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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二章 海軍強化とシマト諸島奪回戦

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第二水雷戦隊 最上と的場良治大尉 その4

「そろそろだな…」

的場大尉が時計を見て呟く。

時間は十六時三十分を少し過ぎたところだ。

すでに艦隊は動き始めており、第二戦隊を中心とした艦隊はすでに合図があれば輸送艦を攻撃できる位置に近い島影に待機している。

ここに来るまでに見張り台のある孤島近くを通ったが反応はなかった。

恐らくだが、そこまでは相手も見つけていないのだろう。

実際、海上からはほとんど見張り台があるとはわからないほど偽装されていた。

偶々見つけられたのは、空からだった為だろう。

「大尉、待機位置に到着しました」

最上がそう報告すると艦は動きを止めた。

「敵に動きは?」

「零式水偵からの報告では、今のところ、敵の艦船の動きはないそうです。さらに各小拠点や見張り台からも反応なしときています」

「そうか…」

今頃は、一等輸送艦から下ろされた大発に乗った先行隊が秘密裏に上陸を始めているころだろうか…。

そんな事を思いつつ、時計を見る。

まだ数分しか経っていない。

上陸予定が十七時から十八時前後なら、その前に合図があるはずだ。

それまでが実に長く感じられるのだろう。

的場大尉は、こきこきと首を回し、何度も時計を見る。

「大尉、落ち着きましょうよ」

見かねて苦笑しつつ最上がそう声をかける。

「き、緊張などしていないぞ、俺は…」

「緊張しているようにしか見えませんよ。もう少し落ち着いてください。部下が動揺しますよ」

そう言われて、深呼吸を何度かしたあと呟く。

「あの南雲だってやれたんだ。俺だってやれる…」

その呟きはとても小さなものだったが、最上の耳には入ってしまった。

それで大尉が緊張している理由がわかる。

要は、同期の南雲大尉には負けたくないと言う事なのだろう。

基地内で南雲大尉は何度も見かけたが、確かに並んでいたら間違いなく的場大尉は南雲大尉の引き立て役にしかならないに違いない。

だからそれが彼のコンプレックスになってしまっているのだろう。

確かに南雲大尉は、見た目だけでなく文武両方に秀でていると聞いたことがある。

一緒に戦った連中の話では、なかなかの落ち着いた指揮振りで評価はかなり高いようだった。

しかしだ…。

的場大尉を低い評価しか出来ない人に言ってやりたい。

この人は実にいい人だと。

確かに、容姿や話術では、間違いなく南雲大尉には勝てないだろう。

しかし、この人には秘めた力がある。

些細なことから違和感を感じ、それを理論的に考えて結論を出す思考力。

そして、その場での判断力や決断力の高さ。

これは、まさに才能と呼べるものだ。

そして、なにより、この人の人間臭さが実に気持ちいい。

多分、それを些細な会話から感じたから杵島大尉は交友を持ちたいと思ったに違いない。

そんなことを思っていたら、ふと気になることが最上の頭の片隅に浮かんだ。

「杵島大尉……杵島…杵島…杵島…」

何気ない記憶がいくつも重なり、一つの形になる。

「どうした?最上…」

ぶつぶつと名前をつぶやく様子に違和感を感じたのだろう。

心配そうな表情で的場大尉が覗き込むように最上を見る。

すると「思い出しましたっ、大尉っ」と叫び、的場大尉の肩を持ってゆさゆさと最上が揺さぶる。

その動きにされるがままがくんがくんと頭を揺らす的場大尉。

「お、落ち着けっ。何がわかったんだっ…」

頭をガクガク揺らしながら何とかそう叫ぶと、我に返ったのか、最上は慌てて肩から手を離す。

「す、すみません…。興奮してしまって…」

「ふーっ、まぁ。いいけど…いきなりは止めてくれ。気持ち悪くなりそうだ」

少し青い顔色の的場大尉が言う。

本当に気持ち悪くなったのだろう。

船酔いはしないのに、何であれぐらいの揺らしで気持ち悪くなるんだろうか…。

そんな事を思ったものの、最上は再度謝る。

「本当に申し訳ありません」

「だから。謝罪はもういいよ。それで…何を思い出したんだ?」

落ちた軍帽を拾ってかぶりなおしながら、的場大尉が聞くと、思い出したのか、はっとした表情になって最上が口を開いた。

「杵島と聞いて引っかかってたんですよ。それで何で引っかかっていたのか思い出しました」

その言葉に、呆れ返った様な表情をする的場大尉。

「なんだそれは…。作戦とかの事かと思ったぞ」

「いや、それも大事ですけど…」

少しシュンとなりながらも最上は言葉を続ける。

「もしかして、杵島大尉って…広報部の杵島マリ大尉のお兄さんじゃないかなと…」

「ふーーん…」

そう言いかけていた的場大尉だったが、やっと言っている意味がわかったのだろう。

「ちょっと待てっ。あのっ、あの杵島さんのかっ」

慌てたように最上の方を向いて迫るように聞き返す。

その表情は鬼気迫るものがあった。

少し驚き、後ろに身体を引いて最上が頷いて言う。

「多分…間違いないかと…。結構話題になってましたから…。美女と野獣兄弟って…」

「なにっ…それ知らないぞ」

「あ、結構有名だと思ったんですけどねぇ…。私が知ってるくらいだし…」

そう答えつつ、最上は的場大尉なら知らなくて仕方ないかなとも思う。

率先して、こういった話するように見えないからなぁ。

「そうかっ…そうなのかっ…」

的場大尉は腕を組み考え込む。

その様子は実にコミカルで笑ってしまいそうになるのを最上は何とか抑えた。

よく見ると、艦橋にいるブリッジクルーも何とか笑いをこらえているようだ。

そこにさっきまであったがちがちになるほどの緊張はない。

しかし、この人の反応…もしかして、大尉は…。

最上の中にふとある考えが浮かぶ。

その考えは、今の態度からほぼ間違いないと判断出来た。

そして、それを聞こうか聞かないでおこうか迷っているうちにブリッジクルーの一人が叫ぶ。

「信号弾、上がりましたっ。色は赤です」

その言葉に、一気に艦橋内がぴーんと糸を張ったような緊迫した空気に満たされる。

「赤だ。間違いない」

的場大尉の口から呟きが漏れる。

多分、無意識に口から出たのだろう。

赤の信号弾。

その意味は、作戦成功である。

的場大尉はぐるりと艦橋を見回す。

その目にはピーンとした緊張とやる気が燃え上がっていた。

「各自、出番だ。通信士、『作戦通り、各艦は行動に移れ』と伝えろ」

「了解しました」

「わが艦隊も行動に出るぞ。艦隊移動っ。所定の位置についたら、湾内の敵艦艇の無力化を行う。各艦続けっ!!」

的場大尉の号令に、今まで止まっていたものが一気に動き出す。

「所定の位置につきました。各艦、攻撃可能です」

「よしっ。撃ち方はじめっ」

轟音が響き、攻撃が始まった。

最上に続き、駆逐艦吹雪、早波からも砲撃が開始される。

標的は小さいものの、停泊して動かない事を考えれば、猛訓練してきた猛者たちにとっては楽勝といっていい相手だ。

その為、港に停泊していた船のうち、二隻は第二水雷戦隊の最初の一撃で轟沈。

残りの三隻も一射目で破損し、二射目で大破炎上となる。

唯一無傷だった一隻が逃走しようと動き始めたが時すでに遅く、港を取り囲むように向ってくる第二水雷戦隊の前に無駄を悟り白旗をあげた。

そして第二水雷戦隊の船の間を抜けるように港に入ってきた第二輸送艦が一気に港に付けて部隊展開を始める。

特二式内火艇六両と完全武装した陸戦隊二百名が、まるで水が広がるように展開する様はなかなか見てて気持ちがいいものだ。

ましてや、それが味方となればなおさらだろう。

満足そうな笑みを浮かべて艦橋でそれを見る的場大尉。

そして、その光景を見ながら言う。

「やっぱり、俺は第二水雷戦隊の指揮を任されてよかったと思うぞ。こんな光景なかなかお目にかかれないだろうしな」

そして、最上の方を見て笑う。

「それにだ。艦橋の位置が低い龍田では、こうもいい感じに今の光景を見れることはないだろうからな」

その言葉に最上は思う。

この人は、本当に人を褒めるのが下手だと…。

だが、それでもいいかなと思う。

今の的場大尉の笑顔は、とてもいい笑顔である事に間違いはないのだから。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 嗚呼、なんてこったい! 居たよ、居ましたよ戦車が 初期レビューにチラッと出てきてそれっきりだったのにねぇ [気になる点] カミ車こと特二式内火艇だよね
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