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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十一章 動乱の序曲

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災害の足音と魔術師

「思った以上の被害が出たな……」

報告書に目を通した後、グラーフはそう口にする。

その言葉に、報告書も持って来た上が白で下が赤い独特の形をした服を着た黒髪の女性が答える。

「はい。恐らくですが、帝国が以前から行っていた魔術の影響もあったためと思われます」

「帝国の魔術と言うと……例のか?」

「はい。艦艇召喚の技法にてございます」

「しかし、あれは人の魔力や生命力を源として行なうある意味資材を使った復元の魔術で、この星にはそれほど影響を与えないと聞いていたが……」

そのグラーフのその言葉に女性は感情を置き忘れたかのように無表情のまま淡々と答える。

「全く影響を与えない訳ではございません」

「なら、フソウが行なったものも……」

「確かにゼロではないでしょう。なんせ、秘儀中の秘儀ですから……。ですが、あの国の巫女長は優秀ですし、なにより、数百年もの間溜め込んだマナがありますからさして影響を与えるようなものにはならないかと……」

「という事は……」

「はい。やはり何者かが行なったあの召喚儀式が問題だったのでしょう。それが今まで押さえ込んでいたものを吐き出させてしまった。それ故に被害が大きくなったのでしょう。それ以外には考えられません」

「そうか……」

少し考え込むグラーフ。

そして伺うように聞く。

「やはり相手は分からないか……」

「残念ながら……。しかし、構成は帝国魔術師ギルドが行なった儀式とよく似ております。恐らくですが、そちらの流派関係者と見ていいかと……」

「帝国ではないと?」

「はい。帝国本土では、あの大きな儀式以降、動きはまったくございません。それに……」

そこで女性の言葉が途切れる。

言うべきかどうか迷っている感じだ。

「ああ、構わないよ。言いにくいなら……」

そう言われ、決心がついたのだろう。

ゆっくりと言葉を選んで口にする。

「帝国で行なわれた儀式で中心となっていた魔力が……消えておりますので……」

「それって……」

「そう言う事でございます」

「そうか……。やはりあの情報は正しいという事か……」

グラーフは呟く様にそう言うと、以前見た報告書の内容を思い出す。

その報告書では、帝国の魔術師ギルドがほぼ壊滅したというものだ。

魔術師ギルドのあった街ごと廃墟となっているという話だった。

つまり、召喚するのに全てを使ってしまったということか……。

では、そうなると……。

「問題の召喚の儀式が帝国ではないという事だと……」

「恐らくですが、帝国魔術師ギルドを離反した者達が行なったと見るべきでしょう」

「離反か……。ありえるのか?」

魔術師と言うものは、確かに孤独を好む。

それは自分が編み出した魔術の秘術を守る為であり、誰も知らない事を知っているという知識欲を満たす為でもある。

だが、それでも彼らはギルドを作る。

それは、個人で出来る事は限られているためであり、自分の知りえた知識を後世に残すためだ。

実際、儀式一つとっても、準備するものや必要な魔力などを考えれば組織でなければとてもじゃないがまともに出来ないのが現状なのである。

情や絆ではなくお互いの利益のみで繋がっている為に、魔術師ギルドの結束は脆いと思われがちだが、それは裏を返せばよほどの不利益がなければ離反は考えられないということになる。

それを知っている為に出た言葉だった。

だが、その言葉に、女性は悲しそうな笑顔を浮かべた。

「考えの方向性が違えば、離反はありえますわ。フソウ連合の巫女と私達のように……」

「そうか。そうだったな……。すまん……」

グラーフが謝ると、女性は少し笑った。

「いいえ。もう百年以上前のことですからね。気にもしていませんわ」

そう言った後、女性は少し考え込んだ後、口を開く。

「あとは……、そうですね。ギルドの規則を大きく破る違反を犯して追放されるといったところでしょうか……」

「ふむ……。そっちの線でも調べてみる必要性があるか……」

考え込むグラーフに女性は言う。

「どちらにしても、また同じ事が行なわれた場合、かなり酷い被害が出る事は間違いございません。この国も十分に準備をしておく必要があるかと……」

「確かにそうだな……。それでだ。もし次の儀式が行なわれるとしたら何時頃になりそうだ?」

そう聞かれて、女性は少し顔を下に向ける。

思考を走らせているのだろう。

目の焦点はぼんやりとしたものになり、微動だにしない。

それはまるで精密な人形のようだった。

そして、まるで思い出したかのように女性は肺の中の全てを吐き出すような息を深く吐き出す。

そして、すーっと息を吸い込んだ。

それが数回繰り返された後、目に光が見えてくる。

そして、俯いていた顔を上げるとグラーフに視線を向けて口を開いた。

「恐らく、すぐにはないでしょう。星の巡りや時の流れを考えても……。ですが……油断できない状態です。全く出来ないのという事ではなく、あくまでも成功率を高めてきちんとやるためには、不安定すぎるだろうからということですから……」

「そうか……。ありがとう……」

短くそう言って頭を軽く下げるとグラーフは黙り込む。

その様子に、女性はもう用事はないと判断したのだろう。

軽く会釈すると、そのまま部屋を退室した。

しかし、それに視線を向けることなく、グラーフは考え続けている。

そして呟く様に言った。

「現状で余裕があり、魔術に関する組織を持つのはフソウ連合のみ。ならば一度、フソウ連合と接触を持つ必要性があるか……」

そう決断すると、グラーフはデスク上にあるボタンを押した。

そのボタンは隣の秘書室の呼び鈴につながっており、秘書を呼び出すのに使われる。

すぐに隣の部屋から秘書官が現れる。

「お呼びでしょうか、ツェッペリン様」

「ああ。実は調べて欲しいことがある」

「はっ。何をでしょうか?」

「フソウ連合に関することとその外交責任者であり、軍事責任者のサダミチ・ナベシマという男のことをより詳しくだ」

簡単な情報なら、もう手に入れている。

しかし、それではまず足りないだろう。だからこその命令だった。

しかし、その言葉に秘書官の表情は冴えない。

「フソウ連合……でございますか……」

帰ってきた返事は、歯切れの悪いものだった。

その理由としては、色んな場所にスパイを放っている海賊国家だが、フソウ連合にはまだ入り込めていないためだ。

それは、フソウ連合が外国人の受け入れ先を限定している事と、最近まで鎖国政策が行われていたが大きいだろう。

その為、アルンカス王国の一部以外の民間同士の繋がりもほとんどない。

つまり、情報が漏れる量が少なすぎるため、フソウ連合の情報は直接的なものではなく間接的なものとなってしまい、正確さに欠ける傾向にあった。

その上、軍務の最高司令官などの個人情報は、決して公にされない部類の情報であり、なおさら手にしにくい。

それが分かっているため、グラーフは苦笑して言う。

「ああ、分かる範囲内でいい」

「わかりました……」

難しそうな顔をして下がろうとする秘書官に、グラーフは声をかける。

「まぁ、すごく難しいとは思う……。だが頼むぞ」

「はっ」

秘書官は表情を引き締めて返事をすると隣の部屋に戻っていった。

その後姿を見送った後、グラーフは大きく息を吐き出した。

「後は……接触を持つ前に、儀式が起こらない事を祈るばかりだな……」

そして窓の外の景色に目を向けるのだった。



出された報告書のすべてに目を通した後、鍋島長官は提出者である三島晴海に目を向けた。

普段はどちらかというとほんわりとした感じの印象の強い人だが、今の表情は硬い。

恐らくイライラしているのだろう。

「これが本当なら、大変な事じゃないか……」

鍋島長官のその言葉に、三島晴海は表情を崩さずに答える。

「恐らく……間違いないんじゃないかな。急激にこの国に流れ込む力が落ちたからね」

「やはりそうなのか……」

鍋島長官は、デスクの方に視線を向けた。

視線の先、デスクの上には一冊と言っていいほどの厚さのある報告書が置いてあり、報告書のタイトルは『パガーラン海海戦 報告書』となっていた。

パガーラン海海戦での戦闘や被害だけでなく、鹵獲した兵器の検分や捕虜の情報など事細かに記載されている。

今朝届き、さっき読み終わったばかりだったのである。

ちらりと三島晴海の視線がデスクに向く。

「例の報告書?」

そう聞かれ、鍋島長官は頷く。

その様子に、三島晴海の表情が強張る。

魔術師としては、無責任な今回の召喚に対してかなり憤慨しているのだろう。

「そう……。そうするとやっぱり……私の予想どおり……」

「ああ、どうやら、この二つは関係あるというべきだろうな。君の言う通り、大規模な召喚儀式が行なわれたということがね」

鍋島長官はため息を吐き出してそう言うと報告書をテーブルに置く。

その表情は硬い。

だが、少し考えた後、視線が三島晴海の方を向いた。

そして、少し伺うように聞き返す。

「さすがに……行った連中……分かるはずないですよねぇ……」

その鍋島長官の言葉に、三島晴海の硬い表情が崩れた。

予想外の言葉だったからだ。

思わず漏れる苦笑を隠し切れずに答える。

「いくらなんでも、そこまで便利じゃないわよ、魔術って……」

「そうですよねぇ……」

ため息混じりに鍋島長官が諦め気味に言うと、我慢できなくなったのだろう……三島晴海はクスクスと笑った。

だが、その変化もすぐに収まる。

真剣な表情だ。

そして三島晴海は口を開く。

「ただはっきりとわかるのは一つ」

そう言い切って一呼吸を置いた後、言葉を続ける。

「今後も似たような事があったら同じようになる可能性が高いってことかしら……」

その言葉に、深々とため息を吐き出した後、困ったような表情で鍋島長官が呟く。

「困るんだよなぁ……。こんな事があると……」

そして、ふう……と息を吐き出してぼそりと言う。

「仕事が増えるじゃないか……」

その言葉に思わず噴出して、三島晴海が突っ込む。

「問題そこ?」

「一番身近で切実な問題はそこですね。不謹慎だろうけど……」

「ほんと、面白い人よね、あなたは……」

三島晴海を見て笑みを浮かべるとお手上げって感じのジェスチャーをして鍋島長官は軽く口をたたく。

「よく言われますよ。空気読めないって……」

その口調に三島晴海はますます笑いがこみ上げてくるのを感じていた。

そして、彼の口調と態度から一つわかる。

これらの流れは深刻な雰囲気にならないように彼がわざと言ったという事だ。

裏を返せばそういったことにまで気を回すようになったということでもある。

最初にあった頼りないといった感じはもうない。

それどころか、そう見せつつ上手く立ち回っている印象さえ受けた。

三島晴海は笑いつつも、中々やるじゃないかと自分の中の彼の評価を上げる。

そして、ひとしきり笑った後、「今のところだけど……」と言った後、三島晴海は言葉を続ける。

「フソウ連合は、大きな被害を受ける可能性は低いって感じかしら……。もっとも周りの自然現象には影響を受けるだろうけど、この地が今回のような事が原因での災害の中心になることはないでしょう」

「それって……」

「まぁ、今までのご先祖様のおかげってことかしらね。伊達に百年以上も篭ってこの国で色々やってきてないと言ったところかしら」

「それはありがたいですね」

「なんか奥歯にものの挟まったような言い方じゃない?」

怪訝そうな表情でそう聞かれて、今度は鍋島長官が苦笑した。

「深い意味はありませんよ。ただ、今のフソウ連合は以前の篭って鎖国していた頃とは違いますから、その辺を踏まえて臨機応変にやっていかなきゃと思っただけです」

「それって要は行き当たりばったりと言う事?」

そう聞かれて、鍋島長官は苦笑を浮かべる。

「まさか。出来る限りの準備をやって、その場で得られた情報から判断するんです。行き当たりばったりとは違いますから……」

慌ててそう言う鍋島長官に、三島晴海にニヤリと笑う。

それは本当かな?といった感じのジェスチャーといったところだろうか。

「勘弁してくださいよ」

「嘘よ。ちゃんと信頼しているから。本当よ。それで私達は何をすればいい?」

そう聞かれ、鍋島長官はふてくされた表情から真顔に戻り少し思考を巡らせた後に答える。

「そうですね。魔術に関しては素人なので魔術関係をお任せします。ただし、報告はお願いします」

「もちろんよ。何かあればすぐに報告するから」

「ええ。お願いします」

その返事を聞くと三島晴海は立ち上がった。

「それじゃ、私は仕事に戻るわ。午後から出張だし」

「今度はどこに行くんです?」

「今日はガサ地区のトウツよ。あそこにある結界監視所の視察とチェックってとこかしら」

「相変わらず忙しそうですね」

鍋島長官も立ち上がると三島晴海の前に出て歩き出す。

そして、前に出るとドアを開けた。

「あら。ありがとう。どういう風の吹き回しかしら」

「まぁ、いつも大変な事を押し付けていますからね。少しぐらいは……ね」

その言葉に、一瞬きょとんとした表情を見せたものの、三島晴海はクスリと笑った。

「へぇ……。でもね……」

そう言いつつ、ちらりとドアの向こう側に視線を向ける。

そこには、少しイラッとした表情の東郷大尉の顔があった。

「いきなりそんな慣れない事をしない方が良いわよ。特に焼きもち焼きの彼女のいる前ではね」

笑いつつそう言うと、三島晴海は満身の笑みを浮かべてひらりとエレベーターの方に歩き出す。

もう少し残ってからかいたいという欲求を押さえ込んで……。

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