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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十一章 動乱の序曲

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『陽はまたのぼる(Солнце снова встает) 』 その6

軍港フルターキーナ。

半月のような大きい湾と周辺のいくつかの島によって構成されている帝国の重要拠点の一つで、旧帝国の海軍によっては八大軍港と呼ばれる軍港の一つに数えられる。

北部地区の軍港アレサンドラ、西部地区の軍港ラッサーラや中央区の帝都の近くにある軍港モッドーラと違い、ここは知名度は今一つだが別の意味で重要な拠点の一つとなっている。

造船施設が軍港アレサンドラの次に多いという点で……。

実際、現在活動している公国、帝国、連邦の艦艇のうち実に二割はここの軍港から造り出されたものである。

もちろん、造船施設が一番多いのは軍港アレサンドラで、一時は全体の四割近くを建造していたが、王国の襲撃で深刻な施設の被害と多くの熟練工員を失って建造能力が大きく低下している事を考えれば、旧帝国内では最大規模の造船施設であるといっていいだろう。

それ故に、警備に配備されている艦艇も他の港に比べれば多い。

その数は、戦艦一隻、装甲巡洋艦四隻、水雷艇十二隻。

そして増援として近辺に配備されている水雷艇二十二隻が集められた。

その数の多さに現場の士気は上がったものの、現地に入った『FGU』のコンスタンチン・セミョーノヴナ・マルメラードワ大佐は楽観できる状況ではない事を理解していた。

戦力が違いすぎるのである。

いくら水雷艇が揃おうとも、所詮は水雷艇だ。

真正面から戦うには、砲撃力が違いすぎる。

なんせ相手は遠くから砲撃出来るのに対して、こっちは接近して魚雷をぶち込まなければならない。

リーチが圧倒的に短い上に、耐久力は紙と鉄板と言っていいほどの差だ。

唯一勝るのは、機動性と数だけという事になる。

ならばやる事は一つ。

マルメラードワ大佐は水雷艇を四隻ずつに分けると湾の近くにカモフラージュさせて待機させる。

灰色の布を上から被せるだけではあるが、それでも遠方からは石やコンクリートのように見えるだろう。

敵には、待ち伏せはない。

そうしっかりと認識させておかなければならない。

そうする事で奇襲の効果をより大きくする為である。

それによって相手を混乱させ、対応が遅れる隙を作らねばならないのだから。

なぜそこまでするのか。

それは、まともに戦って勝てるとは思っていないからだ。

だから、艦艇で敵をおびき出し、水雷艇の波状攻撃で止めを刺す。

そのプランしか打てる手がない。

それと遅れて来る水雷艇十一隻も問題なく進んでおり、敵艦隊の帰航での待ち伏せには間にあうようだ。

出来れば、こっちは無駄になって欲しいと思う。

無駄になる。

それは、こっちの作戦が上手くいったと言う事であるからだ。

だが、現状では追い払うのが精一杯といったところだろうな。

そんな事を思いつつも口に出さない。

せっかく上がった士気を下げる必要はないのだから……。



八月二日、午前五時十二分。

警戒していた警備艇が敵艦隊を発見したと言う報告が軍港フルターキーナの軍司令部に届いた。

早朝ではあったが、胸騒ぎがしたといったらいいのだろうか。

マルメラードワ大佐は目が覚めており、すぐに対応した。

「情報は正しかったか……」

その報を聞き、マルメラードワ大佐はほっとしてそう呟く。

情報提供者にきちんと賞金を出さねばならないな。

そうすれば、これからはますます情報が入りやすくなるだろう。

そんな事を考えつつも表情を引き締めるとすぐに命令を下した。

「本部に連絡だ。それと各部隊に連絡だ。『敵が来た。出番だ』と伝えろ」

その命令に伝令の兵も表情を引き締める。

「了解しました」

そう言うと敬礼をして指示を伝えに行く。

よし……。

後はやるだけだ。

そう決心するとマルメラードワ大佐は軍服に着替えるとすぐに司令室に向った。

司令室は、早朝ではあるが敵艦隊発見の報によって活気づいている。

「状況はどうだっ。それと敵の布陣はっ」

マルメラードワ大佐の問いに、すぐに副官が答える。

「はっ。まもなくA地点を通過します。敵は、遠方からの監視なのではっきりと数はわかりませんが、四つに艦隊を分けているようです」

「ふんっ。前回、奇襲を受けた事に対する対策か……。役割は先鋒、主力、護衛、支援といったところか……。厄介だな……」

マルメラードワ大佐は考え込む。

「いかがなさいますか、大佐」

その様子に不安になったのだろうか。

少し不安気味に副官が聞いてくる。

「今更やれる事は限られている。計画通りにするだけだ」

「そ、そうですね」

「よしっ。敵を引き付ける為に艦艇を出せ」

戦艦一隻、装甲巡洋艦四隻がゆっくりと出港していく。

その様子は、敵を刺激しないかのようだ。

そして、一時間もしないうちに敵公国艦隊先鋒と遭遇した。

数的には、申し合わせたように互いに戦艦一隻と装甲巡洋艦四隻のほぼ互角であるが、練度は大きく違っている。

その為、あっという間に劣勢になると、連邦艦隊は一気に離脱を図った。

それを追撃する公国艦隊先鋒。

そして一部の護衛を従えて連邦艦隊主力がゆっくりと近づいてくる。

その報告を聞き、マルメラードワ大佐の額に汗が流れる。

刻々と報告が入り、主力が近づく度に副官が声をあげた。

「大佐っ、まだでしょうかっ」

その声をうざったいと思いつつも、マルメラードワ大佐は海図を睨みつける。

「まだだ、まだ足りん。もう少しだ」

「しかしっ」

あまりの喧しさについに切れたのだろう。

「馬鹿者っ。待機している水雷艇の連中はもっと落ち着かんわっ。ここで我々が落ち着きを失ってどうするかっ」

ついにマルメラードワ大佐は副官をそう怒鳴りつける。

その言葉で我に返ったのだろう。

「す、すみませんでした……」

慌てて頭を下げて副官は静かになった。

「分かればよろしい……。それで、敵の動きはどうだっ」

その問いに、通信兵が問い合わせたのだろう。

「只今、B地点通過を確認したそうです」

「そうか……」

そう返事をした瞬間だった。

風を切る音が響き、軍司令部の近くに爆発音が響く。

「くそっ。さすがにもう近づいてこねぇって事か……」

前回の奇襲がよほど堪えたという事だろう。

それは裏を返せば、有効であったと言う事だ。

「よしっ。もう少し距離が欲しかったが、仕方ない。ミットンカ島にいる一斑、二班をまずは後方から攻撃させろ。そして続けざまにロッカ島、リミンカ島の連中にも攻撃命令を出せ」

「了解しました」

通信兵が通信機に取り付き叫ぶように通信する。

「一斑、二班に告げる。こちら軍本部。『矢は放たれた』繰り返す『矢は放たれた』」

その声を聞きながら、マルメラードワ大佐は腕を組んで海図から窓から見える海上に視線を向けた。

別に敵艦隊がはっきりと見えることはないが、それでも見なければ負けだといわんばかりに睨みつける。

また本部の近くで爆発音が響いたが、それにマルメラードワ大佐は怯む事はなかった。



命令を受けた水雷艇第一斑と第二班の八隻は、カモフラージュ用の布を取り去ると一気にエンジンを全開にして突き進む。

いきなり島から現れた水雷艇に公国艦隊護衛は慌てた。

油断があったという事も多分にあったが、艦艇の入れ替えによって連携が取れていないという事が大きかった。

それでもすぐに副砲などによる砲火が始まり、水雷艇は一隻、また一隻と沈められていく。

元々足の速い漁船などの民間船を改装して水雷艇としたものであるから防御は無きに等しく、当たればあっけなく簡単に沈める事は可能だ。

しかし、初動が遅れたことと、水雷艇の予想以上の動きの早さに翻弄され、二隻の水雷艇に艦隊の中に入り込まれてしまう。

「よっしゃぁぁぁぁぁっ。今だっ!!!」

水雷艇艇長の叫びに合わせ、搭載されていた二本の魚雷が発射された。

元々急造で改修された船の為、魚雷発射と同時に魚雷発射菅が外れて海に転げ落ちたが、それでも魚雷は目標に向って進んだ。

「よしっ。撤退だっ」

二隻の水雷艇が魚雷四本を放つと、魚雷を撃って身軽になったためかより速力を増して一気に離脱にかかる。

「逃がすなっ」

護衛の装甲巡洋艦艦長が叫ぶ。

その号令にあわせてせめて撃沈してやると護衛の装甲巡洋艦の副砲が火を吹くも、まるでその動きがわかっているかのように砲撃を避けて水雷艇は離れていく。

そして放たれた四本の魚雷は、停止し艦砲射撃をしていた戦艦ビスマルクと戦艦グナイゼナウに襲い掛かった。

「魚雷来ますっ」

「くそっ。入られたかっ」

ビスマルク艦長ドミトリー・エントゥカス・シェミャーカはダンっとテーブルを叩き、叫ぶ。

「艦を動かせっ」

「しかし、まだ砲撃を始めたばかりですし、いきなりは無理です」

「つべこべ言うな。さっさとやれっ」

シェミャーカ艦長は副長にそう言うと、矢継ぎ早に指示を出す。

「観測班は、魚雷の航路を確認急げ。確認次第総舵長に伝えろ。操舵長、艦の動きは任す。直撃だけはなんとか避けてくれ」

「了解しました」

「主砲に伝達っ。艦砲射撃中止っ。今装填分は打つなっ」

主砲を打つことで、やっと動き始めた船の動きが遅れるのを防ぐ為である。

「了解しましたっ」

恐らく戦艦グナイゼナウにも同じ指示が出たのだろう。

艦砲射撃を中止し、艦が動き始める。

それはまさに的確で敏速な対応と指示てあった。

しかし、その巨大な艦体にはそれでも遅すぎた。

「だ、駄目ですっ。当たりますっ」

監視員の悲痛な叫びが響く。

そして、魚雷はビスマルクの前から三分の一辺りの左側面に一本命中した。

艦が揺れ、爆発が起こる…………はずであった。

しかし、爆発は起こらなかった。

「どうしたっ。命中したんじゃないのかっ」

「ど、どうやら不発弾のようです……」

ほっとした表情で告げる副官。

艦橋内の緊張が少し緩やかなものになった。

しかし、すぐにそれはまた引き締められる。

「残りの魚雷はっ」

シェミャーカ艦長の声に、監視員が報告する。

「残り三本は外れました」

「そうかっ……」

しかし、これで終わりではなかった。

「敵水雷艇、今度は前方から接近してきます。数は十二っ」

その報に、シェミャーカ艦長は苦笑を浮かべる。

「熱烈歓迎じゃないか」

そう呟く様にいった後、手を振り上げて命じた。

「各艦に伝えろ。まずは敵の海上戦力を黙らせるんだっ」

「了解しました」

こうして、軍港フルターキーナ沖での死闘が始まった。

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― 新着の感想 ―
[一言] その魚雷、どこから調達したんだ?という感じか?奇跡的に不発じゃない気が。
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