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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十二章 三者会談

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日誌 第三百三十七日目

「しかし、あれで良かったんですか?」

会談が終わり、控え室の椅子に深々と座り込んで一息ついている僕に東郷大尉が控えめ気味に声をかけてきた。

「何がだい?」

僕が東郷大尉の方に視線を向けてそう言うと、ガラスコップに冷えた茶色の液体が入ったものを出しつつ困ったような表情で東郷大尉が聞いてくる。

「いえ、余計な事だとは思いますが、あれ以外に方法がなかったのかと思いまして。それにあまりにも強引だったような……」

「あれって……アッシュが詐欺って言った方法かな?」

僕は苦笑し、少しおどけたような口調でそう答えると、東郷大尉はますます困ったような顔になった。

「ごめん。少しふざけすぎたよ。あれが邪道であり、決して褒められる方法でないのは分かっている。だから、ああいった感じに話を進めたんだ。強引に進めないと二人は承諾してくれなかっただろうしね」

「他に方法はなかったのですか?」

そう聞いてくる東郷大尉に僕は一瞬迷ったが、その真剣な表情に負けて話すことにした。

「あるにはある。だが、使いたくなかった。それだけだよ」

「使いたくなかった……。それはなぜなんですか?」

「それはね。王国や共和国に、フソウ連合は魔法の力で物資を何とか出来ると知られたくなかったからだよ」

僕の言葉に、東郷大尉も使わなかった別の方法がなんであるか気付いたようだった。

その方法とは、フソウ連合マシナガ本島に溜め込んである魔力による物資補給の回復力を活用するという方法だ。

マシナガ本島の軍部倉庫にはさまざまな物資や食料、弾薬などが用意してあるが、それらは消費したり、別の場所に移動させると溜め込まれた魔力によって一定の法則で回復していく。

実際、現在は弾薬や食糧、消費する物資もアルンカス王国との取引やフソウ連合各地区から入ってきたり、新しくイタオウ地区に建てた工場で製造されたものを消費して活動しているが、少し前までは絶対的な物資や燃料の量が足りず、この魔力による補充にお世話になりっぱなしだった。

しかし、今はその力をほとんど使用していない。

だから、それを使えば少々時間はかかるものの、食糧の足りない分は何とか出来なくもないという感じだった。

つまり、ああいった詐欺めいたことなどしなくても簡単になんとかなるのだ。

「確かに両国に知られると不味いですね。ですが、あのお二方は長官のご友人、親友とも言える間柄です。お二人だけでも秘密理にお話になってもよかったのでは?」

そう言われたものの、僕はすぐに否定した。

「駄目だね。親友といえど、この件は話せないよ」

そう言った後、僕は東郷大尉を見つめつつ言葉を続けた。

「大尉、君も見たじゃないか。立場や責任は人を変えるって……」

彼女も今回の会談でのアッシュやアリシアの普段らしくない態度にピンときたのだろう。

そのまま黙って考え込んでいるようだった。

だから僕は慰めるように言う。

「別にそれでアッシュやアリシアを責めようとは思っていないし、僕にその資格はないと思うからね。だって、僕が同じ立場なら、あんな風になっていただろうしね」

「そういうものなのでしょうか……」

「そういうもんさ。僕だって、フソウ連合の情報を知られたくないという思いがああいう事をやったわけだしね」

それでも東郷大尉は複雑そうな顔で考え込んでいる。

「それに、別に理由はそれだけじゃないさ」

「他に理由があるんですか?」

そう聞かれて、僕は頷きつつ口を開いた。

「ああ。まずはこの秘密を知ったことで二人との友情を壊したくなかったという事が一点。それと今後のフソウ連合のためにも魔法に頼らないという事を当たり前にしたかったんだ」

「フソウ連合のためって……どういうことなんでしょう?」

「魔法っていうのはすごく便利だ。だけどね、魔法の元になっているのは、この星のマナっていうエネルギーらしいんだ。そして今のフソウ連合は、その何百年もの間に溜め込んだマナを使って魔法を実施している。つまり収入がないまま今まで積み立てた貯蓄で生活しているようなものさ」

「えっと……それって……」

「要は減るばかりで増えることはないってことだ。だけどそれではいつかジリ貧になってしまう。だから、ジリ貧にならないように魔法に頼らないように普段からしていかなければならないんだ」

「なるほど。だから、アルンカス王国との貿易に力をいれてみたり、各地の生産能力を上げたり、造船所や工場の誘致なども行なっているわけですね」

「そういうことだよ。それにね。魔法は便利だけど、結局はドーピングみたいものさ。その国の本当の実力じゃない。だから、僕は魔法に頼らないフソウ連合の本当の力をより大きくしたいと考えていたんだ」

そこまで聞き、東郷大尉は唖然としたあとクスクスと笑い出す。

「えっと……おかしい事いったかな?」

「いえいえ。おかしな事はいっていませんよ。ただ……」

「ただ?」

「いえ。長官はあえて遠くの未来を見据えて今の楽な道を選ばない方だなと……。そして何よりすごく貴方らしいなと……」

「僕らしいかな?」

「ええ。すごく長官らしいです」

そう言って楽しそうに笑う東郷大尉。

どう考えても褒め言葉だよな。

それがなんか少し照れ恥ずかしくて僕はついつい言い訳がましい事を言ってしまう。

「そうかな。僕としては楽な方を選ぶと、それ以外は選択出来なくなりそうだからね。だからあえてそうしているだけなんだよ。ほら、僕は無精者だからさ……」

その言葉に東郷大尉はますます笑った。

そして、それに釣られるように僕も笑っていた。

「ふふふっ。そういう事にしておきましょう」

「ああ、そういうことにしておいてくれると助かるかな」

そう言って僕はガラスのコッブを口元に動かす。

程よく冷えているのがわかる。

そして口に茶色の液体が流れ込む。

麦茶だ。

それも気持ちいいほど冷えている。

うまい……。

僕はごくごくと一気に飲み干した。

どうやらかなり喉が渇いていたようだ。

「もう一杯いかがですか?」

そう言う東郷大尉にお代わりを頼む。

東郷大尉は僕に近づき、コップに手を伸ばそうとする。

僕はコップを持つと彼女に手渡そうとする。

そして気が付くと、僕の顔の傍に東郷大尉の顔があった。

その顔は微笑んでいた。

そして彼女は囁いた。

「自分ではあまり役に立たないかもしれませんが、大変な時は相談してくださいね」

その言葉に、僕は嬉しくなって囁き返す。

「ああ。今度からはそうさせてもらおうかな」

すると東郷大尉の動きが止まった。

彼女の顔がすぐ傍にある。

目は細くなり、まるで悪戯好きな猫を想像させるかのような表情だ。

その普段とは違う表情に、僕の心臓がドクンと大きく高鳴る。

そして彼女は僕の頬に軽く口付けをした。

「ふふふふっ。これで契約は成立ですからね」

つまり、今の頬へのキスが契約の証らしい。

中々嬉しい事をしてくれる。

一応、彼女として付き合うということは宣言したものの、あれから忙しすぎて進展がほとんどなかったのだ。

だから、これは嬉しい進展といえた。

だから、楽しそうにそう言う東郷大尉に、僕も嬉しくなって笑いつつ言い返す。

「どうせなら、口が良かったかな」

僕の言葉に、東郷大尉の頬が真っ赤になった。

「今は、勤務中です。ですから、それで我慢してください」

「なら、勤務外なら……」

今度は頬だけでなく、顔全体を真っ赤にさせた東郷大尉は、少し怒ったように言い返す。

「それは別件です。今のは契約の証なんですっ」

どうやらからかいすぎたようだ。

僕は笑って「分かったよ」と言うと、落ち着いたのだろう。

「分かればいいんです。分かれば……」

そう言うと麦茶を注ぐと恥ずかしそうに退出していったのであった。

うーんっ。可愛いっ。

僕は東郷大尉の後姿を見て、ついついそう思ってしまっていたのだった。

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