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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二章 海軍強化とシマト諸島奪回戦

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第二水雷戦隊 最上と的場良治大尉 その2

「的場大尉の読みどおりでしたか…」

零式水偵が撮影してきた写真を見て、最上は苦笑いを浮かべた。

その視線の先にある写真には、おそらくかつては海賊が使っていたと思われる拠点があり、港には何隻かの小型船、そしてその拠点の少し沖合いに大型の輸送艦が一隻写っている。

そして、その拠点は巧妙なカモフラージュがなされており、普通ならかなり発見は難しそうだった。

「あまり当たってほしくなかったんだけどな」

淡々と語る的場大尉は、海図の島のひとつに赤色の鉛筆で印をつける。

もちろん、写真の島の場所だ。

「では発見できた事ですし、残りの水偵は帰還させますか?」

最上の言葉に、的場大尉は首を振る。

「巣穴が一つだけとは限らんだろう?」

そう言って的場大尉はニタリと笑った。

決して上品な笑みではなく、また豪快な笑みでもない。

どちらかというとニヘラといった感じの笑みだ。

多分、知らない人が見たら変な人と思われるだろうな。

最上は的場大尉の笑みを見てそんな事を思いつつも、これは彼なりに楽しんでいるのだろうと認識する。

本当にこの人は能力は確かなのに、見た目や行動で損をしている典型的なタイプなんだな。

そう思いつつ、最上は戻ってきた1機の水偵に、補給を終え次第、まだチェックしていない区画の偵察に向うように命令を下した。


朝から始まった区画の捜索は見落としがないように丁寧に行われたが、昼までに無事終了した。

その結果たるや、驚きのものだった。

多分、一箇所潰されても問題がないようにという備えだったのだろう。

海賊が使っていたと思われる拠点が何箇所も見つかったのだ。

その中でも、大規模な拠点が一番最初に見つかったものとは別にもう一箇所、小さな拠点は実に六ヶ所も存在した。

また、小島には見張り台らしきものもいくつか見つかっており、かつてこの島々の海域は海賊たちにほぼ完全に掌握されていた事がわかる。

「ふーむ。めんどうだな…。まぁ、艦影が映っているこの拠点に敵がいるのはわかったが、残りはどうだろう…」

的場大尉がむすっとした顔でそう呟く。

「まぁ、確かに一箇所は間違いないみたいですけど、全部が全部、連中が把握しているとは思えませんから確かにやりにくいですよね」

最上もそう言って考え込む。

なぜなら、今の艦隊の戦力は艦隊戦を想定しての編成であり、島を制圧占領する為の戦力はほとんどないためだ。

確かに沖からの艦砲射撃などで陸上も攻撃できるし、港にいる敵の小型艇やそれを運んできたと思われる大型輸送船なども撃沈できるだろう。

しかし、制圧と占領にはどうしても歩兵が必要となってしまう。

以前の日本海軍時代には各艦に一定の陸戦隊が搭乗していたが、付喪神によって大幅な人員削減が出来る今の状態では、通常は陸戦隊を搭乗させていないし、数少ない船内員に武器を持たせて上陸作戦などさせられない。

「仕方ないか…」

的場大尉は呟くようにそう言うと、通信士に指示を出す。

敵の基地の発見とその制圧の為の援軍の要請だ。

しかし、編成やら準備には時間がかかるだろう。

だから到着するのは日没を過ぎてからとなるに違いない。

だが、夜の攻撃は下手をすれば同士討ちの恐れもあるためやりたくない。

しかし、翌日に延ばした場合、こっちが発見されて逃げられてしまう可能性だってある。

さてどうすべきか…。

街場大尉はそう考えると何かいい案がないか考えようとした。

しかし、それはすぐに中断されてしまう。

通信士による基地からの返信の報告が予想外のものだったからだ。

「基地本部より連絡あり。陸戦隊を輸送船団でこちらに向わせているとの事です。また、護衛に付けた艦船は好きに使えとのこと」

少し間が空いて、驚いた表情で的場大尉が聞き返す。

「今のは本当か?」

そして、始めてみる的場大尉の驚いた表情に目が奪われる最上。

二人とも違う意味で驚いていた。

そんな二人に構わず、通信士は問いに答える。

「はっ。事実であります。また、司令長官の命令で先行して出航させておいたので十五時ごろにはこちらに到着するだろうとの事です」

しーんと静寂が辺りを包む。

誰も音を発しない。

しかしそれは的場大尉の「くそっ。やられちまった」という言葉に破られた。

その場にいた全員の視線が的場大尉に集まるが、そんな事はお構いなしに彼は大きく息を吐き出すと海図を睨みだした。

しかし、なんだろうか。

やられちまったと言いつつも、誰が見ても的場大尉の顔は実にうれしそうだった。

そんな顔を見て、その場にいた誰もが理解した。

自分の事を理解して先に手を回してくれる理想的な上司。その上司が準備したものは好きに使えという。

それは、自分を信頼し、任せてくれているという事。

そして、期待されているという事実。

多分、今彼は最高にうれしいのだろうと…。

本当に面白い人だ、この人は…。

最上はますますこの人物が気に入ったのだった。


予定である十五時前には、第二水雷戦隊の前に、陸戦隊を乗せた輸送艦隊と護衛の艦隊が到着した。

輸送艦隊は一等輸送艦二隻と二等輸送艦二隻で構成されており、四隻には完全武装された特別編成の陸戦隊四百名と特二式内火艇十二輛が搭載されている。

まさに上陸作戦に対応できる編成だ。

そして、驚くべき事はまだあった。

自由に使えといって一緒に寄越された護衛は、第二戦隊の重巡摩耶、鈴谷と新造された駆逐艦暁と海防艦御蔵、三宅だった事だ。

「これはまた…」

思わずそんな言葉が最上の口から漏れる。

それはそうだろう。

護衛には、予備戦力の駆逐艦を数隻でも付けてくれたのだろうと思っていたのだ。

しかし、まさか主力の一部である第二戦隊まで付けてくれるとは考えていなかった。

最上は、ちらりと横にいる的場大尉を観察する。

彼は目の前に展開する艦隊を見てぶるぶると身体を震わせていた。

多分、感動しているんだろうな…。

なんとなくだが最上はそんな気がした。

しかし、ずっとそのままでいてもらっては意味がない。

せっかく日没前に集結できたのに、このままでは急がないと夜になってしまう。

だから最上が声をかけた。

「大尉、長官の信頼にこたえましょう」

その声で我に返ったのだろう。

「お、おう。もちろんだっ。陸戦隊の隊長と詳しい打ち合わせがしたいから、すぐこちら来るように連絡を入れてくれ」

慌ててそう言うと、的場大尉は海図の近くにある椅子に座り込んだ。

その様子を最上は照れていると判断したのだった。

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