第二水雷戦隊 最上と的場良治大尉 その3
輸送艦から来た陸戦隊の指揮官は、三十代の髭を伸ばしたごつい男性だ。
戦闘服に鉄帽、そして武装を身につけたその外見から陸戦に関しての猛者だと一目でわかる。
「第三特別強襲大隊の指揮を任されております杵島大尉であります」
鉄帽を外し敬礼する杵島大尉。
動き一つとっても揺らぎがなく、自信に満ち溢れている。
「第二水雷戦隊の指揮を任されている的場大尉です。今回はありがとうございます。助かりました」
的場大尉がそう言って敬礼を返す。
「いえ、陸戦はわれらが領域。お任せください」
自信満々にそう言うと杵島大尉は海図の方に目を向けた。
「それで作戦ですが、全体指揮は的場大尉にと言われております。どういう作戦でしょうか?」
そう聞かれ、的場大尉は少し苦笑の入った表情をする。
「一応、大きな拠点が二箇所、小さな拠点は六箇所、あとは、わかるだけで十箇所の見張り台を発見しております。それもそれぞれ別の島にあります」
「それは、また…かなり広い範囲ですね」
「それに、どこまで敵がこれらを把握しているのかがわかっていないというのも頭の痛いところでして…。どうすべきか悩んでいたところなんですよ。出来れば無駄な事はしたくないし、ましてや戦力の拡散は絶対にしたくない」
的場大尉の言葉に杵島大尉は笑いつつ言う。
「戦力の拡散はただ被害を大きくするだけですからな。しかし、よかった…」
その言葉に、的場大尉は首を傾げる。
「いやなに、失礼だとは思いますが、噂で聞いていた感じとは違ってきちんと話の出来る人だとわかったので…」
「ああ、その噂ですか…」
的場大尉は自嘲気味に笑うとなんともいえない表情をする。
どうやら、周りからどんな風に思われているのか本人は自覚しているらしい。
「大尉はいたって理性的で、知的な人物ですよ」
横で聞いていた最上がそう言ってフォローする。
「みたいですね。人の噂も当てにはならないと言うことですな」
杵島大尉が笑いつつ言う。
「なんか慰められているのか、貶されているのか、よくわからないんだが…」
怪訝そうな表情をして言う的場大尉に、最上が「もちろん、フォローしているだけですから。悪意はありません」と言ってポンポンと肩を叩く。
その様子をみて杵島大尉も笑いつつ言う。
「私も個人的にあなたと親睦を持ちたいと思ってしまいましたよ。よかったら、作戦の後にでも一杯いかがですか?」
「わかりました。その時は、声をかけてください。最上ももちろん付き合うよな?」
その的場大尉の言葉に、最上は気持ちいいほど即答する。
「当たり前じゃないですか」
「では、戦いの後の約束ができたという事で、さっさと終わらせてしまいましょうか」
杵島大尉はそう言うと、再び海図に目を落とす。
そして口を開いた。
「ふむ。この際、確実にいる拠点ともう一つの大きな拠点を中心に攻撃を仕掛けてみてはどうでしょうか?」
「それ以外の小さな拠点や見張り台はどうしますか?」
「そうですね。見張り台のある島は後ででいいと思います。あと、小さな拠点の港には船は見当たらないし、隠せていたとしてもボート程度でしょうから水上偵察機でそれぞれの小さな拠点を監視すれば問題ないのではないでしょうか。後は、艦隊で沖にいる輸送船と湾内にいる小型艦艇を押さえてもらえればまず逃げられることはないと考えます」
杵島大尉の作戦案に、的場大尉が頷く。
「いい考えですな。湾内の艦船は、沖合いからの艦砲射撃で黙らせましょう。それで敵の逃走を防ぐのはいいと思いますが、肝心の上陸作戦の方はどうするのですか?」
「まずは、一等輸送艦に積まれてある大発を使って秘密裏に先行部隊を上陸させて、敵の警戒網を破壊、或いは混乱に陥れます。うまくいったら合図の信号弾を打ち上げますから、次に艦砲射撃による艦船の破壊をお願いします。そして港内の安全の確保が出来たら二等輸送艦による上陸を敢行します。その際、拠点それぞれに一等輸送艦、二等輸送艦、それぞれ一隻を担当させます」
「わかりました。上陸戦や陸上の戦いは専門外ですから細かいところは貴官にお任せします。責任は持ちますので、あなたの好きなようにやってください」
「了解しました。では作戦はいつ始めますか?」
「そちらの準備次第ですね」
「では、一時間後。十六時三十分開始と言うことで…。予定として、上陸は、十七時から十八時前後を考えております」
「了解です。では、時間合わせを…」
そう言って的場大尉が持っている時計を出す。
杵島大尉も愛用しているであろうかなり年季の入った時計を出した。
「最上、艦内時計に合わせる。やってくれ」
「了解しました。では…五、四、三、二、一、零。作戦開始です」
最上にあわせてそれぞれの時計をきちんと合わせる。
「では、作戦が終わってから、また会いましょう」
杵島大尉はそう言って敬礼すると艦橋を出て行った。
その後姿を見送った後、的場大尉は艦橋の窓から見える外の景色に視線を向ける。
そこには、第二戦隊の重巡洋艦が二隻見えていた。
「海防艦御蔵、三宅はそれぞれ拠点上陸に向う輸送艦の援護に当たる様に伝えてくれ。第二戦隊は、駆逐艦暁とうちの第二水雷戦隊から天津風を回すから、沖合いの大型輸送船の対応をお願いする」
「撃沈ですか?」
「馬鹿いえ。出来る限り拿捕だ。その為に重巡洋艦二隻も回すんだ。撃沈なら、駆逐艦一隻で事足りる」
「要は、驚かせて投降させろと…」
「そういうことだ。後は、残りの第二水雷戦隊で拠点の港に停泊している艦船を黙らせるぞ。こっちは沈めても構わん。ただし、目標は艦船のみだ。絶対に陸地や味方に当てるなよ」
「了解しました。すぐに各艦に伝達します」
最上が敬礼する。
「ああ。頼むぞ」
こうして、後にこの区画の名前を取って『シマト諸島奪回戦』と呼ばれる戦いが始まる。
そして、これは新たなる外の国の勢力の一つ、シルーア帝国との紛争の始まりでもあった。
補足を活動報告の方にあげておきましたので、よかったら見てみてください。




