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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十三章 暗躍、そして……

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ルル・イファン一揆

九月に入り、世界の流れは大きく変わりつつあった。

八月十八日にフソウ連合、ウェセックス王国、フラレシア共和国、アルンカス王国の四ヶ国が参加し、『国際食糧及び技術支援機構(International Food and Technology Assistance Organization)』、通称『IFTA(イフタ)』が正式に発足されてからである。

そのもっとも大きな影響を受けたのは災害の被害を受けた王国、共和国の植民地で、あれだけ起こっていた暴動や独立運動が鎮火していったのである。

イフタによってもたらされた食糧や物資が、災害で苦しんでいる植民地に浸透するかのように配給され、人々は王国や共和国といった宗主国の頼もしさや自分達を見捨てない態度に感謝し、矛先を引っ込めたと言ったところだろう。

またそれと同時に、イフサへの感謝と同時に、その組織を提案しただけでなく、組織の中核として精力的に活動するフソウ連合に畏敬の念さえ持つ者さえいた。

それほど、彼らの心には、フソウ連合の名前が刻まれたのだ。

そして、それとは逆に変化が現れないところもあった。

それは連盟や共和国の植民地である。

元々、これらの植民地は災害による直接的な被害はほとんどなかった。

しかし、災害に託けて無理な食糧の買い上げや無理な寄付金集め、さらに今まで散々やってきた事が積み重なって、植民地の人々の怒りを買っていた。

とくに酷かったのは、連盟の一大食料生産地となっていたルル・イファンとその周辺地域である。

この地は、災害の被害を受けず、その上豊作であったが、王国や共和国への転売を狙ってその多くが連盟商人たちによって買い占められ、その結果、食糧の高騰を引き起こし、人々の生活を一気に圧迫したのだ。

その結果、激しい暴動と独立運動が沸き起こる状態になっていた。

だが、ここで王国や共和国に転売して儲けようとしたが失敗して抱えてしまった多くの食糧を買値と同じ値段で投入すれば収まったのかもしれない。

しかし、連盟はここで自分の利益を優先させてしまう。

つまり、食料は投入するが、買い上げた以上の代金を求めたのだ。

元々は、自分達の生産した食糧を権力で買い叩き、そして今度は高い値段で売りつけようとしている。

その横暴としか思えない行動に、ルル・イファンの人々はさすがに我慢の限界だった。

そして、そんな騒ぎの中、一人の人物が頭角を現す。

その人物の名は、アヴドーチヤ・フョードロウィチ・ラスコーリニコフ。

連邦から来た通称『アーチャ』と呼ばれるこの男は、ルル・イファンの貧民達だけでなく、今回のことで生活できなくなってしまった多くの人々の支持を得る事に成功する。

そして、九月に入るとその動きを加速させた。

自分の考えに賛同した同士と共にルル・イファンだけでなく、同じように苦しむ周辺地域に独立を働きかけたのである。

まさに、それは人々から大量にあふれ出ていた不満や不安といった油に希望という火をつけるようなものであった。

そして、点火された火は一気に燃え上がり、独立という炎となる。

そして、その炎は連邦だけでなく、教国の植民地に飛び火していったのであった。



「準備は整った。明日始められるぞ」

そうアーチャに囁いたのは、緊張した面持ちのトバイだった。

「そうか整ったか……」

アーチャは嬉しそうに笑う。

その笑顔に、トバイは呆れたような表情になった。

「緊張しないのか?」

「緊張はしている。しかしだ。短期間でここまで来れたのか嬉しいのだ。皆が協力し、ここまで来れた。そして、明日、我々の努力と苦労は報われると思うと、緊張よりも喜びがこみ上げてくるのだ」

その言葉に、トバイは苦笑した。

「さすがは、アーチャーだ。そんな事を言える男は、俺が知っている限りあんた以外いねぇよ」

「何を言う。その喜びをくれたのは君達だ。誇っていい。そして明日は、この地の新しい幕開けとなるだろう。楽しみだ。ああ、実に楽しみだ」

ますます苦笑するトバイ。

だが、そんなアーチャの様子に、いつかトバイもうれしくなっていく。

こいつなら死ぬと分かっていても付いて行く。

そう決心させる何かがあった。

だが、そんな事を思っているトバイを尻目にアーチャーは真剣な表情をする。

唯一の気がかりが頭を掠めたからだ。

「それで……連邦からの返事はまだ来ていないのか?」

そう。それだけがアーチャーの心に引っかかっていた。

今でこそ彼が中心となって動いているが、元々は革命を起して人々の生活を豊かにという連邦の主義を広げる為に連邦が主体となって推し進めてきた事だからだ。

もっとも、今や連邦とは違う政治の形になりつつある。

それはこの地に済む人々の望みを取り入れていった結果である。

アーチャーはそれもありだと思っていたが、連邦行政府はどうとるだろう。

自分達と同じような政治体系にしろと言ってくるだろうか。

それが不安であった。

だからこそ、何度も連絡を取ろうとしている。

しかし、トバイの返事はいつも通りだった。

「ああ。まだ来ていないぞ」

そういった後、トバイが怪訝そうな顔で聞いてくる。

「気になるのか?」

「ああ……」

短くそう返事をするアーチャー。

その表情は複雑なものであった

それを慰めるようにトバイがポンポンと肩を叩く。

「向こうも大変だと聞いている。だが、大丈夫だ」

それは慰めでしかない。

最初は経過報告をルル・イファン駐在の連邦組織を使って行なおうとしたが、組織を牛耳る堕落した同志達がルル・イファンの民に信頼され打ち解けたアーチャーや彼の言葉に動かされた者達にいい顔をするわけもなく、全て握りつぶしていた。

最初は『まさかそんな事は……』と思っていたアーチャーだったが、あまりにも本国との連絡が取れない事態が続いている為、遂にルル・イファンの連邦組織を経由しての報告は諦め、信頼できる同士の一人を連邦に向かわせたのだ。

しかし、一週間前、その同士も音信不通となっていた。

そんな事情が分かっているため慰めの言葉を言ったものの、心配なのだろう、トバイが伺うように聞いてくる。

「なんなら決行日をズラすか?」

それは誘惑するような提案であった。

アーチャーにしてみれば、こういった大きな決断をするのは初めてとなる。

いくら喜びが大きいとはいっても不安は間違いなくある。

だが、ここでズラせばバレる確立は間違いなく跳ね上がるだろう。

秘密は、出来る限り少ない人数で、短期間のみとしなければ、漏れる確立は高い。

その原因は、誰の心にもある自慢したい心や慢心といった自己満足的なものがあるだろう。

そしてそれでも秘密を守るには、それ以上の決心や恐怖が必要なのだ。

それらから考えれば、、基本的に人は秘密を我慢できない生き物だといえるのではないだろうか。

それに決心を鈍らせる選択は、多くのものを失望させるだろう。

だからこそ、ズラすなんて選択はない。

すーっと息を吸って、吐き出した後、アーチャは決心した表情で言い切った。

「明日……、計画通りだ」

その言葉に、トバイは頷く。

「ああ。任せろ」

その顔は決心を感じさせる笑みを浮かべていたのだった。



九月二十二日十時。

その日は少し薄曇の日だった。

連盟から派遣されたルル・イファンを統括する総督、アンカーラナ・ベルトファランカ・リットラーゼは、総督府の自室でいつもの遅い朝食を食べていた。

元々は商人を父に持つ三人兄弟の末っ子で、父の後を継げることはできないとわかっていたから連盟の国家公務員となり、その統括力を買われてこの地の総督として派遣された人物だ。

だが、十年近く続くこの地での自堕落な生活は、彼の長所を溶かし、認識や常識を曖昧にさせるに十分であり、今の彼はすっかりなまくらの刀と変わらない有り様であった。

「ふぁぁぁ……。今日の予定は?」

そう聞かれ、秘書らしき男が手帳を確認しつつ口を開く。

「はい、夕方にパーティがあること以外は、いつも通りでございます」

「ふむ……。ならのんびり出来るな」

ここ最近騒がしかった独立運動とやらも鳴りを潜めているし、その煽りを受けてざわめいていた街も落ち着き始めている。

もっとも、食糧の価格高騰は問題だが、その件は話がついている。

確かに買い取った値段よりも高く買わされる人々は大変だとは思うが、自分の懐を犠牲にしてまでやる義理はない。

それにだ。

商人である以上、儲けを重視しなければならない。

商人の息子であったから、その考えは正しいと思う。

だから反対しなかったし、これを契機に本国の商人たちとツテを作ればという思いもあった。

しかし、今日は何をしてすごそうか……。

そんな事をぼんやりと思いつつトーストにたっぷりのバターをのせる。

熱く熱を持つトーストの表面で、バターがゆるゆると溶けていく。

それはまるで何かが崩壊していくかのように……

そして、その瞬間だった。

どーーんっ。

一際大きな爆発音が響き、それにあわせて幾つもの爆発音と発砲音が響く。

その急な音に、まだ眠りこけていた思考が叩き起こされる。

「な、何事だっ」

事態を把握できずにあたふたとする秘書に答えられるわけもない。

だが、その代わりにドアが激しく開けられた。

「た、大変でありますっ。み、民衆がっ、民衆がっ……」

入ってきた男は、行政府の治安部門の責任者だ。

もっとも、それ以上は荒い息と慌てふためいて言葉にならない。

「落ち着けっ。どうしたっ」

治安部門の責任者は荒い息のままテーブルに近づくとそこにあった水の入ったコップを一気に飲む。

普段なら文句を言われるような失礼な行為だが、そんな事を考える余裕はないのだろう。

それで落ち着いたのか、それでも荒い息だがはっきりと続きを口にした。

「民衆が蜂起し、こちらに向かってきておりますっ。その数……一万以上ですっ」

その報告に驚き、リットラーゼの顔面が蒼白になる。

もっとも、デモや暴動は今に始まった事ではない。

今までだって何度も行なわれていたし、ほんの数日前にもデモは行われていた。

だが規模が問題だ。

今までは精々一千人程度の民衆がデモを起す程度であったし、暴動に関しては百人もいかない程度のものだった。

つまり、今までの規模とは一桁も二桁も違うのだ。

だから慌てて指示を出す。

「さっさと軍を動かしてっ……」

だがその言葉をすぐに真っ青に顔をした治安部門の責任者によって遮られた。

「無理です」

そして、治安部門の責任者は言葉を続ける。

「治安部隊のほとんどが連中に付いています」

治安部隊と言っても、中核は現地採用の兵達である。

後は、ほとんどが傭兵であり、本国から連れて来られた純粋な連盟の兵は少ない。

つまり、現地採用の兵達がほとんど民衆側に回ってしまったのだ。

「なんとか、港までの逃走路を確保していますが、いつまで持つかわかりません。すぐに逃げる準備を……」

だが、治安部門の責任者の言葉に、リットラーゼの思考は完全に止まってしまっていた。

唖然とした表情で……。



こうして、のちにこの周辺地域を巻き込む『ルル・イファン九月革命』の前哨戦であるルル・イファン一揆が蜂起したのであった。

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