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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二章 海軍強化とシマト諸島奪回戦

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第二水雷戦隊 最上と的場良治大尉 その1 

「しかし、よかったのでしょうか?」

最上の付喪神がそう的場大尉に聞いてくる。

「この近辺の捜索をするという件か?」

近辺の海図を見下ろしながら的場大尉は返事をする。

「はい。別に確たる証拠もないのに他の地区の領海をうろうろするのは…」

その最上の言葉に、的場大尉はため息を吐き出した。

そして、海図から目を離すと最上の方に視線を向ける。

丸眼鏡の奥にある小さな目は鋭い。

「かまうもんか。敵がうろうろしてるのに気がつかない阿呆の事なんか気にするな。それにだ…」

鋭かった目が少し柔らかくなる。

「長官のおかげで我々は一地域の海軍ではなく、フソウ連合の海軍として認められたのだ。国家の一大事になる恐れがある調査を実施して何が悪い?」

「ですが…一応建前的にはきちんとした理由がないとですね…」

「だから言っているだろう。ちょっと引っかかるものがあったからだ」

「さっきからそればっかりですけど、それは的場大尉の勘みたいなものなのでしょう?」

「確かに勘だが、それだけではないぞ」

ふー…。

最上は息を吐き出した。

やっと会話が進んだと思ったからだ。

さっきから聞いても、的場大尉は「気になることがある」、「ちょっと引っかかるものがある」としか理由を言ってくれないからだ。

確かにこの第二水雷戦隊の司令官は彼…的場大尉だが、理由もなく命令されるよりも、理由を知って行動したいと思ってしまうのは、自分のわがままなのだろうか。

だが、やるからには納得してやりたい。

そんな思いが最上には強かった。

だから、ついつい理由を聞いていたのだ。

「では、教えてください」

最上がそう言うと、最上に向けていた視線を再び海図に戻して的場大尉は口を開いた。

「まず一つ目は、敵の艦が小型だったからだ」

「艦の大きさがどう関係するのでしょうか?」

「外の国の地形がどうなっているかわからないが、海の深さを考えれば、フソウ連邦と外の国は、ある程度離れていると思われる。その事を踏まえれば、侵入してくる艦はどうしてもある程度の大きさが必要だ。艦は小型になればなるほど航続距離は短くなる。そうなってくると、補給なんかが必要になるが、補給艦隊らしいものはいない」

「なるほど…。確かに…」

「それにあの大きさで嵐の結界を無傷で突破できるのか疑問を持ったというのもあるな」

的場大尉の言葉に、最上は感心して頷く。

確かにその通りだ。

実に理にかなっている。

「次に二つ目だが、この辺の海域は、昔は海賊がよく出没する海域だったんだ」

いきなりな話に最上の顔がわけがわからないといった表情になった。

しかし、海図を見ている的場大尉がそれに気がつくこともなく、そのまま言葉を続ける。

「俺の一族は、代々船乗りでな。海での出来事や情報を記録としてかなりの量残してくれていた。俺はその記録を絵本代わりに読んで大きくなったんだ。そして、その中の記録に、この海域周辺を荒らしまわった海賊がねぐらとする島があるといううわさが記載されていたんだよ」

そこまで言われて、やっと合点がいったのだろう。

「つまり…。この海域の島の中に、敵が拠点を作り上げている可能性があると?」

「そういうことだ」

そう言って、的場大尉は最上の方を見てニヤリと笑う。

「しかし、わが水雷戦隊の旗艦が最上でよかったよ。もし龍田だったら増援を頼まなければならなかった」

そう言われて最上も苦笑する。

基本、日本海軍の初期の軽巡洋艦は、水上機を運用しない。

一部、運用を考えたものはあったものの、のち改修で廃止されてしまっている。

対して最上は、ワシントン海軍軍縮条約会議で補助艦の制限を受ける中、軽巡の保有枠を使い、条約失効後には主砲を20センチ砲に取替えて重巡洋艦として運用できる艦を目指して作られた。

主砲のサイズこそ軽巡の制限一杯となる15.5センチ砲だが、船体は20センチ砲に耐えられるつくりであり、実質的には重巡洋艦と変わらない設計となっている。

そして、その設計の恩恵により、最上は水上機三機を搭載可能となっていた。

「零式水偵の準備はすぐにさせますよ。それで、どの辺りを中心に捜索させるんですか?」

最上の言葉に、的場大尉は海図の中心あたりをぐるりと指で円を描くように回して指差す。

「ここらあたりをお願いしたい」

「根拠は?」

「ここらあたりは、大小多数の島によって構成されているが人は住んでいないという事もあってあまり知られていない区域だ。それに本部から距離があるため、飛行機による監視網にまだ組み込まれていないからな」

的場大尉の説明に、最上は頷く。

それと同時に、的場大尉の言葉に感心していた。

最初は何を考えているかわからない男という印象だったが、こうやってしっかり話してみると実にきちんとした考えを持っていることがわかる。

ただ、それをなかなか口にしないのだ。

口にすればもっとこの男は周りから理解されるだろうが、何が理由であるかは知らないがその努力をしない。

実におもしろい。

そう思いつつ、最上が笑いながら口を開く。

「やっと、大尉の事を少し理解できたように思いますよ」

その言葉に的場大尉は驚いた表情で海図から目を離して聞き返す。

「それはどういう意味だ?」

その言葉に、最上はますます笑って口を開いた。

「いえいえ、大尉とはうまくやっていけそうだなと思っただけですよ」

そう言われ、半信半疑の表情だったが、的場大尉は「ならいいが…」とだけ返事をした。

その様子がますます笑いのツボを刺激したが、最上は何とか笑いを抑える。

「ではっ、準備出来次第、各機出撃させます」

「わかった。よろしく頼む」

的場大尉はそう言うと再び海図をじっと見直し始めていた。

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