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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二十章 空母 対 空母

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邂逅…

エンタープライズよりSBD ドーントレスが間隔を開けて二機発艦する。

すでに二時間近く前に一回目の索敵隊として二機発艦しており、帰艦してくるであろう機体と交代する為だ。

その様子を艦橋から眺めながらスプルーアンス少将は迷っていた。

自分の判断が正しかったのかと……。

天候の回復はまだの為、前方に索敵機を飛ばしつつ珊瑚海に向っていた方角に艦隊は進んでいる。

しかし、索敵機からは、今のところ何かを発見したという情報は入ってきていない。

ただ、定期的な連絡とそろそろ引き返すという無線のみだ。

圧倒的に情報が足りなさ過ぎる……。

しかも、あの光の後、現在位置をロストしてからというもの嫌な予感しかしない。

まるで自分らが世界から拒否されているかのような疎外感を感じてしまっている。

しっくりこないのだ。

なんか形は似ているが微妙にあっていない。

そんな感覚だ。

大体、あの光はなんだったのだろうか……。

日本軍の新兵器ではないのはわかる。

では、あれは自然現象なのか?

聞いた事も、見た事もない。

そんな不安な気持ちと迷いの中、うっすらと雲の切れ目に入る。

希望の光のように太陽の光がまるでその部分だけ切り取ったかのように前方の海に降り注いでいる。

「ふう……。これで位置確認ができるか……」

思わず呟く。

機材を持って観測員が甲板の上で作業を始めているのが見える。

昔ながらの方法だが、太陽の位置から現在の位置を算出する天測航法をやっているようだ。

アメリカ海軍では、軍艦乗りの必須技能となっている。

もちろん、スプルーアンス少将も出来るのだが、もうかなりうろ覚えになってしまった。

今度、一回復習を兼ねてやっておくか……。

思わずそんな事を考えてしまう。

ともかくだ。これで艦隊の位置がはっきりする。

それによって自分の判断が正しかったのか、間違っていたのかはっきりするというものだ。

もし間違っていたらフレッチャー少将にからかわれそうだが、それぐらいは構わないと思う。

そんな事を思って観測員を見ていたときだった。

観測員が観測を終えて計算し終わったのだろう。

甲板で一旦動きが止まった。

しかし、なにを思ったのだろうか。

再び測量を始める。

おいおい……、何をやっているんだ?

確実性を重視する為に二回目をやっているという雰囲気ではない。

思っていたものと違う為にやり直しているといった感じだ。

まさか……。

スプルーアンス少将の背中に冷たい汗が流れる。

そして二回目の測量と計算が終わったのだが、観測員はその場で動かない。

おいおい……。

嫌な予感ばかりが膨らんでいく。

そんなスプルーアンス少将の様子に気がついたのだろう。

別の確認作業を行っていた副官のオリバー中尉がスプルーアンス少将の傍に来て声をかけた。

「どうなされたんですか?」

それに対してスプルーアンス少将は何も答えず、ただ観測員の動きを見ている。

怪訝そうな顔でオリバー中尉の視線が、スプルーアンス少将から観測員の方に動く。

「ああ、太陽が出ていますからね。やっと現在位置がわかりますか……。これで……」

しかし、その言葉は最後まで口から出る事はなかった。

観測員が測量を終わって計算したはずなのに、また測量をし始めたからである。

「はぁ?」

すっとんきょうな声を上げるオリバー中尉。

そして口から言葉が漏れる。

「何で二回も……」

そのオリバー中尉の言葉に、スプルーアンス少将が修正する。

「いや……。三回目だ」

「はぁ?!」

オリバー中尉の口から、ますます大きく声が漏れた。

その声に誘われるかのようにスプルーアンス少将の口が開く。

「つまりだ……。何度も測り直して計算し直したくなるような結果が出たということだ……」


十分後……。

青い顔をした観測員が怯えた表情でスプルーアンス少将の前に立っている。

「ほ、報告いたします……」

観測員が震える声で結果を報告する。

艦隊はハワイから南東に進んでいたはずだが、現在位置は大きく西側にずれてしまっており、このまま進んでも珊瑚海には着かない。

それがもたらされた報告であった。

さっきから怯えたような表情も、震える声も、その結果を信じたくないという心の現れだろう。

だが、何度も繰り返してやり直した結果、その結果しか出なかったのだ。

そして、その何度もやり押している様子を見ていたスプルーアンス少将もただ受け入れるしかない心境だった。

「わかった。ご苦労だった」

スプルーアンス少将はそれだけ言うと観測員を下がらせる。

怒鳴られる、或いはやり直させられると思っていたのだろうか。

観測員はきょとんとした顔を一瞬したが、すぐに敬礼するとその場をそそくさと立ち去った。

「どうされますか?」

オリバー中尉がため息を吐き出すと聞いてくる。

「索敵に出した機体を回収し、方向を変えるしかあるまい……」

まさかここまで大きくずれていたとは……。

ある程度のズレはあるとは思っていたが、あまりにも予想外であり、これでは間違いなく予定していた日時以上に合流には時間がかかるだろう。

それに頭の痛いことに、報告書に出しても信じてもらえるか怪しいものだ。

得てして人間は自分の経験で判断を下す。

ましてや、今の上層部や政府は自分達の支持を得る為に躍起になっている。

そんな連中に、実際にあった事を報告したとしてももっとまともな言い訳を用意しろと言われるのがオチだろう。

「たまったものではないな……、これは……」

そのスプルーアンス少将の呟きで心境が読めたのだろう。

オリバー中尉も苦虫を潰したような顔で頷いている。

「だが、このままと言うわけにはいかんか。各艦に通達、索敵機が戻り次第方向転換すると……」

「了解しました」

そうオリバー中尉が言った時だった。

「大変であります。索敵に出ていた機体から、船団発見との報告が!!」

通信士から報告の声が響く。

その声に艦橋内のほとんどの乗組員の視線が通信士に向けられた。

その視線を感じたのだろう。

一瞬、言いよどんだ通信士だったが、すぐに報告を続ける。

「『ワレ、センダンヲハッケン。ゴエイ三、ユソウカン十、ケイ十三』以上です」

「どこの国籍がわかるか?」

スプルーアンス少将の問いかけに、通信士が慌てて確認の通信を送る。

「こちら、エンタープライズ、船団の国籍を確認せよ。繰り返す、船団の国籍を確認せよ」

すぐに返事が返ってきたのだろう。

通信士が叫ぶ。

「高度を下げて確認するとのことです」

その返事にスプルーアンス少将は頷いた。



フソウ連合海軍外洋艦隊所属Eクラス駆逐艦H02エクスマスとOクラス駆逐艦G17オンズロー、G29オファの三隻によって構成されたイムサ派遣護衛隊は、ここ最近では当たり前の護衛任務についていた。

最初こそ海賊らしき不審船を見かけたものの、フソウ連合海軍の日章旗に気がつくとそそくさと離れていく事が続き、今やこの航路には不審船を見かけることはない。

新しく装備された電探の性能はかなりのもので、正確ではないもののある程度とは言え敵の動きが事前にわかるというのは実に対処しやすいといっていいだろう。

もっとも、この電探が装備されているのはフソウ連合海軍の艦艇のみである為、機密扱いとなっているのでおおっぴらに自慢できないのは残念な事だ。

それに何事もないのは、それはそれで暇だなぁ。

なんて不謹慎な事が心を過ぎる。

だが、それはそれでいいのかもしれない。

軍は結局、国の暴力装置なのだ。

使わないに越した事はないのだから……。

この護衛隊の指揮を任せられている森本中尉はそんな事を思いつつも艦橋の窓から外を見る。

さっきまでは気味の悪い雲が薄っすらとかかっていたが、今ではすっきりとした青空になりつつあった。

海も荒れずに穏やかで、定刻どおりにアルンカス王国に着きそうだ。

そういえば、アルンカス王国で新しく出来た映画館では新作の映画が公開されると聞いた。

半舷休日の時に気分転換で見に行くか……。

そう思った時だった。

電探担当の乗組員が叫ぶ。

「電探に反応アリ。南南西の方角から我が艦隊に接近するものがあります」

その言葉に、森本中尉が聞き返す。

「間違いないか?」

「はっ。間違いありません。以前に比べれば、この新型電探は精度もかなり上がっており、故障もほとんどありません」

「そうか。それで数はわかるか?」

「はっ。数は……一つ。この速度でしたら……恐らくは航空機かと思われます」

森本中尉が聞き返す。

「間違いないんだな」

「はいっ。この速度が出る艦艇があれば別ですが、艦艇で出せる速度ではありません」

その言葉に険しい顔をして腕を組む森本中尉。

現在、この世界で航空機を運用しているのは、フソウ連合海軍のみである。

ならば普通は素直にフソウ連合海軍所属の飛行機だろうと考える。

だが、しかし、それで良いのか?

そんな疑問が過ぎる。

そしてそれと同時に思い出した言葉があった。

『世の中は、何が起こるかわからない。特に外洋艦隊は他の国や海賊といった今まで我々が関わってきていない人達と関わる事も多いと思う。その行動や思考だけでなく全てにおいて我々の常識は通用しない時もある。だから、こうだろう、ああだろうといった思い込みは一度捨ててくれ。確認したものこそが全てだという事を今一度考えて欲しい。』

その言葉は、外洋艦隊が正式に発足し、アルンカス王国へ出港するときの式典で鍋島長官が言った言葉だった。

すぐに森本中尉は決断する。

「電探による監視を継続。監視員は接近する機体の確認を行う用意を。それと連中もわかっているとは思うが護衛隊各艦に伝達しろ。『接近する飛行物体アリ。防空警戒せよ』と……、それといざとなったら船団の方は逃がすからな。船団の方にもその可能性があると伝えろ。後、イムサ本部とフソウ連合海軍に近海で訓練中、及び任務中の艦艇がないか確認するように要請しておけ」

「了解しました」

通信士が無線機に取り付き、兵の何人かが手旗通信や発光信号をする為に外に飛び出していく。

森本中尉は、その乗組員達の動きを見た後、組んでいた腕を放すとニタリと笑う。

もし、接近してきている飛行機が味方なら、まぁ残念程度で済む。

仲間内で酒でも飲むときの笑い話のネタの一つになるぐらいで済む。

しかしだ。

これが敵だとしたら、どうなるだろうか。

それはもちろん決まっている。

戦いとなるだろう。

森本中尉としては基本何もないほうがいいと思うのだが、やはり軍人である以上、自分の力がどれだけかは示したいという欲求があるのも事実。

それを示す機会が来たと言うだけのことだ。

それに味方にしろ、敵にしろ、いい経験になるのは間違いない。

さて……。

どうやら忙しくなりそうだ……。

そう思考すると、森本中尉は接近してくる飛行機の方角に視線を向けたのだった。

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