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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第二章 海軍強化とシマト諸島奪回戦

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日誌 第五日目 その5

「シンプルだけどいいお茶ですね」

アッシュはそう言って楽しそうに紅茶とケーキを楽しんでいる。

茶葉は、僕の世界のどこにでも見かける黄色いパッケージのスタンダードなやつで、王宮ご用達とかいうレベルではない普通のやつだが久々の紅茶と言うことがよかったのかもしれない。

彼はかなり気に入ったようだ。

その様子に、「食事の時に付けさせましょうか?」と言うと、「ぜひお願いしたい」といわれてしまった。

その後は、お茶を楽しみつつ互いの国の事などを話した。

と言っても、僕はフソウ連合の事は詳しくないので、食べ物の話とか今の待遇の話とかがメインだが…。

王国の話だけでなく、彼は今の自分の立場についても話してくれた。

いつでも取替えがきく駒、あるいは歯車のひとつでしかない自分。

それを嘆いていた。

「なんでこんな事をあなたに話しているんでしょうね…」

苦笑しつつも、多分、彼が今まで話せなかったこと、苦しんでいた事を話す。

それはまるで人生相談のようだった。

うーん。

話す事があんまりないから聞く側に回ったけど、なんか変な流れだよなぁ。

そうは思いつつも、別にこっちから話す話題はそれほど多くない。

困ったな…。

そう思っていたらドアがノックされ、東郷大尉がドアの方に向かう。

そして、外の兵士からなにやら紙を受け取り少し言葉を交わすと僕を見て頷いている。

「すみません。お話の途中、失礼します」

僕がそう言うと、アッシュは笑いつつ「構わないよ。こっちはこっちで楽しむから」と言って次のケーキに手を出していた。

どうやら結構な甘党のようだ。

そんな事を思いつつ、立ち上がって入口の東郷大尉のところに向う。

「すみません…」

申し訳なさそうに彼女が紙を差し出す。

その紙を受け取り目を通す。

『ホクブ、シンニュウセン、アリ カンスウ4』

「方向からして、アッシュの国の連中ではないな」

僕が呟くように言うと東郷大尉も頷く。

「哨戒していた零式艦上偵察機が発見したそうです。サイズは哨戒艇などの小型サイズで、武器らしいものは見当たらなかったとの事」

「武装していない?」

「それか、武装を隠しているとか…」

少し考えたが、これだけの情報で決断するにはどうしようもない。

「二式大艇を派遣して監視を続行してくれ」

「了解しました」

敬礼し東郷大尉が退室した。

そして、席に戻る。

「すみません。ドタバタしてしまって…」

僕がそう言うと、アッシュは三個目のケーキに取り掛かっていた。

「構わないよ。今、この国は世界中で注目されているからね…」

そう言いつつ、紅茶を飲み干す。

新しい紅茶を用意しつつ聞く。

「それはどういう…」

アッシュは手に持っていたデザートフォークを置くと、ニタリと笑って言った。

「今まで嵐のために入れなかった場所に入れる事がわかったんだ。世界の強国が黙ってみているとでも思ったのかい?」

確かに。

行けなかった場所に行けるようになったなら、そりゃ興味はわくだろう。

ましてや、聞いた話では今の世界は弱肉強食。

強いものが、弱いものを従え、支配する世界だ。

そんな世界ならなおさらだろう。

「そうですね。知らない事を知る。新しいもの、未知なるものに興味を持ち、欲しくなるのは、人間のサガなのですかね…」

「だからこそ、人間は発展してきたんだ。そう思わないかい?」

「ええ。そう思いますよ。でも…」

「でも?」

「過度な欲望は、自分を殺してしまうんじゃないかと僕は思っています」

僕の言葉にアッシュはからからと笑う。

「確かに。確かに。だから、私はこうして君の前にいるって事を忘れそうになっていたよ。これのおかげでね…」

そう言って茶目っ気のある表情を見せてケーキと紅茶に視線を送る。

そして、アッシュは言葉を続ける。

「しかしだ。今まではよかったかもしれないが、これからは他の国の干渉はしつこく続くだろうな。だから、いつまでも閉じこもってばかりではいられないんじゃないかな?」

「その通りですね。今、その準備にてんてこ舞いですよ」

僕の言葉にアッシュは楽しそうに笑う。

その笑顔には悪意などの負の色は微塵もない。

楽しくてたまらないという感じだ。

「まぁ、君の海軍は実に素晴らしいからな。君が出来ると思うのなら、何とかなると思う。だが、保険は必要だとは思わないかい?」

さっきまで楽しそうに笑っていた顔が一気に真剣なものに変わる。

その言葉、その態度、そしてその視線で、自分の心臓がどくどく鳴っているのがわかる。

多分、アッシュは…いや違う。今の彼は、ウェセックス王国の王子として、或いは王国の政治に関わるものとして発言している。

だからこそ、ずっしりと肩に重みが圧し掛かる感覚に囚われる。

それは今までにない重圧だ。

艦隊出撃の激励や本会議の答弁もかなりの重みだったが、今はフソウ連合という国の未来がかかっている。

その重みはとてつもない。

しかし、逃げ出す事はできない。

だから、僕は唾を飲み込んだ後、何気ない風を装いながら聞き返した。

「保険ですか?」

「そう保険だ。我、アーリッシュ・サウス・ゴバークは、貴公の国と同盟を結びたい」

彼ははっきりとそう言ってニタリと笑う。

「確かに魅力的ですね」

そう答える。

確かに、今、フソウ連合は世界で孤立している。

だからこそ、こういう申し入れは実にありがたい。

しかしだ。

今のこの人にそれが出来る権限があるかといったら、はっきりいってないと言っていいだろう。

だから、言葉を続ける。

「しかし、申し訳ないがアッシュ。あなたにそれを実行できる権限はないのでは?」

僕の問いに、確かにその通りだと言わんばかりにうなづき、アッシュは言葉を返す。

「確かにその通りだよ。私にはその権利も力もない。しかしだ…」

ずいっと僕の方に顔を寄せて話す。

「きっかけは作れるぞ」

確かにきっかけがあるのとないのとでは大きく違う。

そして、僕は苦笑する。

この人は頭がいいと…。

それがわかっているから持ちかけたのだ。

完全に可能性がないのとほんの少しではあるが可能性があるのとではどちらがいいかと。

「たしかにきっかけは必要ですね。あなたの言うとおりだ。それで…その為に何を求めますか?」

苦笑しつつ聞くと王子は、楽しそうに笑いつつ言う。

「私はね、君の国に、君の軍に、そして、何より君に惚れてしまったようだ。だから、君や君の国や軍ときちんとした友情を結びたい」

そして、茶目っ気のある表情で言葉を続けた。

「上下ではなく、対等の間柄としてね」

僕は決して人の様子を見たり、相手の心を読んだりといった事は苦手だし、それが出来るほど経験者でもないし、能力者でもない。

しかし、今の王子の、いやアッシュの表情や言葉から、やましいものは何も感じなかった。

僕は自分の今感じた事を素直に受け取ろうと思う。

「その提案を受け入れたいと思う。ありがとう」

手を差し出してそう言うと、アッシュは笑いつつ手を握り返す。

きちんとした文章もなく、ただの口約束でしかないが、それでもその時、僕は彼と固い絆を手に入れたと感じたのだった。

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