったりだ」

苦笑して呟く青島大尉。

実際、海賊国家サネホーンに関しての情報はあまりにも少ない。

それは彼らがここ数年は決めた海域に入らなければ余程の事がない限りちょっかいを出してこないからだ。

それでも海賊被害が出ているものの、海賊国家に扮している連中の仕業というものさえいる。

つまり、一応旗はあげているものの海賊と海賊国家の艦艇の違いが、あまりわからないということが大きいのだろう。

それでもわかっていることは、ある一定の海域を支配し、国に匹敵する力を持つ。

また、あらゆるところに独自のネットワークを持つとも言われている。

その上、水上機を運用しているという情報が追加され、恐らくフソウ連合と同程度の技術力を持つと考えられていた。

「ああ、気が重いなぁ……」

がっくりと肩を落とす青島大尉に、島風は苦笑を漏らす。

そしてどうやって鼓舞してやろうかと思っていると、一人の男性が入室してきた。

「青島大尉、そろそろ準備を」

敬礼してそう言うのは、外交部でまとめ役をしている中田稔中佐の部下で、青島大尉のサポートとして派遣された吾妻正文中尉だ。

暑い中にもきっちりと軍服を着こなし、その姿には隙が見当たらない。

「まだ早くないか?」

「いえ。私はそう思いません。今回のことは、フソウ連合だけでなく、『IMSA(イムサ)』、それにその加盟国の王国や共和国、アルンカス王国の先の動きにも関わってくる大事な案件ですからしっかりやらなければなりません」

その吾妻中尉のきっぱりとした口調に、困ったような顔をした後青島大尉は苦笑いを浮かべる。

自分も緊張しプレッシャーに曝されているが、それはサポートする彼も代わらないはずなのにしっかりしている彼の様子に、自分の不甲斐なさを感じて思わず苦笑が漏れたのだ。

そしてそれが引き金となったのだろう。

そこにはさっきまであった緊張やプレッシャーに対する不安が少しは薄らいだようだ。

だから、まだ早いとは思ったが、青島大尉は吾妻中尉の言葉に従うことにした。

「わかった。行こうか」

そう言って青島大尉は、島風に軽く右手を上げて扉の方に向かう。

「ああ、がんばりたまえ。君をしっかり連れて帰るのが私の使命だからな」

「ありがとう」

そう言って艦橋から退室する後姿を見つつ島風は思う。

あの二人、実は以外といいコンビなんじゃないだろうかと。



二時間後、フソウ連合海軍の駆逐艦島風と海賊国家サネホーンの装甲巡洋艦リンパークラは、ムチカトーナミ島の沖合いで会合する。

そして、ムチカトーナミ島に儲けられた建物の中で交渉が始められたのであった。

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