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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十二章 三者会談

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居酒屋談話  その2

「失礼ですが、考えられている条件の内容を聞いてもいいでしょうか?」

そう言い出したのは、エンペラウス少佐だ。

「ええ。構いませんよ。まだこれが決定じゃありませんけど……」

そう前置きして鍋島長官が上げたのは、次の三つだった。

海賊行為の完全禁止、きちんとした国境の設定、情報の開示と公開。

たったそれだけかと思うかもしれない。

しかし、海賊行為が大きな産業のひとつとなっているなら、それを完全に禁止されるのは大きな痛手だ。

それに国境がはっきりしてしまえば、それ以外の海域での行動は、国際法を守っていかなければならなくなり、今までのように好き勝手は出来なくなる。

そして、一番大きい痛手は情報の公開だろう。

それは軍事力だけではない。

人口を初めとするあらゆる国としての情報を求める。

各国が海賊国家を恐れ、警戒するのは、そういった相手の力を推し量るきちんとした情報がない為だ。

それは海賊国家を守っている幾つかの一つといってもいいだろう。

その一つが使えなくなるのだ。

「しかし、情報は誤魔化す事かできるのでは?」

「ええ。出来ますね」

「では……」

「だから、国交を結ぶ為の話し合いに応じる為の『最低限必要な条件』という事です」

その言葉にアッシュとアリシアは苦笑している。

つまり、その三つの条件はあくまでも国交を結ぶかどうかの交渉に応じる為の条件という事だ。

その意味に気が付いたのだろう。

エンペラウス少佐も苦笑を浮かべた。

つまり、早々簡単に国交を結ぶつもりはないということがわかったからだ。

「ナベシマ長官も人が悪いですな」

そう言ったのはカッターチカ議員だ。

「いえいえ。私としては、誠意ある態度を示してくだされば、いくらでも対処するってだけですから。それを見極める為の三つの条件ですから……」

「つまり、その条件である情報に誤りがあれば……」

「ええ。そこで話は終わりです」

「なるほどなるほど……」

納得いったのだろう。

エンペラウス少佐とカッターチカ議員はそれぞれそう言いつつ頷いている。

その様子を見た後、鍋島長官は立ち上がる。

「えっと、どちらに……」

気になったのか、カッターチカ議員が聞き返す。

「いやトイレに……。どうも飲み過ぎたようで……」

そう言って笑う鍋島長官。

「あ、これは失礼しました」

笑いつつカッターチカ議員は隣のエンペラウス少佐と意気投合したのか、色んな話をし始めている。

もっとも世間話や身内の話がメインで、そこには、王国と共和国という垣根は見えず、政治や軍務の話はない。

ただ、酒の席で楽しく酒を飲み、食べて会話をしている男達がいるだけだ。

アッシュもその様子をちらりと見た後、「ちょっとトイレに行って来るから」と立ち上がる。

酒が入って顔が真っ赤になっているエンペラウス少佐が、笑いつつ言う。

「連れションとは、殿下と長官は仲がいいですな」

「おいおい。ご婦人方のいる前で言葉を慎むように」

「あ、これは失礼いたしました」

慌てて東郷大尉とアリシアに頭を下げるエンペラウス少佐。

「いえ。慣れていますから」と言ったのはアリシアで、「問題ありません」と言い返したのは東郷大尉。

つまり、二人とも相手にされていないという感じだ。

「そんなんだから、お前は女性にもてないんだぞ」

アッシュはそう言ってトイレに向かう。

「そんなーーっ」

嘆くエンペラウス少佐。

そんなエンペラウス少佐をカッターチカ議員が慰める。

「まぁ、まぁ、ここは楽しく飲みましょう。さぁ……」

そう言って酒を勧める。

どうやら、二人の間で友情が芽生えたかもしれない……。

そういう場面であった。



トイレに向かう鍋島長官に、後ろからアッシュが声をかけてきた。

「やぁ、サダミチ」

「なんだ、アッシュもトイレか?」

「ああ。それもあるが……」

そう言ってアッシュは覗き込むように鍋島長官の顔を見た。

その様子に、何かあると思ったのだろう。

真剣な表情になる鍋島長官。

それを確認した後、アッシュは口を開いた。

「聞きたい事があるんだ」

「あの場では聞けない事か……」

「ああ。聞けない事だ」

「わかった。聞いておこう」

そう言った鍋島長官に、アッシュは周りに聞こえないように声を抑えて聞く。

「さっき言った条件、あれ本当にやるつもりか?」

そのアッシュの言葉に鍋島長官が驚いた様子を見せる。

その様子から悟ったのだろう。

アッシュはため息を吐き出した。

「あれは、反対派を納得させる為のあくまでもそういう手があるっていう事を示しただけだな?」

そう言われて、鍋島長官は苦笑を浮かべた。

「よく分かったね」

「分かるさ。サダミチとは友達だからな」

「そうか。なら、腹を割って話そう」

そう言うと、鍋島長官はより表情を引き締める。

「僕としては、海賊国家をなんとしてもこっちの土俵に引き込まなきゃいけないと思っているんだ」

「こっちの土俵?」

「ああ。国という形式という土俵にね。一応、彼らは海賊国家なんて言われているけど、本当に国としての形を持っているのか、或いは国になりえるほどのものなのかを確認しなきゃ駄目だ。そうすれば、より話しやすくなるし、他国とも交渉しやすくなる。もし、それに値していないのなら、話し合う余地もない。後は潰すか相手にしないかだけさ。だけど、今のままだと情報がなさ過ぎで、それすらも判断も出来ないし、約束を守るといった最低ラインの保障も期待できない」

「約束を守る最低ライン?」

「ああ、きちんと責任を取るようならいいんだけど、そう言った保障もないなら条約も何もないだろう?」

「確かに……」

「だから今回のコンタクトで向こうがそう言った事ができるのかを見極めたいと思っている。対等に話し合いが出来る相手かどうかをね」

「つまりは国交とか言われてもまだまだ先ってことか?」

「勿論だとも。下手な連中と国交は持ちたくないよ。今のフソウ連合が表向き国交をまともに持っている国は、王国、共和国、合衆国、アルンカス王国の四つだけという事からも分かるだろう?」

「確かにな」

そう言ったものの、アッシュはニタリと笑った。

「だが裏では色々やってるみたいだな。公国への援助に、向こうから言ってきたとは思うが新帝国との停戦交渉、それに今回の連盟の商人の件とか……」

「新帝国との停戦交渉の件は、やっぱり知っていたか……」

「こっちにも来ていたからな。だから絶対にそっちにもいっていると思ったんだ」

「流石だよ」

「なに、いろいろ勉強させてもらっているからな、うちの古株連中に……」

「それはそれは……」

「そうそう、相変わらずサダミチに会いたいっていってたぞ。そのうち会う機会もあるかもしれないから覚悟しとけ」

「そりゃ、困ったな……」

そう言って頭をかいて苦笑する鍋島長官。

そんな鍋島長官の様子を見て笑った後、アッシュは真剣な表情で口を開いた。

「海賊国家が我々と同じ土俵に立てて対等に話し合える連中かどうかの見極めはお前さんに任すぞ」

「ああ。きちんと見極めたいと思う」

「わかった。何があっても俺はサダミチを信じているからな」

そう言うとアッシュは踵を返して戻り始める。

その後姿を見送った後、鍋島長官は自分がなぜ部屋から出てきたのかを思い出してトイレに入ったのだった。



「いやぁ、ここのトイレは一人用だったわ」

笑いつつアッシュがそう言って戻ってくる。

「連れションは失敗ですか」

エンペラウス少佐がさっきよりも真っ赤な顔をして笑いつつそう言ってくる。

どうやら戻ってくる間に、何杯も飲んだらしい。

隣でカッターチカ議員が少し呆れたような顔で苦笑いをしている。

そんな中、アッシュが席に座ると、まるで当たり前のように隣にアリシアが座った。

そして耳元で囁くように聞いてくる。

「確認にいかれたのでしょう?」

その言葉に、アッシュの眉がピクリと動いた。

つまりは、鍋島長官の真意に気がついたのは、自分だけではなかったという事だ。

隠す必要もないことだし、これからも彼女とは協力関係を保っていきたいということから、アッシュは素直に話すことにした。

「ああ。すべては連中が我々と対等な相手かどうかを見極めてからという事だ」

「ふふふっ。相変わらずナベシマ様は用心深い方ですわね」

「ああ。そしていけると踏んだら以前の事は関係なく一気にやっちまうからな。あの決断力はすごいと思っている」

「ええ。だからこそ、私たちは彼の決断力や判断力に魅了されているのかもしれません」

だが、その言葉にアッシュは首を横に振って笑う。

「確かにそれもある。だが、サダミチの最大の魅力は人としての魅力だと思っている」

「人としての魅力?」

「ああ、人としてお互いに信じられる。そしてこっちの事を考えて行動してくれるが、それでいてあまりにも度を越して傲慢にならないように苦言や釘を刺してくれる。つまり、いい友人としての魅力だな」

そう言われてアリシアはくすくすと笑った。

「そうですわ。その通りですわ」

そしてうっとりとした表情でアリシアは呟く。

「本当に素敵な男性ですわ」

その言葉に、アッシュはギョッとした表情になった。

「おいおい。まさかお前……」

そう言われ、何を言いたいのかわかったのだろう。

慌ててアリシアが真顔になる。

「え、いや。違いますわ。そういう意味ではありません」

「そうか……。それならいい……」

ほっとした表情でアッシュが言う。

「えっと……どういうことですの?」

怪訝そうに聞いてくるアリシアに、アッシュはため息を吐き出す。

そして視線をちらりと動かしつつ口を開いた。

「どうやら、彼女さんが薄々どういった事を話しているのか察したみたいだぞ」

視線の先には、警戒心満々の東郷大尉の顔があった。

「あ……」

視線を動かし、アリシアは苦笑した。

言われている意味がわかったからだ。

確かに彼女と争うのは、不味いだろう。

どうのこうの言いながら、彼女の存在は鍋島長官にとって大きなモノになりつつある様子が伺えたからだ。

次の課題は、彼女とどう仲良くなるかって所かしら……。

アリシアはそんな事を思いつつ、東郷大尉に微笑んだのだった。



鍋島長官がトイレから戻ると東郷大尉が不機嫌そうに酒を飲んでいる。

結構なペースだ。

だからついつい気になって声をかける。

「おいおい、どうしたんだよ」

だが、それが薮蛇だったようだ。

「長官……、いいえ、貞道さんっ」

いきなり名前で呼ばれて驚く鍋島長官。

仕事中は決してそんな呼び方はしない。

あくまでも上司と部下という形を維持してくれている。

だが酒が入ったことで、どうやらそう言ったことが維持できなくなったようだ。

不味いぞ……。

そんな事を思う鍋島長官。

だがそんな事はお構いなしに、東郷大尉は言葉を続けた。

「私のこと、好きですよね?」

いきなりである。

思わず周りを見渡すと、アッシュとアリシアがこっちを見ており、アリシアが生暖かい微笑を浮かべている。

まさか……。

すーっと血の気が引いた。

余計な事がいない間に起こったと思ったのだ。

「ち、ちょっと……大尉っ……」

「夏美って呼んで……」

潤んだような瞳と上気した顔、それに甘ったるい口調……。

それで迫られて、鍋島長官は慌てた。

これが二人きりなら別だが、周りの人の目もある。

それにだ。

酒の勢いでそういう関係になるのも少し違う気がした。

だからこそその誘惑に必死に耐え、鍋島長官はなんとか東郷大尉を立ち上がらせると二人で部屋から出て行く。

その様子をアッシュは苦笑で、アリシアは必死に笑いをこらえつつ見送る。

「さてはああなるとわかって彼女に微笑んだんだな」

「それはご想像にお任せしますわ」

それが答えという事だ。

呆れかえった表情でアリシアを見るアッシュ。

もし結婚するなら、こういう女性はパスだなと思いつつ……。

そして、残った二人の反応は、かなり酒の入ったエンペラウス少佐が「あれは見せ付けなのかっ、彼女がいない自分に見せ付けたいのかっ」と叫び、それをカッターチカ議員が慰めるという形だったのは言わずもがなであった。


なお、二人が戻ってきた時、東郷大尉はすごくご満悦な表情であり、反対に鍋島長官はどんと疲れたような表情だった事を伝えておく。

要は、お酒は飲んでも、飲まれるなってことですよ。

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