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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第一章 はじまり、そして始めての海戦(ガサ沖海戦)
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日誌 第一日目 その2

実に素晴らしい光景だ。

自分が作ったもの。

自分が想像したものが目の前にある。

それはまさに感無量と言っていいだろう。

しかし、目の前に広がる風景をずっと見ていたいが、いつまでもそのままと言うわけにはいかないのが悲しいところだが仕方ない。

僕はゆっくりと二人の方を向き、なるべく刺激しないように笑顔で聞いた。

「それで、僕に求めるものは何ですか?」

僕の言葉に二人は驚いた表情を見せる。

多分、そういう風に聞いてくるとは思わなかったに違いない。

東郷大尉は唖然とした後、どうすべきか迷っている感じだ。

三島さんも少し考え込む素振りを見せたものの、すくに苦笑して聞いてきた。

「どうしてそう思ったの?」

その言葉には探ろうというニュアンスが含まれていた。

それはそうだろう。

いきなり言われたら警戒するだろうが、こっちもこのままなあなあで巻き込まれるのは勘弁だ。

「なあに、こういう大掛かりな事をしている以上、無料ってわけじゃないと思ってね」

僕はそう言って両手を挙げておどけてみせた後、ざっと右手を広げて周りを見渡すように動かしてみせる。

「ここまでやるには何か理由があるはずだ。そして、その理由が何なのかを僕は知りたいんだよ」

「なぜ?」

「だってさ、このまま訳がわからないままで巻き込まれるより、きちんと理由を知って巻き込まれた方が僕の気持ちが落ち着くからね」

そう言って笑う。

僕の言葉に唖然とした表情の三島さんだったが、すぐ声をあげて笑い出す。

「いやはや、君はなかなか肝が据わっているし、面白い男だ。気に入ったぞ」

そして、まだ迷っている東郷大尉の方を見て言う。

「もうきちんと説明したほうがいいようだぞ、大尉。私達の最初のプランは中止だ」

どうやら最初のプランとしては、説明より先に現状を理解させて巻き込むつもりだったようだ。

まぁ、普通だとそれでいいと思うんだけど、僕は今までの人生でたっぷりと嫌な思いをして生きてきた分、自分が納得できない事はしたくないと心に決めている。

そして、納得する為には理由がわからないとどうしょうもない。

そういうわけだから、彼女らのとった方法は間違ってはいないと思う。

ただ、僕に合わなかっただけだ。

「わかりました。長官殿には、最初にきちんとこの状態になった理由をご説明いたします」

諦めた表情で東郷大尉が言う。

だが、その表情を見て少し気になったので聞いてみることにした。

「予定としては、この後どうするつもりだったの?」

まさかそう聞かれるとは思ってなかっただろう。

少し驚いた表情をすると苦笑しつつ大尉は話してくれた。

この後は、施設内の見学や艦船や飛行機の搭乗といった事をして楽しんでもらい、まずはここにいたいという気になってもらう。

そして、少しずつ仕事をしてもらうように流れを持っていくつもりだったそうだ。

まぁ、三日近くかけてやる予定だったみたいだが、それを僕は一時間もしないうちにご破算にしてしまったのだから準備ご苦労様って感じだ。

「えっと…理由をきちんと聞いて、納得できたらプランどおりに施設見学や搭乗なんかもするから…」

なんか可哀想になって僕は思わずそう言ってしまった。

すると大尉が目を輝かせて「よろしいんですか?」と言って僕の両手を握ってくる。

「ああ…。でも納得したらだからね…」

「はいっ。楽しみにしています。やったーっ。準備が無駄にならなくて済む~」

どうやら、彼女の中では、僕が断るという選択がないようだった。

そんな僕らのやり取りを三島さんが笑いながら見ている。

「なかなかいいコンビじゃないか」

「あのですね。笑ってないで、何とかしてくださいよ」

僕がそう言うと、三島さんはニタリと笑って僕に言った。

「ふふっ。甘いな。これで断りづらくなったな」

その言葉に、僕は天を仰いで叫ぶ。

「どうにかしてくれーーーっ」


「ごちそうさまでした」

僕は箸を置いて手を合わせる。

向かい側には、東郷大尉と三島さんが同じように食事を終えて、僕と同じように手を合わせていた。

「文化的には、僕の世界の日本に近いですね」

そう言って、僕は食器に目をやって言葉を続ける。

食後に緑色のお茶なんかも出される辺り、実にそのまんまだ。

「それに料理や味付けなんかも…。それとも、ここだけなんですか?」

僕の問いに、三島さんが説明してくれる。

ここ、フソウ連合では基本的にこういう風な感じらしい。

つまりは、日本食に近いと言っていいだろう。

もっとも、地域によって味付けや調理法の違いはあるらしいのだが…。

それよりも気になる固有名詞が出てきたので聞いてみる。

「フソウ連合って?」

「このマシガナ本島を含め、大きな島八つと小島からなるこの周辺一帯の名前で、八つの地区の代表から成り立っています」

「へぇ。島国ってことですね。日本と同じか…」

そこまで聞いて、ふと思いつく…。

島国と言う事は、外敵が来なければ平和である。

特に航海技術が発達していない時代なんかは、より安全といえるだろう。

なのに、僕の模型やジオラマを実物化したのって…。

「もしかして…、この国を守るために僕のジオラマや兵器を実物化したとか…」

当たらない事を祈りつつ恐る恐る聞いてみる。

「よくわかったな。そのとおりだよ」

三島さんがすました顔で言う。

ちょっと待ってくれ。

「あれ、模型ですよ。本物じゃありませんよ」

「心配するな。あれは寄り代として使われただけだ。魔法によって歴史が改ざんされたためこの島の文化レベルが上昇した結果、あれは実物となった。それだけのことだ」

いや、しれーっと言ってますが、すごい事じゃないですか。

「なら、あれらは、どうなってるんですか?」

「基本は、あの寄り代に宿る付喪神が物体化させて動かしておる。しかし、細かいところなんかは人の手を借りる必要があるみたいだな。だから、本来必要な人数ほどではないが、人が乗りこんでおる」

「まったく人が乗っていないというわけではないんですね」

「そうなるな…。それに歴史が改ざんされたからな。この島に生活している人間は、お前さんが設定したとおりになっておるしな」

そう言われ、僕は思い出す。

この軍事拠点の設定を…。

それがそのまんまなら、かなりの戦力になるのではないだろうか。

でも、それが必要って事はどういうことなんだろうか。

「でも、この国にも戦力はあるんじゃないんですか?」

東郷大尉が悲しそうな顔をする。

「戦力はありますけど…差が大きいんです。この島は長官殿のおかげで近代的ですけど、他の七つの島のほとんどは外の国の文化レベルに比べれば大きく劣っていると思います」

「どの程度違うの?」

「まぁ、詳しくはわかりませんが相手側は金属の装甲を持ち、蒸気で動く船を作れますから」

「こっちは?」

「金属製の船を作る技術は…ありません」

これはかなりの文明レベルの差があるのではないだろうか。

しかし、なんでこんなに文明レベルが違うのだろうか。

そんな僕の考えが表情からわかったのだろうか。

三島さんがすすっていたお茶をテーブルに置いて僕を見た。

「この国はね、二百年の間、鎖国をしていたんだよ。それも魔法による嵐の結界で完全に行き来を出来なくしてね…」

「なるほど…。それで外部との交流が無く停滞してしまっていたと…」

「そのとおりだよ。私の一族は、その魔術を管理している一族でな。今もその結界は継続している状態だ」

そう言われて不思議に思う。

文明的に遅れている祖国を守るために僕を召喚してジオラマを実物化したらしいけど、結界があるならその必要性もないはず…。

「なら、わざわざ僕みたいなのを召喚したり、ジオラマを本物にしたりする必要性は無いじゃないですか…。それだけ文明の差はあっても、干渉出来なければ問題ないわけですし…」

「それが干渉され始めたのだよ…」

面白くなさそうに三島さんが言う。

「まだ少しだけだが、嵐の結界を突破してくる連中が出てきたんだ。蒸気機関によって動く忌々しい鉄の船でな…」

「おかげで小さな村や小島の部落で被害が出ています。それに…」

大尉がそこまで言って言葉を止める…。

言うべきか言わざるべきか迷っているようだ。

「言ってくれ…東郷大尉」

「二日前に来た外の国の軍艦から書簡が来たの。属国になれって…」

「それは…」

言葉に詰まる。

多分、属国と言うより植民地といったほうが正しいのではないだろうか。

かって、日本が行ったような統治ならまだいい。

あれは搾り取るだけでなくインフラ整備や教育等を行い、占領した国の国力レベルや国民の力を上げる政策をしていた。

それが絶対に正しいとは思わないが、西洋よりはマシだ。

なぜなら西洋が行った統治は、死なない程度に搾り取り、自国の事のみを考えた統治だったからだ。

そこには、その土地に住む者たちの事を考えていると言った事はほとんど無かった。

教育さえも一部の人間のみであり、頭がよくなる→考える事ができる→自分達のしていている事に対して反逆するに違いないという考えもあったという話だ。

無知のほうが統治しやすいとはよく言われているから。

しかし、もしそんなことになったらこの国はどうなるだろうか。

日本に近い文化を持つ人々が苦しめられるだけでなく、反逆でもしたら下手したら民族浄化の危険性さえある。

そういうことが決してないと言えない事は、僕の世界の歴史が教えてくれている。

なにより、そんなことになっていいはずがない。

だが、僕が関わっていいのだろうか。

まだどうするかも決めていない宙ぶらりんな自分が簡単に言葉を返す権利があるだろうか。

それに何も知らない部外者が色々言ってもいい結果にはならないことが多い。

だから、どうしても言葉にならずに迷う。

そんな僕にお構いなしに、三島さんが話を続けた。

「ちなみに、ご丁寧に文章の最後にこう書かれていたよ。『拒否した場合は、わが国の艦隊で攻め滅ぼす』と…ね。そして、今のままだと我々は間違いなく勝てない。だから…」

そこまで言って僕を見た。

大尉も僕を見ている。

ふーーっ。

天井を向き、息を吐き出す。

そして、僕は二人を見た。

「それで僕と僕の作った模型が必要だったわけか…。それで…現状はどうなってるの?」

「三日後に、各島の代表が集まって話し合い、返事をすることになってるわ…。今のところだと徹底抗戦を唱えているのは二名、降伏を考えているのは三名。迷っているのが二名ってところかな…」

「この島は…」

「あなたを召喚したってことが答えよ」

三島さんがそう言って笑う。

つまり、抗戦派ということらしい。

「現状はわかったよ。でも少し考えさせて欲しいんだ」

僕がそう言うと、納得したような顔をする二人。

「まぁ、いきなり結論を出せとは言わないよ」

「重大な決定ですからね」

「それでね…。結論を出す為にお願いしたい事があるんだけど…」

僕の言葉に、二人は顔を見合わせてきょとんとした表情で僕を見たのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >>かって、日本が行ったような統治ならまだいい。 あれは搾り取るだけでなくインフラ整備や教育等を行い、占領した国の国力レベルや国民の力を上げる政策をしていた。 流石、素晴らしいですね。…
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