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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二章 海軍強化とシマト諸島奪回戦

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日誌 第五日目 その6

アッシュとの茶会の後、僕は長官室に戻るとすぐに参謀本部長の新見大佐と諜報部の川見少佐を呼んだ。

茶会の最中に報告された北部から侵入してきた艦船に対しての意見を聞く為だ。

「遅くなりました」

白の正装である軍服から、いつもの黒い軍服に着替えた川見少佐が入ってくるなり頭を下げる。

「構わないよ。忙しいところすまなかったね」

彼は茶会の後のアッシュの対応でドタバタしていたから少々遅れても怒る気にもならない。

それどころか、こっちが申し訳ないとさえ思う。

実際、戦闘がないときは参謀本部よりも諜報部や広報部の方がはるかに忙しい。

特に、今は王国との海戦、フソウ連合内部の監視と警戒などがあり、諜報部は目の回るほどの忙しさだという。

まぁ、もう少ししたら少しは落ち着くのではないかと思っているが、それも確実ではない。

倒れないかと心配するも、素人の僕には何も出来ないし、まぁ、苦労をねぎらうくらいしか出来ない。

しかし、川見少佐は、相変わらずのキビキビした動きで部屋に入ってきている。

なんとも頼もしい限りである。

そして、声をかけた後にソファを薦める。

新見大佐はすでにもう座って資料に目を通していた。

「監視している零式艦上偵察機からの連絡では、かなり手馴れた動きと報告が来ていますね」

新見大佐が見ていた資料をテーブルの上におく。

「みたいだね。それはつまり、侵入が今回だけではないって事だと思って間違いないかな」

「ええ。間違いないかと…」

「で、今まで問題になっていないのは、侵入した事を知らなかったのか、知っていて無視したのか…あるいは…」

僕の言葉に、ソファに座った川見少佐がすぐに続ける。

「多分ですが、長官の恐れている結果だけはないと思います」

「ほう…。その理由は?」

「北部地域の責任者に、そんな度胸も計画性もないからですよ」

そう言って小脇の抱えた資料を差し出した。

ざっと一センチ程度の厚さがある紙の束だ。

それを受け取り、ページを開く。

びっしりと細かな文字が並び、めまいが起こりそうだ。

それでも読み進めると、そこには北部地区の責任者二人の詳しいデータが細かく記載されているのがわかる。

何の資料かと覗き込んできた新見大佐に苦笑して開いたページを見せると、新見大佐は眉間にしわを寄せた。

「こりゃすごいな…。下手な哲学の難解な本よりも大変そうだ」

新見大佐の言葉に、川見少佐は苦笑して口を開く。

「それをいちいちチェックしてるんですよ、我々は…」

その言葉に、新見大佐は苦笑いを浮かべる。

「本当にご苦労な事だな…。しかし、諜報部なんてのは、マメなやつにしか勤まらんな。だから、私には絶対無理だ」

そう言った後、川見少佐を見て言葉を続けた。

「しかし、まぁ、よくやっているな…」

「まぁ、仕事ですから…」

そう答えを返しつつ、川見少佐は僕の方に視線を向ける。

「まぁ、報告書は暇な時にでも目を通しておいてください」

「わかったよ。でも今はそんな時間もないからね。ずるしているみたいで悪いけど、川見少佐の見立てとして彼らはどんな人間だ?」

僕の言葉に少し考え込んだ後、川見少佐は口を開いた。

「そうですね。事なかれ主義の小心者といったところでしょうか。自分の利益で手一杯で、長官が心配されている外の国の連中と裏でつながっているなんて大それた事は間違いなく無理でしょう」

「なるほど…。なら、この件に関しては純粋に彼らは知らなかったという事でいいな」

僕の言葉に新見大佐も頷き、そして聞いてくる。

「で、この侵入の件に関して責任者達にはどういう対応をなさるんですか?」

「そうだね。まずは、現実を知らせてあげようかと思うんだ」

「現実を知らせる?」

「ああ。こんな風に南からだけでなく、北からも実は入り込まれていますよと…」

僕の言葉に二人して笑い出す。

そして、笑いながら新見大佐が言う。

「なるほど…。圧力をかけるわけですな」

「嫌だな、その言い方は…。ぼくは現実を知らせるだけなんだぞ」

少し膨れたような顔をしてそう言うと、川見少佐も笑って言う。

「長官もなかなか意地が悪い人だ」

「それはすごく心外だな…。僕はただ真実を伝えるだけさ。ただ、その行動によって今回の件はこっちに利益をもたらすだけってこと。間違いなく悪意はないよ」

そう言ってみたが、なぜか二人の笑いは止まらなかった。

うーん。

利用できる事を利用しているだけなんだけどなぁ。

そんなに性格悪いように思われているのだろうか…。

そして、なんとか二人の笑いが収まった後、新見大佐が真剣な顔で聞いてくる。

「それで現場はどうしますか?」

「艦隊を派遣しないとダメだろうな」

「そうですね。艦隊編成はどうしましょうか?」

「まだ前回の編成を解いていないから、第二水雷戦隊に動いてもらおうと思う。それと補給と救助に特設給油艦と輸送船を何隻かだな…」

「了解しました。細かな編成はこっちで調節しましょう。あとは…」

新見大佐が覗き込むように見てくる。

「指揮官は、的場大尉にお願いしよう」

「わかりました。そして、一番重要なことですが、どの程度までするのですか?」

「そうだな…」

少し考えるが、今のフソウ連合は、各国が作った国際的な条約なんかに入っているわけではない。

つまり、どう対応しても問題にはならない。

なら…。

僕はゆっくりと言葉を選びつつ言う。

「警告して逃げればそれでいい。捕獲する必要はない」

「逃げなければ?」

「威嚇射撃を…」

「それで駄目な時は?」

あんまり言いたくはないが、そこははっきり言わなければならないだろう。

「捕獲を優先するが、抵抗ある場合は撃沈も許可する。最初が肝心だ。舐められるような対応だと後々響くからな。それと、広報部の杵島大尉に全ての出来事の撮影をするように伝えておいてくれ」

僕の言葉を聞き、新見大佐はきりっと表情を引き締める。

「了解しました。すぐに動きます」

そう言って立ち上がると敬礼する。

それにあわせて僕も立ち上がって返礼をした。

「気をつけて」

僕の言葉に頷くと、新見大佐は部屋を退出した。

「さてと…」

そう言って立ち上がった川見少佐は、ニタリと笑いつつ口を開く。

「では、地区責任者への連絡は長官にお願いしますので、こちらは北部地域の一般住民への情報提供をおこないたいと思います」

地区責任者の性格や行動を把握している彼としては、僕が責任者に知らせても上で情報を止められると読んだのだろう。

そして、僕もその読みは多分当たっていると思う。

権力者にとって自分の都合の悪い情報の拡散は、とても恐れているはずだ。

それに、さっきの川見少佐の報告を聞いたらなおさらだ。

「わかった。それでお願いするよ。ただ…」

「わかっております。加減は注意しておきます」

「ああ。暴動とか起こったらどうしようもないからな」

そうは言ったものの、多分、彼はそれを狙っているのだろう。

そして、それによって現行の使えない地域責任者を追放するところまで考えているのではないだろうか。

だから、僕は一応言葉にする。

「ほどほどだ。加減を間違えるなよ。火をつけるのは簡単だが、消すには何倍もの手間が必要だからな」

「了解しております」

川見少佐は楽しそうに笑いつつ敬礼をする。

それに返礼をしつつ、その笑顔に不安と心配を感じたのだった。

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