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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二章 海軍強化とシマト諸島奪回戦

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日誌 第六日目 その1 

目覚ましが鳴る前に起きる事が出来たので、僕は階段をおりてると、トントントンと言うリズミカルな音に気がつく。

どうやら一階の台所が音源のようだった。

気になって台所の暖簾からひょいと中を覗いてみる。

そこには予想通り、エプロンをつけた東郷大尉が朝ごはんを準備していた。

しかし、ここで一緒に暮らすようになってからというもの、もうすっかり家での朝食は東郷大尉にまかせっきりになってしまっている。

いやぁ、なんかこういうのはいいなぁ…。

味噌汁の香りが食欲をそそる。

一人暮らしでは味わえない贅沢な瞬間だと思う。

「やぁ、おはよう…」

声をかけるとにこやかな笑顔で東郷大尉が振り向いた。

「あ、おはようございます、長官。今朝は早いんですね」

何気ない言葉だが、朝が弱くていつもギリギリまで寝ている身としては、かなり痛い言葉である。

「まぁね。今日は実験したい事があってね…」

「実験ですか?」

「ああ。午後にでもやろうかと思っている。それより、昨日連絡のあった北部から侵入してきた連中の件だけど、どうなったか報告はきてるかな?」

僕の問いに、東郷大尉は少し悔しそうな顔をして言う。

「残念ながら逃げられたとの事です。艦隊が到着する前に離脱されたと今朝報告が届いていました。また夜間の為、零式艦上偵察機では追跡できなかったようです。それに運が悪い事に二式大艇が現場に行けなかったみたいで…」

「そうか…。零偵じゃ二式大艇と違って行動監視には向いてないか…」

「そうですね。小型ですし、それになにより偵察による敵発見が主任務ですから…」

「それもそうだな。もっとも、今回の最大の問題点は初動が遅れた事と現場との距離だ。やはり北部に拠点がないときついな…」

僕の言葉に考え込んでいた東郷大尉だったが、思い出したように聞いてくる。

「そういえば、昨日の夕方、最北のイタオウ地区責任者に北部から侵入する艦隊アリと報告されたと聞きましたが、それで少しはいい方向を向くのでは?」

「どうだろうねぇ…」

僕の言葉に不思議そうな顔をする東郷大尉。

「基地建設を進めるための偽情報と思われている可能性があるからね。それに、今まで何回も侵入されている形跡があるとも伝えたから、それなのに気がつかなかったとなれば下手したらあの地区責任者の管理責任問題にもなる恐れがあるからな。偽情報と思って対応しなかった、或いはそんな話は聞かなかった事にする可能性もあるな」

「はぁ…なんですか、それは…」

呆れ返ったような顔をした後、東郷大尉はため息を吐き出した。

「本当に情けない…。何のための組織ですか。自分の保身の為に住民に知らせないつもりなんですよね、それって…」

「ああ。そうなるね…」

「呆れたっ…。本当にあの地区の上は腐ってるわ」

そう言った後、ふうと息を吐き出し、言葉を続ける。

「だけどそれと同時に私の住む地区がこの地区でよかったとなんか安心しちゃいましたよ」

東郷大尉の本音に苦笑しつつ、僕は口を開く。

「だからこそ事態の急変に対応できる行政機関とそれに対応できる軍組織が必要だとつくづく感じたね」

そう言って肩をすくめた僕に東郷大尉はくすりと笑った。

「頼りにしていますよ、長官」

「ああ。出来る限りの事はするつもりだよ。それと…」

僕は言葉を止め、ひょいと東郷大尉の背中の方を指差す。

「そろそろ火をとめたほうがいいんじゃないかな…」

「えっ?!」

言われて振り返る東郷大尉。

そして、目の前で黒焦げていくししゃもに気がつくと慌てて火を止める。

しかし、時すでに遅く、ししゃもの実に六割以上は炭と化していたのだった。


朝食を終えて長官室に入り、事務仕事を初めて三十分もしないうちに来訪者があった。

参謀本部本部長の新見大佐だ。

「まことに申し訳ありません」

入ってくるなり新見大佐が頭を下げる。

多分、艦隊の出撃が不発に終わったことだろう。

「いいよ。仕方ない事だ。警戒網も、地区基地もない現状では仕方ない事だよ。それに連中の編成は、スピード重視の小型艦中心だったみたいだし…」

「はい。水雷戦隊を先行させてかなり急いだのですが現場海域には敵影は発見できないとの事でした。また、監視に当たっていた零式艦上偵察機では長期の行動監視は無理なようで見失ったとの報告も上がっております」

新見大佐の言葉に、僕はため息を吐き出した。

「やっぱり今ある二式大艇と九七式飛行艇だけでは警戒範囲をカバーしきれないか…」

「そうですね。現場もがんばっているとは思いますが…」

神妙な顔でそう言う新見大佐に、僕は苦笑して答える。

「こっちもなるだけ早い時期に二式大艇を増産するよ。それまでは現場の負担は大きいかもしれないが、踏ん張ってくれと伝えて欲しい」

「了解しました」

敬礼して肩を落として退出しようとする新見大佐に、僕は気になっていた事を聞くことにした。

「そういえば、派遣した艦隊は、どうしたんだ?」

僕の言葉に、帰ろうとした新見大佐は慌てて帰るの止めると僕の方に向き直った。

「そうでした。それを報告し忘れていました」

どうやら、今回の敵を捕捉しそこねた件は新見大佐としてはかなり不本意であり、悔しい事だったようだ。

それと同時に、この冷静沈着な人物もなかなか人間臭いところがあるんだなと思って自然と苦笑いが出てしまう。

「…長官…」

なんか困ったような表情を見せる新見大佐。

さすがに申し訳なく思い、表情を改めなおす。

「すまん…。なんか、いつも冷静沈着な大佐が珍しいと思ってね」

僕がそう言うと、今度は新見大佐が苦笑した。

「私だって人間ですからね。それに、今回は前回活躍のなかった第二水雷戦隊や的場大尉に活躍の場を与えられると思ってましたから…」

どうやら、いろいろ参謀本部長として苦労しているようだ。

「まぁ。すぐに機会はまたあるさ。で…、報告を頼む」

僕の言葉に、すぐに表情を引き締めると新見大佐は背を伸ばした。

「はっ。一応、現場海域の調査をしたいとの事でしたので、調査を許可しております。多分ですが、今日明日の二日間は調査するのではないかと思います」

その言葉に、ふと疑問が頭に浮かぶ。

「何か腑に落ちない点があったと感じたんだろうな…」

そう言いつつ、昨日の報告や今朝の報告、そして今の新見大佐の言葉を反芻する。

そして、今の現状も…。

「なぁ、大佐…」

「なんでしょうか」

「相手は駆逐艦よりも小型の哨戒艇に近い大きさの船四隻ってことだったよね」

僕の問いに怪訝そうな表情を浮かべる新見大佐。

「ええ。そういう報告ですが…」

「確認したいんだけど、嵐の結界って、出るのはともかく、そんな小型の船でも簡単に突破して入り込む事ができるものなのかな?」

僕の言葉に一瞬きょとんとした表情をしたものの、すぐに気がついたのだろう。

新見大佐の顔に緊張が走る。

「まさか…」

「そのまさかの可能性があると思ったんだろうな、的場大尉は…」

そして僕は咳払いをした後、新見大佐に命令を下した。

「急いで上陸及び制圧の為の陸戦隊の編成とそれを輸送する船団。それに護衛戦隊の準備を始めてくれ」

「了解しました」

敬礼すると早足で長官室を退出する新見大佐。

その後ろ姿を見つつ、僕は自分の中の的場大尉の現場判断力を高く評価し直していた。

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