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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十一章 動乱の序曲

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面談

私はなんでこんなところにいるんだろう……。

窓の外に写る景色を眺めながらふとそんなことを思ってしまう。

いやいや、自分の意思で来たんだ。

確かに誘われたのは事実だが、行くと決めたのは自分の意思だ。

しっかりしろ。

自分に言い聞かせた。

しかし、目に入る風景は、バカンスで来ている感覚に落ちそうになるほど魅力的だった。

目に入るのは自国では見ることの出来ない真っ青な空とエメラルドのような翠がかった海とそしてギラギラと暑い日ざし。

これで海岸に美女でもいたら、口説いて一晩のアバンチュールにしゃれ込んでいたかもしれない。

しかし、目に入るのは独特のデザインをした軍艦と軍人達だ。

中には女性もいるようだが、きっちりと軍服を着込み、付け入る隙は見当たらないといったところか。

ここはアルンカス王国、首都近郊にあるフソウ連合海軍基地。

元々はしがない小さな港でしかなかったが、フソウ連合に貸し出されて今や首都コクバンに直結する主要港エンカレッド港に匹敵する大きさに拡張されようとしている。

リットーミン商会のポランド・リットーミンは、フソウ連合の招待でこの地に足を踏み入れたのだが、魅惑的な部分と現実的な部分が融合された窓の外の景色に戸惑ってしまっていた。

最初、共和国のフソウ連合の滞在大使からアルンカス王国で上司が礼を述べたいと言われたときは心の中で小躍りするほど喜んだ。

そして、飛行機を運ぶ為に用意されたフソウ連合の大型貨物船に便乗するように言われたのだが、その航海はかなり良かった。

食事は美味かったし、船の乗組員も丁寧で、豪華客船でも通用するかのような対応だった。

それに思ったとおりに進んでいるとその時の自分は確信し、笑いが止まらなかった。

そのはずだったんだ……。

なのに……。

てっきり、市内のホテルとかだと思っていたんだが、まさか軍事施設の建物とは……。

まぁそれはいい。

今いる部屋は、簡素ながらもきちんと装飾された立派な部屋であるし、家具もそれに合わせた質素ながら中々センスがいいものが用意されている。

そして出された紅茶とお茶請けのクッキーは高級なもののように見受けられた。

つまりきちんとお客として対応してくれているのだから。

だが、どうしても気になるのは、建物の周りや部屋の入口には兵士が厳重に警備している事だろうか。

その警備はあまりにも厳重すぎた。

ここは軍の施設内だから、ひとつの建物にここまで厳重な警備は必要ないはずなのだが、現実はこの有り様である。

もしかして、自分はフソウ連合にとって要注意人物とでも認定されてしまったのだろうか……。

そういわれてもおかしくはない。

飛行機はフソウ連合にとって最高機密に当たるものだ。

それを集め、差し出したのだから……。

いやいや、そんなはずはない。

大丈夫なはずだ。

だが……しかし……。

不安になる。

この部屋に案内されてからまだ十分しか経っていなかったが、まるで何時間も閉じ込められている感覚になりそうだった。

だが、そんな思考はノックされる音と「失礼します」という声で吹き飛んだ。

「は、ハいっ。ドウゾっ」

その声でドアが開き、二人の人物が入ってきた。

まずドアを開き入って来たのは女性で、年は二十半ばといったところだろうか。

艶のある長い黒髪を後ろに束ね、白い軍服を着こなしている姿は、中々凛々しく、それでいて美しい。

かなり好みの女性である。

そしてその女性の後から入ってきたのは、言い方は悪いがどこにでもいそうな二十代後半といった感じの男性だ。

短めに切りそろえた黒髪とまるで着せられている感の強い軍服姿が印象的だ。

誰だこいつは……。

そんな事を思いつつもポランドは立ち上がると笑顔を作って挨拶をする。

「リットーミン商会のポランド・リットーミンです。今回はご招待ありがとうございます」

ポランドの言葉を通訳しているのだろう。

女性が男性に知らない言葉で話しかけている。

「これはこれは。ご丁寧にありがとうございます。私は、フソウ連合海軍の長官をやっている鍋島貞道です」

そう言って男性は右手を差し出した。(もちろん、間に翻訳がはいってます)

その言葉にポランドは一瞬思考が止まった。

今、この男性は何と言った?

フソウ連合海軍長官……。

嘘だろう?!

まさか、あの長官なのか?

無意識の内に疑問が口から出た。

「もしかして……あなたが……あの共和国と帝国の大艦隊を打ち破り、王国や合衆国、それに共和国と条約を結び、イムサを創設した……あの方ですか?」

そのポランドの言葉に、鍋島長官は苦笑して答える。

「あ、部下が優秀だったから出来た事ですよ。私だけではとてもとても……」

間違いなく本人はそう言ったものの、通訳の為に間に入っている東郷大尉は済ました顔で「なに大したことではありませんよ。あれぐらいの事は……」と通訳する。

それは、いつも謙遜ばかり口にする鍋島長官に対して少しは見栄を張ってくださいという東郷大尉の思いがそうさせたのだが、それが思わぬ結果をもたらした。

その通訳されて言われた言葉に、ポランドは圧倒されてしまった。

間違いなく世界史に載るであろうあの偉業といわれるほどの数々の出来事を『大したことではない』とか『あれぐらい』とか言ってしまうのかと……。

それでも何とか口を開く。

「そうですか……。流石です……」

そうは言ったものの、完全にポランドは雰囲気に飲まれてしまっていた。

とてつもないオーラがあるわけでもない。

本当にその辺にいそうな青年なのに……。

そして、それと同時にポランドの心の中で燃え上がるものがあった。

こんな若い人が、あんな凄い事をやってのけたんだ。

自分だって出来る……。

そうすれば、俺を舐めている年寄り連中を見返してやれると……。

連盟の商人の間では、二十年商売をして、年齢が四十を超えて初めて一人前という認識が当たり前になっている。

それは長年、商人達で切磋琢磨したことによってできた認識であったが、ポランドのようにその認識に当てはまらない者や若い人にとってその認識は邪魔なものでしかなかった。

だが、それを覆すような存在が目の前にいる。

二十代でありながら国を左右する地位にいて、世界を相手に活躍している。

鍋島長官と言う人物は、政治と商売といった畑違いはあるものの、ポランドにとってこうなりたいという事を今実行している先駆者に見えた。

身体が震え、感動の嵐が心を満たし吹き荒れる。

そして両手で差し出された右手を握り締めた。

「あなたに会えるなんて光栄です、鍋島長官殿」

感動して撃ち震えながらそう言うポランドに、なぜこんな態度になるのか理解できず鍋島長官は笑い返しつつもどうすべきだろうかと思考するしかなかった。



なんとか挨拶が終わって全員が椅子に座る。

給仕がやってきて、冷めたポランドの紅茶を取替え、鍋島長官と東郷大尉の前に新しいカップを用意する。

その様子を見つつ、鍋島長官がまずは口を開いた。

「今回、フソウ連合の飛行機の回収、本当にありがとうございます」

深々と頭を下げる鍋島長官にポランドは慌てて答える。

「いえいえ。そんなに頭を下げないでいただきたい」

「しかし、相手に何かしてもらったら礼をするのが当たり前です。気になさらないで」

そう言って笑う鍋島長官に、ポランドは困ったような顔をした。

善意でと思われているのだろうか。

そんなつもりはなく、商売の先行投資の意味合いでやったに過ぎない。

だから感謝される筋合いはないとさえ思っている。

なのに……。

後ろめたい気持ちが湧き上がり、だからつい言葉が口から出てしまう。

「別に感謝されようとか思っていません。あくまでもそちらとの新しい商売の繋ぎになればと……」

だが、そんな言葉を聞いても鍋島長官は穏やかに微笑んで言い返す。

「裏があったとしてもそれでも貴方のやってくれたことに感謝すべきだと思いますよ、僕は。遺骨こそありませんが、それでも彼らの魂は乗っていた飛行機と共にやっと祖国に帰ってきたんだから……」

そう言った後、鍋島長官を目を細め、何かを思い描いているかのような表情になった。

恐らく部下の事を思っているのだろう。

その言葉と態度に、ポランドは言葉を失った。

自分は何をやっているんだろうか。

機体だけでなく遺体も一緒に連れて返るべきだったと……。

そして思考する。

今まで出会った軍人でそんな事を言った者はいただろうか。

部下の事を気にかけて、そこまで言う人が……。

やはり、この人は今まで会った人達とは違う。

全く違う。

そして、はっきりした事。

それは、この人が尊敬すべき人物であるという事だ。

だからポランドは微笑んで言う。

「あなたの部下になった人は幸せですね」

そんなポランドの言葉に、まさかそんな事を言われるとは思いもしなかったのだろう。

鍋島長官は慌てたようにあたふたしている。

つまり、彼にとって部下を大切に思う事、考える事は当たり前のことなのだろう。

ポランドはそう判断した。

そして、思ってしまった。

こんな人の為に働きたい。

この人のために働きたいと……。

確かに父から受け継いだリットーミン商会を大きくする夢が無くなったわけではない。

それはまだ心の思いの中心にある。

だが、それとは別に思ってしまったのだ。

最初は、フソウ連合との取引をする為の先行投資のつもりだった。

フソウ連合を商売に利用できればいい。

その程度だったはずだったのだ。

しかし、今は違う。

今まで色んな欲や感情でぐるぐる巻きになってしまっていた思考が、解きほぐされて一つの糸になっていくような感覚。

そして、その感覚によって湧き上がる思い。

それは、冷めていて、熱い。

そんな感じだ。

ふうと息を吐き出した後、ポランドは真剣な表情になると鍋島長官を真正面に見据えて口を開いた。

「私は、あなたの言葉に感銘を受けました。そして、私はあなたの為に働きたいと思ってしまった。だから私にで出来る事があれば、ぜひ私を利用していただきたい」

そのいきなりの言葉に、鍋島長官は驚いた顔をしたものの、すぐにポランドが本気である事がわかったのだろう。

だが、それでも聞き返す。

「本当に良いのですか?」

そう言われ、笑いつつポランドが答える。

「私に頼みたい事があるから、こんなところまで呼んだのでしょう?まさか、観光と言うわけでもないでしょうし……」

「わかりますか?」

「ええ。あなたが出てきたことで分かりました」

そう言われて鍋島長官は苦笑した。

その様子にポランドはますますこの人物に好感が持てた。

こういった交渉事では感情を出したら負けだといった認識が商人にはある。

だが、鍋島長官は素のままに感情を曝け出している様に見えた。

作り笑いでも、感情を隠し続けるわけでもない。

なのに……。

だから、この人に惹かれてしまうのだろう。

「なら、話が早いですね」

そう言って鍋島長官は、一度紅茶に口をつけると笑って言葉を続けた。

「ですが聞いてしまった後の拒否は出来ればやってほしくないので……」

要は、覚悟はあるかという事らしい。

ポランドは苦笑しつつも頷いて言う。

「覚悟は出来ています」

その力強い返事に鍋島長官は頷くと、口を開いて説明を始めるのであった。

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[一言] 「それは、いつも謙遜ばかり口にする鍋島長官に対して少しは見栄を張ってくださいという東郷大尉の思いがそうさせたのだが、それが思わぬ結果をもたらした」 通訳者が、一番やってはいけないことをして…
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