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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十二章 三者会談

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ポルメシアン商業連盟首都リスドランにて……その1

連盟の首都に『幸運の中の幸運』亭と言う酒場がある。

ここは、連盟の生きる伝説と言われるアントハトナ・ランセルバーグがこの酒場で得られた情報から今のような大商人になったという逸話がある為、駆け出しの商人や中堅商人達が集まる今や彼らの情報交換のスポットとなっていた。

この日も、何人もの商人達が、それぞれ気の合う仲間同士で酒を飲み、情報を交換している。

そんな中でも一際目を引くのは、奥のテーブルに集まっている四人組だ。

ここでは珍しい女性の商人がいる事もだが、それ以上に肌が黒いたくましい男性やこっちではあまり見ない東方系の顔立ちのものがいる。

彼らは、駆け出し商人の中でも特に最近名を売っている四人組で、クルシュナット商人連合と言う組織を作って活動している。

紅一点の三十前後の女性がエメ・フットランナーと言う共和国出身の商人で、主に香辛料などを扱う。

黒い肌のたくましい二十後半の男性はモハメッド・タントウラーと言う名前で、イルデンシナ諸島出身。

主に扱うのは穀物などの食料品。

東方系の顔立ちの五十代の男性は、バークリック・サマートナ。

アルンカス王国出身で、主に扱うのは染色系の顔料や資源など。

そして最後の二十代の男性が、連盟出身のアーぺリ・シーデン。

この組織のまとめ役であり、機械を中心に幅広く品物を取り扱っている。

普段からよく集まる四人だが、四人全員が集まるのは実は二週間ぶりであった。

だから、酒が入り、料理を食べつつ情報交換が始まるとアーベリがビールを飲みつつ聞いてくる。

「よう、バーリック。ここ最近見かけなかったけど、どうしてたんだ?」

バーリックが出された料理をつつきながら答える。

「ああ。少し祖国に戻ってた」

その言葉に、アーベリが少し驚いたような表情になる。

ここ数年、そのような素振りさえ見せなかったのに、その心境の変化が気になったのだろう。

少し色々聞いてみる気になったらしく、アーベリが確認してくる。

「へぇ。確かバーリックの祖国は……」

「ああ。アルンカス王国だ」

「へぇ……。あの……」

話の途中でエメが興味津々といった感じて会話に入ってきた。

アルンカス王国は、かなり独特の香辛料を扱うという話を聞いた事があるから、香辛料を扱うエメが反応し興味を持ったのだろう。

「ああ。久々に帰ったんだが、かなり変わってたよ」

「どっちにだ?」

アーべリがそう聞くとバーリックは機嫌よく答える。

「勿論良い方向にだ。フソウ連合との関係が上手くいってんだろうな。今のアルンカス王国はいいぞ。活気がある。それにだ。国際的な機関の本部まで出来たからな。だからますます伸びるだろう」

その言葉からは、祖国が発展し、力をつけていくことに対してうれしさと誇りを感じているのがわかる。

そう言えば、彼が故郷に帰らなくなったのは、アルンカス王国が、共和国に植民地されてからだ。

つまり、ボロボロの祖国を見たくなかったということか。

しかし、今年の四月に独立し、フソウ連合と共に歩み始めたと聞く。

だから祖国を見に帰ったのだろう。

そんな風に考えていると少し考え込んだ顔でモハメッドが口を開く。

「そうか。それは良かったな」

そして少し間が開いたが意を決したのだろう。

真剣な表情でバーリックに聞いてくる。

「あのな、聞きにくいことなんだが、あの噂って本当か?」

「あの噂?」

「ほら、フソウ連合とアルンカス王国が、王国と共和国を援助するって言う話だよ」

そう言われ、「ああ、あの噂か……」とバーリックは答えて少し間を置いた後、言葉を続けた。

「信憑性は高いと俺は思っている。実際、アルンカス王国は、穀物を中心とした余剰食糧をフソウ連合に譲渡したって話も聞いたしな……」

その言葉に、モハメッド以外の二人も食いついた。

「それ本当か?」

「それが本当なら不味くない?」

エメとアーべリの二人の顔色は一気に真っ青になった。

それには理由がある。

それは、今回の災害で価格が上がると見込んだ連邦の商人の多くが穀物を初めとする食糧をかなり買い込んでいることに由来する。

さすがに本職のモハメッドほどではないものの、この二人もかなりの資金を使って購入していた。

だが、もしもフソウ連合が王国や共和国を本格的に支援し始めたら、間違いなく穀物を初めとする食料品関係の取引価格は大きく下落するだろう。

その支援の規模にもよるだろうが、下手したら仕入れ価格よりも下がってしまう恐れすらある。

これが大手の商会ならそれこそ資金に余裕があるので何とかするだろうが、中堅や駆け出しの商人にはその損失はあまりにも規模が大きすぎる。

「そう言えば、お前もかなり買い込んでいたな。どうしたんだ?」

思い出したのか、アーベリがそうバーリックに聞く。

そう言った情報を手に入れたのなら、真っ先に本人が動くと考えた為だ。

その問いに、バーリックはニタリと笑った。

「実はな、アルンカス王国でポランド・リットーミン氏と知り合ったんだ」

その名前が出た瞬間、三人の顔が驚きに変わった。

ポランド・リットーミン。

連邦の議会に出る事ができる十二の主要商会の一つ、リットミン商会の代表であり、若手商人の中では、三十代で代表となり、今最も勢いがあり活動的な人物として有名なのだ。

一部の者達には生きる伝説のアントハトナ・ランセルバーグよりも人気があるほどで、やはり年が近いという事から親近感が湧くのだろう。

「凄いじゃねぇか。俺らからしたらなかなか知り合えない人物だぜ」

「ああ。すごいな……」

「ねぇ、今度紹介してくれない?」

「エメ、てめぇ抜け駆けはゆるさねぇぞ」

「いいじゃないのさ」

もめ始めたエメとアーベリをモハメッドが諌める。

「おいおい、話の腰を折るんじゃねぇ」

その真剣な剣幕に、二人は慌てて謝った。

「すまんっ。つい……」

「ごめんなさい」

「分かればいいんだよ。バーリック、続きを……」

話を促され、バーリックは口を開く。

「偶々だったんだが、アルンカス王国の港で見たこともない大型貨物船の荷降ろしがあってな。物珍しさに見入っていたら、声をかけられたんだ」

「うんうん。それで?」

「それでな。『すごい船ですね』って言ったら、フソウ連合の新型の貨物船だって言うんだ。で、フソウ連合とコネを持つ人物ならってんで、自己紹介したら、その相手がポランド・リットーミンだったのさ」

「すげぇ偶然じゃねぇか」

「ああ。そう思うよ。その上に、『せっかく知り合いになったし、今夜話でもしないか』って夕食に誘われたんだ。そこでな、酒のつまみみたいな感じで少し聞いてみたんだよ。噂についてな」

少しでも聞き逃さないようにという思いで話を聞く三人の顔がより真剣なものになる。

その様子に、少し優越感を感じつつ、バーリックは話を続けた。

「そしたらよ、かなり本格的にフソウ連合が動くという情報があるって言われたんだ。だから、もし穀物関係に手を出しているなら手放したほうがいいだろうってアドバイスを受けたんだよ。でもよ、『こういった噂が流れてからというもの、穀物を初めとする食糧関係を買い取る商人が一気に減っちまった。いたとしてもかなり買い叩かれてしまって仕入れ値以下なんて当たり前だ』って言ったらよ、『確かに今の相場では無理だが、損はしない程度なら私が買いとってもいい』って言われてよ、その場で全部売っちまった。まぁ、大儲けまではいかないけどさ、それでもそこそこ稼げたぜ」

そう言った後、あははははと笑うバーリック。

そんなバーリックに殺気立った三人が詰め寄る。

「今の話、本当か?」

「ああ。本当だ。そういや、『知り合いで困っているやつがいたらその分も引き受けてもいい』って言ってたな……」

三人の顔が一気にバーリックの顔の目の前まで迫る。

その圧倒的な迫力に、バーリックは思わず後ろに仰け反りそうになった。

しかしそんなことは構わずに、三人は無意識の内に声をそろえていった。

「「「紹介してくれ」」」

その殺気だったあまりにも迫力のある表情と言葉に、断るとどうなるか想像したくないと思ったバーリックは頷く。

「あ、ああ……。明日にでも連絡を取ってみるよ……」

「「「絶対だぞっ」」」

それでその場は収まり、四人はいつも通りの雰囲気になった。

だが、彼らはあまりにも騒ぎすぎた。

ここは、情報を集める為に商人達が集まっている。

そんな彼らの耳に、今の情報が入らないわけがない。

そして、今回の穀物などの食料品の高騰で一攫千金を狙ったものの身の丈に合わない量の仕入れやなれない穀物の買占めに資金が不足がちになり、その食料品で下手したら大損するかも知れないという話さえ出始めている中、大手と違い一回の失敗が破産へと続く駆け出しや中堅商人にとってこの情報は決して無視できないものである。

その結果、この情報は、中堅商人や駆け出し商人の間にあっという間に一気に広まったのであった。



「ポランド様。リッタード商会、クライスラード商会の分の買い上げ契約、終了いたしました。これで集まった分は、三十万トン近くになります」

その幹部の報告に、ポランドは満足そうな表情になった。

「なかなか順調じゃないか」

「はい。今のところは、本当に資金振りに困った連中やそこそこ儲ければいいといった連中が多いですね」

「今のところは、それでいい」

「しかし、このまま続けて買い取っていけば資金が不足してしまう恐れが……」

心配そうに言う幹部。

しかし、その言葉にポランドは平然とした顔で答える。

「資金は心配しなくてもいい」

「ですが、今の経済状況ではいくら大手とはいえ、銀行はそんなに簡単に金を貸さないのではないかと……」

「銀行は頼りにならないからな、最初から当てにはしていない」

「では、どこを……」

そう聞かれ、ポランドはくっくっくっと笑った。

「それは言えないが、かなりの資金を優遇してもらっているし、追加の分もある。だから心配する必要はない」

「では、これからも……」

「ああ。どんどん買い取れ。それにだ。八月十八日には面白い事が起こって、一気に忙しくなるからな。覚悟しとけよ」

そう言われ、報告してきた幹部は少し困ったような顔をする。

その顔を楽しそうに見ながらポランドは言葉を続けた。

「ふふふっ。間違いなく起こる未来だ。楽しみにしておけ」

その言葉と笑みは、絶対的な自信に満ち満ちていた。

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