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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十二章 三者会談

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三者会談  その6

ここは会談の行なわれた会場の傍にある王国側控え室である。

そこには会談を終えた王国関係者十二名が、それぞれ会談の疲れを癒していた。

確かに思った以上に早く終わったものの、精神的な疲れは時間に関係なく感じるものだ。

誰もが黙り込んでおり、アッシュもソファに座り、紅茶をすすっている。

だが、そんな中、一人声を上げた人物がいた。

「確かに我々は援助を請う身、しかしあの態度に進め方、同盟国とはいえ失礼すぎる」

そう言って憤慨するのは、ジェイコフ・ジョーンズ議員だ。

年は四十半ばで、金髪と青い瞳を持つ痩せ過ぎという感じの細い体型と細い眼とわしのような鼻が特徴的だ。

いかにもプライドの高い貴族のような感じではあるものの、『鷹の目エド』こと宰相のエドワード・ルンデル・オスカー公爵の遠い親戚に当たる人物だが爵位はない為、自力で議員になった実力者だ。

王国の議員は、貴族で爵位を持つものから選ばれる爵位持ちと民衆から選ばれる代表の二つに分けられており、議員数は半々となっている。

その為、派閥もその二つに分けられるのだが、金と地位を持つ爵位持ち議員の方が発言力は強い傾向にあり、代表議員もその勢力に飲み込まれることが多い。

しかし彼の場合は、オスカー公爵の親戚ではあるが、自分の考えと意見を持つため、爵位持ちでもなく、代表でもない、独自の派閥を作りつつあった。

もっとも、少々頭が硬くプライドが高い昔気質なところが欠点と言える。

そんなジョーンズ議員の声に、会談に参加した関係者数名が同意とも取れるジェスチャーや声が漏れた。

確かに彼のいう通りだと思う。

アッシュはそんな彼らの様子を見て、かえって落ち着いていた。

そして、自分の事を自己採点していく。

うーん……。

決して良かったとは言えないな。

普段とは違う態度に物言い、あれはかなり緊張していたというべきなのだろう。

こうも国を背負うという重圧に潰されそうになっていたとはな。

思わず苦笑が漏れる。

それを見たジョーンズ議員は自分の意見に同意と思ったのだろう。

アッシュに声をかけてきた。

「殿下もそう思われたのですね」

その言葉に、アッシュは顎を指でさすりながら答える。

「まぁ、あそこまで強引なのはあまりいいとはいえないと思う」

「そうでしょう。そうでしょう」

わが意を得たりといった感じでジョーンズ議員が頷く。

その態度に、苦笑いを漏らしてアッシュは続きを口にする。

「しかし、我々にも落ち度はあったと思うがね」

予想外の言葉に、驚くジョーンズ議員。

「落ち度……ですか?」

「ああ。落ち度だ。こちらこそ、あまり友好的な態度ではなかったように思うんだ。援助を求める側としては特にね」

「しかし……」

「まぁ、話を聞いてくれ」

そう言われ、ジョーンズ議員は開きかけた口を閉じた。

「我々は援助を求める側だ。それなのにだ。援助するのが当たり前で話を進めすぎていた。そうは思わないか?」

そう言われ、ジョーンズ議員は黙り込む。

合衆国に断られ、かなり神経質になりすぎていた部分はあっただろう。

だが、それ以上に、対等な同盟を結んでいるとはいえ心のどこかにフソウ連合よりもこちらが格上だという思いがあったのではないだろうか。

それは対等の同盟を結ぶように推し進めた自分にも心のどこかでそんな思いはあったのかもしれないとジョーンズ議員を見てアッシュは感じていた。

だからこそ、出た言葉だった。

「それにだ。足りないという事をきちんと我々に知らせ、その算段まで用意してくれていたのだ。ありがたいじゃないか。だって、合衆国と同じように断ってもいいんだぞ。或いはある分だけを渡して、後は自分で用意してくれという事だって出来るんだ。しかし、その選択ではなく、フソウ連合は出来る事をしてくれた。それも色々手を尽くしてだ。これで文句を言ったら罰が当たるってもんじゃないか?」

そこまでいわれると返す言葉はない。

なぜなら、自分達の方が立場が弱いと自覚したからである。

それには誇りもプライドも関係ない。

だからこそ、心に染みたのだろう。

さっきまでジョーンズ議員の意見に賛同気味だった関係者達も下を向いている。

これで議員を始めとする関係者は納得出来ないとはいえ、文句は言わないだろう。

しかしだ。

サダミチ、確かにこっちの方が先に無茶振りしたのはわかるが、まさかそれまで計算して準備していたというのか?

それともそうしなければならない理由があったのだろうか。

たが、それがなくてもかなりの食わせ者といわざる得ない。

あれだけ拒否しにくい状況に追い込まれたのだから……。

そして自然と苦笑が漏れた。

それはまいったなという感じにも取れる苦笑だった。

本当につかみどころのない実に面白い奴だ。

そして彼は常に我々の先を考えて行動している。

ならば、サダミチが言っていた事も検討すべきかもしれない。

彼は言っていたではないか。

『今の現状を冷静に考えれば、今までの植民地体制は長く続かない』と……。

ならば……。

「今回の事は納得出来ないものもいるかもしれん。しかし、発表こそ明日だがもう合意したのだ。覆す事はもう出来ない。ならば、今からはより先の事を考えるべきだと思う」

「より先とは……」

ジョーンズ議員が驚いた表情で聞き返した。

「彼が言っていたではないか。『今までの植民地体制は長く続かない』と……」

「しかし、それはただの戯言では……」

「そう言い切れるかな?」

そう言い返され、ジョーンズ議員だけでなく、そこにいた関係者全てが何も言えなくなる。

薄々感じているのかもしれない。

今の体制では不味いと……。

ならば……。

「ちょうどいい、ジョーンズ議員、君を中心に植民地以外の体制の構築を色々と考えてくれないだろうか」

「私が……でありますか?」

まさかそんな風に話が進むとは思っていなかったのだろう。

ジョーンズ議員は鳩が豆鉄砲を食らったかのような状態になっている。

「ああ。君は爵位持ちでも代表でもない派閥所属であり、宰相のオスカー公爵の信も得ている。うってつけだとは思うがね?」

「しかし、自分は融通のきかない頭の硬い男であります。こういった事には不向きかと……」

迷ったように言うその言葉には、自分を蔑む色が見え隠れしている。

それは自分が周りからどう思われているか、自己分析出来ているということだろう。

頭の硬い融通のきかない堅物。

それが周りの彼への評価であった。

「確かにそうかもしれない。しかし、どんな困難な時も一点を突き進む勇気と責任感がある人物が必要だ。そういう人物こそ、こういった難題も迷わず突き詰めてくれると信じているのだが……どうだろうか?」

そこまで言われ、ジョーンズ議員は黙り込む。

アッシュの言葉から期待する意思がひしひしと感じられたからだ。

しばしの沈黙の後、ジョーンズ議員は顔を上げた。

その顔にはもう迷いの色は見えない。

「そこまで殿下に買っていただけるとは……。ジェイコフ・ジョーンズ、誠心誠意をかけて困難に立ち向かって見せましょう」

「ああ。頼むぞ」

アッシュはそう言うと微笑んだ。

それと同時に、心の中でもほくそ笑んだ。

これでジョーンズ議員の派閥の支援も手に入れたと……。




「しかし、参ったわ……。あそこまで手を打ってるなんて……」

勢いよくソファに座り込んだアリシアがまず口にしたのはその言葉だった。

確かにいつもの我々らしくないということは感じていた。

殿下も何かイラついていたような印象だったからな。

でもそれに拍車をかけておかしかったのは、鍋島様のあの対応だ。

周りの状況に関係なくあの対応と完全に追い詰める手腕はすごいの一言だ。

「ねぇ……、どう思う?」

紅茶を用意する執事にそう声をかける。

「ナベシマ様のことでございますか?」

「ええ……」

「ふむ……」

少し考え込んだ後、執事は楽しそうに笑いつつ言う。

「面白い方でございますな。今までお嬢様の周りにはいないタイプかと……」

「確かにね……。それであなたの評価は?」

「そうですねぇ……。敵にすればやりにくい相手という事になりますか。もっとも、味方にすれば実に心強い方かと」

そう言われ、アリシアは面白そうに微笑む。

それは話を続けてという意味なのだとわかった執事は言葉を続けた。

「余程の事がなければ裏切らず、常に先手を打ち、今回のように汚い手段でさえも必要ならば微笑んで実行する。あの方がいる、いないでは我々の立ち位置も動き方も大きく違ってくると思います」

「つまり、味方にしておけって事ね」

「そうですな。我々共和国の行く道とあの方の行く道が分かれなければですが……」

「もし分かれたとしたら?」

そう言われて執事は黙り込む。

要は言いたくないといったところだろう。

或いは、言ったら失礼になると思っているのかもしれなかった。

だが、それでも聞きたいと思ったのだろう。

「いいわ、何でも言って」

そこまで促されて執事はやっと口を開いた。

「もし道がわかれ、敵対する時がきたなら、素早く排除すべきかと……」

要は暗殺をしろという事だ。

それほど脅威と感じているのだろう。

彼がそこまで言った人物は、母親に仕えていたときに進言した三人のみだ。

そして、その三人は、母の決断で死を迎えている。

はたして自分はもしそういった立場になったとき、そういった決断が出来るだろうか……。

頭の中で飄々とした表情で笑うナベシマ様の顔が浮かんだ。

なんかやり辛いわねぇ……。

今でさえ、こうなのだ。

もしその時がきたらもっと苦しいに違いない。

もしかしたらお母様もそう言った心境があったのかもしれない。

そう思うと、そんな決断を下した母親を尊敬するしかなかった。

そんな主人の心の葛藤に気が付いたのだろうか。

執事が少し心配そうに声をかけてくる。

「お嬢様、今はそこまで考えずとも良いのではないでしょうか。なぜなら、今は共に一緒の道を歩いているのです。本当に分かれてしまうときに迷えばいいのですよ」

「そうね。今は考えない方がいいわね。そうしないと……」

「そうしないと?」

「だってこの後の夕食会で食事が楽しめないもの」

その言葉に執事は一瞬言葉を失ったが、すぐに楽しそうに笑った。

「そうですな。食事は楽しまなければなりませんな」

「そうそう。せっかくのフソウ式の食事だもの。精一杯楽しまないとね」

そう言い返して微笑みつつ、アリシアは心の中でこのまま一緒の道を共に進んでいきたいと切に願っていたのだった。

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