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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十八章 帝国崩壊

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カルトックス島湾にて…

教国艦隊の壊滅により、北周りでの輸送が困難な事と帝国親衛隊艦隊の強さを知ることになった教国は、急遽対策を行う必要性に迫られる事となった。

なぜなら、教国艦隊と帝国親衛隊艦隊との海戦が行われたのと同時に、親衛隊の陸上兵力が東部地区へ侵攻を開始した為だ。

侵攻する親衛隊の兵力は、実に三万五千。

対抗する東部地区がかき集めた国民義勇軍の兵力は、志願兵や民兵を合わせても実に一万前後であり、三倍以上の差があった。

しかし、士気の高さは国民義勇軍が勝っていた事と帝国に張り巡らされている鉄道は戦いが始まった途端、破壊工作によりズタズタにされてしまい大量の兵士の移動手段が限られてしまったことも大きかった。

実際、一部を除く親衛隊の機械化は余り進んでおらず、馬などを使った移動の為に三万五千という戦力が一気に攻撃を仕掛ける事は出来なかったために兵力差がそれほど親衛隊側の有利とならなかったためだ。

また、国民義勇軍は、最前線の都市であるリッターラの街を要塞化しており、その防備の固さに親衛隊は攻め倦んでいた。

ある意味、塹壕戦に近い状態と言っていいだろう。

つまり、海戦とは違い、陸上ではほぼ互角の戦いを繰り広げて善戦していたからだが、じわじわと親衛隊の侵攻戦力が集まりだし、いつまでも互角の戦いが出来るとは限らない現状に、すぐにでも物資や兵の補給の必要性が生じた為であった。

イオーアンネース総主教は休養となったが、帝国東部地区への援助の継続は決定している以上、すぐにでも送り出したいものの、北周りの制海権を握る事に失敗してしまった為にあまり手が打てないでいた。

そこで、彼らが頼ったのは、ドクトルト信徒の多い共和国である。

一応、中立を宣言していた共和国は、最初この申し入れを断ろうとしていた。

しかし、国内の信徒の多さと影響力を無視できないと判断した代表のアリシア・エマーソンは苦肉の策を実施する。

その苦肉の策というのは、『多国籍による国際海路警備機構』略して『IMSAイムサ』を通しての南回りの輸送を提案したのである。

あくまでも商業としての輸送という事にしての物資の輸送を提案したのだ。

それを利用すると、制限があるものの物資の輸送は出来るだろうが兵力の輸送は軍事目的となる為に対象外となる。

しかし、アルンカス王国やフソウ連合の領海近くを航行しても、イムサ所属の艦艇が随伴する以上、妨害されたりすることはなくなるし、海賊などの被害も抑えられる。

つまり、共和国は中立の立場を崩さずに最低限の約束を守る事が出来、教国も最低限の支援は行えるという事になるのである。

その提案を、最初こそ渋っていた教国側だが、それ以外にも教国の艦隊で帝国親衛隊艦隊への攻撃を継続する事で、なんとか北周りの輸送ルートを奪取する為に動くという二方面作戦という事で受け入れることとなった。

もっとも、制海権奪取とは言っても大艦隊を投入しての艦隊戦は行わず、あくまでも牽制という嫌がらせに従事することとなってしまったが…。

その結果、完全に国民義勇軍側も親衛隊側も事態を決める決定打に欠ける事態に陥ってしまい、先行きは泥沼のような混沌となってしまったのである。


「ふーっ。流石に寒いな…」

白い息を吐きつつ甲板に出た明石は背伸びをした。

現在の時間は、早朝の六時半といったところか。

まだ辺りは暗闇に包まれている。

防寒具を着ているとはいえ、さすがはフソウ連合よりもはるかに北に位置する島の湾内だけに底冷えする寒さだ。

その為、ある程度戦える程度の応急修理でいいとはいわれているとはいえ修理の効率はかなり悪い。

こりゃ、長丁場になるかもな。

そんな事を思いつつ、警戒に当たっている水雷戦隊の艦隊に目を向ける。

派遣されている艦艇は、第六水雷隊の軽巡鬼怒と五十鈴、第一駆逐隊の駆逐艦白露、時雨、村雨、第二駆逐隊の夕立、春雨、五月雨、それに第一警戒隊の水上機母艦千歳の九隻だ。

暗闇の中だから薄っすらと映るシルエットから判断しなければならないが、恐らく近辺の警戒のために出ているのだろう。

湾内に滞在している数はおよそ半分といったところだろうか。

彼らも大変だな。

なんせここは敵地である。

恐らく大丈夫なんて言われてはいるものの、所詮絶対ではない。

何かの拍子にトラブルになる事はありえる。

その場合、彼らは私達を逃がす為の盾となるのだ。

今度、修理することがあったら、念入りにやってやろう。

そんな事を思いつつ今度は接舷している艦に目を向けた。

帝国海軍の象徴となっている戦艦ビスマルク。

その巨体がそこにある。

また、少し間を空けてその先には第二支援隊の工作艦三原がおり、戦艦グナイゼナウが接舷されていたりする。

そして、物資などを積んだ輸送艦四隻と給油艦が二隻。

まさに、ここカルトックス島湾はフソウ連合の臨時造船所といってもいい状態だ。

そんな明石の後ろに防寒具を着た作業員が走ってやってきた。

その顔と防寒具は新しい油で汚れており、ついさっきまで作業をやっていたのがよくわかる。

「こちらにおいででしたか、明石殿」

そう言って作業員は敬礼する。

「ああ、すまないな。少し眠気覚ましに外に出ていたんだ」

「そうでしたか」

そう言ってニコリと笑うと、肌が油などで汚れている分、白い歯が目立つ。

「もうそんな時間か?」

「はっ。夜間作業、問題なく終了いたしました。予定の進行スケジュールを無事終了しております」

「そうか。そうか。みんな怪我もなく終わったか…」

「はっ」

そうハキハキと返事する作業員の顔には少し疲労の色が見える。

「では、交代してくれ」

「はっ引継ぎを終わらせ次第、休憩に入りたいと思います」

その言葉に、明石は頷き、そして口を開く。

「少し疲れているようだからしっかりと休みなさい。長丁場だからな。倒れられても困るし…」

そこで一旦、言葉を切り、明石はニタリと笑う。

「それに、婚約者が待っているんだろう?」

その明石の言葉に、作業員は照れた顔をする。

少し頬が赤いのは、光の加減のせいではないだろう。

「今回の任務が終了したら、結婚する予定であります」

「そうか、そうか。羨ましい事だ。事故に注意して頑張りたまえ」

「はっ。ありがとうございます。では、失礼します」

敬礼すると嬉しそうな表情で作業員は艦内に戻っていく。

その後姿を見送りつつ、明石は呟く。

「人はいい。思いを、自分の血を後世に残せるのだからな…」

そして自分自身でもある明石の艦体をすーっと見渡す。

その顔には何も表情は浮かんではいなかったが、すぐに苦笑を浮かべた。

「ふふふっ。私もすっかり人間臭くなってしまったな。付喪神だというのに…」

その言葉には、諦めと悲しみがわずかではあったが含まれていた。


「フソウ連合の作業員の質はかなり高いですな」

ビスマルクの艦長室では、夜間修理作業に参加した帝国海軍の技師の一人が艦長にそう報告をしていた。

「ほう…。君がそこまで言うとは…」

艦長は驚いた表情でそう答える。

「言いたくもなりますよ。一般の作業員でさえ、我々の熟練作業員よりも腕利きで知識もあるんですから…。それに実に真面目で勤勉です。私としては、部下として何人か連れて帰りたいほどですよ」

その技師の言葉に、艦長は苦笑した。

「おいおい。人攫いみたいなことはするなよ」

「さすがにしませんよ。ですが、技術や知識を得るチャンスなのは間違いありません。その点はしっかりやらせていただきます」

「わかった。その程度にしておいてくれよ」

艦長はそういった後、表情を変えた。

真剣な表情だ。

「それで君の本職の感想としてはどうだね?」

その言葉に、技師の顔も真剣なものに変わった。

「ありゃ、技術の差が大きすぎますよ。フソウ連合の技術は、今までの技術とはまったく根本的に違うものだと考えたほうがいい。我々では外面をそれらしく整えることしか出来ずに性能低下に陥っていた事が、ほぼ元通りの性能になっているんですから。それでいて、彼らにしてみれば応急修理だと言うんですから、開いた口がふさがりませんよ」

「しかし…今は味方となっているが、敵になる可能性は高い相手だぞ…」

艦長の言葉に、皮肉そうな笑みを浮かべて技師は言う。

「私だったら、そんな命令受けたら逃げ出しますがね」

「それが出来たらいいんだがね…」

そう言ってため息を吐き出した後に艦長が言葉を続けた。

「ともかくだ。連中に変な事をされていないかの確認だけはしっかりやっておいてくれ」

その艦長の言葉に、技師は笑う。

「そんなことはありえないと思いますよ」

「なぜだね?」

その疑問に、技師は自信を持った表情で答える。

「一般の作業員ですら、技師としての誇りと責任をしっかり持っている連中ばかりですからね」

「それは…信頼できるということかね?」

「ええ。帝国の作業員以上に…ね」

その言葉と浮かべている表情に、艦長はやっぱりこの技師が作業員の一人か二人は浚っていきそうな気がして釘を刺す。

「いいか、人攫いみたいなことだけはするなよ」

艦長の言葉に、技師は苦笑した。

「流石にしませんよ。私だって技師の誇りと責任を持っていますからね」

その言葉に少し艦長はほっとした表情を浮かべたのだった。

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