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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十二章 三者会談

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日誌 第三百三十八日目

「ふう……終わったぁっ」

控え室に戻ってきた僕はそう声を出すとソファに全身を預けた。

今さっきまで三ヶ国による『国際食糧及び技術支援機構(International Food and Technology Assistance Organization)』の設立を世界各国の報道機関の前で公式発表し、その後の昼食会に参加してきたのだ。

三ヶ国以外の報道機関や外交官もいる中での食事など食べた気にならないほど緊張してしまい、終わって控え室に戻った瞬間、肩の荷が下りてソファに座り込んだのである。

どうやらほとんど食事が喉を通らなかったのが分かったのだろう。

そんな僕の様子を見て、東郷大尉はくすくすと笑って口を開く。

「お疲れ様でした。軽い食事と紅茶でも淹れましょうか?」

「ああ。頼むよ」

僕はそう言ってテーブルの方に視線を向ける。

テーブルには、発表の前にはなかった書類がいくつか乗せられている。

「これは?」

聞かなきゃいいのに、ついつい気になって聞いてしまう。

本当は怖いのはいやなのに、ついつい怖いもの見たさにやってしまうという感覚に近いといったらいいのだろうか。

それに後に回したとしても、結局は僕のところに回ってくるのだから、早いか遅いかの違いぐらいしかない。

だから仕方ないなんて考える。

「あ、気がつかれましたか。長官が昼食会に行かれている間に連絡便でフソウの本部から届けられたものですね」

「あ……やっぱり……」

思わずため息が出た。

アルンカス王国とフソウ連合は、日に二回、二式大艇による連絡便が往復している。

大掛かりな荷物や大量の人員は無理だが、こういった書類や少人数の移動、ある程度までの緊急での荷物や物資の輸送といった事でかなり活躍している。

恐らく、午前の分で届いたのだろう。

「どれどれ……」

ついついどんな報告が来ているのか気になって一番上の報告に手を伸ばす。

「えっと……『航空母艦の改装計画案』?!」

どうやらドック区画の責任者、藤堂少佐からのものらしい。

そう言えば、最新型の烈風、流星改の二機種は機体が大型化して重量もある為、従来の着艦装置では難しいという話を聞いた記憶がある。

また、発艦に関しても、カタパルトのない日本式の航空母艦では運用が限られるとも聞いている。

そういった事に関する報告なのだろう。

そんな事を思いつつ、報告書に目を通すと思ったとおりの内容が書かれており、烈風、流星改の二機種の運用は大型の航空母艦では着艦装置の変更でなんとかなるものの、中型空母では着艦装置を変更してもカタパルトがないと厳しいと予想されるとなっている。

現在、フソウ連合の保有する、あるいは保有予定の大型航空母艦は、赤城、加賀、翔鶴、瑞鶴、信濃、大鳳の六隻、中型航空母艦は、蒼龍、飛龍、隼鷹、飛鷹、雲龍、葛城の六隻、小型航空母艦が大鷹、沖鷹、雲鷹の三隻の合計十五隻となっている。

もっとも、現在、第一航空戦隊の翔鶴、瑞鶴は先の戦いの損傷修理中であり、それ以外の航空母艦もほとんどが竣工したばかり或いは建造前の計画中だったり、航空隊や部隊編成の途中で動けない有り様、唯一活動している小型の三隻は、航空母艦としてではなく、航空機輸送や物資輸送で動き回っている状態だ。

だから、現状では機動部隊は組めない。

しかし、それでもどうしても必要になれば、現在唯一戦力化出来る第二航空戦隊の蒼龍、飛龍を中核とする機動部隊の編成となるだろうが運用戦力は二隻で百十機程度であり、第一航空戦隊の百六十機前後に比べると六割から七割程度になり力不足感を感じる。

もし、前回のような機動部隊が出現した場合、後手後手になるのは目に見えている。

そうなると、出来る限り早めの戦力の準備が必要となるだろう。

その辺を藤堂少佐なりに考えた結果がこの報告書という事だ。

報告書では、現在修理に入っている翔鶴、瑞鶴の改修を先行させ、二隻の改修が終わり次第、その頃には竣工しているであろう赤城、加賀の大改修を行ない、信濃と大鳳は最初から改修プラン込みで竣工させる。

また、中型航空母艦は、零戦五十二型、紫電改、彗星、天山を中心に編成する事で、大きな改修を行なわずにそのまま運用対応していく形となるようだ。

確かにこれなら戦力の空白はないだろう。

また、それにあわせて、大鷹型の航空母艦を使ってのカタパルト運用のデータを取りたいという提案もあった。

確かに、カタパルトの実用化は優先すべきだろう。

そうすることで、中型航空母艦でも烈風、流星改の二機種の運用のメドが立つはずだ。

そうなると早めに許可を伝える必要があるか……。

そんな事を考えていると、東郷大尉がサンドイッチと紅茶をのせてトレイを持ってきてくれる。

それを受け取りつつ「ああ、ありがとう」と言うと、「どういたしまして」と笑って東郷大尉が返事を返してくれる。

「大尉は食べないの?」

「私は、長官が昼食会に出ているうちに済ませましたから」

「そう……。それは残念」

僕はそう言いつつ、見ていた書類を閉じる。

流石に食べつつ見るなんて行儀悪い事はしない。

それに緊張が解けたせいなのか腹が空いているので今は食べるのに専念したい。

だから、「いただきます」と手を合わせて言った後、まずはサンドイッチを口に運んだ。

どうやら、具は卵、ハムときゅうり、それに照り焼きの鶏肉の三種類のようだ。

結構彼女がサンドイッチを作るときの定番の具だが、特に照り焼きの鶏肉はボリュームがあって実に食べ応えがあるのが嬉しい。

それに美味い。

かなり料理の腕が上がったんじゃないだろうか。

それと腹が減っている事もあって僕は喋ることもせず、ただ黙々と食べる。

そんな僕を東郷さんは楽しそうに黙って見ており、作ったものを美味しそうに食べているのは嬉しいのだろう。

だが、見られている方はどうしても落ち着かない。

「あのさ……、大尉」

思わず食べるのを中断して聞いてみる。

「なんでしょう?」

「いや、ジーッと見られると食べ辛いんだが……」

「あ、気にしないでください」

いや、無茶苦茶気になるんだけど……。

だが、何を言っても無駄だろう。

東郷大尉の表情からそれが分かってしまい、僕は心の中でため息を吐き出すと食事を続けようとした時だった。

トントン。

ドアが叩かれる。

大尉の視線がドアの方に向き、少し怒ったような表情になった。

おそらく楽しみを中断されて憤慨しているんだと思う。

「なんでしょうか?」

一応落ち着いた感じのそう東郷大尉は声をかけた。

「はっ。緊急連絡だそうです」

「緊急連絡?」

「はい。大至急長官にお知らせしろと……」

そう言われたらどうしょうもない。

ため息を吐き出すと、立ち上がってドアに向かう。

そして少しドアを開けて警備の兵に声をかけた。

「緊急連絡とは?」

「はっ。こちらになります」

手渡されたボードに目を通した東郷大尉は慌てた表情になる。

「わかりました。すぐに長官にお知らせします。ご苦労様でした」

「はっ。ありがとうございます」

そうしてボードを持ったまま、ドアを閉めると僕の傍に戻ってきた。

「何があったんだい?」

東郷大尉が慌てるなんてのは珍しい。

そう思った僕は今食べていた分を飲み込むとそう聞いてみる。

だが、東郷大尉は黙ったまま、ボードを僕に手渡す。

「どれどれ……」

ボードに目を落とした僕は、信じられないものを見たという気持ちになった。

そこにはイムサ本部からの連絡で、『イムサ部隊と海賊国家サネホーンと思しき連中の接触あり、相手側はフソウ連合との話し合いを要請。将来的には、国交を希望。詳しい条件は、海賊国家サネホーンの書簡にて確認』と書かれていた。

「嘘だろう?!」

思わず出た言葉に、東郷大尉も頷く。

今まで各国が何度も話し合いの場を求めようとしていたが、ことごとく無視を続けていた海賊国家が自ら動くとは信じられなかった。

だが、冗談でこんな情報が来るわけがない。

或いは偽情報かとも思ったが、驚かせるインパクトはあるものの、これはかえってこっち側を警戒させる刺激としかならないだろう。

なんせ、今まで無視してきた相手が急に愛想よく挨拶をしてきたら裏があるに違いないと思うものだしね。

では、連中にとって何の利益や利点があるのだろうか。

まず、驚かせるためというのは除外する。

はっきり言って意味がない。

まず考えられるのは、フソウ連合、王国、共和国の関係の牽制だろうか。

この三国は、今やイムサなどを初めとする国際機関との繋がりだけでなく、フソウ連合を中心に国同士の条約を結び協力体制にある。

その関係に危機感を感じてという事はありえる。

特に、王国と共和国の間を繋ぐのはフソウ連合であり、フソウ連合との繋がりが弱まれば、王国と共和国の間も溝が穂深まる恐れがある。

それは長年敵対国として牽制しあっていた間柄ならば仕方ない部分だろう。

また、イムサの存在は、連中にとって目の上のコブだ。

海賊行為を行っている連中にとっては、イムサの活動の縮小や停止は彼らにとって大きな利点となるはずだ。

だが、それは諸刃の剣となる可能性が強い。

下手な扱いをすると警戒心を強くするばかりか、海賊国家排除へと動き始める恐れさえある。

ただ、ここで問題となるのは連中の戦力だ。

どれほどの戦力があるのか。

聞いた話では、統一性がない為、数は多いもののあまり戦力とはならないとか、所詮は烏合の衆であり、いざ戦争になったとしたら一気に潰せるといった楽観論が多い。

しかしだ。

それならなぜどの国も本格的に腰をすえやらなかったのか。

確かに周りにライバルがいる状態で下手な動きは出来ないだろう。

つまり、そういった世界状況を見極めて動くことが出来る先の目を見る事ができるほどの連中という事だ。

もしかしたら、そう言った風潮を情報操作で作り出しているのかもしれない。

だから、僕は逆に不気味さを感じてしまう。

やはりもっときちんとした情報収集が必要か。

あまりにも情報が少なすぎて下手な事を考えてしまい、間違った方向に暴走そうになる。

ふう……。

世界的災害に、植民地の独立運動、それに旧帝国領の混乱、そして今回の海賊国家の動き。

混沌としてきたな……。

ふう……。

無意識の内に息が漏れた。

食事の手を止めてそんな思考の海に出ていた僕だったが、ドアを叩く音で我に返る。

東郷大尉がドアの方に行き、何があったのかを確認している。

そして、内容を聞いた後、東郷大尉が僕の方を見た。

その表情に浮かぶのは困惑だ。

「どうしたんだい?また問題でもあったのかい?」

僕がそう聞くと、東郷大尉は困ったような顔のまま、口を開いた。

「王国のアイリッシュ殿下と共和国のアリシア様がそれぞれ至急面会を求めています」

それを聞き、僕は苦笑した。

そうだった……。

イムサは三ヶ国の代表が話し合いによって動くため、イムサに入ってきた情報は他の二ヶ国にも流れるという事だ。

つまり、今回の海賊国家のフソウ連合名指しの話し合いに関して確認を取るつもりなのだろう。

あー……、なんだかなぁ……。

深々とため息を吐き出した後、僕は苦笑して口を開く。

「恐らく二人とも聞きたい事は同じだろうから、夕食にでも招待して腹を割って話すしかないかな……」

恐らく彼女もその方がいいと判断したのだろう。

僕の言葉に、東郷大尉が頷く。

「すまないけど、夕食の手配と二人に招待を伝えてくれ。話はその時にすると……」

「はい、わかりました」

そう言うと東郷大尉はテキパキと動き始める。

そして、その様子を見つつ、僕は途中で止まっていた食事を再開した。

『もう少しゆっくり出来るように世界が落ち着いてくれると嬉しいんだが……。』

そう願いつつ……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです [気になる点] 最近他国関係の物語ですが、フソウ連合国内での内政やら軍の拡張やフソウ国内での国民の視点の話があったら、もっと面白くなると思います
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