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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十章 空母 対 空母

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パガーラン海海戦  その6

ホーネットは、艦載機の発艦と同時に戦闘に関係ない部門や整備、パイロット関係者をカッターやボートで離脱させる。

少しでも残った仲間の為、彼らが生き残る為に……。

それは犠牲の心だ。

そして、それは尊いものだと教えられる。

だからこそ、奇跡が起こって欲しかった。

しかし、現実はそう甘くはなかった。

すでに第一次攻撃隊の戦闘機隊と一戦交えてボロボロの艦隊直掩ではたいした時間稼ぎにはならず、二隻の上空には第二次攻撃隊の道先案内の彩雲が姿を現す。

そしてその後に続くのは、フソウ連合海軍第一艦隊の第二次攻撃隊だ。

その数、五十一機。

その構成は、零戦十機、九九艦爆二十一機、九七艦攻二十機である。

そのうち、零戦四機は第16・17任務混成隊の艦隊直掩のF4F 5機の足止めを行なっている。

その為、二隻の上空には彩雲を含め四十八機となっていた。

先行したのは戦闘機隊の零戦だ。

発艦したばかりの機体が次々と餌食になっていく。

そんな中でも戦闘機となんとか渡り合えるスペックがあるSBD ドーントレス数機が少しでも時間を稼ごうと反撃を試みる。

しかし、いくら渡り合えるといっても性能で劣っているのは事実であり、ましてや発艦する味方を庇いつつ攻撃するといった事が出来るほどの数もない。

あっけないほど簡単に撃墜されてしまう。

その様子に歯軋りしながら艦橋の壁を蹴り上げるホーネット艦長ブラット・ラクロージャーナ大佐。

忌々しく叫ぶように副長に聞く。

「発艦可能の機体はあと何機だ?」

「あと二機です」

「仕方ない。発艦中止っ。敵の攻撃隊が来るぞ。パイロットは海水浴を楽しむように言えっ。それと発艦して無事な機体はすぐにここから離れるように伝えろ」

「了解しました。離脱中のボートやカッターに拾うように連絡します」

「よし。それでいい」

満足そうに頷くと、まだはっきりしないもののブラット大佐は攻撃編成を終えて近づいてくる敵攻撃隊を睨みつける。

「いいかっ。アメリカ軍人の意地を見せるぞ」

「もちろんです。艦長」

副長がニタリと笑う。

そして言葉を続けた。

「対空戦闘用意ーーっ!!いいかっ。まだ離脱の終わっていない味方機に当てるなよ」

艦橋のスタッフから合意の歓声が上がる。

士気は決して低くない。

それどころかかなり高い。

ブラット大佐はそんな部下達を誇らしく思う。

それと同時に申し訳ないとも感じていた。

本当なら、巻き込みたくなかった。

そんな思いがあったためだ。

「すまんな……」

しかし、ブラット大佐はそう呟く事しかできないでいた。



第二次攻撃隊、九九艦爆二十一機、九七艦攻二十機の攻撃が始まった。

不規則な動きで魚雷や爆弾をかわすホーネットとアンダーソン。

しかし、被害を受け速力が落ちている為にその幸運はそれほど続かなかった。

まず捕まったのはアンダーソンである。

ホーネットに向う九七艦攻を牽制する為に動いていたのが仇となった。

ホーネットを狙った魚雷の一本がアンダーソンの艦首に命中してしまったのだ。

大きな爆発が艦首で起こり、前から三分の一程度の部分で艦体は引き千切られる。

そして、あっけないほど簡単に艦首の部分はひっくり返って沈んでいく。

しかし、それでもアンダーソンは怯まなかった。

すでに主砲を全て失い、速力も数ノットという有り様であったが残った機銃から吐き出される対空砲火が途切れる事はない。

だが、そんな奮戦もすぐに250キロ爆弾の直撃を受け沈黙。

ついに力尽き、転覆したのである。

そしてホーネットは、そんなアンダーソンに負けず劣らずの奮戦をしていた。

すでに魚雷二本、250キロ爆弾四発を喰らい、艦体は右に傾き、甲板はすでにボコボコになって白煙を上げていたものの、それでも沈まず回避と対空砲火を実施し続けている。

「くそっ。何で沈まん……」

第二次攻撃隊の指揮を任せられた橋本中尉は未だに奮戦するホーネットに驚きを隠せない。

外から見てももう誘爆を起してもおかしくない現状だからだ。

なのに沈まない……。

そしてそれには理由があった。

囮となる。

そう決断したブラット大佐は、誘爆を押さえて少しでも長く囮としての役割を果たすために、必要な分以外の航空機用の爆弾や魚雷、それに航空燃料や破損したり修理中であった発艦出来ない機体も同時に海中投棄を命じたのだ。

だから誘爆が起こる事もなく未だに戦っていられる。

しかし、それでももう限界であった。

対空砲座はほとんどか沈黙。わずかに残った数基が対空砲火を続けているものの、もはや敵機を墜とすどころか牽制さえもできていない。

また9基あるボイラーの内、すでに7つが停止し、速力は5ノットあるかないかという有り様であった。

まさに満身創痍と言っていいだろう。

しかし、ホーネットは第二次攻撃隊の攻撃に耐えた。

全ての攻撃を終え、第二次攻撃隊はゆっくりと母艦へと戻っていく。

それを確認し、ブラット大佐は決断する。

「総員退艦!皆よくやった。私は、諸君らを誇りに思う」

ブラット大佐は艦内放送で退艦を命じる。

生き残った兵達が、残ったボートやカッターで退艦していく。

すでに陽は大きく傾きかけており、これ以上の航空攻撃はないと判断した為だ。

最低限の物資のみを載せたボートやカッターに乗り込み、乗組員達はホーネットは離れていく。

ある者は名残惜しそうに……。

ある者は泣きながら……。

そしてある者は表情を引き締め敬礼しながら……。

しかし、彼らにとってそれが終わりではない。

戦いに生き残った彼らは、生き続けるという目的がある。

「よし。目的地に向かうぞ」

ボートに乗っている誰かが呟く様に言う。

ブラット大佐は囮となって動くと決めた時に事前に避難先を乗組員全員に伝えていた。

目的地は、艦隊を停泊させたあの無人島だ。

飛行機による周りの海域の確認と同時にあの島も一部だけではあるが調査が行なわれ、ある程度の物資と機材が下ろされ海岸に簡単な拠点を作っておいたのである。

また、囮となって進路を変えた時に一応、島の方に向って移動しておいた。

だから少しは距離が稼げたはずだ。

しかし、それでもかなりの距離があるだろう。

だが、艦を失った彼らが生き残る為には、そこにたどり着かねばならない。

退艦した乗組員達の生き残りをかけた戦いはまだ続くのである。



なんとか発艦し、第二次攻撃隊の戦闘機隊から逃げ切ったホーネット所属の機体は、TBD デバステーター 4機、SBD ドーントレス 2機の6機のみであり、また、艦隊直掩にいたってはF4F ワイルドキャットがわずか二機と言う有り様であった。

その上、戻るべき母艦を失ったものの、無線誘導によってスコールから出たエンタープライズと合流する事に成功。

無事着艦した。

そして今度は攻撃隊第一波の生き残りが帰艦してくる。

そうなってくるとエンタープライズの艦載機搭載量を超える可能性が出てきた。

そこで被害の大きな機体を次々と海中へ投棄する。

共に生き延びてきた愛機が投棄される様を搭乗員達はただ黙って見ているしかない。

一応、予備機なんかもあるから愛機を投棄されて失った者すべてが空母に残る事はないだろう。

しかし、それでもだ。

まるで身を削られるような気分を味わう事となった。

「第一波の機体回収終わりました」

副官であるオリバー中尉の報告に、スプルーアンス少将は下を見ながら聞く。

甲板では、帰艦した機体の回収が終わったのだろう。

今は何かあったときのための艦隊直掩機のF4F ワイルドキャット4機が並んでいる。

「それで稼動可能なのは何機だ?」

「はい。すぐに稼動可能なのはF4F が10機、TBD 13機、SBD 16機ですね。後は破損や整備が必要です」

「そうか……」

今の戦力は合計で39機。

最初の144機の実に四分の一以下である。

普通の戦闘なら撤退だろう。

しかし、どこに撤退するところがある?

逃げ道はない。

だが、それでいいのか?

すでに多くの仲間の血が流れている。

なら……。

しかし、それでもやるしかないのだろうか……。

ふーっ……。

スプルーアンス少将はため息を吐き出すと身体に活を入れた。

「発艦準備を急がせろ」

「しかし、もうかなり陽が傾いてます。攻撃が成功したとしても戻ってきた機体が着艦出来るかどうか……」

「だから、敵も油断しているはずだ。今なら敵艦隊の大体の位置もわかる。逆転できるチャンスだ」

「しかし、成功したとしても、我々は戦力のほとんどを失います」

「だが、明日になればますます我々は不利になる。やるしかないんだよ……」

その言葉から、明日の戦いは間違いなくこっちが一方的に攻撃されてしまう様子がオリバー中尉の頭に浮かぶ。

「まずは生き残るため……ですか……」

「ああ、そのためだ……」

「わかりました。すぐに準備させます」

「頼む……」


こうして第16・17任務混成隊は最後の賭けに出る。

それはアメリカ軍人の誇りとか、仲間の為とかいうものではない。

もちろん、それが全く無いとは言わないが、それ以上にただ生き残るため……、そのために選んだ選択であった。

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