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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十二章 三者会談

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ポルメシアン商業連盟首都リスドランにて……その2

八月十八日午前十時。

フソウ連合、ウェセックス王国、フラレシア共和国、アルンカス王国の四ヶ国が参加し、『国際食糧及び技術支援機構(International Food and Technology Assistance Organization)』、通称『IFTA(イフタ)』が正式に発足された。

参加国同士の食糧だけでなく、物資や技術といった相互援助協力機構である。

また、それにあわせ、『多国籍による国際海路警備機構(International Maritime Security Agency)』略して『IMSA(イムサ)』との協力も発表された。

つまり、この二つは、横の繋がりを持つ国際的な協力組織となったのである。

また。それにあわせてこの二つの組織への参加国募集も行なわれた。

勿論、無条件ではない。

条件ををクリアする必要性はあるが、参加すれば利点は大きいだろう。

しかし、その発表を聞き、ある点で疑問に思う者がいた。

この世界で独立国となっているのは、イフタに参加しているフソウ連合、アルンカス王国、ウェセックス王国(王国)、フラレシア共和国(共和国)の四つを除けば、後はアカンスト合衆国(合衆国)、ポルメシアン商業連盟(連盟)、ドクトルト教国(教国)の三ヶ国と聖シルーア・フセヴォロドヴィチ帝国から分裂したソルシャーム社会主義共和国連邦(連邦)、シルーア帝国(帝国)、ショウメリア公国(公国)の三ヶ国、つまり計六ヶ国のみだ。

だから、ここで募集をかけるよりも各国に問い合わせればいいだけなのである。

なのに、なぜこういった募集をかけたのだろうか……。

そのことについての説明はなかった為に、気づいた者に余計な想像をさせる含みを十分に持たせるものであった。

そして、その発表にあわせて、追加して報告されたのは、王国、共和国へ十万トンの食糧と物資を乗せた船団が最初の援助としてイムサの護衛の下、それぞれの国に向かってアルンカス王国とフソウ連合から出港した事であった。

つまり、それは噂にあったとおり事前から用意されており、世界中の人々からは万全の体制で援助していくという風に捉えられたのである。

そして、その報道で慌てふためいたのは、連邦の商人達であった。

所詮は噂だと高を括っていた連中だけでなく、かなりの食糧を買い込んでいたリットーミン商会以外の連盟の主要十二商会の面々も含まれている。

まずは今まで噂だけだと高を括っていた中堅商人達が慌てて市場に食糧を売却し始める。

一人がそれをやれば、それを見た連中も危機感を覚え次々とやり始め、結局は膨大な量へと増えていく。

その勢いは止まる事を知らず、市場価格は一気に下落となる。

もちろん、中にはフソウ連合が食糧の価格操作をする為にわざとらしくやったんだと思う者はいた。

しかし、それを断言できる証拠はない。。

アルンカス王国だけなら、共和国に支配されていた時期の食料生産能力(もっとも少なく報告されていたが……)の資料があったからいいものの、フソウ連合は長い間の鎖国でそう言った資料はまったくない。

その上、フソウ連合製の機械の優秀さは今や有名となっていたが農業に関してはあまり話は聞かれない。

たが聞かれないだけで、もしかしたら合衆国のように農業大国かもしれなかった。

だからこそ、もしかしたら……という思いが皆捨てきれない。

それはより大きな迷いを生み、そして無駄な時間が進み、取引価格は下がっていく。

その圧倒的なプレッシャーに勝てるものは多くない。

それ故に、多くの者達が疑問を思いつつも食糧を売却するしか方法がなかったのである。

そして、そんな売却する商人の中でリットーミン商会が食料を買い取ってくれるという情報を持っている者達は、迷いなく市場ではなくリットーミン商会に駆け込んだ。

その数は途方もない数であり、リットーミン商会は、まさに客の切れめがなく忙しい日々を送る事となったのである。

そして、それだけ売却が多くなれば、市場価格よりも若干高い程度で買っても文句は言われないだろう。

それどころか、それでもありがたいと思うものがほとんどだ。

しかし、リットーミン商会の代表であるポランド・リットーミンは、市場や他の主要商人達が買い取り拒否や必要以上に買い叩く中、彼らに仕入れ価格に少し利益が残る程度の価格を提示した。

それも優しい言葉をかけながら……

その言葉と行為に、売却に来た中堅商人や駆け出し商人達が大いに感動し、中にはポランドにしがみつき泣き出すものさえいたのである。

そして、その美談はあっという間に広がり、中堅商人や駆け出し商人の間では、リットミン商会に恩を感じ、信頼を寄せるものが増加していったのである。

しかし、そんな騒ぎも三日も過ぎるとある程度収まる。

それは、中堅や駆け出しの商人達がほとんど買いこんでいた分を吐き出してしまい市場価格の下落が落ち着いたからだ。

だが、それでこれから高くなるかというとそんなことはない。

若干は高くなるだろうが、以前のような価格にはならないだろう。

それどころか、まだ下がる要因はある。

また、主要商会が持つ分が残っているためだ。。

もし、もう底値だからと言って主要商会が持っている分が市場に出回ったら取引価格はますます下がるだろう。

つまり、価格を見つつ、少しずつ処理していくしか手が残っていない。

もちろん、利益を得るなんてのは以ての外で、結局は損を出しつつ処理していくしかないのである。

そして、主要商会が軒並み膨大な損失に苦労している中でリットーミン商会のみが大きく違っていた。



「そうか。そうか。目標の量の確保を達成したか」

報告を受けたポランド・リットーミンは実に楽しそうに笑った。

もう少しかかると思っていたが、リットーミン商会のスタッフのがんばりと、十八日の発表のインパクトの大きさが決めてとなったようだ。

これで第一段階は終了したと思っていい。

だが油断は出来ない。

ここからは第二段階となる。

「よしっ。買い取った食糧を急いで運び出せ。うちの商会だけで足りないなら、言って来い。すぐに手配をする。行き先は例の場所だ。それとアルンカス王国にいる長官へ電報を送れ。『目標達成。すぐに目的地に送る』だ」

幹部にそう命令すると、幹部は頷く。

その様子から、行き先はわかっているのだろう。

「了解しました。新型のリッカミューズとハルカリューズ、それにリッカーリュードも使ってよろしいでしょうか?」

リッカミューズとハルカリューズとリッカーリュード。

この三隻は、今回のためにとフソウ連合からリットーミン商会に譲られた多目的貨物船だ。

給兵艦 樫野をベースに、多目的な貨物輸送に改造されたものである。

もちろん、実在する艦名がつけられていないために 付喪神は憑いてはいない。

載貨重量五千八百トンを可能とするこの世界では大型の部類に入る貨物船だ。

「当たり前だ。その為にフソウ連合から譲渡されたんだからな」

「そうでしたな。すぐに手配します」

「ああ。頼むぞ。」

慌しく幹部が退出していく。

その後姿を見つつ、ポランドは心の中で笑いが止まらなかった。

三隻の大型貨物船がタダで手に入ったことも大きかったし、中堅や駆け出しの商人に彼の信者ともいえるものが一気に増えたこともその要因のひとつだ。

しかし、それ以上に彼を喜ばせたのは、主要商会のうちの二つの商会が秘密理に食糧の売却に応じてくれないかと打診をしてきたことだった。

散々、自分を若造と罵ってきた連中がだ。

どうやら、今回のことでかなり無理をしたらしく資金繰りが悪化したようだ。

このまま無視してもいいだろう。

或いは断ってもいいだろう。

それはそれで見ものだ。

だが、せっかくだ。

応じてやろうじゃないか。

幸いな事に、フソウ連合から融通された資金はまだ余裕がある。

その上、目標以上とは言われたが上限はどこまでとはいわれてはいない。

ならば問題ないだろう。

精々連中の舌の浮くようなおべっかを楽しみつつ、取引してやろう。

あんなのでも一応商人だ。

苦しい時に助けてもらった恩を忘れる事はないだろう。

もっとも、忘れた場合は、それはそれでやり方はある。

今やかなりの中堅や駆け出し商人達の信を得ているのだ。

それらを使い、噂を流せばよい。

連中は、助けてくれた恩人を蔑ろにする連中だと……。

くっくっくっ……。

実に楽しい事だ。

だが、お楽しみはこれで終わりではない。

まだまだ続くのだ。

あの人に付いていって良かった。

そして、どうやらこれからも退屈しないで済むのは確実のようだしな。

そして、ポランド・リットーミンは、これからも鍋島長官を信じて働こうと再度心の中で誓うのであった。

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