表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十章 空母 対 空母

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

325/839

パガーラン海海戦  その1

会議の翌日である七月三日の昼、訓練海域からそのまま先行する第一艦隊に的場大佐とその幕僚が到着した。

二式大艇を乗り継いでまずアルンカス王国のフソウ連合基地に到着し、そこの仮飛行場から彩雲三機に乗って艦隊に合流した為、前日に出港した最上を旗艦とする第二艦隊や支援艦隊はまだ後方である。

第二艦隊だけなら、一日半といったところだろうが、航空燃料や弾薬を積んだ輸送艦がいる支援艦隊の足は遅いため、合流するには、後二日はかかると思っていいだろう。

そして、艦隊旗艦翔鶴に着艦し、彩雲から降りて甲板に降り立った的場大佐に歩み寄る人物がいた。

「お待ちしておりました」

そう言って甲板で的場大佐を迎えたのは、一航戦の指揮を任せられている中野守康少佐だ。

年のころは、三十になるかならないかといったところだろうか。

優男風の優しそうな顔に、少し神経質そうな細い目、そして薄い唇から、冷淡な印象を受ける。

的場大佐がどこにでもいそうな軍人に見えない少し太めの男性と言うなら、こっちは銀行員といったところだろうか。

間違いなく軍服よりもスーツの方がに合いそうだ。

しかし、そんな外見と違い、かなり優秀であり、山本大将や新見中将の教え子の一人で、的場大佐、南雲中佐らとは同期になる。

二人と同じく次世代の艦隊指揮官として期待されていたものの、航空戦力の有効性に気が付き、山本大将の薦めである艦隊勤務よりも航空部隊配属を希望した変わり者である。

なお、この世界では航空機と言う存在が無い為に大艦巨砲主義が当たり前であり、フソウ連合海軍も当時はまた空母もなく、航空隊も発足したばかりで、ある意味軽視されていた時であったから、そこに配属を希望するということはかなりの先見の明があったというべきだろうか。

実際、現在も航空母艦を保有するようになったといってもその大艦巨砲主義と言っていい思想は根強いため、人気順で言うと戦艦や重巡洋艦の戦隊、駆逐艦や軽巡洋艦の水雷戦隊を希望するものが多く、それに次いで護衛隊や海防隊、潜水隊となっており、下手をすると輸送隊などよりも航空戦隊を希望するものはほとんどいなかったといっていいだろう。

そういう訳で航空戦隊を自ら希望するものは他の者達からは変わり者扱いされたものの、そのほとんどは航空戦力の有効性や航空戦力の運用に興味がある、或いは航空戦力の有効性に気がついた者達ばかりであり、その結果、フソウ連合海軍の航空戦隊の運用は鍋島長官の希望以上のスピードで軌道にのせる事に成功させる結果となった。

そんな訳で……。

そんな変わり者の筆頭と言っていい人物が、一航戦の指揮を任せられているのだ。

的場大佐が苦虫を潰したような表情で口を開く。

「誰がいるか気にはなっていたが、まさかお前さんが一航戦の指揮を任せられるとはな……」

その的場大佐の言葉に、中野少佐も困ったような顔をして言葉を返す。

「いやなに、きちんと新任の挨拶に伺うつもりだったが、残念な事に大佐は不在だったからな……。」

その雰囲気は刺々しさが感じられるほどのものであり、互いが互いの顔を睨みつけた。

しかし、どちらからかだろうか。

しばしの沈黙の後、二人は同時に表情を崩して笑いあう。

「いやぁ、久しいな。確か……一年ぶりくらいか?」

「一年と二ヶ月ってところだよ。しかし、本当に久しぶりだ」

その様子は最初の雰囲気がなんなんだったのかと思うほど実に和気藹々としたもので、周りにいた者達は最初こそ慌てていたものの、すぐにただ見守っているだけとなっていた。

そんな中、中野少佐が言葉を続ける。

「しかし、大佐が来てくれて助かったよ。山本の親父さんが来た日にゃたまったものではないからな」

苦笑してそんな事を言う中野少佐に、的場大佐は笑いつつ答える。

「心配しなくてもいい。山本の親父さんはお前さんのこと、別に裏切られたとか思ってねぇから」

「ああ。それはわかっているよ、本当に。あの後、いろいろアドバイスとかあったし、それに長官に一航戦の指揮官として推挙してくれたのは親父さんだからな」

「やっぱりか……。なら、何でだ?」

そう聞かれ、困ったような表情をする中野少佐。

だが、意を決したのだろう。

ゆっくりと口を開いた。

「確かに、親父さんには感謝している。だけど、あの人の考え方は、空母軽視だからな……」

つまり、いくら感謝してもしきれない恩師であったとしても、空母軽視の考えがある以上、その下では戦いたくないという中野少佐のこだわりなのだ。

つまり、それだけ航空戦力、空母に惚れ込んでいるということなのだろう。

「もう少し柔軟な考えをしたらどうなんだ?」

困ったような顔で的場大佐が言うも、中野少佐は首を横に振る。

それだけでなく、的場大佐に聞き返した。

「それを言うなら、大佐だってあの噂に対して頑なに無視を決め込まなくても良かったんじゃないですかね?」

あの噂とは、的場大佐の抜擢や出世は彼の家のおかげだという噂の事で、ここ最近は帝国との戦いの活躍によってその噂も聞かれなくなったが、士官学校時代や活躍する前はかなり酷い噂が流れていた。

しかも、本人は、どうせ説明しても信じない奴は信じないからという理由で、別に弁解も何もしなくて無視を決め込んでいた為に噂はより大きくなってしまっている有り様であった。

その時の事を言っているのだろう。

その返しに、的場大佐の顔が困ったような苦虫を潰したような複雑なものになる。

「まぁ、あれは……、そうだな……気が乗らなかっただけだ。それにだ、いくら言っても聞かないやつに言うだけ無駄だろうが……」

「それもそうですが、少しはマシになったんじゃないんですかね。それでもやらなかったのは……こだわっていたってことですかね……」

ぐうの音も出なかったのだろう。

的場大佐が悔しそうな顔をする。

つまりは、二人とも似たもの同士と言う事だ。

だからこそ、気が合うと言って良いのかもしれない。

実際、なんとなくだが波長が合っているような感じがした事は何度もあった。

「お二人とも、それくらいにしたらどうでしょうか。今は作戦中ですので……」

少し言いにくそうにそう言ったのは航空母艦翔鶴の付喪神で、彼にしてみれば自分達の真価を問われる闘いになるのだ。

だからこそ、逸る気持ちもあるのだろう。

「ああ、すまなかったな、翔鶴。瑞鶴を呼んで今回の作戦の概要を説明するとしょう」

的場大佐は、その言葉に笑って答える。

それはそうだろう。

まさに助け舟と呼んでいいほどのタイミングだったのだから。

反面、中野少佐は悔しそうな顔で翔鶴を睨む。

その視線を平然と流し、翔鶴は笑いつつ「こちらです」と案内をする為に艦橋の方に歩き出した。



大まかな作戦計画書を渡すと、的場大佐は、翔鶴、瑞鶴それぞれの付喪神、それに中野少佐に説明を始めた。

「一応、今回の件は対外的には海賊船退治となっているが、真の目的は目標の機動部隊の所属の解明と無力化だ」

その言葉に、瑞鶴が聞き返す。

「無力化っていうのは……、要は殲滅ってことで良いのか?」

「そんな訳ないだろう。殲滅だけが無力化ではない」

呆れた顔でそう言ったのは、翔鶴だ。

顔立ちは、兄弟艦なので二人ともよく似ているものの、翔鶴と瑞鶴はかなり性格は違っているようだ。

「なら、どうするんだよ?」

そう聞き返す瑞鶴に、翔鶴は困ったやつだなといった感じの表情を浮かべて言う。

「だから、殲滅は最終手段だ。懐柔とか、色々方法があるだろうが。それに殲滅だけなら、最初から殲滅しろって命令が来るだろう?だから、敵対させないようにするってことだよ、この場合は……」

その説明に、的場大佐が頷いて相槌を打つ。

「その通りだ。今回重要なのは、その機動艦隊の所属をはっきりさせる事だ。だが、話し合いやそれに順ずる方法では難しいと思っている」

「それはなぜ?」

疑問に思い、中野少佐が聞き返すと的場大佐は困ったような顔をして答える。

「派遣されていた駆逐艦がお礼参りに夜襲をかけたらしい……。どれだけ被害を与えたかは未確認だけどな……」

「うわーー……」

「やるなぁ……」

「そりゃまた……」

三人のそれぞれの口から言葉が漏れた。

その言葉の意味や感情はバラバラだ。

だが、三人の思考は共通している。

そりゃ、確かに話し合いやそれに順ずる方法では無理だな……ということが。

確かに最初に手を出してきたのは相手だ。

しかし、やり返した以上、やっぱり話し合いましょうというわけにはいかないだろう。

それがすぐに理解できた。

だからこその難しいという感想なのだ。

「そこでだ。長官としては戦いはどうしょうもないという判断だ。だが、捕虜を取る事で情報は収集しておきたいという考えだ」

的場大佐の言葉に、中野少佐が考え込むように呟く。

「これで終わりではない……ということか……」

「そういう事だ。長官としては、次がある可能性は高いと思われている」

今度は翔鶴が口を開く。

「なら……しっかりと航空戦力と空母の力をアピールしておく必要性はあるということですね」

そして、それに続くように瑞鶴が続ける。

「なら、俺達一航戦の力を見せ付ける必要があるな」

「そういうことだな、兄弟」

翔鶴と瑞鶴は互いに意気投合している。

その様子を頼もしげに見ていた的場大佐だったが、視線を二人から中野少佐に向ける。

「ただ、今回の作戦は長丁場になる可能性がある」

「やはりか……。それで作戦期間は?」

「作戦期間は、艦隊合流から二週間だ」

「しかし、見付けられると思うか?その機動部隊を……」

「見付けられない場合は、作戦中止で撤退となる。その後は別の艦隊に任せられるか、或いは別の艦隊の展開自体を中止するか……」

それは即ち、航空戦力と空母の力をアピールする機会を失うという事になる。

また、正体不明の機動艦隊がうろうろしているという事実は、航路の安全を脅かし、フソウ連合海軍にとっても、イムサにとっても大きなプレッシャーであり脅威となるだろう。

だから、三人がそれぞれに慌てたような表情になった。

その様子に、的場大佐は落ち着くように言うと、言葉を続けた。

「それがフソウ連合海軍にとっても、みんなにとっても不本意な結果にしかならないという事は長官自身もよくわかっておられる。だからこの海域に、第四潜水隊から第七潜水隊の八隻と第二特殊潜水隊の伊-401の全九隻を投入されている」

フソウ連合海軍が保有する潜水艦は、輸送用の伊-361、伊-370を除き、全部で十六隻だ。

つまり、その半分以上を投入しているという事になる。

それは裏を返せば、この作戦を成功させたいが為にという事でもある。

それがわかったのだろう。

「必ずやその機動艦隊の無力化を成し遂げようじゃないか」

的場大佐のその言葉に、三人は頷いたのだった。



二日後の七月五日、第二艦隊、支援部隊と合流して補給を終えたフソウ連合海軍機動部隊は、パガーラン海に突入。

所属不明の機動部隊を発見できない事にイライラしつつ時間が過ぎていく。

そんな中、二日後の七日の早朝、第七潜水隊の伊-19から彼らが待ちに待った報告を受ける事となる。


『ワレ、敵艦隊 ヲ ハッケンス』


その報告を受け、フソウ連合海軍機動部隊は現場に向かう。

こうして、ついに『パガーラン海海戦』の火蓋は切られようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] アメリカ合衆国海軍機動部隊と、扶桑連合航空艦隊が、遂に鉾を交える時が来てしまった [気になる点] 「戦いの火蓋」は単に『切る』ものであって切って『落とす』ものでは決してない! [一言] 「…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ