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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二章 海軍強化とシマト諸島奪回戦

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日誌 第六日目 その2

「さて、では行こうか、大尉」

昼食が終わると東郷大尉にそう声をかける。

「えっと…どこに行かれるのですか?本日の午後は、急ぎの用事は入っていなかったと思いましたが…」

怪訝そうな顔で答える東郷大尉に僕は笑いかけた。

「ほら、今朝言っていたじゃないか。午後から実験をするって…」

そう言うと「ああ…そうでしたね」と納得した表情を見せる。

まぁ、僕のスケジュール管理だけでなく、資料の準備や色々な手配で忙しいからな…。

「で、どこでおこなわれるのですか?」

「第二湾外施設で行うよ。すでに準備は終わっていると思う」

「第二湾外施設って…まだ未完成の区画ですよね?」

「ああ。そうだよ」

「工事の視察ですか?」

その言葉に僕はニコリと笑って言う。

「視察じゃないなぁ。でもうまくいったら工事の手伝いにもなるし、他の基地建設の手助けになるかもね…」

そう言って、僕は歩き出す。

不思議そうな顔をして、東郷大尉も僕の後を追うかのように歩き出したのだった。


第二湾外施設。

そこは元々はジオラマでは何もない場所であり、草原があるだけの場所だった。

しかし、海軍増強の為、また、軍事機密度の高い湾内に入れたくない艦船を停泊させる為の施設の必要性から湾外沿岸の施設の増築を決め、今、基礎工事が行われている場所だ。

海からは、海上起重機船や工事関係の為の雑役船、陸からはミキサー車やトラックといった工事関係車両が集まっている。

すでに島内の街や湾内施設への道路はほぼ工事が完了しており、車三台に別れて僕らは現場に移動した。

参加メンバーは、僕に東郷大尉。それに、後方支援本部の鏡大佐とそのスタッフ。後は広報部の杵島大尉に撮影スタッフだ。

「えっと…今度の実験も撮影するんですか?」

東郷大尉が聞いてきたので、僕は頷く。

「ああ。出来る限り映像で残しておきたいし、それにこういうのも広報部の仕事に使えると思ってね」

僕の言葉に、東郷大尉は横に座る杵島大尉に視線を向ける。

その表情には「大変ね」って感情がにじみ出ていた。

その視線に気がついたのだろう。

杵島大尉は苦笑しつつ、小さくガッツポーズをとる。

「心配しなくてもいいわ。大丈夫だから。それに、本人が目の前にいるから言いにくいけど、長官には感謝しているの。今すごく仕事が楽しいし、やりがいがあるわ。以前のようにぶうたれたりしないから…」

そう言って照れたような笑いを浮かべる杵島大尉。

どうやら以前、東郷大尉とは色々あった様だ。

もっとも、それを聞く無作法はしないでニコリと笑って言う。

「おかげで助かってるよ。その調子で頼むよ」

僕の言葉に、杵島大尉はぴーんと背筋を伸ばし「はいっ。がんばりますっ」と返事を返す。

うんうん。いい感じだ。

しかし、なんで頬まで赤いんだろうか。

そして、そんな会話を、僕の横に座った鏡大佐はニコニコとして聞いているだけであった。


「うわーっ。かなり工事進んでいるんですね」

降りた瞬間、東郷大尉の驚きの声が響く。

現場は基礎工事がかなり進行しており、この様子なら近いうちに仮運用できそうなくらいになっていた。

「なかなかいい感じじゃないか」

僕の言葉に、鏡大佐が笑いつつ返事を返す。

「ええ。この島の工事はここだけですからね。それに地方基地の方はまだ場所選定や現場での測量なんかの段階で、工事関係のリソースをこっちにフルに向けられますから…」

「そうか。外交関係が絡んでくるとどうしても湾内施設に曳航できない場合が出てくるはずだから、時間短縮はとても助かるよ」

「いえいえ。これも仕事ですから」

そう言って豪快に笑う鏡大佐。

この人は仕事と言いつつ、こういった感じの事務処理は数字遊びの感覚でテキパキとやっていくタイプと聞いている。

だからこそ、この仕事があっているのだろう。

そんな会話をしている間にも広報部の撮影スタッフが準備をしており、話し終わるころには杵島大尉が僕を見て頷く。

どうやら準備は整ったようだ。

鏡大佐に「では、始めましょうか」と声をかけると、鏡大佐も頷く。

撮影されながらというのは緊張してしまうが、落ち着いていこう。

平常心、平常心と自分に言い聞かせながら口を開く。

「それで、例の船は?」

「ああ、あちらのようですね…」

鏡大佐が指差す方向には、灰色の船らしきものが三隻浮かんでいる。

「あれって…船なんですか?確かに船のような形ですけど、なんだかコンクリートの塊のようにしか見えないんですが…」

東郷大尉が撮影されているのを意識しないで、いつもどおりにそう聞いてくる。

なんか、メンタル強いな彼女は。

こっちはドキドキなのになぁ…。

そんな事を思いつつも僕はいつもの表情を意識しつつ答える。

「ああ、あれはコンクリート製の船だよ」

僕の言葉に、東郷大尉が驚いた表情を浮かべた。

「コンクリートの船って…浮くんですか?」

「それを言うなら、鉄の船だって浮いてるだろう?」

僕の言葉に、「確かにそうなんですけど…」と言いつつも、東郷大尉はなんか納得できない表情を浮かべる。

「はははは…。納得できない顔ですな。しかし、現に、ほれ、浮いているじゃありませんか」

鏡大佐が楽しそうに横から東郷大尉にそう説明している。

「もっとも、この話を最初聞いた時は私も半信半疑でしたけどね。ですが、本日、完成された三隻のコンクリート船を見て悩むのは止めましたよ」

鏡大佐の言葉に苦笑しつつ、東郷大尉も「私もそうする事にします」と言葉を返すと今度は僕の方に顔を向けた。

「しかし、何でコンクリート製なんですか?」

「僕の模型からではなくて普通に建造する場合、建造が簡単で丈夫だし、普通の船を作るよりは時間がかからないからね。それにね…今からやる事を見ていてごらん」

僕がそう言って、鏡大佐の方を見て頷くと、鏡大佐が車の方に視線を向けて頷く。

すると車の中にいた運転手が、車の中の無線で何やら伝えたようだ。

するとコンクリート船の一隻…。

それも角ばったどちらかと言うと船よりも四角い塊といったような感じの形のコンクリート船が、タグボートに曳航されて、岸辺の方に近づいていく。

そして陸地のかなり近くまで誘導されたあと、コンクリート船の甲板に乗っていた作業員が何やら座り込んで作業を行った。

するとゆっくりだがコンクリート船が沈み始める。

「あれ、沈んでますよ」

慌てたように言う東郷大尉に、僕は笑いかけて言う。

「ああ。底と横にある蓋みたいな弁を外したからね」

沈み始めたコンクリート船だが、しかし、すぐに沈降は止まった。

底に着いたようだ。

そして今度は、他の工作船がそれに集まってなにやら作業を始めた。

「うまくいきましたな」

「ああ。この方法だと、湾岸施設の構築の時間短縮は出来そうだね」

「ええ。海から物資を陸揚げできる環境の整備が早いほど基地構築の時間短縮になりますから」

僕と鏡大佐の会話についていけないのだろう。

僕はきょとんとした東郷大尉に笑って説明する。

「あれはね、杭を打ち込んで底に着いた船を固定しているんだよ」

「それって…つまり…」

「そう。堤防や湾岸施設の増設なんかの基礎に使えないかと思ってね。それにね、それだけじゃないんだ。油や物資の仮保管の場所としても使えるから、タンクや倉庫といった施設の変わりも出来る」

「なるほど…」

僕の言葉に納得いったのだろう。

感心したように頷いている。

「つまり、行きは物資を積んで曳航されて行き、積荷を消費したら湾岸施設の材料にするって事ですね」

「そういうこと。工事進行の時間短縮にもなるし、資源や材料の輸送にも使える…。だから一石二鳥、いや一石三鳥かな」

僕がそう言うと、鏡大佐が豪快に笑う。

「確かに、確かに。その通りですな。うちらも無駄な資源や経費の削減につながるし、いい事尽くめですな」

「では、コンクリート製被曳航船の製造計画の方は進めるように指示しておいてください」

「了解しました。ところで長官はこの後はどうされるのですか?」

「もう少し見てから戻ります」

「了解しました。先に戻り話を進めておきましょう」

鏡大佐は、そう言って敬礼すると車の方に戻っていく。

その後姿を見送った後、僕は工事現場に視線を向けた。

次は二隻目のコンクリート船が曳航されている様子が目に入る。

それを見ながら思う。

これで少しでも地方基地建設の時間が短縮されればいいなと思いながら…。

補足を活動報告の方にあげておきましたので、よかったら見てみてください。

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