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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第十七章 帝国崩壊の序曲

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王国首都ローデン 王城の秘密の部屋での会合  その2

「すまんが、もう一度言ってもらえんか?」

メイソン卿が聞き返す。

それは仕方ない事だろう。

まだ講和どころか休戦の話し合いもした事がない戦っている相手にいきなり講和と助けを求めているのだ。

それこそ、降伏ならありえるだろうが、帝国が求めているのは講和だ。

昨日の敵は、今日の友とは言うものの、さすがにいきなり同時はない。

順にしたがってというのが普通だ。

まずは講和を持ち、互いの信頼関係を築き、それから援助となる。

それが当たり前のプロセスだ。

そういう認識がある為、どうしても信じられないのだろう。

アッシュが苦笑しつつ、繰り返して言う。

「帝国海軍は講和と援助を求めてきております」

そんな中、すぐに思考を回転させたのはオスカー公爵だ。

「つまり、帝国ではなく、帝国海軍が講和と援助を求めているという事だな?」

「はい。その通りです」

「そうか…。なるほどな…」

納得いったのだろう。

したり顔で頷くオスカー公爵。

だが、メイソン卿は納得いかないのだろう。

「つまり、どういうことだ?」

王がアッシュにちらりと目線をやる。

説明してやれという事だろう。

苦笑しつつ、アッシュが口を開く。

「今帝国は、国内で幾つもの派閥に別れ内乱に近い状態です」

「ああ。それはわかっている。しかしだそれがどうして…」

「帝国と共和国は元々強いつながりを持っています。そして帝国が頼めば、程度の差さえありますが共和国は必ず援助するでしょう。しかしですね、その援助する帝国内部が内乱状態なら、共和国はどこを援助しますか?」

「そりゃ、皇帝のいる派閥だろう」

「つまり、皇帝のいる派閥というのは、親衛隊の連中が実権を握っている派閥という事です。それに対して、帝国海軍の派閥は皇帝を擁護していません」

それで理由はわかったのだろう。

「要は、共和国の援助を受けられないから、王国に援助を求めるってことか?あまりにも安易過ぎないか?他にも連盟とか、合衆国とか他に選択肢はあるぞ」

「まぁ、確かに安易かなとは思います。しかし、内乱状態で、外にも敵を作るというのはいい手ではありません。少し損はすれども、敵の数は減らすべきです。ましてや、相手が強力ならなおさらでしょう。それに、地理的なものもあると思います。援助を求めるにしても合衆国は遠すぎますし、連盟に助けを求めても王国との戦争が継続中では、王国海軍に海路を封鎖される恐れがあります」

「その理屈なら、フソウ連合の方にもその話がいってなきゃおかしいぞ」

そのメイソン卿の言葉に、アッシュは苦笑した。

「その通りです。ですから、答えてはくれないだろうなとは思いましたが、一応、フソウ連合には連絡を入れて尋ねましたよ。そしたら、サダミチのやつ、丁寧に返事を寄こしました」

「それで…何と言ってきた?」

「『王国にも行ったみたいだね。どうするんだ、そっちは?』って…」

苦笑してそう言うアッシュの言葉に、三人がそれぞれ違ったりアクションをとる。

王はアッシュと同じに苦笑し、オスカー公爵は呆れかえり、メイスン卿は鳩が豆鉄砲を食らったような唖然とした表情をしていた。

「なんだ、その日常会話みたいなノリは…」

オスカー公爵があきれ返ったままそう言うと、メイスン卿は弾かれたように口を開いた。

「なんて男だよ、そのフソウ連合の軍責任者は…」

そう言って豪快に笑い出す。

「いやいや、ますます気に入ったぞ、お前の友人だというその男…えっと…」

「サダミチ・ナベシマです」

「そうそう、そいつだ。いやはや、大物になるぞ、そいつは…」

「落ち着け。まず我々がやらねばならんのは、フソウ連合のナベシマという男の人物評価ではないぞ。問題はその話をどうするかという事だ。おそらく、フソウ連合としても対処に困っているのだろう。だから、王国と歩調を合わせるためにこっちの動きの確認をとろうというつもりだろうな。なんせ、共和国が絡むとなると迂闊な事は出来ん」

メイスン卿が神経質そうに顎を撫でつつそう言うと、ひとしきり笑って落ち着いたのだろう。

メイスン卿も「そうだな。問題はそっちだな」と相槌を打つ。

「それ以外にフソウ連合の動きとかの情報はないのか?」

メイスン卿がアッシュにそう聞き返すと、「それ以外は、特に連絡はありませんでした。」と返事がかえってきた。

「そうか…。こっちの動き待ちというところか…。中々したたかだな」

「ですが、恐らくですが、フソウ連合は提案を呑むと思いますよ」

アッシュの言葉に、三人の視線が集まる。

「なぜそう思うのだね?」

王が代表して聞くと、アッシュは苦笑して答える。

「そうですね。明確な理由はありませんが、サダミチならそうするかと…」

「ふむ…。そうか…」

王はそれだけ答えて少し考え込む。

「王としてはどうお考えでしょうか?」

オスカー公爵がそう尋ねると、思考をまとめるようにしばらく王は無言だったがゆっくりと口を開いた。

「その人物と一番係わり合いがあり、友人であるこやつが言うのだ。それを信じるしかあるまい。もっとも梯子を外された時の用意だけはしておく必要があるがな…」

「そうですな。常に思ったとおりに動くものではありませんから、代案や逃げ道は確保しておかないといけませんな」

オスカー公爵はそういった後、視線をアッシュに向ける。

「今回の件、殿下はどう考えておいでですかな?」

そう言うオスカー公爵の目は鋭い。

まるで難問をふっかけてこっちの対応を見ている試験官のようだ。

ふと、アッシュの思考にそんな考えが浮かぶ。

そして、気がついた。

この件でオスカー公爵は自分の技量や判断力、決断力を判断しようとしているのではないかと…。

その証拠に、王もメイスン卿も何も言わず黙って無表情のままこっちを見ている。

もっとも、メイスン卿は、興味津々といった感じが無表情の中ににじみ出てはいたが…。

アッシュは居心地が悪そうに少し座る位置をずらした後、深呼吸をして気を落ち着かせると口を開いた。

その表情には覚悟の色が見え、メイスン卿がそれを見てニヤリと笑う。

「私は、帝国海軍の申し出を請けていもいいと思っています」

「ほう、だが、それではせっかく改善した共和国との関係がまたこじれたりしないかね?」

オスカー公爵がそう突っ込むが、アッシュはすぐにそれを否定する。

「別におおっぴらに公表する必要はありません。秘密裏にでいいと思います。それにそれで共和国との関係はこじれたりはしないと思います」

「それはなぜかね?」

「恐らくですが、今回、共和国は帝国に絡まないと思われるからです」

メイスン卿が楽しそうに聞く。

「なぜ、そう言い切れる?」

「今の共和国は以前とは大きく違っているからです。以前の共和国は反王国親帝国路線でした。ですから、頼られればすぐにでも援助をしたでしょう。ですが、今の共和国は、以前のような反王国親帝国路線ではありません。フソウ連合との戦いで、親帝国路線の為のかなり痛いツケを払わされておりますし、フソウ連合との講和締結、それに今回、そのフソウ連合の取り成しによって王国との戦争を回避し関係改善のきっかけを用意してもらったという事実があります。ここで、すぐにでも帝国に援助でもしようものなら、せっかく得たものをドブに捨てる事になるでしょう。さすがにそれは避けたいと思っているでしょうね」

アッシュの答えに、満足そうに頷く王とメイスン卿。

どうやら、合格といったところか。

しかし、アッシュの話はここで終わらなかった。

「それに、親帝国派が動き出せば、彼女が何か手を打つでしょうし…」

「彼女?」

メイスン卿が聞き返す。

その言葉に、アッシュの脳裏に時折油断のならない鋭さを秘めた瞳を持つ赤髪の女性の姿が浮かぶ。

サダミチとの三人での会話では、始終穏やかな感じだったが、短時間ではあるものの、二人で会話した感じではあれは気性の激しい暴れ馬っていう印象を受けた。

一筋縄にいかないやり手、結果を得る為には手段は選ばない。

そんな感じだ。

だから、答えるアッシュの顔には自然と苦笑が浮かぶ。

「ええ。彼女なら…アリシア・エマーソンなら手段を選ばずにやるでしようね」

「ほう…。そこまでの人物かね?」

オスカー公爵が目を細めて聞いてくる。

その視線は『タカの目エド』に相応しいものだ

「ええ。かなりの人物だと思われます」

「そうか。なら、私の方でも要注意人物としてリストアップしておこう」

ある程度のものなら持っているだろうが、こういった場面で名前が出るという事はより深くて詳しい情報が必要と思ったのだろう。

オスカー公爵が呟く様に言う。

「ふむ。では、今回の件は、秘密裏に接触して条件をまとめるという事で問題はないな?」

王のその言葉にメイスン卿もオスカー公爵も頷く。

「では、この件はお前に任せる。細かい相談は、エドやメイスンと話し合って決めておけ。いいな?」

王の命に、アッシュは深々と頭を下げる。

「了解いたしました」

「うむ…。任せたぞ」

「はっ…」

そう返事をした後、少しの間があって、アッシュはメイスン卿にぱーんと背中を叩かれる。

非難めいた視線をメイスン卿に向けつつ痛みにアッシュが悲鳴を上げるが、メイスン卿は別に気にした様子も見せずに言葉を続けた。

「よーしっ、堅い話はもう終わりだ。さて飲むぞ」

「ふむ、そうだな。久々だからな、この面子で飲むのは…」

「王よ、突っ込んでよろしいですかな?」

そう言って、返事を待たずにオスカー公爵が笑いつつ言葉を続ける。

「この面子で飲むのは初めてかと…」

王の視線が、よほど痛かったのだろう、背中を手でさすっているアッシュに動く。

「そうか…。そうだったな。これはうっかりしていた」

そう言うと笑いつつ頷く。

「では、この面子での初めての酒盛りを楽しむとするか」

その王の声に、それぞれが頷き、笑ったのだった。

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