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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十九章 帝国崩壊の余波

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打ち合わせ

仲人といってもいろんなケースがある。

まず最初は、結納をするために両家に行ったり来たりする事から始まり、結納品を渡したり、略式結納では同席して向上を述べたりといった進行をやったりといった感じだ。

もちろん、結婚式当日は晩酌人として、新郎新婦の結婚の証人として参加する。

その際も、挨拶や乾杯の音頭を取ったり、媒酌人夫人がお色直しに付き添ったりと、結婚式の全体的な世話人という役割がある。

だが、今回の的場大佐と杵島中佐の場合、鍋島貞道に求められたのは、『頼まれ仲人』といった役割だった。

やはり海軍長官であり外交部の責任者ともなれば、かなり多忙である。

ましてや、帝国の状況は特に注意すべき事項だ。

それ故にさすがに色々頼みづらかったのだろう。

結婚式の挨拶と新郎新婦の紹介だけという事になった。

どうやら、進行やその他の事は別の人間がやってくれるらしい。

「どうしてそこまで僕に頼みたかったんだい?」

鍋島長官がそう言うと、的場良治大佐は苦笑して言う。

「最初は、山本大将や新見中将も考えました。ですが、やはり私がここまで来れたのは、鍋島長官のおかげだと思っています。ですから、ぜひお願いしたかったんですよ」

「いや、僕はそんなに色々やっていないよ。今の立場は、君が努力で手に入れたものだよ」

困った表情でそういう鍋島長官に、杵島マリ中佐が笑いつつ口を開く。

「リョウちゃんは長官のこと、すごく尊敬しているんです。将来は長官のようになりたいって」

その言葉に、的場大佐が真っ赤になって慌てて誤魔化そうとする。

しかし、それを杵島中佐が宥めており、じつに見てて微笑ましい。

というか…あれは尻に敷かれているといった感じだろうか。

うーん…。

最上の件の時の印象では、好きな人を支える健気な恋人という感じだったんだけどな。

今や管理されているという印象がするのは気のせいだろうか。

なんか男としては複雑だな。

そんな事を思いつつ苦笑して鍋島長官が聞いてくる。

「まぁまぁ…。理由はわかったよ。それで僕は、挨拶と紹介だけでいいんだね?」

かなりの念の入れようだ。

おそらく、あまりこういった事はしたくないと考えているのだろう。

戦いの前や何かあった時は、あれほど堂々と演説したりしているというのに…。

特に、兵たちに長官の演説は評判がいい。

わかりやすい。

短い。

自分達を心配してくれているのかひしひしとわかる。

そういった理由からだった。

だからこういった事は得意だろうと最初は思っていた。

しかし、本人が言うには一番苦手だという。

実におもしろいなと的場大佐は思う。

そして、あれは着飾った言葉ではなく、本心で思っている言葉だからこそ、あそこまで評判がいいと言う事なのだろう。

ぜひ見習いたい。

話すこと、相手に伝える事。

それは自分がもっとも苦手とする部分だ。

だから、長官から苦手であるにも関わらずあれだけの話が出来るコツを学びたい。

そういう部分もある。

だが、なにより大きいのは、自分は長官にどう表現してもらえるだろうか、どう言われるだろうか、と言う部分だ。

その点がすごく気になっていた。

「ええ。紹介をお願いします。それと…」

的場大佐がそこまで言って一旦言葉を切ると、続きを杵島中佐が続ける。

「あと、夏美には、友人からの紹介でお願いね」

「うん。もちろんだよ。ふっふっふ…。」

「何よ、その笑いはっ。変なの駄目だからね」

「うんうん。わかってる。助けてもらって、一目惚れで、血眼になって的場大佐の事探しまくったくせに、いざ見つかると緊張して何も言えなくて遠くで見ているだけだったり…」

「いやーっ。それは駄目っ」

「何言ってるのよ、いいじゃないの。一途な恋って感じが…」

「でも、それが恥ずかしいのよっ。さらっと…さらっとね」

「どうしようかな…」

「いや、本当に駄目だから…」

なんて、女性人二人は、結構きゃっきゃっ言って盛り上がっている。

うーん…。

テンション高いなぁ…二人とも…。

そんな事を思いつつ、鍋島長官が二人を見ていると横で苦笑している的場大佐と目があった。

お互い大変ですね。

そんな事を言っているように見えたが、恐らく相手も同じように自分の事を見ているのだろうと思う。

そう言えば…。

ふと思いついたので鍋島長官が女性陣二人をちらりと見ながら口を開いた。

「そう言えば、大佐とは二人で飲んだことないな」

「あ…そうですね」

的場大佐も頷きつつ返事を返す。

「今日はこの後の予定はどうなっている?」

「一応、式場の確認が終わったら、今夜はこっちで泊まって、明日の朝の便でイタオウ地区に戻る予定になっています」

「大変だな。あ、大佐をその役職に就けたのは、僕だったな。すまん…」

長官は苦笑すると頭を下げる。

それに慌てて的場大佐が答える。

「何を言っているんですか。こんなやりがいのある仕事を任せてもらって嬉しいですよ。こちらこそ、私用で御迷惑を…」

互いに頭を下げあった後、顔を合わせて笑う。

「なら、今夜、飲みに行かないか?」

「いいですね」

そんな二人の会話に、杵島中佐が割り込んできた。

「私もいきたいです」

「い、いや…僕は的場大佐と二人で…」

そう言いかけた鍋島長官だったが、その言葉を封じるように東郷大尉が参入した。

「私もいきます」

その絶対的な断言と言ってもいい口調に、鍋島長官は観念したらしい。

「わかった…。四人で行こうか…」

そう言ってため息を吐き出す鍋島長官。

そしてその様子を見て、申し訳なさそうに少し頭を下げる的場大佐。

どうやら、尻に敷かれているのはお互い様といった様子であった。


そして、その夜…。

時間は二十時を過ぎた頃だろうか。

マシナガ本島の繁華街の飲み屋に四人の姿がある。

『お福』と言う名の飲み屋の奥のお座敷でまずは麦酒での乾杯が終わったところだ。

「いい店ですね」

店内を見回して的場大佐がしみじみと言う。

「うんうん。いいよね。こういう感じのお店。落ち着くって感じ…」

それに相槌を打つのは杵島中佐だ。

「ああ、ここは結構僕がよく使うところでね、料理がうまいんだよ」

「へぇ…。そうなんですか。ふむ…」

そう言いつつ、的場大佐が一番手前の小鉢の煮物を口に運ぶ。

「旨い…。こりゃ旨い」

「本当…これ美味しい…」

杵島中佐も驚きの声をあげる。

その様子に鍋島長官と東郷大尉は互いに顔を見合わせて微笑む。

その様子に何か気が付いたのだろう。

的場大佐がちらりと鍋島長官の方を見て言う。

「もしかして、長官が絡んでませんか?」

その言葉に、鍋島長官は苦笑して種明かしをする。

ここの料理人と言うか女将の息子が、以前身辺警護した時に向こうの料理をかなり気に入ったらしく頼まれて色々援助した結果、その成果がこの店に生きている事を。

「なるほど…。そういうことですか。道理でこっちではあまりない味付けだとは思いましたよ」

的場大佐が感心したようにそう言って味わって煮物を食べている。

「へぇ…。そうなんだ…」

そう言ってちらちらと的場大佐を見ていた杵島中佐だったが、決心したのだろう。

鍋島長官の方を見ると身体を乗り出し、ずいーっと顔を近づけて言う。

「私にも料理を教えてくださいっ」

その必死な表情と勢いに鍋島長官は思わず後ろに仰け反りそうになったがなんとかそれを押さえ込む。

「い、いや…僕は簡単な事を教えただけとレシピなんかを用意しただけで…」

そんな鍋島長官を助ける為だろうか。

東郷大尉がぐいっと鍋島長官を自分の方に引き寄せて杵島中佐から引き離すと、少し目を細めて言う。

「私が教えます」

一瞬、言葉を失ったものの、我に返ったのだろう。

鍋島長官が少し頬を紅くしながら慌てて相槌を打つ。

「そ、そうだよ。東郷さんがいいと思うんだ。彼女の料理はここの料理に負けず劣らずの一品ですごく旨いからね」

一瞬、言葉を失ったのも、頬が少し紅いのも、引き寄せた際に鍋島長官の腕に押し付けられている東郷大尉の胸のふくらみの柔らかさが原因だが、どうやら誰もそれには気が付かなかったようで会話が続く。

「ほ、本当ですかっ?!」

「ああ。すごく旨いんだ。彼女に教われば、杵島中佐もすぐに上手くなるさ」

「良いんですか?」

そう聞いてきたのは、的場大佐だ。

申し訳なさそうな顔だが、まぁ、それでも嬉しそうなのは、旨い料理を食えるならという事があるのだろう。

「ああ。かまわないよな?」

そう東郷大尉に聞くと、彼女はぽんと自分の胸を叩いた。

「任せなさい。愛しい旦那様の胃袋はしっかりと掴める様に鍛えてあげるからね」

「はいっ。おねーさまっ」

なんか二人してノリノリである。

そう言えば二人は親友であり、ちょくちょく飲みに行ったりしているという話だったから、こういうノリで楽しんでいたのかもしれないなぁ。

仕方ない。

そのノリについていけそうにないので、その横で苦笑している的場大佐の方に視線を向けた。

どうやら、割り込むのは中々難しいと感じたのだろう。

的場大佐も鍋島長官の方に視線を向ける。

互いに苦笑した後、まず口を開いたのは鍋島長官だった。

「六月二十六日に結婚式と言う事だったが、休暇というか新婚旅行みたいなのはどうするつもりだ?」

「一応、三日ほど休みをいただいて温泉でも行こうかと思っています」

「三日でいいのか?偶には一週間とか長期に休みをとっても罰は当たらんだろう。それに君が選んだ幕僚達も優秀と聞いているし、北部方面司令を任している野辺少佐や南部方面司令の南雲中佐からも少しは休みを取るように言っておいて下さいって伝言が来てるぞ」

その鍋島長官の言葉に、的場大佐は頭をかいてまいったなという表情をする。

周りの的場大佐に対する思いが伝わったのだろう。

だが、すぐに表情を引き締めると口を開いた。

「いえ。それでも三日で十分です。マリの方も今映画の方が楽しくてしょうがないって言ってますし、それにもうすぐ例のアルンカス王国の姫様の映画が撮影はいりますしね。それに自分としても、例の件で色々勉強したいと思っていますし…」

例の件…。それは新しく編成された航空戦隊の件である。

平幸二十四年一月三日の時点では、第一航空戦隊 航空母艦 翔鶴 瑞鶴、第五航空戦隊 護衛空母 大鷹 雲鷹の二つ(第五航空戦隊は、どちらかと言うと航空機関係の輸送などをメインとしており、純粋に空母としての戦力は、第一航空戦隊、通称『一航戦』のみである)だけだった。

しかし、その後、航空母艦 蒼龍 飛龍 大鳳 飛鷹の四隻が就役。

一気に二つの航空戦隊が増強されたのである。

そして、この新しい二つの航空戦隊が本島の方で訓練に励む事になり、三月から、本格的な運用の為に第一航空戦隊の二隻は的場大佐の東部司令部に配属された。

なお、空母四隻が配備されたといっても飛行機がなければ空母など張子の虎でしかないが、以前から色々と準備をしてパイロット育成を行っていたおかげで、飛行機の配属されていない空母は一隻もない。

それどころか、あと数隻は十分配属できる数を用意しているし、まだまだパイロット育成には力を入れている。

予定としては、赤城、加賀 信濃の三隻の模型が用意してある上に、各基地の航空隊の充実も考えているためだ。

それに、将来的には飛行機がメインの時代が来るとわかっている以上、先行投資はやっておいて損はない。

しかし、それでも、帝国海軍内では、空母軽視の考えが主流となっているのは、この世界には飛行機という兵器がない為だろう。

だから、的場大佐のいろいろ勉強したいという発言は、鍋島長官を喜ばせた。

「そうか。それは嬉しいなぁ」

鍋島長官の言葉に、的場大佐は不思議そうな顔をする。

「なぁに、的場大佐のように考えてくれる人がまだ少ないからな。下が揃ったとしても上が知識も経験もないんじゃ真価は発揮できないだろう?」

「ええ。確かに…。しかし、山本大将や新見中将も…ですか?」

「ああ。一応、僕の意見は汲み取ってくれているし、実施もしてくれる。しかし、自らいろいろ勉強してみようといった動きはないし、やはり大艦巨砲主義が根本にあるから難しいんだろうな」

「そうでしたか…」

「一応、若手を優先して勉強させるように言っているんだが、実際に運用開始したばかりと言うのがね…。だから、的場大佐のように自ら進んでやってくれる者は大歓迎するって訳さ」

そこまで話したときだった。

追加の料理と酒が次々と運び込まれる。

女性陣は、なにやら色々話し込んでいたようだったが、新しく運び込まれた料理に視線が向くと喜びの声が上がる。

そして東郷大尉が料理一つ一つを解説やレシピを話している様子で、向こうは向こうで盛り上がっている様子だ。

ならこっちは気兼ねなく空母運用の話でもするかな。

鍋島長官のその思いはわかったのだろう。

的場大佐は頷くと二人して航空母艦や飛行機の運用の話を始めるのだった。

しかし、四人とも結婚式の話をしないで、何をやっているのやら…。

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