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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十三章 暗躍、そして……

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返答

団長パットラ・ファンスーバルが軍の司令官に赴任してくれないかという要請があった翌日、傭兵団『飢えた狼達の巣』は開放された。

もちろん、武器は返還されなかったが、それ以外の装備は全て返還されている。

その中には、傭兵団が足として使用していたトラックなども含まれており、それにより自由になった団員達は、自分達のねぐらがあるファンカーリル港の兵舎に戻っていった。

だが、そんな中只一人残ったものがいた。

そう、団長パットラ・ファンスーバル、その人である。

理由はもちろん要請の返答をする為だ。

そして、今、彼の姿は、ルル・イファンの行政府が置かれているホテルの玄関ホールにあった。

「パットラ殿が来られました」

独立宣言の為の準備で慌しく忙しくしていたアーチャたちであったが、警備の兵からその伝令を聞くと互いの顔を見合わせて頷いた。

彼が要請の返答を言いにきたとわかっていたからだ。

「わかった。すぐに会おう準備をしてくれ」

アーチャがそう言うと、トバイがすぐに答える。

「わかった。すぐに準備させる」

そんな二人にレンカバッラ大佐が声をかける。

「私も同席していいだろうか?」

パットラが要請を受ける受けないは彼にとっても大きな問題ではあるし、なによりパットラと話したい事があるのだろう。

或いは断られた時に説得でもするつもりなのだろうか。

ともかく、真剣な眼差しでそう言われ、アーチャは頷く。

「ああ。かまわないよ」

「すみません」

そう言ってレンカバッラ大佐は頭を下げる。

「何、気にしなさんな」

トバイが笑いつつ、ポンポンと肩を軽く叩く。

「さて、彼の返事はどうかな?いい返事だといいんだけどね」

アーチャはそう言いつつ立ち上がる。

今までの書類整理や宣言の草案で頭を抱え眉間に皺を寄せて唸っていた男とは同一人物とは思えないほど晴れ晴れしてうれしそうだ。

そんなアーチャを見てトバイがため息を吐き出して言う。

「今日中に、宣言の草案考えてくださいよ」

その言葉に、アーチャが露骨に嫌そうな顔をした。

「わかったよ。それよりは返事を聴きに行こうじゃないか」

そう言って真っ先に部屋を出るためにドアに向かう。

その後姿にトバイは呆れ顔で、レンカバッラ大佐は苦笑して続いたのだった。



先に案内されていたパットラは、部屋に入ってきた三人を立って迎え入れると、三人が座ったのを確認してからソファに座った。

そして、三人の顔を緊張した面持ちでそれぞれ見た後、数回深呼吸をして口を開く。

「要請の件だが、部下たちとも話し合った結果…………受けたいと思う」

その言葉に、アーチャはうれしそうに、トバイとレンカバッラ大佐はほっとしたような表情になったが、そこでパットラの話は終わりではなかった。

そんな三人の様子を見ながら話を続ける。

「ただし、条件をつけさせてもらえないだろうか」

「条件?」

そう聞き返したのは、アーチャだ。

さっきまで浮かんでいたうれしそうな顔はもうない。

怪訝そうな表情が浮かんでいるだけだ。

「ええ。条件です」

「いいだろう。言ってくれ」

「ありがとうございます。条件は二つあります。一つは、期間を付けること」

「ほう。どういった理由かな?」

トバイが面白そうに聞いてくる。

「俺達は、傭兵だ。傭兵というのは雇われている。その際に必ず決める事がある。それは規則と報酬、それに期間だ。それがあってこそ、契約は結ばれるってもんだ」

「なるほど。確かに……。だが、期間延長という選択肢ももちろんあるのだろう?」

アーチャは感心したように頷いた後、面白そうにそう聞いてくる。

「ああ。勿論です。ですが、それでも期間は決まっている。それはきちんとした区切りだ。そこで延長するか、切るかは我々が決める」

「わかった。確かにその通りだ。では、まずは三年でどうだろう?」

しばらく考え込んだ後、パットラは頷いた。

「確かに建国する事を考えれば、少し落ち着くまでに三年はかかるだろう……。いいだろう。三年で」

そのパットラの言葉に、アーチャはほっとした表情になる。

「ああ、助かるよ。三年より短くといわれたらどうしようかと思ったからね。ちゃんと理解のある人でよかった。では、もう一つの条件を聞こうか」

「ああ。もう一つの条件は、表向きはレンカバッラ大佐が軍の司令官とし、俺の立場はアドバイザーという事にしておいてくれ」

「それはどういう意味だ?」

レンカバッラ大佐が窺うように聞いてくる。

彼にしてみれば、なぜそんな事を言い出したのか見当がつかないのだろう。

表と裏では、面倒になるだけではないか。

そう思ったのだろう。

だが、そんなレンカバッラ大佐に視線を向けつつパットラは答える。

「理由は二つある。一つ目は、俺はあくまでも部外者であり、滞在するのはあくまでも期間限定でしかない。だから、軍のトップはこの地出身者じゃないとじゃないと駄目だ。特に後々の事を考えればなおさらだろう」

「ふむふむ。確かに……」

「それで二つ目は、団員達の家族や身内の安全の為だ。俺はともかく、団員達はそれぞれ家族や身内が連盟や他国にいる。もし軍の責任者に俺がなったら、揺さぶりや駆け引きの為に団員達の家族や身内が狙われるかもしれないからだ」

そこまで言った後、パットラは少し微笑んで言葉を続けた。

「肉親のいない俺にとって、団員達は家族みたいなもんだ。そんな連中の悲しむ顔を見たくないんでな」

その言葉に、三人は黙り込む。

しばしの沈黙の後、レンカバッラ大佐が声を上げた。

「私は構いません。彼の条件を受け入れましょう」

その顔は決意に満ち満ちている。

「構わないのかね?」

トバイの言葉に、レンカバッラ大佐は強く頷き答える。

「彼の言い分はよくわかる。それに条件付とはいえ、我々の要請に真摯に対応してくれた彼に敬意を払いたい。それにだ。この機会に彼から色々学ばせてもらい、私が成長すれば問題ないという事だな」

「そう言う事だよ、レンカバッラ。君は今から生まれてくるこの国を守る守護神にならなければならないんだ。そして、きっとこの国の民となるものはそれを望んでいる」

しばしの沈黙の後、どちらからともなく手が差し出され、パットラとレンカバッラ大佐は硬い握手をする。

「決まりだな……」

そんな二人の様子を見てアーチャは微笑んで言う。

「まぁ、いいんじゃないですかね」

アーチャと違い、そう言いつつ苦笑するトバイだが、案外うれしそうに見えるのは気のせいではないだろう。

こうして、独立に向けて国の人事が形を成しつつあった。



「すぐにやって欲しいと?」

レンカバッラ大佐は怪訝そうな顔でパットラを見る。

今日は、スタッフや執務室などの案内で終わると思われたが、執務室に着くなりパットラはレンカバッラ大佐に相談したのだ。

「すぐにでもやって欲しい事がいくつかある」と。

「ああなるべく早いほうがいい」

その真剣な表情に、レンカバッラ大佐も真剣な表情で頷く。

「わかった手配しょう。言ってくれ」

「まずは、残存戦力と保有艦艇リストだ。それとうわさをいくつか流して欲しいんだ」

そう聞かれて、少し思案顔でレンカバッラ大佐は答える。

「残存戦力と保有艦リストは一時間もしないうちに届けさせよう。それで流して欲しい噂とは何だ?」

「ああ。一つは『海賊国家が『IMSA(イムサ)』関係の艦船を襲わないのは、フソウ連合と密約しているからだ』と」

「何っ、それは本当なのか?」

驚愕の表情でそう聞き返すレンカバッラ大佐にパットラは苦笑して答える。

「本当じゃないから、噂として流してくれって言っているんだよ」

「ああ。なるほど……。でもそんな噂、皆本気にすると思うか?」

「だが、君はその言葉を聞いて驚き、聞き返したぞ。別にほんとだと思い込ませる必要はない。ただ、匂わせるだけだ。実際に『IMSA(イムサ)』関係の艦船、それもフソウ連合の艦船を海賊国家が襲っていない以上、まさかと思ってしまっただろう?」

「ああ。一瞬本当か?と思ってしまったよ」

「そうそう。それぐらいでいいんだ。それでな、次は別の噂として『海賊国家は、連盟組み易しと考えて今後は獲物として狙っているらしい』という噂だ」

「ふむ。それも噂だな?」

「ああ、勿論だ。それで止めに、海賊に扮した艦艇を連中の重要拠点となっている港近くで目撃させる。すると噂を聞いた連盟はどうすると思う?」

そう聞かれて、レンカバッラ大佐ははっとして聞き返す。

「より警戒し、港を守る為に艦隊を派遣する」

「そういうことだ。恐らくだが、連盟は近々艦隊を派遣して我々を攻撃してくるだろう。その際、二国間の海上戦力の差はどうしょうもない。なら、どうするか……」

そこまで言ってニタリと笑うパットラ。

「派遣される艦艇を減らさなければならない、或いは派遣を中止させるしかない事態に追い込む」

「た、確かにその通りだ。普通に戦ったのでは我々に海戦での勝ち目はほとんどないだろう。ならば、勝てるように牽制したり、或いは戦えなくすればいいという事か……。なるほどな……」

「ああ。そういうことだ。ただ馬鹿正直に真正面でぶつかるだけが戦いじゃないからな。こういった搦め手もうまく使えば戦局が有利になるってもんさ」

そう言った後、パットラは注意点をいくつか上げる。

「別に海賊国家の船だとはっきりと見せる必要はない。怪しい船が偵察している。それで十分だ。それだけでも噂との相乗効果で……」

「海賊国家と認識するってことか!!」

「ご名答。そういうことだ。それと他国の警備艦隊や警戒艦隊に引っかからないように注意し、出港までは行き先や目的は乗組員には知らせない。いつどこから情報が漏れるかわからないからな」

「わかった。徹底させよう」

「後は、連盟が狙いそうな重要拠点になる港に、偽装砲台を幾つも用意させ、警備や防衛が強化されたと見せること。そうだな。全部偽物だとすぐにばれるかもしれないから、五・六門に一門は本物を混ぜておくといいか」

慌ててメモを取りつつ頷くレンカバッラ大佐。

だが、これでパットラのやって欲しい事は終わってはいなかった。

「そうだな。それと防衛拠点周辺と海岸線にダミーの火砲陣地をいくつか用意しておく必要もあるな。それに……」

「ち、ちょっと待て。まだあるのか?」

「ああ。あるとも。だから言っただろう『すぐにでもやって欲しい事がいくつかある』って……」

そう言われて、ため息を吐き出すレンカバッラ大佐。

「あ、ああ。そうだったな……」

そういった後、レンカバッラ大佐は諦め顔で聞いてくる。

「それを報告書か何かで出すつもりは?」

「ないに決まっているだろう?なぜそんな無駄な事をしなきゃならんのだ?」

「だよなぁ……。お前さんはそういう男だよな……」

「ああ。そういう男だ」

パットラはそう言って笑う。

それに釣られるように笑うレンカバッラ大佐。

いや、もう笑うしかなという事なのだろう。

だがすぐに真剣な表情になると一字一句間違えないように必死になってメモを取るのであった。

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[一言] 別に改善国家の船だとはっきりと見せる必要はない。怪しい船が偵察している。それで十分だ。それだけでも噂との相乗効果で…… 海賊国家?
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