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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十三章 暗躍、そして……

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宰相の遺産……  その3

ヤロスラーフ・ベントン・ランハンドーフが自分の主の遺産の話をしてから七日後、プルシェンコ上級大将の信頼できる部下によるランカーナ灯台捜索の報告がアデリナの元に届いた。

その報告書の厚さはかなりのもので、見た瞬間、アデリナが眉をひそめる。

そして、その報告によって、元旧帝国宰相であり、ラチスールプ家の遺産の全貌がはっきりとした。

その灯台自体は、小高い岬に三十年以上前にラチスールプ家と国の共同事業で建設された帝国一の大きさを誇るものでまったく問題はなかったが、その灯台の下にあるものが問題だった。

その灯台の下には、巨大な地下空間があったのである。

その大きさは小さな港程度もある自然の空洞であり、恐らく長い年月をかけてラチスールプ家の先祖たちが海に繫がっている洞窟を作ったことで、大型船さえも往来出来るようになり、またかなりの資金と資材を投入し、施設を設置したおかげでまさに秘密の港と呼ぶに相応しいものになっていた。

だが、それでも海に繫がっている洞窟がある以上、その存在はいくら隠蔽しようがいつかは公のものとなったであろう。

しかし、ラチスールプ家はその洞窟と地下の空間の存在が公になる前に洞窟の入口に灯台を建てて隠したのである。

その上、その空間で働く数百人の者達はラチスールプ家に絶対の忠誠を誓う者たちで、今回のことが無ければその地下の巨大な空間と海に繋ぐ洞窟はこれからも秘密を保たれていただろう。

まさに、ラチスールプ家の関係者のみが知る秘密の場所として……。

そして、その空間の存在も驚く事だったが、それ以上にアデリナを驚かせたのは、そこに蓄えられたものであった。

旧帝国の国家予算に匹敵するほどの金額になる財宝や美術品が集められており、それに大量の物資などが用意され、秘密の港には大小実に十隻の艦船が停泊していたのである。

そして、そのうちの三隻は実際に資材や物資などの調達に使われているラチスールプ家が所有する輸送船のようであったが、残りの七隻はどう考えてもそう思えない代物ばかりであった。

その七隻は、今の時代よりも古い年代ものがあったかと思えば、新型のような大型の戦闘艦らしきものもあったりと実に形式も大きさもバラバラで、ビスマルクやテルピッツを召喚構築する前に、秘密理に実験が行なわれた結果、得られたものがこの七隻のようであった。

そして、そんな中、一際目立ったのは、三隻の大型戦闘艦である。

あの召喚の書によって再構築されたグロッサークルフェルスト、ケーニッヒ、マルクグラーフの三隻だ。

この三隻は、ケーニッヒ級と呼ばれる弩級戦艦で、排水量23,518トン、全長175.4m、最大速力23ノット、兵装は、クルップ SK C/12 30.5cm(50口径)連装砲5基、SK C/16 15cm(45口径)単装砲14門、SK C/13 8.8cm(45口径)単装砲6門、SK C/13 8.8cm(45口径)単装高射砲4門、50cm水中魚雷発射管単装5基を誇るドイツ海軍自慢の戦艦であり、竣工時期は1913年頃で、日本海軍の金剛型とほぼ同次期に竣工している。

もっとも、1919年に自沈処理されている為、その後は金剛型のように近代改装を受けることもなく、現在運用しているフソウ連合海軍の金剛型に比べてスペック的には大きく劣っている。

しかし、その装甲は、速力で避けるのではなく、しっかりと足を止めた打ち合いで勝つためにかなり厚くなっており、実際、ユトランド沖海戦でも生き残り、その上、グローサークルフュルストは機雷や雷撃を受けても沈むことなく港に帰投し、修理完了して戦線に復帰しているほどのタフガイだ。

つまり、それらの事を報告書には事細かにまとめられており、この驚くべき厚さになってしまったらしい。

そして、それを一通り見たアデリナは、実に長編小説(それも百科事典に匹敵する)を読んだかのような錯覚さえしてしまうほどの内容で信じられないでいた。

「すごいわね……。これ……。道理で報告書提出が遅れるわけだわ……」

ランカーナ灯台までは、汽車を使えば実に一日もかからない距離にある。

だから、報告は遅くとも三日までには出るだろうと踏んでいたのだ。

しかし、実際は一週間かかっている。

その理由を書類の厚さが証明しているといってもいいだろう。

そんなアデリナの口から思わず出た言葉に、先に目を通していたプルシェンコ上級大将は短く「ええ」とだけ答える。

彼自身もまだ半信半疑なのだろう。

もちろん、信頼する部下の報告を疑うつもりはない。

しかし、それでもなお、驚きのあまり信じられないのだ。

しばしの沈黙が辺りを包み、そして伺う様にプルシェンコ上級大将がアデリナに聞く。

「陛下、どうされますか?」

その問いに、アデリナは何を言っているんだとばかりの表情をした。

「軍に組み込むに決まっているだろう。他の四隻はどうかわからないが、この三隻は、現状保存も良好で十分戦力となりえると書いてあるではないか」

「ええ。もちろんです。ですが、陛下は、その……見に行かなくてもよろしいのですか?」

その言葉でプルシェンコ上級大将の言いたいことが分かったアデリナだったが、言われてみて初めて見てみたいと思ってしまった。

つまり、あまりにも大きな驚きの為に、そこまで思い至らなかったらしい。

「そうね……」

呟く様にそういった後、アデリナは声を上げた。

「そうよね。言われてみれば、初めて会う()達よね。あなたの言う通りだわ。会わなきゃいけないわ」

頬を朱に染めて、愛しい人との時間を過ごすのを想像したのだろうか、うっとりとした表情になるアデリナ。

その様子に、プルシェンコ上級大将はなんかほっとしたような表情になる。

ああ、いつもの陛下だと……。

しかし、その反面、二人の会話を横で聞いていたゴリツィン大佐は渋い表情になった。

恨めしそうにじろりとプルシェンコ上級大将の方に厳しい視線を向ける。

その表情は、余計な事は言うなと言いたそうであった。

だが、その表情もすぐにアデリナに声をかけられ、いつもの無表情にも戻る。

「ねぇ、ゴリツィン……」

そういった後、潤んだ瞳でアデリナはゴリツィン大佐を見る。

要は、会えるように時間をくれという事らしい。

ジーっと見つめられ、結局、ゴリツィン大佐は深いため息を吐き出す。

分かりきっていたとはいえ、結局はいつも通りの流れになっていた。

「わかりました、陛下。明日、明後日の二日間、時間を作ります。それでよろしいでしょうか?」

その言葉に、アデリナは喜びの声を上げた。

「ええ。それでいいわ。さすがね」

そう言った後、視線をゴリツィン大佐からプルシェンコ上級大将に向ける。

「それと技術者や詳しい調査が出来る人材を集めておいて。私と一緒に現地に飛んで実際に戦闘可能かどうかの調査を行なってもらいます。それとこの三隻の乗組員の編成の原案を用意しておきなさい。出来れば、調査、点検が終わり次第、すぐにでも訓練に入られるように。それとランカーナ灯台の秘密港と三隻の戦闘艦に関する情報は秘密を厳守するように」

要は、秘密理に出来るだけ早く戦力化したいのだろう。

確かに、今、公国が大きく動いている以上、それに対応する為に早急に必要となるのは間違いない。

だから、プルシェンコ上級大将は敬礼し返事を返す。

「了解しました。すぐに手配いたします」

「ええ。お願い。それとゴリツィン」

「わかっております。調査団が乗る汽車やかかる費用などすぐに用意させます」

そのゴリツィン大佐の言葉に、アデリナはニコリと笑う。

「さすがね」

「いえ、褒めていただける事のほどではございません。部下として当たり前の事です」

そう答えるゴリツィン大佐に、アデリナは少ししんみりとした表情で微笑む。

「それでもね、言っておきたかったの。私がこうしていられるのも部下が頑張ってくれているおかげだって……」

もし、こんな風に自分の言葉を実行する為にいかに大変かとわかっていたらノンナとの関係は今とは違ったものになっていなかったかもしれない。

そんな事を思いつつ、つい言ってしまったのだ。

そして、その心情が少し感じられたのだろう。

ゴリツィン大佐が頭を下げる。

「ありがとうございます」

そんなしんみりとした空気を吹き飛ばすかのようにプルシェンコ上級大将が笑いながらバンバンとゴリツィン大佐の肩を叩く。

「まぁ、まぁ、さっさと準備して陛下の希望を叶えようではないか」

「ええ。そうでした」

ゴリツィン大佐は顔を上げると笑って頷く。

そして、視線をデスクの上に積んである書類の束に向けながら言う。

「では、陛下。準備は我々が行いますので、陛下はできるかぎり職務をがんばってください」

アデリナの視線が書類の束に動き、さっきまでの笑顔がうんざりとしたものになった。

「う、うん……。頑張ってみる……」

そうは言ったものの、気は乗らないらしい。

じーっと書類の束を見つめてため息を吐き出して動こうとしない。

だが、それはいつも通りの事だ。

それがわかっているため、ゴリツィン大佐はわざとらしい口調で独り言のように言う。

「陛下がきちんと頑張っていただかねば、調査準備が遅れるかもしれませんな……」

その言葉に、アデリナは恨めしそうにゴリツィン大佐を見返す。

その視線を平然と受けるゴリツィン大佐。

その様子に諦めたのだろう。

「ちぇっ……。分かりました。分かりましたよっ」

そう言って渋々デスクに戻るために立ち上がるアデリナ。

そしてそんな様子を見て苦笑するゴリツィン大佐とプルシェンコ上級大将。

こうして、公国とはまったく違う形ではあったが、帝国は結束を固め、戦力を増強させ、隙あらばという体制を整えつつあったのである。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゴリツィン大佐殿に座布団一枚!
[一言] >今の帝国の国家予算に匹敵するほどの金額 これ「今の」ではなく「去年の」にすべきでは? 今現在の国家予算だと公爵家相応程度かと。
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