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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十二章 三者会談

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三者会談  その5

渡された書類に目を通した後のアッシュとアリシアの二人の表情は芳しくなかった。

互いに顔を見合わせた後、鍋島長官の方に視線を向ける。

その視線はなぜ?という色に塗り固められていた。

まずはアリシアが口を開いた。

「以前のイムサの時は、互いに航路に関わる事で国同士の牽制や以前のような事件を防ぐ上に、互いの軍の交流、航路のより安全性を高めるといった利点がありましたから賛成いたしました。しかし、今回はなぜこういった組織をわざわざ作って援助するのか。それがわかりません。それどころか、フソウ連合としては損をする選択ではありませんか。王国、共和国を援助するという事は、それだけの国力を持つという事を世界にアピールすることが出来ます。それを捨てるだなんて……」

その口調は、信じられないといったものであった。

彼女にしてみれば、利点がない、それどころかマイナスらしかならないと判断したようだった。

だからこそ、心配してこうして言っているのだろう。

そして、続けてアッシュも口を開く。

「そうだ。今やフソウ連合は、六強と呼ばれる国々に近いと言われるほどの力と知名度を持つ。しかし、現時点ではそれだけだ。未だにフソウ連合を侮り、蔑んで見る者も多い。たが今回の援助はそう言った連中を見返すだけでなく、世界にフソウ連合の力をアピールするチャンスだと思う。私は、フソウ連合がいずれは七強の一角になると思っているんだ。そのチャンスをみすみす捨てるのか?」

彼にしてみれば、親友の国が王国と肩を並べる国になって欲しいと思っているんだろう。

自分が対等の同盟を結んだのは間違いなかったという証明にもなるし、それは先を見通した力があるというアピールにもなる。

また、王国と匹敵する国の代表者と友人だという事は、次期国王候補としてはかなり有効な武器となるだろう。

だが、今のアッシュはそこまで考えて発言している様子はなかった。

ただ、親友の国が肩を並べる強国になって欲しい。

そんな思いだけを強く感じさせた。

それは先ほど自国の事ばかりを優先し、腹を立てて立ち上がった自分が実に情けないと痛感し、より自分らしくあろうという思いがそうさせたのかもしれなかった。

ともかく、二人ともイムサのようにすぐに賛成と言うわけではない。

ならばどうするか。

後はどう説得し、納得させるかにかかっている。

鍋島長官は、こういった状況を予想していたのか普段と変わらない口調で二人に話しかける。

「二人の意見はもっともだと思う。二人とも、フソウ連合を心配してくれているというのが良く分かった。実にありがたいと思っている。だけど、これから先の事を考えれば、国同士の援助も大切だが、より世界的な援助を行なう為の組織が必要となってくると思うんだ」

「今回のような世界規模の災害の時にか?」

「ああ、そうだよ。アッシュ。王国はそれが分かるんじゃないかな。どうしても相手の国の状況によって支援されたりされなかったりでは援助を求めるほうとしてはたまらないだろう?」

鍋島長官は、合衆国が後手に回り、余剰食糧のほとんどが連盟の商人たちに買い占められたおかげで王国の援助を断られたという事を匂わせると、アッシュは黙り込んだ。

「それに、こういった組織があれば、各国が食糧や物資を出し合う事で各国の負担も少なくなるし、加盟国が増えれば、今よりより大規模で安定した支援が出来るようにもなるじゃないか」

「つまり……。将来、植民地が独立する事までを見通してという事か?」

「ああ。今の現状を冷静に考えれば、今までの植民地体制は長く続かないと思う。確かに今回は援助を受ける事で一旦は収まるかもしれない。しかし、一度火のついた独立への思いは消し去ることは出来ないだろうし、何より大きくなる事はあっても小さくなることはあり得ないと思っている。だから、こういった組織を用意しておけば独立したての国をバックアップも出来るし、なによりこの組織で出来た繋がりが新しい国同士の繋がりの形の一つになるんじゃないかと思っているんだ」

鍋島長官の説明に、アッシュもアリシアも考え込む。

勿論、二人だけでなく、二ヶ国の関係者達もだ。

実際、今の植民地体制は、うまく回っている時は主国にとっては実に美味しい体制だが、今回のような災害を初めとするトラブルが起こると一気に負担が宗主国に集中する。

また、今回のことで、植民地に住む人々は独立するという希望を持ち始めた。

それはかなり厄介なことと言わざる得ない。

人の心を完全に支配することはできないのだから……。

つまり、以前よりもハイリスク、ハイリターンになってしまったともいえるだろう。

そして、それを今、二ヶ国は実際に体験している真っ最中なのだ。

もちろん、こんな手間をかけずに焼き畑農業のように、ただ搾取するだけで何も保障しないという手もある。

しかし、それはあまりにもリスクが大きすぎる。

その時は良くても、結局はその時のみとなってしまうからだ。

結局、長く美味しい汁を啜るには、かなりの手間と暇がかかるのである。

しばらく沈黙が部屋を支配する。

それはただ無駄に時が過ぎたわけではない。

それぞれの思考が動き、構築していこうという準備の為の時間だ。

そしてまず口を開いたのは、アッシュだ。

「つまり、さっき言った各国の負担を減らし、それでいて安定した規模の大きな支援が出来るというだけでなく、より先を見据えてということだな?」

そう聞かれて、鍋島長官は頷く。

「ああ、それもある」

「それも?まだ何かあるのか?」

そう聞き返されて、苦笑を浮かべる鍋島長官。

それは参ったなといった感じに見えた。

「ああ。実はね、物資なんかは十分用意できるんだけど、穀物を初めとする食糧に関しては予想通り必要量が足りなくてね」

あまりにも何気なく言われた言葉に、アッシュとアリシアは唖然とした表情で口から言葉が漏れた。

「え?!」

「あ?!」

そしてアリシアが慌てた口調で聞き返す。

「足りないって……。どうするんですかっ」

その言葉に、苦笑を浮かべたまま鍋島長官は淡々と話す。

「足りないなら、あるところから持ってくればいいじゃないか」

「はい?」

「サダミチ……それは?!」

絶句する二人。

だが、それでもなんとか「あるところって……、もしかして……」とアリシアが聞き返す。

「ああ。連盟の商人達がたんまりと買い占めているだろう?だからね。そこからいただこうと思っている」

その言葉ではっと気が付いたのだろう。

アッシュが口を開いた。

「お前まさか……」

「ああ、分かったみたいだね。一つの国が援助するのではなく、国家の枠組みを越えたより大きな機関が支援すると発表したほうがインパクトあるだろう?」

「どう言うことですか?」

よく分かっていないアリシアに、アッシュが頭を抱えつつ説明する。

「サダミチがやろうとしている事は、より大きな組織が王国や共和国を全面的に支援するという事を大きく報道させる。それにより穀物などの食糧の取引価格は大きく下落するぞと匂わせ、買い占めている連中を焦らせるのと同時に連中が買い占めている分を安く買い叩き、その分を組織の不足分に当てるっていう事なのさ」

「つまり、食糧などの取引価格を操作する意味合いが強いって事?」

「そう言うことだ。どう考えても詐欺に近い行為だよ」

アッシュにそう言われて鍋島長官は困ったなと言う顔になった。

「詐欺とは言いすぎだよ。まぁ、騙している事に変わりはないけど、無理して買い占めて負担になっている商人は意外に多いみたいでね。彼らの負担を減らしてあげようかなと……」

「それは違うだろう?」

二人でジト目で見られ鍋島長官は苦笑いを浮かべる。

ズルイ手と言うのはわかっているのだ。

だが、それを規制する法律も何もない。

それにこういった裏側を知らなければ気が付く事もないだろう。

「もちろん、買い叩くといっても仕入れ値以下で買い叩くつもりはないからね。だから誰も損はしないと思うんだ。つまり、みんな誰も幸せになれる。まぁ、より大きな幸せではなくなった人もいるだろうけどね。それでもそれ以上の多くの人達が幸せになれるんだ。良い事ずくめだろう?」

笑いつつそういう鍋島長官に、アッシュもアリシアもあきれ返っていた。

まさに詐欺師の常套手段に近いものを感じて。

「でも、フソウ連合が食糧を買い漁っているってバレたら意味ないんじゃないの?」

アリシアが怪訝そうにそう聞く。

しかし、鍋島長官は問題ないという表情で答えた。

「ああ。その点は心配しなくてもいいよ。連盟のリットーミン商会を中継して買い叩いているから……」

「リットーミン商会って……」

「確か連盟の主要十二商会の内のひとつね」

「サダミチ……お前、いつの間に……」

「知り合ったのは最近なんだけどね。今回の計画に喜んで賛同してくれたよ」

「でも……もし、その商会が裏切ったら……」

「その心配はないと思うよ。なんせ、フソウ連合(うち)との取引のチャンスを狙っていたみたいだからね。そのチャンスをみすみす捨てるとは思えない。それに、裏切った場合、商会の方もタダではすまないだろうね。取引先を裏切ったという事で、周りからは信頼を大きく失うだろう。そのマイナスはとても大きいんじゃないかな。もちろん、裏切ったらそれはそれでこっちもいろいろやるつもりではあるけどね」

鍋島長官の言葉が嘘ではないと感じたのだろう。

アリシアがごくりと唾を飲み込む。

「まぁ、それに、今、フソウ連合(うち)のものを扱えるというのはとても大きいと思うんだ。今のところ、アルンカス王国の一部の商人のみか国同士の取引でしか扱えない。それを将来は分からないけど、現時点でほぼ独占で取り扱えるというのはかなり大きな利点であり利益となるだろうしね」

つまり、十分な飴も鞭も用意してあるという事だ。

それは雁字搦めに蜘蛛の糸に捕まった蝶を連想させた。

「容赦ないな……ある意味……」

アッシュがそう言うと、鍋島長官は悔しそうに言う。

「失礼な。きちんとリターンの方が大きく考えているよ」

「いや、そういう意味ではないんだがな……」

「それに今回の事は噂と言う形で少しずつ流しているんだ。そのおかげか、ぼちぼちではあるがリットーミン商会に穀物などの食料の売却の話がいくつか出始めていると報告もあったな」

その言葉が止めだった。

つまり、もう準備がすっかり終わってしまっており、王国も共和国もただ賛成するだけで全てが動き出す算段が済んでいるのである。

まさに、まな板の鯉とはこのことだろう。

後は料理されるだけ……。

そして二人を見て、鍋島長官は聞く。

満身の笑顔を浮かべて……。

「そういう訳だけど、アッシュもアリシア嬢も賛同してくれるよね?」

ここまで準備され、ましてや他に手がない以上、拒否できるわけがない。

まずはアッシュが悔しそうに宣言する。

「わかった。サダミチの提案に王国は賛同する」

そして、アリシアは心底呆れたという顔で口を開く。

「反対できませんもの……。今の状態では……。それに……」

反対したら何をされるかわかったもんじゃない……。

そう続く言葉を飲み込んで、宣言した。

「共和国も提案に賛同いたします」

「いやぁ、嬉しいよ。これからもよろしく頼むよ」

そう言って楽しそうに笑うと、立ち上がって握手を求める鍋島長官に、二人は今まで知らなかった親友の別の一面を見て苦笑して握手に応じるしかない。

そして思うのだ。

絶対に、この男は詐欺師の才能があると……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] サ・ギ・シ……それも特殊詐欺に近いなぁ〜相場師とも言う(笑)インサイダー取り引きそのものだよね。 大型穀物運搬船が欲しいけど戦時・戦前には無いんだよね〜 袋詰め等無しでダイレクトに船倉…
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