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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十章 空母 対 空母

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迷いの中で……

エンタープライズの会議室。

時間はまもなく深夜になろうかと言う時間帯。

『異世界に来てしまった』

その言葉に、誰もが言葉を失ってしまったかのように黙り込み、沈黙が辺りを包み込む。

どれくらい経っただろうか。

諦めたような表情をした後、スプルーアンス少将は呟く様に言う。

「やはり、一度、きちんと周囲を索敵して確認するしかないか……」

「……そうですね。海図と緯度経度で得られる位置情報が違うのは問題ですからな」

フレッチャー少将も少し疲れたような表情でそう言った後、苦笑して言葉を続けた。

「ともかく、夜が明けてからになりますな」

「そうだな。夜が明けたら、四方に索敵機を飛ばして位置確認をするしかないか……」

スプルーアンス少将がそう答えた瞬間だった。

「敵襲ーっ、敵襲ーっ」

警戒音のブザーと共に艦内放送が鳴り響く。

そして、ゆったりと動いていたエンタープライズがいきなり速度を上げる。

「ど、どういうことだ?」

いきなりの動きで倒れそうになるのをなんとか支えたスプルーアンス少将が声を上げた。

「あれを……」

駆逐艦の艦長の一人が部屋にある窓の方を指差す。

その窓には、暗闇の中、遠方から幾つもの光が見えた。

「砲撃だっ」

呟く様に誰かが言う。

それでその場にいた全員がわかってしまった。

見失った駆逐艦二隻がどこに行ったのかを……。

「くそったれっ。連中、さっさと逃げ帰っておけばいいモノをっ」

フレッチャー少将が吐き捨てるように言うとテーブルを叩く。

しかし、それでどうにかなるわけではない。

「ともかく、私は艦橋に向かう」

スプルーアンス少将が揺れる艦の動きに逆らいつつ歩き出す。

「私も行きます」

フレッチャー少将はそう言ったので頷いたが、他の艦の艦長達まで入れるスペースは艦橋にはない。

「他の方々は、ここで待機をお願いします」

自分の艦に戻ろうにもどうする事もできない以上、それに従うしかない。

スプルーアンス少将はそう指示するとフレッチャー少将と一緒に艦橋に急いで向かう。

その途中で、向こうから伝令の兵らしきものが走って来ているのか見えた。

「司令官っ。大変ですっ」

スプルーアンス少将に気が付いたのだろう。

そう叫びつつ、兵が駆け寄ってくる。

「現状は?」

「敵艦隊の夜襲を受け、今は艦長の指示で回避行動中であります」

「他の艦は?」

「混乱していますが、徐々に対応を始めています」

「敵戦力は?」

「不明ですがそれほど多くはないと思われます」

その報告に、スプルーアンス少将とフレッチャー少将の二人は自分達の予想が当たった事を知る。

もっとも、当たって欲しくない予想の類ではあったのだが……。

味方の砲撃はまだ響かず、周りの艦艇も指揮官不在で混乱してしまっているのではないかと思ってしまう。

失敗したな……。

スプルーアンス少将は自分の迂闊さに臍をかむ。

それを察したのだろう。

フレッチャー少将がポンポンと慰めるように肩を叩く。

ともかく今は艦橋に向かわねば……。

その時だった。

「魚雷接近!!総員、何かに掴まれ」

その艦内放送とともに艦が大きく揺れる。

恐らく魚雷回避の為に大きく舵を切ったのだろう。

二万トンクラスの巨体が大きく曲がった勢いで傾き、艦内にあるものが勢いで振り回される。

それをなんとか手すりに掴まり身体を支える。

どうやら魚雷を無事避けた様だ。

ほっとした瞬間、近くで爆発音が響く。

乗艦している艦ではない。

ならば味方の別の艦艇だ。

「まさか……」

フレッチャー少将が呟く。

「ともかく艦橋に急ごう。状況把握はそれからだ」

スプルーアンス少将がそう声をかけるとフレッチャー少将は頷き歩き出す。

走りたいところだが、艦の揺れが結構あり、倒れそうになるため仕方ないといったところだ。

ともかく、なんとか四苦八苦して二人が艦橋に着いて目にしたのは、少し傾き煙を上げるホーネットの姿であった。



「被害はどうなっている?」

スプルーアンス少将の問いに、ボードに貼ってある報告書を見つつ副官であるオリバー中尉が答える。

「ホーネットに魚雷が一発命中した以外は、敵の攻撃の被害はありません。なお、その魚雷により、固定されていなかったF4F6機、SBD3機が接触による破壊により破損。修理は無理だろうとのことです。なお、ホーネットの方は、消火作業も終わり航行に支障はありませんが、速力や舵の効き方に少し支障があるとのことです」

「そうか。それで敵は?」

「はっ。早朝から索敵機を飛ばして索敵させましたが発見されていません」

「うまく逃げられたか……」

「はっ。そのようです」

ふーっ。

息を吐き出し、スプルーアンス少将は艦橋の窓から見えるホーネットに視線を向ける。

わずかにあった傾斜もなくなり、エンタープライズと同じ速力で進む姿はまるで今までと変わらないかのように見える。

しかし、よく見ると艦の側面中央辺りに黒ずんでいるところと少し歪んでいるように見える部分がある。

おそらく魚雷攻撃を受けた場所だろう。

まさか、襲撃された場所にそのまま居座り続けるのはあまりにも危険だったため、すぐに艦隊を移動させて今は襲撃された地点よりかなり離れた場所に移っており、護衛の駆逐艦が空母を中心に円を描くように展開して警戒に当たっている。

また、昼近くになっているため、早朝から始めた四方による索敵はすでに三回目になろうとしていた。

今も甲板から索敵の為にSBD ドーントレスが発艦しているのが目に入る。

しかし、その索敵機からもたらされる報告は、夜襲を受けて被害を受けた以上の絶望を第16・17任務混成隊上層部にもたらしていた。

海図とあまりにも違いすぎる現状が報告されているのである。

幾つもの無人島と思しき小島や浅瀬だけではない。

人はいないようなのだが、そこそこ大きな島も発見されている。

それらの事から、昨夜話した内容を裏付けることばかりが起こっているのだ。

まさか、悪いほうの予想が当たるとはな……。

海図に幾つも記されている紅い印にちらりと目を向けてスプルーアンス少将はため息を吐き出した。

「昼食後、十三時にミーティングを行ないたい。この艦に集まるように伝達をしてくれ……」

スプルーアンス少将がそう言うと、オリバー中尉が確認の為聞き返す。

「全艦に伝えますか?」

「いや……。そうだな、フレッチャー少将と第17任務部隊上層部だけでいい。他の艦艇は警戒を継続させるんだ」

「了解しました。すぐに連絡いたします」

オリバー中尉が命令の為に動き出すのを目で追った後、スプルーアンス少将は考え込む。

これからどうすべきかを……。


13時、エンタープライズの会議室には、フレッチャー少将と第17任務部隊上層部、それにスプルーアンス少将と第16任務部隊上層部の面々が集まっていた。

誰もが深厚な顔をする中で、スプルーアンス少将が声を上げた。

「諸君、報告は聞いていると思う。まさかとは思うが、結果がこうなった以上は受け入れるしかないだろう」

そこで一旦言葉を切り、スプルーアンス少将は周りを見回す。

そして言葉を続けた。

「どうも我々は、違う世界に来ているようだという事を……」

「そんな馬鹿な……事……が……」

「それに……日本軍は存在するではないか……」

誰かの口からか、諦めきれないのか或いは信じられないのかそんな呟きが漏れる。

「私だってそう思いたい。しかし、それ以外にうまく今の状況を説明できる事はあるかね?」

そのスプルーアンス少将の言葉に反論はない。

誰もが思っているのだ。

だが、そう思いたくない。

その思考が強いのだろう。

「しかし、困ったものですな。そういう事なら、これから先の事を考えなければなりませんな」

フレッチャー少将が苦笑を浮かべてそう言う。

「その通りだ。しかし、先の事を考えるには、何より情報が足りなさ過ぎる。そこでだ……」

一旦言葉を止めると舌で自らの唇を湿らせてスプルーアンス少将が口を開く。

それは、迷いがあるようにフレッチャー少将には見えた。

「私としては、近くの島の湾内で艦隊を停泊させ、航空機や艦隊の一部を派遣してより詳しい情報収集を行なう事を提案したい」

その提案に誰もが何も言えないでいた。

反対も賛成も出ない。

いや、出来ないと言ったほうがいいだろうか。

本当に異世界なら、我々は孤立無援という事になる。

実際、無駄に動けば、その分の物資が失われていく。

補給が望めない以上、無駄に動くのは得策ではない。

その場合、スプルーアンス少将の提案は理に適っていると言えよう。

だが、他にいい方法はないのだろうか。

もしかしたら、積極的に動くことで活路が開けるのではないだろうか。

実際、守りだけではどうしようもない事は多いのだから……。

誰もがそう思ってしまい、賛成しきれないといったところだろう。

それに、中には未だに異世界に来てしまったという事を信じたくない者さえいるのだ。

しかし、そんな誰も反応がない状態に、スプルーアンス少将は少しほっとしたような表情をしていた。

それはこういう状況になると予想していたからだろう。

自分がもし彼らの立場なら、判断に困ってしまってどうすればいいのか迷うとわかっているからでもある。

だから、スプルーアンス少将は沈黙が続いても何も言わないで黙っている。

そんな中、意を決したのだろう。

フレッチャー少将が声を上げた。

「私もそれしかないと思う」

そう言った後、周りを見回して言葉を続けた。

「司令官が覚悟を決めたのだ。我々は司令官についていこうじゃないか」

しかし、その言葉に、スプルーアンス少将の表情が一瞬歪む。

彼としては否定して欲しかったのだ。

他のもっといい意見があって欲しかったのだ。

だが、反対意見はなく、自分の意見に賛同される。

それは嬉しい反面、より重い責任を負わされてしまったかのような感覚を感じさせてしまう。

フレッチャー少将もスプルーアンス少将の気持ちはわかっている。

しかし、それでは結局何も出来ないし、自滅しかないだろう。

そう判断し、スプルーアンス少将の負担になるとわかっていてもその選択をするしかなかったのである。

この言葉に背中を押される形で他の上層部の面子から賛同の声が漏れ始める。

その気が進まないといった感じの賛同を聞きつつ、スプルーアンス少将はため息を吐き出した。

「賛同、ありがとう。それでだ……、情報収集のために派遣する艦艇についてだが……」

だが、その言葉は最後まで言われなかった。

「駆逐艦を一隻、お借りしたい。私が指揮して情報収集に当たりましょう」

フレッチャー少将がそう名乗り出たのだ。

「いいのか?」

「最初に賛同したんだ。それぐらいの協力はさせてくれ」

フレッチャー少将はそう答えつつ笑う。

自分ならここにいる他の面子よりも上手く出来るだろうという気持ちがあるのも事実だが、それ以上にスプルーアンス少将に責任を押し付ける分はせめて協力は惜しまないようにしなければという気持ちが強く働いていた。

「すまん。お願いできるか?」

「何を言うんだ。君が司令官だからな。命令したまえ」

フレッチャー少将は苦笑いをしつつ、スプルーアンス少将の申し訳ないという気持ちが少しでもやわらげればいいがと思いそう言っておく。

その気遣いがわかったのだろう。

スプルーアンス少将は表情を引き締めると口を開いた。

「では、フレッチャー少将、駆逐艦ファーレンホルトで情報収集をお願いします」

「わかりました。その代わりホーネットをお願いしますよ」

そう言うと、フレッチャー少将は敬礼したのだった。

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