日誌 第一日目 その3
朝食後、頼んだ事が出来るまで時間があるので、東郷大尉と三島さんが用意した歓迎プランを堪能することにした。
まずは施設内の案内を受けた後、二式大艇に乗って沖合いの水上機母艦秋津洲に移動し、昼食。
メニューは海軍カレーであり、実に美味しくいただきました。
そして、午後からは重巡洋艦鈴谷と摩耶の艦砲射撃の訓練風景の見学。
いやぁ、すごい迫力で、びっくりたまげました。
二十センチ砲であの迫力なら、超大和級の大和改の五十一センチ砲だとどうなるんだろうか。
そんな事を思いつつ、今だけしか体験できない事を堪能することにした。
そして、帰島して司令長官室に案内された後、帰還途中に伝令を受けた大尉が席を外して待つこと三十分、東郷大尉が頼んでいたものを持って戻ってきた。
「長官殿。希望されたものです」
そう言って大尉はA3サイズの封筒を僕に渡した。
それを受け取り、司令官室の机に備え付けられている拡大鏡に手を伸ばす。
そして、封筒を開いて中から取り出したのは写真だった。
海の中に船が写っている。
望遠で撮ったものをさらに引き伸ばしたのか、かなり画像が荒い。
「一応、目立たないようにと言うことでしたので望遠で撮りました。最初の十枚は、本島から出した彩雲を使っての高高度からの撮影です。そして、次の十枚は、哨戒任務中の二式大艇から着水して撮影しています。あと、残りの五枚は島から撮ったものですね」
その説明を受けながら聞き返す。
「ばれてないかな?」
「多分ですが、大丈夫かと…」
「どうして?」
僕はそう聞きながら写真を見る目を彼女の方に向けた。
僕の視線を受けてると彼女は微笑んで答える。
「ガサラ本島の責任者があの船に回答を待って欲しいと要請した時にかなりの酒や食料が運ばれましたから、多分宴会でもやってると思いますよ。連中、もうこっちが降伏すると思い込んでいるみたいな感じだったと言ってましたからね」
「舐められてるなぁ…」
視線を写真に戻しつつ僕が言うと大尉は苦笑して答えた。
「そりゃ、力が違いすぎますからね。こっちはせいぜい用意して鉄砲とか刀あたり…。向こうは大砲ですからね。近づく前に全滅ですよ」
「魔法があるじゃないか。魔法じゃ駄目なのか?」
僕がそう聞き返すと今まで黙っていた三島さんが呆れたような声で言葉を返してきた。
「魔法を攻撃に使う?君は魔法がそんなに色々出来ると思っているのかい?」
「出来ないんですか?」
「魔法はね、身を守るものだ。そして、生活を豊かにするものだ。破壊に使ってはいけないんだよ。それに、長い間の鎖国で、攻撃の魔法なんてほとんど廃れてしまっているのさ」
「でも、僕を召喚したり、ジオラマや模型を本物にしたりしてるじゃないですか…」
「それは創造だろう?破壊じゃない」
うーーん。
どうやら、魔法ってそんなに便利なものじゃないみたいだ。
そして、ふと思いつく…。
「そういや、補給品や物資ってどうしてるんですか?」
すると今度は東郷大尉が答えてくれる。
「魔力で一日にある一定量まで自動的に補給されます。現在の消費量だと、消費よりも補充量の方が多いので倉庫は満杯のままですね」
それを聞き、思わずため息が出る。
魔法って、便利じゃないのか、便利なのかわからないじゃないか。
そんな考えがわかったのだろうか。
三島さんが、苦笑しつつ言葉を補う。
「この島は、二百年以上も前から魔女の島として、我々一族がずっと育んできた島だからな。他の地域よりも魔力が集まりやすいし、蓄えられた魔力も膨大だ。だからできることだよ。他の島ならまず無理だな」
要は、他の島で基地を作る場合は、普通に作り、普通に蓄えておく必要があるということか…。
そう思いつつ全部の写真を確認する。
「間違いないな。これは前弩級戦艦クラスだ…」
「前弩級戦艦?」
三島さんが聞き返す。
「僕の世界でドレッドノート級戦艦っていう画期的な戦艦が作られたんだけど、その戦艦よりも前に作られた戦艦のことを前弩級戦艦っていうんだよ。簡単に言うと二十~三十センチの主砲といろんなサイズの副砲を持つ戦艦だね。当時は、中近距離での打撃戦が多かったから。その前弩級と思われる戦艦が二隻か…」
椅子に座って腕を組む。
しばしの沈黙の後、メモに必要な事を書き、大尉に渡しながら口を開く。
「東郷大尉、今日の夕食の時にこの艦の責任者を呼んで一緒に食事できないかな?」
メモにさっと目を通した大尉は、「了解しました」と敬礼をする。
「じゃあ、ちょっと調べたいことがあるから、向こうに戻るよ。食事の用意が出来たら呼んでね」
そう言うと、僕は自分の世界に戻る扉に向う。
「えっと…どちらにお呼びに伺えばいいのでしょうか?」
「ああ、外には出ないよ。多分、自室で調べ物をしてると思うから、自室に来てね」
「了解しました」
その返事を聞き、僕は手を振ってドアを開けて自分の世界に戻った。
自室に戻った僕は、ネットに繋がったPCで検索していく。
前弩級戦艦…。
検索するうちに僕は手を止めて呟く。
「これだ…」
PCのディスプレに映し出されたのは、一枚の写真と砲の配置図。それにカノーパス級戦艦と言う文字。
排水量 14,300トン
全長 128.5m
全幅 22.6m
吃水 8.0m
最大速力 18ノット
武装 30.5cm(35口径)連装砲2基
15.2cm(40口径)単装速射砲12基
7.6cm(40口径)単装速射砲14基
4.7cm(43口径)単装機砲6基
45cm水中魚雷発射管単装4門
荒い写真からの判断だから細かいところは違うかもしれないが、多分、同程度のスペックだと思われる。
つまり、外の国は1900年代の軍事技術を持っているということだ。
それに対して、自分が買い込んでいる模型のなかで一番古い金剛が1913年就役としても、十年から二十年近く先を行っている事になる。
それをどうとるか…。
たった20年程度ととるか…。
或いは20年もととるか…。
そう考えてすぐに僕は一人苦笑した。
第一次世界大戦と第二次世界大戦では大きく兵器の質も違うし戦い方も変わってしまっている。
それを考えれば十分なアドバンテージじゃないか。
そして気がつく。
自分がすっかり引き受ける気でいる事を…。
なら、引き受ける以上は勝たなければならない。
やってやるか!!
僕は片っ端から艦船のデーター集めていく。
被害が少なく勝てる作戦を立てるために…。