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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十八章 帝国崩壊

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日誌 第二百五十八日目

『ソルシャーム社会主義共和国連邦』の宣言文の内容が書かれた報告書に目を通し、僕は苦笑した。

そんな僕を、何人もの目が見ている。

その視線は、僕の意見を聞きたがっているように思えたので、僕は報告書をテーブルに置くと口を開いた。

「話にならないな…。これは…」

僕の言葉に、川見大佐が聞き返してくる。

「ですが、帝国ではこの宣言文でかなり混乱が生じているそうです。特に親衛隊の支配する地域は、暴動やストライキ、デモといった感じで手が付けられなくなりつつあるみたいですね。反対に、帝国海軍の支配する北部はある程度落ち着いているそうですが…」

その口調からは、帝国全土が混乱すればいいのにというニュアンスが感じられる。

そういや…魔女の一件があったな…。

僕はその事を思い出して苦笑する。

「それは、要はそれだけ親衛隊の支配する地区の帝国国民が追い詰められているからだと思うよ」

僕の言葉に、会議室にいる全員の視線がより強くなった。

それは僕の意見に同意という事のようだった。

ここは、マシナガ本島にある海軍司令部の第一会議室で、帝国東部地区の独立宣言によって状態が急変した帝国に関しての緊急会議が今開かれている。

出席者は、実働部隊の長である艦隊司令の山本大将、参謀本部本部長の新見中将、諜報部の川見大佐、東部方面指令部の的場大佐、それに最近増設された外交部でまとめ役をしている中田稔中佐、秘書官の東郷大尉、後は僕を入れて七名だ。

「それはわかりましたけど、話にならないとはどういったことでしょうか?」

思わず疑問に思ったのだろう。

東郷大尉が独り言のように言う。

その問いに、僕は笑いつつ答える。

「連中は富の平等とか権利とかそれらしく言っているけど、それは決して出来ない絵空事でしかないとわかっているからだよ。だから、話にならないって事」

僕の言葉に、ますます困ったような顔をする東郷大尉。

その様子に、僕は説明を付け足す。

「大体、富の平等というが、それはある意味、不平等を生み出す事になってしまうんだよ。考えてみるといいよ。しっかり働いたものと、たいして働いていないものがいたとしても、富の平等を実施したら、両方同じ富を与えなければならない。富の平等とは、働きに違いがあったとしてももらえるものは同じってことだからね。例えると100の仕事量働いた人とまったく働かなかった人がいたとしても、どちらももらえるのは50の仕事量分の富みって事になる」

「なんか、きちんと働いた方が馬鹿みたいですよね、それって…」

「そういうこと。つまり、平等に与えられる富は働く量や内容を考えれば実に不平等ってことだよ。あれだけ働いたのに、あんなに成果を残したのに手に入れられるのは皆同じ…。そして、それが長く続いた場合、その恩恵を受ける者達はどうなると思う?」

「もしかして…」

「そう、誰もが働くなってしまうってことさ。もちろん、そうならないようにノルマなんかを使っていろいろやるんだろうけどさ、それは無駄になると思うよ。だって、誰だって楽したいじゃないか。必死に働かなくても富が得られるんだから」

僕の言葉に頷きつつ今度は新見中将が口を開いた。

「それにその富の平等という微妙なさじ加減を決めるのは機械ではなく人ですからな。そして、機械のように全てを平等にする事を決して人は出来ない。だから、どうしても分配には感情や利害が関係してきてしまう。そうなると平等なんて無理でしょう。例え最初は出来たとしても、それをずっとは続けられない。だから、富の平等の分配というのは絵空事だと長官は切り捨てられたんだと思う」

「じゃあ、そんな欲や感情がなければ…」

「感情や欲がない人などいない。もしいたとしたらそれは人じゃないよ」

そう言った後、新見中将は苦笑して「だから、欲があるから人は発展していくんだと私は思いますがね」と付け足すと、東郷大尉が少し考え込むように聞いてくる。

「つまり、ここでの平等というのは、追い詰められた帝国国民を釣るためのあくまでも餌だということでしょうか?」

その問いに頷きつつ僕が答える。

「そういうことだよ。よく考えたらわかる事なんだよ。だけど、人は追い詰められている時ほど、思考が止まる。そして騙されやすくなる…」

僕のその言葉の後に的場大佐が吐き捨てるように口を開いた。

「平等を連呼するやつにろくなやつはいない。権利や平等ばかりを言う割には、義務には知らん顔する連中ばかりだからな」

何か以前にそういった思想の連中とトラブルにあったのだろうか。

その言葉には、憎々しいほどの嫌味と憎しみが込められている。

まぁ、確かに、僕の世界でもそんな連中はうじゃうじゃいたからな。

権利ばかり主張して義務を果たさない大馬鹿者達が…。

その的場大佐の言葉に納得したような表情の川見大佐が口を開く。

「それで、今後の対策ですがどうしましょうか?」

「現状は、様子見だね。今の僕らは、帝国海軍との秘密裏に手を結んだだけだからね。表立って動くことは出来ないよ。だから情報集めを優先してくれ」

僕がそう言うと、川見大佐は「はっ。了解しました」と返事をして頭を軽く下げる。

僕は頷くとゆっくりと視線を動かす。

向けた先は中田中佐だ。

「それと、急いで共和国と王国、あと合衆国の政府に今回の件の確認を頼む。他の強国がこの出来事に関してどういった対処をするか確認しておきたい。あと、帝国海軍の方にも連絡を入れてくれ。我々はこのまま支援を続行すると付け加えておく事を忘れないようにな」

「はっ。了解しました。すぐにでも各駐在大使に連絡をいれ確認させます」

「ああ。頼むぞ」

次に向けたのは、新見中将、的場大佐の方だ。

「あと、領海内の警備の強化を…。恐らくだが、船が流されてこっち側に来るやつがあるかもしれん。以前と違い、嵐の結界はもうないからな。あと、収容施設を急いで用意しておいたほうが良さそうだ」

「了解しました。警備の方は各方面に連絡し、より強化しておきます。後、収容施設は、候補地の無人島の資料を明日にでもお渡ししいたします」

「頼むよ」

僕はそう言って息を吐き出した。

今回の緊急会議はこれで終了のはずだ。

あとは…。そう考えつつ視線を動かす。

そう言えば、今日から六月だったな。

六月…、六月…。

何かが頭の隅に引っかかっている。

なんだったっけ。

視線を泳がせていると的場大佐の視線とぶつかり合った。

そして思い出す。

「そうだ。的場大佐、少しいいかな?」

「はい。なんでしょうか?」

会議は終わったと思っていたのだろう。

少し驚いたような表情で的場大佐がそう聞き返す。

「えっとだな…。六月に結婚するって話だったよな」

「あ、はい。六月の下旬の予定で準備しております。しかし、いいのでしょうか?」

「何がだい?」

「こんな時期に結婚して…」

恐らく、これから世界は大きく変化するだろう。

そしてその波は、フソウ連合を襲うに違いない。

だからこそ、的場大佐はこんな時期に結婚するという事を申し訳ないと思ったのだろう。

だから僕は笑い飛ばす。

「そんなのは気にするな。個人の都合と世界の都合をあわせる必要性はまったくない。それにだ、世界の都合に合わせたら、誰も結婚できなくなるぞ」

僕がそう言うと、周りの連中も頷いたり、笑ったりしている。

その様子に的場大佐は少し照れながら頭を下げる。

以外と照れ屋なのかもしれない。

そして、僕は思い出したついでに聞いておく事にした。

「それでだ。仲人は何をすればいいんだ?」

僕がそう聞くと的場大佐よりも先に新見中将がうれしそうに口を挟む。

「ほほう。誰が仲人をするかと思ったら長官でしたか。なんなら私がお教えしますぞ」

「ああ、そうか。助かるよ。なんせしたことないからな」

「お任せください」

そう新見中将は言った後、僕を見て少し考え込む。

何か問題があるのだろうか…。

僕がそう思っていると、新見中将は「うーん」と唸りつつ口を開いた。

「まぁ、仲人の事は後で時間をかけてお教えしますが、まず最初に長官にまず決めていただきたい事があります」

「ほほう。なんだい?」

「仲人というのは、一人では出来ません。大抵二人で、そうですね、理想を言うなら夫婦でというのがいいですね。ですから相方を決めていただきたいのです」

その言葉に、僕の動きが止まる。

ちょっと待て…。

何回か出た結婚式の様子を思い出す。

そう言えば…確かに仲人って夫婦でやっているのしか見たことないな。

なんで気がつかなかったんだ、僕は…。

すーっと背中が冷たい汗で濡れていくが、何気ない感じで涼しい顔をして聞いてみる。

「だけど、僕は結婚していないし…」

「そういう場合は、パートナーというか相方を決めていただく事になります」

「パートナー…相方…」

「ええ。相方です。もっとも、長官にはきちんといいお相手がおられるようですので心配しておりませんが…」

そう言ってある方向に視線を送り、新見中将はニタリと笑った。

その視線の先にいるのは東郷大尉だ。

東郷大尉は真っ赤な顔で僕を見ている。

多分、僕も真っ赤だろう。

耳が熱い。

後でという選択肢もあったが、今言えという感じの雰囲気が辺りを包む。

しまったっ。これは…。

僕は思わず逃げ出す事を考えたが、それはそれで卑怯ではないかと思えてしまい、逃げる事を諦めた。

どうせ言わなきゃならないんだ。

なら…。

それはある意味、開き直りである。

だが、そんな事はどうでもいい。

僕は意を決して口を開く。

「えっと…だな…」

僕は真っ赤になりつつも何とかそう言った後、視線を東郷大尉に向けて言葉を続けた。

「的場大佐の結婚式の仲人の相方を…君にお願いできないだろうか…東郷大尉…」

周りの視線が痛いが、それ以上に東郷大尉の返事の方が気になって仕方ない。

僕の視線を真正面に受けつつ、目を逸らさずに東郷大尉は口を開いた。

「はい。不束者ですが、よろしくお願いいたします」

その瞬間、拍手と喝采が会議室に湧き上がった。

その熱気に、僕は照れ笑いを浮かべつつ考える。

東郷大尉の返事って…なんか、これって…プロポーズしたときの返事みたいだと…。

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[一言] 愉しい赤軍式粛清祭りの始まり
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