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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十八章 帝国崩壊

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情報戦

「くそがっ。東部地区の連中めがっ」

親衛隊のエリク長官は忌々しそうにデスクの上に広げられている帝国地図の東部地区辺りを叩く。

どんっという大きな音がなり、傍にいた副官が少し身体をびくりとさせた。

「しかし、予想外に抵抗しますな…」

副官が地図の東部地区の一端を見て言う。

見ている先には、リッターラの街が記されている。

東部にいく方法としては、大きく分けて二つある。

一つは、鉄道を使う事。

そして、もう一つが東部に続く唯一の街道を使う事であった。

しかし、鉄道網は破壊工作によってすでにガタガタになってしまっており、この街道が唯一の東部地区への入口であった。

そして、その街道を塞ぐかのようにあるのがリッターラの街だ。

東部と中央区を繋ぐ交通の要所として栄えた街ではあったが、今は完全に東部方面へいく為の入り口を塞ぐ栓の役割を果たしている。

この街さえ抜けてしまえば、一気に東部地区の穀倉地帯が広がっており、一気に攻め入る事が出来る。

それが東部地区の国民義勇軍もわかっている為、リッターラの街に兵力の大部分を集結し、要塞化して徹底抗戦をしているのだ。

厚いコンクリートによって守られた幾つもの砲台、巧みに網のように張り巡らした塹壕、それらが親衛隊の進行を押し留めている。

「ああ。実に厄介だ。連中め、いつの間に。これでは教国の艦隊を潰し、一気に東部地区を制覇してそのまま帝国海軍と決着をつけるという計画が狂ってしまうではないか…、戦力の増強はどうなっておる?」

「只今、一万の兵力の編成と火砲百門の準備をしております。ですがこれ以上は中々難しいかと…」

「やはり帝国海軍に対しての防御兵力として、ここの第六師団と第十二火砲連隊は動かせぬか…」

とんとんと西部地区の境の位置辺りをエリク長官は人差し指で叩く。

「はい。海軍の連中は派手な動きはないのですが、流石に危機感を感じているのでしょう。境に連中も陸上戦力を集中配備しているようです」

「流石に抜け目ないな…」

エリク長官は腕を組んでそう呟く様にいう。

そして、視線を地図から副官の方に向けた。

「そう言えば、アデリナの艦隊はどうしている?」

「共和国艦隊の侵攻と帝国艦隊の動きに対応する為、ミザン港で整備補給中であります」

「そうか…。いざとなったら連中も動いてもらう必要性があるな…。それと帝国海軍艦隊の方の動きは?」

「哨戒などの通常任務での動きはありますが、魔女の件以降は艦隊としては不気味なほどに動きがありません」

エリク長官が考え込みつつ聞き返す。

「他に変な動きはないか?」

そう聞かれ副官は少し考え込んだ後「動きというわけではありませんが…」と最初に言ってから言葉を続けた。

「ビスマルク、グナイゼナウの二隻がアレサンドラから姿を消したという噂があります」

怪訝そうな顔で顔でエリク長官は聞き返す。

「姿を消した?」

「はい。アレサンドラのドックから姿を消したというあくまでも噂が流れているようです」

「あんな巨艦、あるかないかはすぐわかるだろうがっ。それを噂などと…」

呆れかえった表情をしてエリク長官は興味をなくしたように言うが、副官の方はまだ半信半疑といった感じでいう。

「それが…一番奥のドック周りがかなり厳重な警戒に変わったのと、ドックの周りに仮設の壁が作られて見えなくされているそうです。おかしいと思いませんか?ビスマルク、グナイゼナウは帝国の戦艦と言う事は世界中が知っています。なら、なぜ隠す必要があるのでしょうか?」

その言葉に、エリク長官の表情が変わる。

真剣な考え込むような表情。

そして、腕を組んで独り言のように呟く。

「確かにそれはおかしいな。海軍の連中にとってそんな事をする必要性がない事はわかっているはずだし、何より余裕はないはずだ。なのに…なぜ?」

「やはりそこに存在しないことを隠す為では?」

そう言われ、エリク長官は聞き返す。

「では、なぜそんな事をしたか考えられるかね?」

「修理の為では?今のアレサンドラの修理機材ではいつ修理が完了するかわかりませんからね」

「では、どこで修理していると考えられる?」

「それは…」

そこまで言って副官は黙り込む。

帝国での最大の修理の為の環境は、大きく落ちたとはいえアレサンドラを超える港はない。

つまり、どこの港に行ったとしても、余計に修理に時間がかかるというだけだ。

また、国外の国に修理を依頼するにしても、今の現状の二隻をその国まで曳航する事は不可能に近い。

ましてや、あの二隻を修理できる規模を持つドックを持つとなると、王国、共和国、フソウ連合あたりだが、共和国は遠すぎるし、王国とフソウ連合とは戦争中だ。

国内の混乱が終われば牙を向くかもしれない相手の武器を修理するとは思えない…。

そう考えると修理の為に他に場所を移したというのは考えにくい。

そうなると…別の答えが必要になってくる。

そんな中で一番ありえそうなのは…

「もしかして、修理の進行状況を見られないための偽装ですか?」

エリク長官もそう考えたのだろう。

「うむ。お前もそう考えたか…。私も他に考えが浮かばなかった。恐らく修理進行の情報を隠蔽し、こっちを牽制するつもりのための策だと…。或いはこうやって疑心暗鬼にさせて混乱させるといった事かもしれんな…」

「ああ。確かにそれはありえます。連中の戦力に匹敵しうる艦隊を得ましたからね。連中の苦肉の策といったところでしょうか」

「ふむふむ。その通りだろうな。ともかくだ、今、海軍の連中は自分に匹敵する艦隊が現れた事で動けなくなっている。なんとしても東部地区の連中をどうにかしなくてはなるまいて…」

「はい、その通りでございます。海軍の連中に時間を与えるのは不味いかと思います」

「それは同意見だが、一気に形勢逆転とはいかぬだろう。ともかく今は敵の弾薬の消耗を増大させる事を優先して行い、増援が着き次第、総攻撃を仕掛けて一気に突破させるんだ。いいな?」

「はっ。了解しました」

副官はそう言うと敬礼して退出していった。

そして、部屋に残されたエリク長官は、再び地図に視線を落すと腕を組み、考え込むのだった。


「どうだ、上手くいっているか?」

ノンナは報告書に視線を落しつつ聞く。

ノンナの前に立っているのは、海軍諜報部の部長であるアンドレイ・トルベツコイ大佐だ。

オールバックにした金髪の髪と冷たそうな目をした気障な男だが、帝国海軍諜報部のすべてを掌握し、海軍にあらゆる情報を提供する情報部門のエキスパートであり、ビルスキーア少将と同じくノンナの正体を知って絶対的な忠誠を誓う数少ない人物の一人でもある。

「はい。上手くいっているようです。連中、噂をかく乱する為にわざと流された偽りの情報だと思っているようですな」

普段のノンナならただ無表情に口を開いただろうが、今のノンナは悪戯が成功した子供のように実に楽しそうに言った。

「そうか、そうか。それはよかった」

「はい。流石です。まさか本当に真実の情報をわざと流したとは思っていないようですな」

「まぁ、連中としても、王国やフソウ連合と休戦を行い、その上、援助や支援を受けているとは思ってもいないだろうからな」

ノンナのその言葉にアンドレイ大佐は冷たい感じの目を細めて微笑む。

その様子は、まるで相手を蔑み笑っているかのようだ

「ええ。普通なら、ありえませんからね。おかげで親衛隊の連中の思考の選択を制限できたように思います」

「だが、いつまでもばれないとは限らないからな。次の手を打つぞ」

アンドレイ大佐は表情を引き締める。

「まず一つ目は、東部地区の情報を出来る限り集めてくれ」

「了解しました。しかし、東部地区の情報は、以前もかなり提供したとは思うのですが…」

「事態が変わりつつあるからな。特に政策や対外関係、後は国民義勇軍についてといったところを重点的に…」

「わかりました。早速始めます」

「二つ目は、親衛隊の戦力についてだ。特に敵の陸上兵力の配置や戦力、それと新設された艦隊についてといったところかしら…。今のところはだけどね」

ノンナの言葉に、アンドレイ大佐はピクリと眉を動かした。

「余計な事かとは思いますが…」

そう言ってアンドレイ大佐は伺うようにノンナを見て言った。

「それだけでよろしいのですか?」

その言葉に、ノンナの顔が無表情になる。

「それはどういう意味かしら?」

「いえ、黄金の姫騎士殿が復帰されたようですのでその様子などはよろしいのかな?と…」

ノンナの目が細くなり、殺気を孕む。

「それ…わかってて言っているでしょう…」

「ええ。わかってて言っております。貴女様の決意を確認したくて…ね」

すました顔でそう言うアンドレイ大佐。

「私の決意は変わらないわ。心配しないで。貴方の願いを叶えさせてあげるから」

「それならよろしいのですよ、姫様」

ノンナの表情がますます冷たくなっていく。

「本当に、性格悪いわね、貴方は…」

だが、そんな事を微塵も気にした様子も見せずにアンドレイ大佐は笑った。

実に楽しげに…。

「いえいえ。そんなに褒めないでください」

そう言った後、呟く様に言葉を続けた。

「私は愛しい妹の仇であるあの女が惨めに死んでいく姿を見せてもらうだけでいいのです。その為なら、私の命も体も貴方に捧げますとも…」

その言葉に、ノンナは感情の篭っていない言葉で答える。

「その契約は、絶対に遂行するわ。だから一生私に仕えなさい」

恭しく片膝をつき、アンドレイ大佐は右手を胸に当てて頭を下げて告げる。

「はい。わが主人よ」

そこにはビルスキーア少将とは違う主従関係があった。

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