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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十一章 動乱の序曲

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王国からの知らせ

試写会の翌日、午前中にイタオウ地区で新しく完成したドックや工場などの施設を見学し、昼食に入ってからすぐに本部から緊急連絡が入る。

その連絡は外交部からで、至急に連絡をお願いしますと言われて渡された電文を見て、鍋島長官はさっきまでの笑顔が嘘のように深刻な表情になった。

「思ったより早かったな……」

その変化と言葉に的場大佐が気になってついつい口を開く。

「いかがされましたか?」

その問いに、鍋島長官は苦笑を浮かべ、隣にいる東郷大尉に聞く。

「そんなに出てるか?」

「はい、思いっきり出てますよ」

そう突っ込んだのは東郷大尉だ。

こっちは困ったような表情をしている。

「そうか、そんなにか……。気を付けるようにしてるんだが……。やっぱり駄目か……」

その鍋島長官の言葉に、東郷大尉がため息を吐き出したあと指摘する。

「長官は、感情を隠すのが下手すぎます。その上、思考の方に引っ張られて感情を隠すのを忘れてしまっている感じです」

「困ったな……。また、うちの連中に色々言われそうだよ」

そう愚痴った後、的場大佐の方に視線を向けた。

「すまんな。うちの連中にもう少し感情を顔に出さないようにって言われているんだが、中々上手くいかなくてな」

そう言った後、手に持っている電文に的場大佐の視線が言っているのに気が付いたのだろう。

ぴらぴらと電文を揺らすと苦笑いを浮かべて言葉を続けた。

「王国から正式に会合の申し出が来た。大佐も知っているかと思うが、世界的な災害で、世界の穀倉地帯と言われる植民地が軒並み農産物の生産を落としている」

その言葉に、的場大佐も真剣な表情を浮かべて頷いた。

「はい、聞いております。その被害のすさまじさは……。もっとも、反対にフソウ連合やアルンカス王国ではほとんど被害はないとも聞いています」

そして、驚愕の表情に変わった的場大佐が言葉を続けた。

「まさか、その会合と言うのは……」

「ああ。十中八九、食料の件だろう。今、生産的に余裕がある国は、フソウ連合とアルンカス王国、それに合衆国だろうからね。そして、その会合がうちに来たという事は、王国は合衆国との交渉に失敗したと見るべきだな」

「それはどういう事でしょうか?」

「合衆国は、植民地の一地域に王国からの移民が移り住み独立したのが始まりなんだ。その為、王国は妨害するどころか独立を強く支援をしている。つまり、かなり親しい関係、ある意味同胞に近い関係だと思っていい。確かにアッシュは我が国を高く買ってくれているし、王国での我が国の重要度は最近はうなぎ登りに上がっているだろう。だがね、それでもまだ一年にもならない同盟国であるフソウ連合と同じ同胞を支援して建国した長年同盟国でもある合衆国とでは根本的な重要度は大きく違うだろう。その差は、まさに雲泥の差と言っても良いほどに……」

「なら、なぜ、そんな関係の合衆国との交渉が失敗したと考えているのですか?」

「恐らくだが、支援したくても物が足りないといったところではないかな」

「いや、合衆国は余裕があるという話では?」

「ああ、合衆国全体から見れば余裕があるだろう。だから合衆国政府としては援助はしたいが、物が足りない状態の為にどうしようもないと見るべきだろうな」

「どういうことです?」

「合衆国は資本主義の国だ」

「ええ知っています」

そういった後、的場大佐はある考えに至ったのか呆れかえった表情になった。

「まさか……、大規模な買占めでも行なわれたんですか?」

「恐らくな……。多分、国民の反発が怖い為、自国で消費する分を圧迫するまででは無いものの、余剰分を買い占める連中はごまんといるだろうな。それに、先物買いなんてシステムを導入しているからな、あの国は……。その為、先の分の余剰分の食料の値段も跳ね上がり、とてもじゃない高い値段が付いているんじゃないかな」

「まさか、そんな……」

「世界的な災害だからね。その可能性はかなり高いと思う。念のために合衆国駐在に物価を調べてもらったけど、今のところ予想通りの動きをしているよ。合衆国政府としても対策を考えてやっているんだろうけど、上手くいってないみたいだな。その上、金の匂いに敏感な連盟の商人がかなり介入しているらしい」

「どうにかならないんですか?」

「すぐには無理だろうな。そうなると出来る手としては買い占められた分を買い戻すという事になるが、ふっかけられた金額が高すぎてお手げだと思うよ」

鍋島長官の言葉に的場大佐は憤慨して言い返す。

「そこは合衆国政府の強権を発動して対応すべきでしょう」

その発言を鍋島長官は予想できていたのだろう。

少し憂鬱気に答えた。

「自国の商人だけならそれもありだろう。しかし、他国の商人がかなり介入しているからなぁ。下手な強権発動は他国を巻き込んだ紛争に移りかねない。それにだ。現時点でもかなり多くの余剰食糧が合衆国外に流失していると見るべきだろうな」

唖然とする的場大佐。

それはそうだろう。

情報としてある程度は知ってはいたものの、まさかそこまで事態が進んでいるとは思わなかったに違いない。

「そういうわけなんで、多分うちにお鉢が回ってきたというところだろう。同盟国でもあるし、他の強国に頼るくらいならという思いもある」

「確かに。それに長官とアーリッシュ殿下は友人ときていますからね」

「そういうこと」

そこで的場大佐が何か思いついたかの表情をした。

「そうか。アルンカス王国海軍設立の艦艇提供の見返りで余剰分食料の譲渡ってこの事を考えてということですか……」

「まぁね。こういう事態は予想できたからね」

そう言った後、東郷大尉に命令を下す。

「王国の方には、会合の日時や場所についての確認と調整を。後、アルンカス王国の木下少佐には、こっちの条件をすぐに伝えてくれ。出来れば、他の国がアルンカス王国に干渉する前に基本部分だけでも合意して先手を打ちたいからね」

「了解しました」

東郷大尉が敬礼し、すぐに連絡する為に動き出す。

その後姿を見送ってから、鍋島長官は的場大佐に視線を向けた。

「さて、これから忙しくなるからね。視察を終わらせよう。午後は基地関係だったな」

「はっ。それは構わないのですが、良いのですか?」

「何がかな?」

「本部に戻らなくても……」

その言葉に鍋島長官は笑って答える。

「ああ。心配しなくていいよ。ある程度の指示を本部や外交部にはしてあるから」

その返事に、的場大佐は驚くと同時に感心する。

要は、先まで見通して動いているという事だ。

そしてそのための対応も指示してあるのだろう。

すごい人だと思う。

鎖国してきたためかフソウ連合の人々は、どうしても世界に対してそれほど注目してこなかった。

なぜなら、自分達だけで全てが上手く回っていたから。

だが、それではいけない。

そう思い、世界に対していろいろな情報を積極的に集め、見てきたつもりだった。

しかし、今回のことで思い知らされる。

今まで、自分はフソウ連合海軍の軍人として世界を見てきたということを……。

それは決して間違ってはいないと思うが、それだけでは足りないとも感じたのだ。

世界の動きを知るには、軍人と言う視点だけでは駄目だと。

軍事だけでなく、経済やいろいろな出来事などの情報と幅広い知識で広く世界を見なければならないという事に……。

だから自然と的場大佐の口から言葉が漏れた。

「勉強になりました」

「ん?何がだい?」

その意味がよくわかっていない為、鍋島長官が怪訝そうな顔をするも、的場大佐は笑いつつ言う。

「いろいろな事で……」

鍋島長官はその言葉では少し納得いかないような表情をするが、「気になさらないでください」と的場大佐は言いつつ思う。

この人のようになりたいと……。

そしてより高みを目指さねばと思うのだった。

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