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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十章 空母 対 空母

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拾われるモノ達……

「くそっ……、もう駄目だ、エンジンがもうもたない……」

その言葉を証明するかのように、エンジンがガスッガスッと不気味な音を立てている。

すでに機体のあらゆるところに穴が開いており、乗り込んでいる二人がかすり傷程度で済んでいるのは奇跡としか思えなかった。

「金丸さんっ、右下を見てください」

後部座席に座る田組飛行兵曹長にそう言われ、金丸少尉が視線を向けると一隻の船が見えた。

「あれがどうしたっ。どう見ても味方のじゃないぞ」

「ですが、あれは王国国籍の船のようです。ならば……」

いいたい事はわかる。

確かに王国とフソウ連合は同盟を結んでいる。

しかしだ。

飛行機は軍事機密であり、同盟国であっても公開されていないものだ。

それをいいのか?

その思いが一瞬頭を過ぎる。

だが、もう迷っている暇はなかった。

金丸少尉は生きていればなんとかなる。

そう信じて機体を船に近づける。

ガスッガスッ……ガスッ……。

ついに力尽きたのだろう。

エンジンが止まり、あとは滑空での着水になる。

侵入角度が不味いと頭から海面に突っ込むこととなるだろう。

さらに九九艦爆は固定脚だ。

うまくやらないと変な方向に機体が勢い良く回転してしまう恐れすらあった。

「たのんますよ、金丸さんっ……」

田組飛行兵曹長の悲痛なまでの声が聞こえる。

多分、本人は自覚が無いだろうが、こぼれたといった感じだ。

よっしゃ、腕のいいところを見せてやろうじゃねぇか。

気合をいれ、機体を小刻みに調整する。

そして固定脚が海面に接触した。

がくっ。

引っ張られる感覚。

それが操縦桿と機体から感じられる。

「こなくそっ」

バランスを調整しつつ、なんとかひっくり返ったり回転したりすることなく、九九艦爆は着水に成功した。

「よっしゃーっ」

金丸少尉の口から声が漏れる。

そしてそれに答えるかのように田組飛行兵曹長も声を上げていた。

「さすがっ、金丸さんっ。信じてましたーっ」

調子の言いやつめ。

そんな事を思いつつも、金丸少尉はベルトを外すとほんの一週間前に新しく取り付けられた緊急生存ボックスを座席の下から取り出す。

緊急生存ボックス……フソウ連合で新しく作られたサバイバルキットのようなもので、三日間の食料や水だけでなく、いろいろなサバイバルに必要な機材をまとめて入れてある。

「よしっ。脱出する。機体はこのまま海に沈めちまえ」

「いいんですか?」

「こいつは機密の塊みたいなものだ。出来る限り処分するように言われただろうがっ」

そう言われ、思い出したのだろう。

「了解しました」

田組飛行兵曹長も自分の座席の下にある緊急生存ボックスを取り出すと風防を開けた。

すでに穴だらけの機体は沈み始めている。

二人がボックスの取っ手のヒモを手首巻いて海面に投げるとボックスは海面に浮き上がった。

そして、そのまま海に飛び込むと紐を手繰り寄せてボックスの上に身体を乗せる。

大きさの関係上、上に乗ったり座る事はできないが、身体を預けてもボックスは沈まないように出来ており、いざとなったら救命浮環程度にはなるように作られている。

ぶくぶくと沈みゆく愛機に二人は敬礼をする。

その表情は複雑なものであったが、それでも感謝の気持ちに満ち満ちていた。

そしてそんな二人に王国国籍の船が近づいてくる。

「どうやら助けてくれるらしいみたいですね」

ほっとしたような田組飛行兵曹長の言葉に、金丸少尉は苦笑した。

「そうだといいんだけどな……」

「絶対に助けてくれますって。同盟結んでいるんだし……」

その言葉に金丸少尉は黙り込む。

確かに同盟は結んでいる。

しかし、見たところ民間の船のようだ。

果たして思っていたような対応をとるだろうか……。

下手したら……。

嫌な予感がしたものの、さすがにそれを口には出さない。

そんなやり取りの間にも船からボートが降ろされ、船員達がこっちに向かってボートを漕いでいる。

その様子を見ながら、金丸少尉は思わず呟く様に言葉を漏らしていた。

「本当に……そうならいいんだけどな……」



「よし……。見張りを立たせろ。後は休んでよし……」

心底疲れきった表情で、ホーネット艦長ブラット・ラクロージャーナ大佐はそう命令を下すと、事前に無人島に作っていた補給物資の集積所の小屋の一つに入り込んだ。

小屋と言っても屋根があるだけの掘っ立て小屋みたいなお粗末な建物で、物資が濡れないようにしているだけの簡素なものだ。

ラクロージャーナ大佐はそこの荷物の木箱にうっかかるようにして座り込む。

身体が疲労で疲れきっており、意識が一気に暗闇に引っ張られていくような感覚に襲われる。

それは仕方ないのかもしれない。

無人島までの強行で誰もが疲れきっているのだ。

途中、力尽きたり、行方不明になったりした者が後を絶たず、総員退艦時よりもここにたどり着いたものの数は二割ほど減っていた。

先にこの島に向っていた戦闘に関係ない部門や整備、パイロット関係者達もかなり苦労したのだろう。

やはり一割近くの人数が減っていた。

明日からどうするか……。

ふとそんなことを考えたものの、その思考はすぐに睡魔に駆逐された。

明日考えればいいかと……。

そして、それは、ラクロージャーナ大佐だけでなく、兵士たちもであった。

なんとか生き延びたという安堵感で一気に兵士達の肉体は疲労を訴える。

それでも兵士としてなんとか押さえ込んでいたが、やっと欲していた命令を受けた兵士達は、崩れ落ちるようにそれぞれ思い思いの場所に身体を横たえた。

小屋の荷物の木箱の上や小屋の床などに崩れるように横たわる者だけではなく、小屋に入りきらずにその辺の地面で泥のように眠る者さえもいた。

また、先に到着して休んでいたとは言え、見張りとなった者も疲れていることに変わりはない。

数少ない武器を手に警戒に当たるものの、その動きは鈍く、注意力散漫で立ちながらこっくりこっくりと舟を漕ぐ者もいる有り様であった。

そんな中、キャンプ地に深夜に接近する者達の姿があった。

一人、一人と見張りに気付かれないように近付くと始末していく。

手馴れた様子で見張りを始末する様子から、その手の輩という事がよくわかる。

誰もが短くうめくのがやっとと言う有り様であったが、それでも一人が偶々機関銃の引き金に指がかかっていたのだろう。

絶命する瞬間に機関銃の引き金を引いていた。

静まり返った静寂を突き破るかのような銃撃の音。

そして、あらぬ方向に火を吹く機関銃の弾がすぐ側の小屋の木箱に当たる。

木箱に弾があたって木が吹き飛んでいく。

その音によって深い眠りに入っていたものの、一部の者達が目を覚ます。

「な、なんだっ。何が起こっている?」

「敵襲かっ?!」

「見張りはどうなっている?」

その声に反応し、残りの者達も起き始める。

だが、その動きはまだゆったりとしたものだ。

「ちっ。しくじりやがったな……」

血にぬれた大型のナイフを手にした黒っぽい服装に身を包んだ男が険しい顔で呟く。

だが、その表情はすぐにニタリとした歪んだ笑みとなった。

「まぁ。いい。これで大手を振って楽しめれるというところか……」

そう呟くと手にした血塗られたナイフに舌を這わせた。

唇が、舌が、血で赤く濡れる。

それはまるでピエロの化粧のようだ。

そして男は左手を上げると指を複雑に動かす。

それは合図だ。

作戦変更の……。

それによって気配を断ち、見張りを静かに殺してきた暗殺者達がまるでいきなりそこに現れたかのように生き生きと動き出す。

「いいかっ。偉そうなやつを何人か抑えたら、後は皆殺しだ。やっちまぇ」

その言葉に暗殺者達は頷く。

そして、暗殺者たちの本格的な襲撃が始まった。

銃撃音と人の悲鳴が途切れる事もなく当たりに響く。

ほとんどの兵士達が状況もわからずに次々と狩られていく。

それはあまりにも一方的だ。

だが、もちろん兵士達もただやられるだけではない。

武器を持ち反撃をしている。

しかし、武器の数が少ないのと、同士撃ちを恐れるあまり、相手の動きに翻弄されて思ったように戦えていない。

そして、一人一人と命の炎が消え去っていく。

それはまさに狩りだ。

強者が弱者を一方的に刈る姿がそこにあった。

そんな中、ラクロージャーナ大佐も腰に下げていた拳銃を手に木箱に身を潜めて辺りを伺っていた。

さっきまであった睡魔は、身の危険という事態に一気に消え去っている。

額からは脂汗が流れ、身体が恐怖に震えていた。

「だ、誰だっ……。連中はっ……」

口から言葉が漏れる。

別に誰かに聞かせようと思ったわけではない。

ただ、考えが漏れただけなのだ。

なのに、彼のすぐ側でその言葉に返事があった。

「一緒に来ていただいたらわかりますよ」

その言葉に反応し、声の先に拳銃を向けようとした時だった。

頭に強い衝撃を受け、意識が切れる。

そして、切れる瞬間にラクロージャーナ大佐が見たものは、ニタニタと笑う黒っぽい服装に身を包んだ傷跡のある男の顔であった。



「そっちはどうだ?」

海岸にひっくり返っているSBD ドーントレスは、片方の主翼はもげ、プロペラは吹き飛んでおり尾翼も傷だらけであった。

機体のあちらこちらに大きめの穴が開いており、恐らく零戦の二十ミリによって出来たものだろう。

「ああ、ポロポロだけどよ、まぁ、回収出来そうだわ」

「そういや、乗ってるヤツはどうだ?」

その問いかけに、コックピットの近くにいた男がケタケタと笑って答える。

「へへへ。一人は肉片と化してしまっているぜ。もう一人も首が変な方向に向いてるからな。多分だけど死んでんだろ……」

「首が変な方向に向いてて生きているヤツはいねぇよ」

「確かにそうだな……」

そう言ってケタケタと笑う。

そしてキャノピーを開けようとしたのだが、ひっくり返っている為それは出来ない。

そのうちめんどくさくなったのだろう。

腰に下げていた拳銃を抜くと、キャノピーに向けて撃つ。

ガラスにひびが入り、後はガラスを持っていた棒で完全に叩き割る。

「何やってんだよ?」

「いや、いらないモノを捨てておこうかと思ってよ」

「ああ、いいんじゃねぇ?自然に帰してやるのも自然の摂理ってヤツだ」

その言葉に、苦笑しつつガラスを割った後、死体を引きずり出した男は近くの地面に死体を放り投げた。

「じゃあな。お前さんの役目は終わったんだよ」

笑いつつそう言って次の死体をコックピットから引きずり出すと同じように地面に放り投げていく。

それはまるでゴミでも扱うかのようだ。

その様子から、彼らにとって死体はただのゴミでしかないということだろう。

「よしっ。いいかっ、もう少ししたら船が到着する。その間に燃料漏れとかないようにしておけ。積み込み中に漏れて引火したら大事だからな」

「わかっているって。せっかくのお宝なんだからよ。大事に扱うぜ」

そう答えつつ男の一人がロープでぐらぐらする部分を固定していく。

「そうよ。お宝さ。マッターナの連中も見つけたらしいし、ケントローの野郎なんか二つも見つけたって話だからな。俺らもこいつを積み終わったら別の落ちてそうな場所を回るぞ」

「ほう、そりゃ楽しみだな」

「ああ。本当に楽しみだ。だから、またやってくれねぇかな」

その言葉に相方はケラケラと笑う。

「まったくだ。戦争のおかげでこっちは銭が転がり込んでくるんだからな」


こうして、運、不運はあるものの、戦いによって残されたモノ達は選別され拾われていく。

そして、拾う者に選ばれなかったモノ達は朽ち果てていく。

それが自然の摂理のように……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 航空機の現物を拾った所でボーキサイト鉱山とかあるのかね? [一言] 指揮官だけ捕まえてどうすんだろ?役に立つのは「戦闘機が出来た後」だぞ?
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